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聖女を形作った鎖
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アネモイの神の力によって、グールスの魂は天へと還された。
その非現実的な光景に、リアは固まって動くことができずにいる。
そんな中でも、この光景を見るのは2度目であるフィルスは慣れた様子で、平然としていた。それどころか、アネモイに対してあることを問い詰めずにはいられない様子。
「何よ、最後のカッコ悪いセリフ!?あんな理由で天に還されたグールスの魂は浮かばれないよ!」
「なんだ?お前は私があの男の魂を浄化したことがそんなに許せんのか?私の見てないところで奴の情に心を奪われたか?それとも、また奴の扇動の術にかかったのか?ドジな奴め」
「どっちも違うわ!私だって、あれがあいつの現世での行いに対する神の裁きなら文句の1つもないわよ。でも実際の浄化の理由が、ただの嫉妬からくる八つ当たりって!さすがにあっちに同情するわ!」
フィルスは怒りのあまり、興奮を抑えきれない。
「仕方がなかろう。私たち神にとって、誰が祀られているのかはかなり重要なことなのだ」
「知るかー!!!そんなことのために、お手軽感覚で魂を浄化しないでよ!悪人だったとはいえ、相手は自分の世界の住民でしょうが!」
「誰が相手だろうと関係ない!私が私の力をどのように扱おうが問題はあるまい!?」
「その力が世界に影響を及ぼす力でなかったらね!?っていうか、このやり取り、前にもやったな!」
デジャブを感じながら、フィルスはいったん落ち着こうと、深呼吸をした。
「ていうかそもそも、神“リーパー”の名前を出したのはあいつじゃなかったでしょ?」
「そういえばそうだったな。確かその名を口にしたのは・・・」
するとアネモイは、リアの方に視線を走らせる。
これまでのアネモイとフィルスの会話を傍で聞いていたリアは、過去の自分の発言を思い出し、命の危機を感じ取る。
ガタガタと体が震えだすリア。そんなリアに飛び火ししてしまったことを自覚したフィルスは、しまったっと顔を青ざめ、思わずリアを抱きしめる。
「待て待て待って!お願いだから浄化しないで!この子も悪気があって言ったんじゃないから!」
「心配せずとも、そんなつもりは毛頭ないわ。お前は私を何だと思っている?」
「平気で私情を神の力に絡める、出来損ないの腐敗神」
「・・・今後はそのイメージを払拭できるよう努めるとするよ」
アネモイはリアに近づいてゆく。神を目の前に、さすがのリアも緊張を隠しきれない。
「えっと・・・あの・・・」
「安心しろ。私はそなたの味方だ。私からもそなたに聞きたいことがあるが、その前にそなたに会わせたい者たちがいる」
「私にですか?」
アネモイは頷くと、地面に模様の描かれた陣を出現させた。そしてその陣を光らせると、陣の中心に30代前後の男女2人と、10代前半の幼い女の子が出現した。
「誰?」
「お父さん!お母さん!テトラ!」
「え?」
するとリアが、その3人に向かって一直線に駆け出し、母親と思われる女性の胸に飛び込んだ。
「リア・・・よかった元気そうで」
「お母さん!」
そして親子4人は肩を抱き合って2年ぶりの再会の時間を過ごした。それを遠くから暖かい目で見守るアネモイ。
「どうしてアネモイがリアの家族を?」
「私がお前と教会の外で別れた後、私はそのままスプリブルク王国へと向かったんだ。彼らとはそこで出会った」
「なんでスプリブルク王国に?」
「それも含めて、いったん落ち着いてから話そう。お前が得た情報も交えてな」
「ああ、前に言ってた“お互いに利となるやり方で、最後に意見を混ぜ合わせる”ってやつね?」
それからしばらく、リア家族の団欒を見守った後、リアの計らいで教会内にある来客用の応接室に案内されるアネモイたち。そこで、アネモイとフィルス、それぞれが得た情報を混ぜ合わせ、1つの答えを導く会議が開かれた。そこには当事者としてリアとその家族も同伴している。
まず先陣を切ったのはリアだった。
「まず最初に、この度は家族諸共、助けていただいてありがとうございました。そして昨日は大変な無礼をアネモイ様にしてしまいました。これからはその名をしっかりと魂に刻みつけ、1人の信者として信仰することを誓わせていただきます」
「うむ、よろしく頼んだぞ」
「はい!」
「それはもういいから!」
フィルスは呆れながら、ちらりとリア家族の方を見る。すると、リア家族は自分たちが救われたことに関して、心当たりがない様子。
どうやら自分たちが、リアが計画に加担するうえで、人質となっていたことを知らされていないようだ。そしてそれは、アネモイも同様に。
「リアはともかく、家族を助けたとはどういうことだ?確かに彼らにはグールスの術がかかって、私はそれを解いたが」
「判ってて解いたわけじゃないんだ?」
「彼らでさえ、かけられたことに気付いていなかったんだ。かけられた理由なんて知るはずもない。とはいえ、何かしらの不穏な企みがあって術をかけたのは明白。まずは危険因子を取り除いてから、そのことをグールスに問いただそうとしたのだが・・・」
アネモイはフィルの方を睨みつける。
「どうしたの?そんな怖い顔をして」
「どこぞの馬鹿が勝手に踏み込み過ぎたせいで、その理由は聞けずじまいになってしまった」
「それは・・・ごめんなさい」
するとフィルスがずっと気になっていたことをアネモイに問いかけた。
「ていうか、よく私がピンチというタイミングで帰ってこれたね?偶然ではなさそうだし、もしかしてそういう神の力を使ってくれていたの?」
「神の力とて、そんな都合のいいものはない。お前の危険を聞きつけたのは確かだが、それはお前に渡した首飾りのおかげだ」
「これ?」
フィルスは首から下げていた首飾りを手に取った。
「その首飾りには、持ち主の危険を、主である私に直接伝えてくれる機能が備わっている。預けたのが私とはいえ、お前が命の危機に陥たと感じた時は流石に焦ったぞ」
「私のために・・・ありがとう!でもさすがは神様だね。もしかしてこうなることを見越して・・・」
すると再び、フィルスを見るアネモイの目が鋭く尖る。
「あれ?」
「そんなわけがないだろう。この首飾りを渡したのは、あくまでもお前の心を支えるお守りとしてだ。本来の機能が使われるのは、まだ当分先だと思っていた。だがまさか、話をすると教会に乗り込んで、そこから何をどう間違ったら、その日のうちに命の危機にまで追い込まれるのか。さすがの神も予測できまい」
「それは・・・度々ごめんなさい」
するとそれを見ていたリアが慌てた様子でフィルスのフォローに回った。
「お、恐れながら、アネモイ様!フィルスをどうか許してあげてください。彼女のおかげで、私も立ち向かう勇気をもらったのです。むしろああなったのは、グールスが戻るタイミングを見抜けなかった私の責任でもあります。ですので・・・」
「ほう・・・」
この瞬間、まるで憑き物が取れたかのようなリアの表情を見て、アネモイはあることに気付いた。
それは家族と再会できたからだけではない。リアがフィルスの名を呼んだだけでなく、フィルスを庇ったということ事実に、フィルスがこの教会内で交わるはずのない敵の心を自分のものと繋ぎ合わせたことを意味付けていた。よく見れば、お互いに目が腫れているなど、その努力の成果がはっきりと見て取れる。
「なるほど。お前はお前としての役目をきちんと果たせてはいたのだな。ならば、それに免じて、今回のことは大目につぶってやるとするか」
アネモイは今度は暖かい目をフィルスに送る。
フィルスは安心する一方、その意味がよくわかっていない様子だった。
「あ、ありがとう?」
アネモイは仕切り直して、フィルスたちにグールスの計画も含めて、ここで何があったのかを問いかけた。
フィルスとリアは、ここで得た情報を漏らすことなく、アネモイに語った。
「なるほどな。奴がリアの家族に術をかけていたのは、人質として利用するためだったのか。さすがの私も、精神系の神術のそのような使い方など考えもしなかった。やはり魂の濁った者の思考は理解できん」
それを傍で聞いていたリアの家族たちは、知らない内に自分たちが人質としてリアを苦しめていたことを知り、父親の方は歯を食いしばり、母親の方は涙を流していた。
アネモイは、そんなリアに対して、神様としての言葉を投げかける。
「リアよ。2年間もよく頑張ったな。そなたのしがらみとなっていた魂は、もうこの世界のどこにもない。これからは愛する者と共に、己が進むべき未来に向け、存分に生きるがいい」
「はい!改めまして、家族とともに救ってくださり、本当にありがとうございました!」
リアとその家族はアネモイに深々と頭を下げた。
「ちゃんと神様らしいことできたじゃん。グールスにもそれができれば文句なかったのに」
「やかましい」
ここまでフィルスたちの話を聞き、多少予想外なものもあったが、大方はアネモイが予想したものと大差はなかった。
今度はフィルスがアネモイに問いかける番だ。
「それじゃあ、次はアネモイね。私と別れた後、スプリブルク王国で何をしてたの?」
「リアがグールスの策略によって利用されていると勘付いた私は、その根本を断つことから始めようと考えた」
「なんで?」
「リアが不本意で彼の言うことに従っているのならば、その根本さえ断ってしまえば、こちらの味方になると考えたからだ。奴の計画を知ろうとする我々にとって、正気のまま奴の傍に居れる彼女の存在は、大きな戦力となる」
「なるほど」
すると、それを聞いていたリアが、少し申し訳なさそうに口を開く。
「あの・・・大変申し上げにくいのですが、私は彼の傍に居ながら、彼の計画については何も知らされておりません。私は所詮、彼の計画を進めるための駒に過ぎない」
「ああ、そうらしいな。王国で聞き込みをしても、奴の情報は一切出てこなかった。どうやら随分とした、秘密主義だったらしい」
「はい。せっかくご期待してくださったのに、お役に立てず申し訳ありませんでした」
「確かに狙い通りとはいかなかったが、そなたも被害者のようなものだ。謝罪の必要はない」
「お慈悲に感謝します」
そしてアネモイは話を続けた。
「そして国に到着した私は、彼女についていろいろ聞き込みをした」
「へぇー、よく1人で聞き込みなんてできたね」
「私を馬鹿にしているのか?まぁ確かに、多少は強引な手を使ったりもしたが・・・」
「また神の力の無駄遣いをしたのか!?何?何をしたのよ?」
「それは口が裂けてでも言えん」
「本当に何をやった!?」
アネモイは興奮するフィルスを手で制する。
「落ち着け、お前が思っているような最悪なことはしておらん。ただ、人間と対等な口の利き方が分からぬうえに、正体が神であることを知られないよう、精神に干渉する力を使っただけだ」
「要は記憶が残らないようにしたってこと?やっぱり無駄遣いしてるじゃん」
「やかましい。だがそのおかげで、彼女の家族にスムーズに行き着くことができた。奴の神術にかかった状態という、思いもよらない姿でな」
そしてアネモイは、リアの家族の神術を解き、彼らに事情を聴こうとするが、術にかかったことにすら気づいていない彼らから結局何の情報も得られなかった。
「結果的にリアを束縛する鎖の根本は経つことができたが、奴の計画とやらは何一つ掴むことができなかった。そこで、奴が潜伏していたという王宮に、奴が予言したというこの地に蔓延した疫病のことも含め、その手掛かりがないかと探しに行くことにした」
「そっか。潜伏していた王宮になら、奴の計画書みたいなものが見つかるかもしれないもんね。そこでも精神系の術を使いそうな気がするけど、まあいいや。それで、見つかったの?」
「それをやろうとした矢先、お前が私を呼んだ」
「ああ、この首飾りの。なんか・・・ごめん」
こうしてアネモイは、王宮に侵入するのを諦めた。そして植民地に戻る際、グールスを問いただす材料として、ついでにリアの家族を連れて、転移の力によってこの地に戻ってきたのだ。
「今日の成果として、ここにいるリアの自由を縛る鎖からは解き放つことができた。だが結局、疫病のことや、グールスの計画の核の部分は分からず終い。充てにしていたリアも残念ながら何も聞かされておらぬ上に、どこかの馬鹿が深追いしすぎたせいで調べることすらできなかった」
「すみません・・・」
「リアが謝ることではない」
リアはアネモイに頭を下げる一方、フィルスは申し訳なさそうに体を縮こませながらも、アネモイに対し頬を膨らませ、不満そうな表情を浮かべる。
「そりゃ、私も悪かったけどさ。アネモイだって、私情に駆られなければ、少し話を聞いた後にグールスを還すことだって可能だったわけじゃん?それをわたしだけのせいに・・・」
「過ぎたことを後悔しても仕方がない!こうなれば奴が居なくなったこの教会で、奴の計画の手がかりを探すしかない!」
意気込むアネモイと、苦笑いでアネモイに拍手を送るリアとその家族。
その光景は、フィルスにとって、とても面白い光景とはいえなかった。
「なんか、納得がいかない」
その非現実的な光景に、リアは固まって動くことができずにいる。
そんな中でも、この光景を見るのは2度目であるフィルスは慣れた様子で、平然としていた。それどころか、アネモイに対してあることを問い詰めずにはいられない様子。
「何よ、最後のカッコ悪いセリフ!?あんな理由で天に還されたグールスの魂は浮かばれないよ!」
「なんだ?お前は私があの男の魂を浄化したことがそんなに許せんのか?私の見てないところで奴の情に心を奪われたか?それとも、また奴の扇動の術にかかったのか?ドジな奴め」
「どっちも違うわ!私だって、あれがあいつの現世での行いに対する神の裁きなら文句の1つもないわよ。でも実際の浄化の理由が、ただの嫉妬からくる八つ当たりって!さすがにあっちに同情するわ!」
フィルスは怒りのあまり、興奮を抑えきれない。
「仕方がなかろう。私たち神にとって、誰が祀られているのかはかなり重要なことなのだ」
「知るかー!!!そんなことのために、お手軽感覚で魂を浄化しないでよ!悪人だったとはいえ、相手は自分の世界の住民でしょうが!」
「誰が相手だろうと関係ない!私が私の力をどのように扱おうが問題はあるまい!?」
「その力が世界に影響を及ぼす力でなかったらね!?っていうか、このやり取り、前にもやったな!」
デジャブを感じながら、フィルスはいったん落ち着こうと、深呼吸をした。
「ていうかそもそも、神“リーパー”の名前を出したのはあいつじゃなかったでしょ?」
「そういえばそうだったな。確かその名を口にしたのは・・・」
するとアネモイは、リアの方に視線を走らせる。
これまでのアネモイとフィルスの会話を傍で聞いていたリアは、過去の自分の発言を思い出し、命の危機を感じ取る。
ガタガタと体が震えだすリア。そんなリアに飛び火ししてしまったことを自覚したフィルスは、しまったっと顔を青ざめ、思わずリアを抱きしめる。
「待て待て待って!お願いだから浄化しないで!この子も悪気があって言ったんじゃないから!」
「心配せずとも、そんなつもりは毛頭ないわ。お前は私を何だと思っている?」
「平気で私情を神の力に絡める、出来損ないの腐敗神」
「・・・今後はそのイメージを払拭できるよう努めるとするよ」
アネモイはリアに近づいてゆく。神を目の前に、さすがのリアも緊張を隠しきれない。
「えっと・・・あの・・・」
「安心しろ。私はそなたの味方だ。私からもそなたに聞きたいことがあるが、その前にそなたに会わせたい者たちがいる」
「私にですか?」
アネモイは頷くと、地面に模様の描かれた陣を出現させた。そしてその陣を光らせると、陣の中心に30代前後の男女2人と、10代前半の幼い女の子が出現した。
「誰?」
「お父さん!お母さん!テトラ!」
「え?」
するとリアが、その3人に向かって一直線に駆け出し、母親と思われる女性の胸に飛び込んだ。
「リア・・・よかった元気そうで」
「お母さん!」
そして親子4人は肩を抱き合って2年ぶりの再会の時間を過ごした。それを遠くから暖かい目で見守るアネモイ。
「どうしてアネモイがリアの家族を?」
「私がお前と教会の外で別れた後、私はそのままスプリブルク王国へと向かったんだ。彼らとはそこで出会った」
「なんでスプリブルク王国に?」
「それも含めて、いったん落ち着いてから話そう。お前が得た情報も交えてな」
「ああ、前に言ってた“お互いに利となるやり方で、最後に意見を混ぜ合わせる”ってやつね?」
それからしばらく、リア家族の団欒を見守った後、リアの計らいで教会内にある来客用の応接室に案内されるアネモイたち。そこで、アネモイとフィルス、それぞれが得た情報を混ぜ合わせ、1つの答えを導く会議が開かれた。そこには当事者としてリアとその家族も同伴している。
まず先陣を切ったのはリアだった。
「まず最初に、この度は家族諸共、助けていただいてありがとうございました。そして昨日は大変な無礼をアネモイ様にしてしまいました。これからはその名をしっかりと魂に刻みつけ、1人の信者として信仰することを誓わせていただきます」
「うむ、よろしく頼んだぞ」
「はい!」
「それはもういいから!」
フィルスは呆れながら、ちらりとリア家族の方を見る。すると、リア家族は自分たちが救われたことに関して、心当たりがない様子。
どうやら自分たちが、リアが計画に加担するうえで、人質となっていたことを知らされていないようだ。そしてそれは、アネモイも同様に。
「リアはともかく、家族を助けたとはどういうことだ?確かに彼らにはグールスの術がかかって、私はそれを解いたが」
「判ってて解いたわけじゃないんだ?」
「彼らでさえ、かけられたことに気付いていなかったんだ。かけられた理由なんて知るはずもない。とはいえ、何かしらの不穏な企みがあって術をかけたのは明白。まずは危険因子を取り除いてから、そのことをグールスに問いただそうとしたのだが・・・」
アネモイはフィルの方を睨みつける。
「どうしたの?そんな怖い顔をして」
「どこぞの馬鹿が勝手に踏み込み過ぎたせいで、その理由は聞けずじまいになってしまった」
「それは・・・ごめんなさい」
するとフィルスがずっと気になっていたことをアネモイに問いかけた。
「ていうか、よく私がピンチというタイミングで帰ってこれたね?偶然ではなさそうだし、もしかしてそういう神の力を使ってくれていたの?」
「神の力とて、そんな都合のいいものはない。お前の危険を聞きつけたのは確かだが、それはお前に渡した首飾りのおかげだ」
「これ?」
フィルスは首から下げていた首飾りを手に取った。
「その首飾りには、持ち主の危険を、主である私に直接伝えてくれる機能が備わっている。預けたのが私とはいえ、お前が命の危機に陥たと感じた時は流石に焦ったぞ」
「私のために・・・ありがとう!でもさすがは神様だね。もしかしてこうなることを見越して・・・」
すると再び、フィルスを見るアネモイの目が鋭く尖る。
「あれ?」
「そんなわけがないだろう。この首飾りを渡したのは、あくまでもお前の心を支えるお守りとしてだ。本来の機能が使われるのは、まだ当分先だと思っていた。だがまさか、話をすると教会に乗り込んで、そこから何をどう間違ったら、その日のうちに命の危機にまで追い込まれるのか。さすがの神も予測できまい」
「それは・・・度々ごめんなさい」
するとそれを見ていたリアが慌てた様子でフィルスのフォローに回った。
「お、恐れながら、アネモイ様!フィルスをどうか許してあげてください。彼女のおかげで、私も立ち向かう勇気をもらったのです。むしろああなったのは、グールスが戻るタイミングを見抜けなかった私の責任でもあります。ですので・・・」
「ほう・・・」
この瞬間、まるで憑き物が取れたかのようなリアの表情を見て、アネモイはあることに気付いた。
それは家族と再会できたからだけではない。リアがフィルスの名を呼んだだけでなく、フィルスを庇ったということ事実に、フィルスがこの教会内で交わるはずのない敵の心を自分のものと繋ぎ合わせたことを意味付けていた。よく見れば、お互いに目が腫れているなど、その努力の成果がはっきりと見て取れる。
「なるほど。お前はお前としての役目をきちんと果たせてはいたのだな。ならば、それに免じて、今回のことは大目につぶってやるとするか」
アネモイは今度は暖かい目をフィルスに送る。
フィルスは安心する一方、その意味がよくわかっていない様子だった。
「あ、ありがとう?」
アネモイは仕切り直して、フィルスたちにグールスの計画も含めて、ここで何があったのかを問いかけた。
フィルスとリアは、ここで得た情報を漏らすことなく、アネモイに語った。
「なるほどな。奴がリアの家族に術をかけていたのは、人質として利用するためだったのか。さすがの私も、精神系の神術のそのような使い方など考えもしなかった。やはり魂の濁った者の思考は理解できん」
それを傍で聞いていたリアの家族たちは、知らない内に自分たちが人質としてリアを苦しめていたことを知り、父親の方は歯を食いしばり、母親の方は涙を流していた。
アネモイは、そんなリアに対して、神様としての言葉を投げかける。
「リアよ。2年間もよく頑張ったな。そなたのしがらみとなっていた魂は、もうこの世界のどこにもない。これからは愛する者と共に、己が進むべき未来に向け、存分に生きるがいい」
「はい!改めまして、家族とともに救ってくださり、本当にありがとうございました!」
リアとその家族はアネモイに深々と頭を下げた。
「ちゃんと神様らしいことできたじゃん。グールスにもそれができれば文句なかったのに」
「やかましい」
ここまでフィルスたちの話を聞き、多少予想外なものもあったが、大方はアネモイが予想したものと大差はなかった。
今度はフィルスがアネモイに問いかける番だ。
「それじゃあ、次はアネモイね。私と別れた後、スプリブルク王国で何をしてたの?」
「リアがグールスの策略によって利用されていると勘付いた私は、その根本を断つことから始めようと考えた」
「なんで?」
「リアが不本意で彼の言うことに従っているのならば、その根本さえ断ってしまえば、こちらの味方になると考えたからだ。奴の計画を知ろうとする我々にとって、正気のまま奴の傍に居れる彼女の存在は、大きな戦力となる」
「なるほど」
すると、それを聞いていたリアが、少し申し訳なさそうに口を開く。
「あの・・・大変申し上げにくいのですが、私は彼の傍に居ながら、彼の計画については何も知らされておりません。私は所詮、彼の計画を進めるための駒に過ぎない」
「ああ、そうらしいな。王国で聞き込みをしても、奴の情報は一切出てこなかった。どうやら随分とした、秘密主義だったらしい」
「はい。せっかくご期待してくださったのに、お役に立てず申し訳ありませんでした」
「確かに狙い通りとはいかなかったが、そなたも被害者のようなものだ。謝罪の必要はない」
「お慈悲に感謝します」
そしてアネモイは話を続けた。
「そして国に到着した私は、彼女についていろいろ聞き込みをした」
「へぇー、よく1人で聞き込みなんてできたね」
「私を馬鹿にしているのか?まぁ確かに、多少は強引な手を使ったりもしたが・・・」
「また神の力の無駄遣いをしたのか!?何?何をしたのよ?」
「それは口が裂けてでも言えん」
「本当に何をやった!?」
アネモイは興奮するフィルスを手で制する。
「落ち着け、お前が思っているような最悪なことはしておらん。ただ、人間と対等な口の利き方が分からぬうえに、正体が神であることを知られないよう、精神に干渉する力を使っただけだ」
「要は記憶が残らないようにしたってこと?やっぱり無駄遣いしてるじゃん」
「やかましい。だがそのおかげで、彼女の家族にスムーズに行き着くことができた。奴の神術にかかった状態という、思いもよらない姿でな」
そしてアネモイは、リアの家族の神術を解き、彼らに事情を聴こうとするが、術にかかったことにすら気づいていない彼らから結局何の情報も得られなかった。
「結果的にリアを束縛する鎖の根本は経つことができたが、奴の計画とやらは何一つ掴むことができなかった。そこで、奴が潜伏していたという王宮に、奴が予言したというこの地に蔓延した疫病のことも含め、その手掛かりがないかと探しに行くことにした」
「そっか。潜伏していた王宮になら、奴の計画書みたいなものが見つかるかもしれないもんね。そこでも精神系の術を使いそうな気がするけど、まあいいや。それで、見つかったの?」
「それをやろうとした矢先、お前が私を呼んだ」
「ああ、この首飾りの。なんか・・・ごめん」
こうしてアネモイは、王宮に侵入するのを諦めた。そして植民地に戻る際、グールスを問いただす材料として、ついでにリアの家族を連れて、転移の力によってこの地に戻ってきたのだ。
「今日の成果として、ここにいるリアの自由を縛る鎖からは解き放つことができた。だが結局、疫病のことや、グールスの計画の核の部分は分からず終い。充てにしていたリアも残念ながら何も聞かされておらぬ上に、どこかの馬鹿が深追いしすぎたせいで調べることすらできなかった」
「すみません・・・」
「リアが謝ることではない」
リアはアネモイに頭を下げる一方、フィルスは申し訳なさそうに体を縮こませながらも、アネモイに対し頬を膨らませ、不満そうな表情を浮かべる。
「そりゃ、私も悪かったけどさ。アネモイだって、私情に駆られなければ、少し話を聞いた後にグールスを還すことだって可能だったわけじゃん?それをわたしだけのせいに・・・」
「過ぎたことを後悔しても仕方がない!こうなれば奴が居なくなったこの教会で、奴の計画の手がかりを探すしかない!」
意気込むアネモイと、苦笑いでアネモイに拍手を送るリアとその家族。
その光景は、フィルスにとって、とても面白い光景とはいえなかった。
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レイエスは親たちへの根回しを完璧に済ませ、再び三人の前に現れる。「褒美に海へ遊びに行こう」という誘いに、三人は、王子様が自分たちを騙して捕まえようとしてるのではないかと疑うが、結局未知なる冒険という名のピクニックへと旅立つことになる。
こうして、規格外の力を持つ三人と、彼女たちを「遊び」で導き、その力を正しく制御しようとする王子の奇妙な旅が始まる。彼女たちが無邪気に遊ぶたび、王国を脅かす難敵は露知らずのうちに駆逐されていく。自覚なき救世主たちのドタバタな日常が、世界の運命を静かに、そして豪快に変えていくのである。
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【2025カドカワBOOKS10周年記念長編コンテスト中間選考通過作品】
・規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?
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