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苦しむ友の元へ
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無事にフィルスの扇動も解け、この町に潜む影の真意に迫りつつあるアネモイ。
そんな中、フィルスはグールスに利用されている可能性があるリアのことが気になってしょうがないらしく、話を聞くため思い切って敵陣に乗り込むことに決めた。
「幸いにもグールスの神術の気配は今のところない。すなわち、今はこの町にはいないようだ。どちらにしても、あの娘と会うなら今しかない」
「あの神父さんいないんだ!それなら安心かも」
「よし、すぐに出発するぞ」
「うん!」
そしてアネモイは、神の力を用いて、教会の入口へと転移した。
「時間短縮のために使ったの?」
「それもあるが、どちらかといえば町の住民と出くわさないというのが狙いだな」
「そっか。皆扇動されちゃってるんだよね」
この町の住民は、すでにグールスの扇動の神術に掛かっている。今はこの町にいないとはいえ、グールスが予めアネモイの殺害を住民に命令していれば、住民に出会う度に追われてしまう可能性がある。
もしそうなれば、神であるアネモイはともかく、フィルスの命すら危ない。住民に被害を出さずに、フィルスを守るなど流石の神でも不可能と判断したのだ。
教会を目の前に緊張を隠しきれ名フィルス。だが神という、他にない心強い後ろ盾のおかげで、フィルスの不安は解消されていた。
だがその希望も、次のアネモイの一言で、一瞬で崩れ落ちることになる。
「よし、ここからは別行動だ」
「えっ!?」
フィルスは思わず目を見開く。
敵陣に乗り込むうえで、神であるアネモイが傍にいることが何よりの支えとなっていたのだが、その神が戦線から離脱すると宣言された今、フィルスの不安を解消する術を失くしたも同然だった。
「ちょ、ちょっと!一緒に来てくれないの!?」
「あの娘と話をしたいといったのはお前であろうが。前にも言ったが、私たちはそれぞれ得意分野が違う。ここからは、それぞれの得意分野に分かれて核心に迫るべきだ」
「それって、アネモイは疑う立場で、私は信じる立場ってやつ?」
アネモイはこくんと頷いた。
「それにあの娘も聖女などと呼ばれてはいるが、中身はいたって普通の子供だ。見た目は男の人間である私が傍にいては、あの娘も気兼ねには話せまい。あの娘の真意を聞きたいのなら、同じ年ごろでなおかつ同性であるお前と2人きりの空間の方がいいと思うぞ」
「で、でも・・・」
「誤解するな。すべてを押し付けるつもりはない。念のためにこれを渡しておく」
アネモイは懐から、先端に宝石のようなものが取り付けられた首飾りを取り出した。
「きれい。何それ?」
「お守りのようなものだ。それも奴らのようなまがい物の恩恵とはわけが違う。正真正銘、神からの恩恵だ。お前がピンチの時、必ず守ってくれる。肌身離さず身に付けておけ」
フィルスは首飾りを受け取ると、疑うことなく首から下げた。そしてその先端にある宝石をしっかり握りしめる。
「ありがとう。絶対にあの子と話をしてみる」
「ああ。頼んだぞ」
アネモイは、フィルスのある一面に、ずっと感心させられっぱなしだった。
「(こいつは絶対に“救う”ということを口にしない。誰かのためではなく、とにかく自分がそうしたいがために、無意識に手を伸ばすことができる。誰だって見返りは欲しいはずなのに、こいつの場合はそれが二の次だ。とはいえ、土足で他人の心に踏み込むのがたまに傷だが、同時にそれが他人の心を動かす才能でもあり、だからこそ期待をせずにはいられない)」
アネモイのフィルスを見る目は、いつの間にか憧れに近いものとなっていた。
一方、お守りという、別の形で心の支えを得ることができたフィルス。その心に不安の2文字はもう存在しない。
「ところで、アネモイはこれからどうするの?」
「お前とは別の方法で、あの娘のしがらみを取り除ければと思っている」
それを聞いたフィルスは、途端に表情に喜びが満ちる。
「アネモイもあの子のために動いてくれるんだ!でも、具体的には何するの?」
「それは内緒だ。私のことは気にせず、お前はお前ができることを全力でやれ」
「えー、なにそれー」
フィルスは若干不満そうな表情をしながらも、アネモイへの信頼が、疑いの心など忘れさせる。
アネモイとフィルスは拳を突き合わせた。
「しっかりやれよ」
「そっちこそね」
こうして、アネモイとフィルスはそれぞれの得意分野で核心に迫ることになり、アネモイは教会を後にした。
「さてと・・・」
フィルスは教会に向き直り、意を固めてから、教会内に突入した。
アネモイの言う通り、昨日のような神父の出迎えはなく、祭壇のある部屋まで何の障害もなくたどり着けた。
「流石は偽物の教会。外装や装飾は立派でも、中身は何もかもが空っぽだ」
すると、祭壇の一番前の席に見慣れた衣装を着た1人の少女の姿があった。
「いた!」
その声に反応するかのように少女が後ろを振り向いた。やはり、リアだった。
「やはり、ここに来たのですね。そしてグールスの言う通り、お連れの方の姿はない」
フィルスがここに来ることをあらかじめ知っていたのか、特に驚く様子もない。しかし、少女の目に光はなく、暗い表情のまま立ち上がる。
フィルスはゆっくりとリアに近づいてゆく。
「あなたも、この町の住民となりたくて、ここに・・・」
「約束通り、友達として会いに来たよ、リア!」
「!?」
リアはフィルスの笑顔に驚きを隠せない様子だった。
「あなた・・・操られては・・・」
「ああ、もう1人の神術のこと?あんなもの、私に効くはずがないじゃない!」
フィルスは堂々と胸を張り、リアの反応を伺った。すると、リアは途端に顔が青ざめ、体が小刻みに震えだした。
「やっぱり、昨日のお祈りも含めて、全部仕組まれていたんだね。私が今朝、アネモイを毒殺し、そしてこの町の住民になるべく聖女様のもとに訪れるという構図が。アネモイの予想した通りだよ」
「・・・」
「あなたがやったの?」
フィルスは、リアは術をかけた犯人でないことを知っていながら、敢えて鎌をかけた。
するとリアは、観念したかのように地に膝をついた。
「ごめん・・・なさい・・・」
リアは涙を流した。とても意図的に悪いことをしている人物が流すとは思えないほど、奇麗で濁りのない涙。フィルスはその涙を見て、改めて決意を固める。
フィルスがリアのもとにたどり着くと、地に膝をつき、優しくリアを抱きしめた。
「フィルス・・・さん?」
「なんてきれいな涙。できればこんな形で見たくはなかった。こんなに純粋で無垢な涙を」
リアの目から涙が溢れ出す。リアは堪えようとするも、感情が表にあふれて自力では止められない。
フィルスはリアの頭を優しく撫で始めた。それがリアの涙をさらに加速させる。
「余程辛かっただね。大丈夫、わかってる。あなたの仕業じゃないってことぐらいは。ちゃんと分かってるから。だって、友達だもん」
「友・・・達・・・。私が?」
「そう。だからこそ許せないんだよ。友達に無駄な涙を流させた、あの男のこと。絶対に許せない!」
「うぅ・・・」
フィルスのリアを抱く力が更に強くなる。その力強さが、リアの感情を激しく動かし、涙だけでなく声も出さずにはいられない。
「うわあああああん!!!」
リアはしばらく、フィルスの胸の中で泣き続けた。これまで堪えてきたものをすべて吐き出すかのように、教会に響く大声で。
数分後、リアはようやく落ち着きを取り戻し、祭壇前の椅子に2人で腰かけた。
「すみません。お見苦しいところを。えーっとー・・・」
「私はフィルス。全然気にしていないから大丈夫だよ。むしろ、ありがとう。私の前で泣いてくれて」
「改めまして、リアです。あなたは、ずいぶんと不思議な方ですね」
「それ、よく言われる」
2人は顔を見合わせて笑いあった。恐らくリアにとって、久しぶりの安心できる空間なのだろう。
「それにしても驚きました。私はてっきり、あなたもうグールスの手中に収まってしまったのかと」
「ああ、扇動の神術のこと?実はしっかりかかってたんだ。そして私の大事な人を、何の疑問を持たないまま殺そうとした」
「えっ?でもさっきは・・・」
「ごめんね。あなたの真意を確かめたくて嘘ついちゃった。本当はあの後、彼に目を覚ましてもらって、代わりに色々お仕置きされちゃった」
フィルスは恥ずかしそうに、真実を告げた。
「ではあの方は!?」
「大丈夫。生きてるよ。リアが思うような最悪な事態は招いていないから」
「よかった・・・」
リアは安堵した表情を浮かべる。
ようやく笑いを交えた会話ができる間柄になったこの時を見計らって、フィルスは本題に話を切り替える。
「それで聞かせてほしいの。あなたが今ここでやっていることを」
「それは・・・」
「何かの理由で利用されているってのはわかってる。でもこのままじゃいけないってことは、あなたもわかってるはず。そこからあなたを連れ出したいの。そのきれいな手が汚れる前に」
リアは自身の手をじっと見つめた。
「もうすでに汚れてしまっていると思いますが」
「まだ土がついた程度だよ。洗えばすぐにきれいになる。でも人間の血にもなれば、話は別。色は落とせても、匂いまでは落とせない。私はあなたにそこまで染まってほしくはない。だからお願い」
フィルスはリアの手を取り、ぎゅっと握りしめた。
フィルスが向ける真剣な眼差しに、リアは希望を見出したのかのように、目が輝きを取り戻し始める。そしてその目に賭けてみたくなったのか、これまでのことを話し始めた。
「2年前の話です。かつてこの地がスプリブルク王国によって植民地へと変えられる前、私は生まれつき持った神術を活かそうと、スプリブルク王国内にある治療院で働いていました」
「治療院・・・やっぱりあなたの神術は、“神の恩恵”ではなかったんだね」
「そうでしたね。まずはそこから謝罪するべきでした。私の神術の本当の力は“治癒”。その名の通り、怪我や病気を治したり、傷ついた心を癒したりすることができます。騙していてすみませんでした」
「リアにぴったりな、暖かい神術だね」
リアは照れ臭そうに、思わず笑みをこぼす。
「それじゃあ、昨日私にかけた暖かい神術も?」
「はい。ただの治癒です。フィルスはもともと健全ですから、特に何の影響もありませんのでご安心を」
フィルスは安堵した表情を浮かべる。
「スプリブルク王国にいたころは、この神術を用いながら、忙しくもそれなりに幸せな日常を家族とともに送っていました。ある時、ある人物がスプリブルク王国を訪れるまでは」
「もしかして、その人物って・・・」
リアは深く頷いた。
「はい。グールスです」
「元からその国にいた人じゃないんだ」
「彼がスプリブルク王国に突如現れてから、私の人生の歯車が狂い始めたのです」
そんな中、フィルスはグールスに利用されている可能性があるリアのことが気になってしょうがないらしく、話を聞くため思い切って敵陣に乗り込むことに決めた。
「幸いにもグールスの神術の気配は今のところない。すなわち、今はこの町にはいないようだ。どちらにしても、あの娘と会うなら今しかない」
「あの神父さんいないんだ!それなら安心かも」
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「うん!」
そしてアネモイは、神の力を用いて、教会の入口へと転移した。
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「それもあるが、どちらかといえば町の住民と出くわさないというのが狙いだな」
「そっか。皆扇動されちゃってるんだよね」
この町の住民は、すでにグールスの扇動の神術に掛かっている。今はこの町にいないとはいえ、グールスが予めアネモイの殺害を住民に命令していれば、住民に出会う度に追われてしまう可能性がある。
もしそうなれば、神であるアネモイはともかく、フィルスの命すら危ない。住民に被害を出さずに、フィルスを守るなど流石の神でも不可能と判断したのだ。
教会を目の前に緊張を隠しきれ名フィルス。だが神という、他にない心強い後ろ盾のおかげで、フィルスの不安は解消されていた。
だがその希望も、次のアネモイの一言で、一瞬で崩れ落ちることになる。
「よし、ここからは別行動だ」
「えっ!?」
フィルスは思わず目を見開く。
敵陣に乗り込むうえで、神であるアネモイが傍にいることが何よりの支えとなっていたのだが、その神が戦線から離脱すると宣言された今、フィルスの不安を解消する術を失くしたも同然だった。
「ちょ、ちょっと!一緒に来てくれないの!?」
「あの娘と話をしたいといったのはお前であろうが。前にも言ったが、私たちはそれぞれ得意分野が違う。ここからは、それぞれの得意分野に分かれて核心に迫るべきだ」
「それって、アネモイは疑う立場で、私は信じる立場ってやつ?」
アネモイはこくんと頷いた。
「それにあの娘も聖女などと呼ばれてはいるが、中身はいたって普通の子供だ。見た目は男の人間である私が傍にいては、あの娘も気兼ねには話せまい。あの娘の真意を聞きたいのなら、同じ年ごろでなおかつ同性であるお前と2人きりの空間の方がいいと思うぞ」
「で、でも・・・」
「誤解するな。すべてを押し付けるつもりはない。念のためにこれを渡しておく」
アネモイは懐から、先端に宝石のようなものが取り付けられた首飾りを取り出した。
「きれい。何それ?」
「お守りのようなものだ。それも奴らのようなまがい物の恩恵とはわけが違う。正真正銘、神からの恩恵だ。お前がピンチの時、必ず守ってくれる。肌身離さず身に付けておけ」
フィルスは首飾りを受け取ると、疑うことなく首から下げた。そしてその先端にある宝石をしっかり握りしめる。
「ありがとう。絶対にあの子と話をしてみる」
「ああ。頼んだぞ」
アネモイは、フィルスのある一面に、ずっと感心させられっぱなしだった。
「(こいつは絶対に“救う”ということを口にしない。誰かのためではなく、とにかく自分がそうしたいがために、無意識に手を伸ばすことができる。誰だって見返りは欲しいはずなのに、こいつの場合はそれが二の次だ。とはいえ、土足で他人の心に踏み込むのがたまに傷だが、同時にそれが他人の心を動かす才能でもあり、だからこそ期待をせずにはいられない)」
アネモイのフィルスを見る目は、いつの間にか憧れに近いものとなっていた。
一方、お守りという、別の形で心の支えを得ることができたフィルス。その心に不安の2文字はもう存在しない。
「ところで、アネモイはこれからどうするの?」
「お前とは別の方法で、あの娘のしがらみを取り除ければと思っている」
それを聞いたフィルスは、途端に表情に喜びが満ちる。
「アネモイもあの子のために動いてくれるんだ!でも、具体的には何するの?」
「それは内緒だ。私のことは気にせず、お前はお前ができることを全力でやれ」
「えー、なにそれー」
フィルスは若干不満そうな表情をしながらも、アネモイへの信頼が、疑いの心など忘れさせる。
アネモイとフィルスは拳を突き合わせた。
「しっかりやれよ」
「そっちこそね」
こうして、アネモイとフィルスはそれぞれの得意分野で核心に迫ることになり、アネモイは教会を後にした。
「さてと・・・」
フィルスは教会に向き直り、意を固めてから、教会内に突入した。
アネモイの言う通り、昨日のような神父の出迎えはなく、祭壇のある部屋まで何の障害もなくたどり着けた。
「流石は偽物の教会。外装や装飾は立派でも、中身は何もかもが空っぽだ」
すると、祭壇の一番前の席に見慣れた衣装を着た1人の少女の姿があった。
「いた!」
その声に反応するかのように少女が後ろを振り向いた。やはり、リアだった。
「やはり、ここに来たのですね。そしてグールスの言う通り、お連れの方の姿はない」
フィルスがここに来ることをあらかじめ知っていたのか、特に驚く様子もない。しかし、少女の目に光はなく、暗い表情のまま立ち上がる。
フィルスはゆっくりとリアに近づいてゆく。
「あなたも、この町の住民となりたくて、ここに・・・」
「約束通り、友達として会いに来たよ、リア!」
「!?」
リアはフィルスの笑顔に驚きを隠せない様子だった。
「あなた・・・操られては・・・」
「ああ、もう1人の神術のこと?あんなもの、私に効くはずがないじゃない!」
フィルスは堂々と胸を張り、リアの反応を伺った。すると、リアは途端に顔が青ざめ、体が小刻みに震えだした。
「やっぱり、昨日のお祈りも含めて、全部仕組まれていたんだね。私が今朝、アネモイを毒殺し、そしてこの町の住民になるべく聖女様のもとに訪れるという構図が。アネモイの予想した通りだよ」
「・・・」
「あなたがやったの?」
フィルスは、リアは術をかけた犯人でないことを知っていながら、敢えて鎌をかけた。
するとリアは、観念したかのように地に膝をついた。
「ごめん・・・なさい・・・」
リアは涙を流した。とても意図的に悪いことをしている人物が流すとは思えないほど、奇麗で濁りのない涙。フィルスはその涙を見て、改めて決意を固める。
フィルスがリアのもとにたどり着くと、地に膝をつき、優しくリアを抱きしめた。
「フィルス・・・さん?」
「なんてきれいな涙。できればこんな形で見たくはなかった。こんなに純粋で無垢な涙を」
リアの目から涙が溢れ出す。リアは堪えようとするも、感情が表にあふれて自力では止められない。
フィルスはリアの頭を優しく撫で始めた。それがリアの涙をさらに加速させる。
「余程辛かっただね。大丈夫、わかってる。あなたの仕業じゃないってことぐらいは。ちゃんと分かってるから。だって、友達だもん」
「友・・・達・・・。私が?」
「そう。だからこそ許せないんだよ。友達に無駄な涙を流させた、あの男のこと。絶対に許せない!」
「うぅ・・・」
フィルスのリアを抱く力が更に強くなる。その力強さが、リアの感情を激しく動かし、涙だけでなく声も出さずにはいられない。
「うわあああああん!!!」
リアはしばらく、フィルスの胸の中で泣き続けた。これまで堪えてきたものをすべて吐き出すかのように、教会に響く大声で。
数分後、リアはようやく落ち着きを取り戻し、祭壇前の椅子に2人で腰かけた。
「すみません。お見苦しいところを。えーっとー・・・」
「私はフィルス。全然気にしていないから大丈夫だよ。むしろ、ありがとう。私の前で泣いてくれて」
「改めまして、リアです。あなたは、ずいぶんと不思議な方ですね」
「それ、よく言われる」
2人は顔を見合わせて笑いあった。恐らくリアにとって、久しぶりの安心できる空間なのだろう。
「それにしても驚きました。私はてっきり、あなたもうグールスの手中に収まってしまったのかと」
「ああ、扇動の神術のこと?実はしっかりかかってたんだ。そして私の大事な人を、何の疑問を持たないまま殺そうとした」
「えっ?でもさっきは・・・」
「ごめんね。あなたの真意を確かめたくて嘘ついちゃった。本当はあの後、彼に目を覚ましてもらって、代わりに色々お仕置きされちゃった」
フィルスは恥ずかしそうに、真実を告げた。
「ではあの方は!?」
「大丈夫。生きてるよ。リアが思うような最悪な事態は招いていないから」
「よかった・・・」
リアは安堵した表情を浮かべる。
ようやく笑いを交えた会話ができる間柄になったこの時を見計らって、フィルスは本題に話を切り替える。
「それで聞かせてほしいの。あなたが今ここでやっていることを」
「それは・・・」
「何かの理由で利用されているってのはわかってる。でもこのままじゃいけないってことは、あなたもわかってるはず。そこからあなたを連れ出したいの。そのきれいな手が汚れる前に」
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フィルスはリアの手を取り、ぎゅっと握りしめた。
フィルスが向ける真剣な眼差しに、リアは希望を見出したのかのように、目が輝きを取り戻し始める。そしてその目に賭けてみたくなったのか、これまでのことを話し始めた。
「2年前の話です。かつてこの地がスプリブルク王国によって植民地へと変えられる前、私は生まれつき持った神術を活かそうと、スプリブルク王国内にある治療院で働いていました」
「治療院・・・やっぱりあなたの神術は、“神の恩恵”ではなかったんだね」
「そうでしたね。まずはそこから謝罪するべきでした。私の神術の本当の力は“治癒”。その名の通り、怪我や病気を治したり、傷ついた心を癒したりすることができます。騙していてすみませんでした」
「リアにぴったりな、暖かい神術だね」
リアは照れ臭そうに、思わず笑みをこぼす。
「それじゃあ、昨日私にかけた暖かい神術も?」
「はい。ただの治癒です。フィルスはもともと健全ですから、特に何の影響もありませんのでご安心を」
フィルスは安堵した表情を浮かべる。
「スプリブルク王国にいたころは、この神術を用いながら、忙しくもそれなりに幸せな日常を家族とともに送っていました。ある時、ある人物がスプリブルク王国を訪れるまでは」
「もしかして、その人物って・・・」
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