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陰の功労者
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諸悪の根源であったグールスを、魂諸共この世界から追い出すことに成功したアネモイだったが、肝心のグールスがこの地において何をしようとしていたのか、その計画の核の部分には触れずのままでいた。
当の本人であるグールスに話を聞こうにも、その場の勢いで魂を浄化してしまったアネモイの失態により、それも叶わずにいる現実。
やむを得ずアネモイたちは、グールスの抜け殻となったこの教会にて手掛かりを探すことになった。
「アネモイ様。娘のテトラが、グールスとかいう者の神術から解き放たれてたばかりで、少し疲れている様子。なので教会内にて、少し休ませていただいてもよろしいですか?」
すでに眠りに落ちていたリアの妹であるテトラを抱きかかえた母親が、アネモイにやや緊張しながら頼み込んできた。
「構わん。もとより、ここから先は私たちの仕事だ。見慣れぬ土地で戸惑いもあるだろう。ゆっくり休ませてやれ」
「あ、ありがとうございます!」
そんな中、リアはアネモイの手伝いをしようと張り切っている様子。
「私はアネモイ様とフィルスのお手伝いをさせてください。微力ながら、この教会の案内ぐらいは私にもできます。何かお役に立てるかと」
「わかった。頼りにしているぞ」
「お任せください!」
アネモイはリアの父親の方に体を向けた。
「父方は母方に着いてやっているといい。偽物の教会が故、決して安全とはいえん。何かあればすぐに呼ぶがいい」
「ご配慮感謝いたします。ではお言葉に甘えさせていただきます」
こうしてリアの両親と妹を教会内に残し、アネモイたちは探索を始めた。
だが、リアの案内で迷うことなくすべての部屋を見て回ったが、それらしい手掛かりは見つけられなかった。
「見つからないねー。この植民地に滞在していたってことは、ここで何かしらの計画を進行していたのは間違いないと思ったんだけどな」
「すみません。私が知りうる範囲でも、彼が教会に籠って何かをしていたのは確かです。ですが、考えられる可能性全てを虱潰しに探しても、まさかどこにも手掛かりを残していないとは」
「リアのせいじゃないって。でも変だよね。すべての部屋を見ても、何も見つからないなんて」
するとアネモイが、手掛かりないという事実に何かしらの手掛かりがないかと睨み始める。
「手掛かりがない・・・もしかすると、それが答えなのかもな」
アネモイが導き出した答えに、フィルスとリアは顔を見合わせて互いに首を傾げる。
「どういう意味か、ご説明願いますか?」
「あれほど用心深かった男だ。計画に利用としていたリアにさえ、計画の核となる部分は教えられていなかった。つまり・・・」
「ああ、そっか。ということは、この教会内でリアが知っていることは、あいつの計画とやらには何ら関係ないものばかり。あいつの計画部分に触れるには、逆にリアが知らされていない部分に触れるしかないのか」
「そういうことだ。しかし、あれだけの説明でよく分かったな。お前は、時々意外なところで勘の鋭さを発揮する」
「えへへ、褒められちゃった」
「褒めているかどうかは微妙なところだがな」
するとリアが、2人の会話を聞いて、感心したような表情を浮かべる。
「すごいです、アネモイ様。それにフィルスも。そこにたどり着くための、柔軟な発想力。感服いたしました」
だが、リアにとって感心ばかりもしていられない。リアは申し訳なさそうに顔を俯いた。
「ですがそうなると、これ以上私がお役に立てることはなさそうですね。私は結局かごの中の鳥。あの人の近くにあれだけの時間居ながら、結局見ていたものは表の面ばかり。本当に申し訳ありません」
「リア・・・」
落ち込むリアに、どのような言葉をかければいいのか分からず、ただ心配そうな表情を浮かべるフィルス。
しかしアネモイの目は、何も知らされていないリアだからこそ、別の視点から手掛かりを見つけられる可能性があることを見逃さなかった。
「いや、逆にそれを利用することにしよう」
「どういうこと?」
「今から私が“空間認識”の力をこの教会全体にかける」
「空間認識?何それ?」
空間認識とは、その力が展開する範囲内にどれだけの空間や障害物が存在するのか、気やオーラ、気配などを感じながら把握するというもの。
「本来ならこれは、範囲内にどれだけの人数がいるのかを把握するためのものであるが、建物にかければ、建物内にどれだけの部屋があるのかを把握することもできる。そこで、リアも知らされていない部屋、いわゆる隠し部屋がないか探してみよう」
すると、リアの表情が明るさを見せ始める。
「なるほど。アネモイ様が探し当てた部屋について、私が知っているかどうかの判断をすればいいのですね。なんだか少し複雑な心境ではありますが、それでお役に立てるのでしたら、喜んで!」
そしてアネモイは、空間認識の力を発動させた。そしてその成果はすぐに表れる。
「地下か・・・」
アネモイが教会全体に空間認識の力を発動し、これまで探索した数々の部屋の中に、未だ訪れていない空間が地中にあった。
「地下室なんて、まさかそんなものが・・・」
「リアの記憶に覚えがない様子だし、決まりだね」
「まったく、とことん表を恐れる男だ。その用心深さ、逆に感心する」
こうしてアネモイたちはリアも知らされていなかった地下へと降りていくことになった。
だが、そこは用心が海よりも深い男。最初は普通に入り口を探そうとするアネモイたちだったが、しばらく時間が経過しても、その入り口すら見つけられない。
痺れを切らしたアネモイは、再び空間認識の力を発動。地下室と地上を繋ぐ通路を何とか見つけ出す。
「まさか食糧庫に、入口があるなんてね。そりゃあ、簡単に見つからないわけだ」
「私も何度も訪れているはずなのに」
アネモイは食糧庫の奥にある、何の変哲もない壁を叩き始めた。
「この奥か・・・」
アネモイは壁の奥に空間を見つけ、さらにその奥に地下へと繋がる通路を見つけた。
しかし、地上と地下を繋ぐ通路を隔てる壁の中に、アネモイはある金属を見つける。
「奴には、ほとほと呆れる。地下へと繋がる通路を隔てるこの壁の中にだけ、特殊な金属が埋め込まれている。外側の壁に強固な強度を与えるとともに、どんな攻撃性の神術も通さない造り。いくら用心深くとも限度があるだろうが」
「人一倍の用心深さがここにも。恐らくこの壁を通るには、鍵と同類の特殊な方法があるのでしょう」
「えー・・・それを探すの面倒くさくない?もういっそ、壊しちゃおうよ。この壁がいかに堅牢とはいえ、神様には関係ないでしょ?」
フィルスは悪い顔でアネモイに微笑みかける。
「無論だ。人間にとっては不壊な物質でも、世界の創造者の前ではその強度、紙にも等しい」
アネモイもフィルスにつられてか、まるで盗賊が盗みを働くような顔をしていた。
「お2人とも、顔が怖いです・・・」
アネモイは、不壊な壁に向けて力を発動すると、壁はまるで砂のようにボロボロと崩れ落ちる。
「さっすがー!」
「よし、行くぞ」
アネモイたちは地下へと降りてゆく。地下までの距離はそれほど長くはなく、地下室の扉は通路を入ってすぐに見かけた。
「入るぞ」
アネモイは扉に手をかけた。すると何かを思いついたように、扉に手をかけたまま2人の方を振り返る。
「いいか?特にリア。中に何があっても、その現実から決して目を逸らすな。それが例え、非人道的なものであってもだ」
「わかった!」
「はい!」
アネモイは勢いよく扉を開くと、同時にこの世のものとは思えない香りが外に漏れだしてくる。
「なに、この匂いは!?」
「吸うな!!!」
するとアネモイは、中に漂う空気が外に漏れないよう、素早く扉を閉めると、フィルスとリアの周囲に球体の形をした結界を張った。
「これは・・・なんですか?」
「その結界の中は外の影響を受けない。どうやら思っていたよりも、非道なことが行われていたようだ」
するとアネモイを見たフィルスが突然慌て始めた。
「ていうか、待って!アネモイは結界の中に入ってないじゃん!この変な空気の中に居続けたら・・・いや、神様がそんなのに影響されるわけがなかったわ。そうだったね。ごめんなさい」
「一人で勝手に問題を見つけてから、勝手に自己完結した挙句、私に白い目を向けながら反省するな」
アネモイたちは奥へと進んだ。
「なんでしょう?この部屋?」
「机にいろんな道具が置かれているね。液体が入った瓶に、その液体を温めるランプ、なんか覗き穴みたいな機材もある」
「他の世界で言うフラスコや顕微鏡だな。この世界においての呼び名はあいにく把握できていないが、まさかこの世界の人間もそれらに似た道具を開発していたとは」
アネモイは、自分の知らないところで未知なるものを探求しようとするための道具を開発していた人間に対し、成長の喜びを感じるとともに、この世界はまだ腐敗に向けて進んでいるわけではないと実感した。
だがその感動はいったん置いておき、アネモイはこの部屋とこれらの道具から見て、この部屋である実験をしていたのだろうと推測する。
「何かを開発でもしていたのかな?」
「開発に間違いはないだろうが、実験から発生するこの気体。とても人の役に立つものを開発していたとは思えんな」
すると1人で奥の方に進んでいたリアが、様々な資料や紙きれが置かれた机から、1つのノートを見つけ出す。
「これは・・・」
そのノートに書かれた実験内容とその結果を熟読するリア。それを読み進める度にノートを持つ手に力が込められてゆく。
そして一通り読み終えたリアは、そのノートをアネモイのもとに持っていった。
「アネモイ様、これを!」
リアからノートを受け取ったアネモイ。そのノートの端は、フィルスの握力でしわくちゃになっていた。
フィルスとともに、ノートの中をのぞいてゆくと、ここで何が行われていたのか、その答えがそのまま書かれていた。
「なるほどな。ここで奴の予言となった疫病にたどり着くのか」
そのノートに書かれていたのは、この植民地で流行したと思われる疫病のデータであった。
疫病の名前から始まり、疫病を生成するうえで必要になるであろう化学式や、薬草などの材料。実験に用いられた日付や時間、その結果。更には、疫病の危険度を種類別にランクで示してあったりと、疫病に関するデータが事細かくに記載されていた。
「読めてきたな。ここで奴がやろうとしていたことが」
「この地に流行したっていう疫病。あいつがここで作っていたってこと!?」
「この植民地は、いわば実験の場だったのだろう。定期的に疫病をばらまき、住民の反応からデータを取っていた」
「その実験を何度も繰り返せるように、リアの神術を利用して病気を治していたんだね。ひどい・・・」
するとリアの全身の力が抜けたのか、膝から崩れ落ちた。
「私は・・・こんなことの片棒を担いでいたなんて・・・」
「リア!」
フィルスはすかさず、リアを抱きしめる。リアはフィルスの胸の中で、悔し涙を流さずにはいられない。
するとアネモイが、そのノートを見てあることに気付く。
「最初のころは、数日に1回のペースで疫病をばらまいていたようだが、途中から1ヵ月に1回のペースに変わっている。しかも実験体の対象が住民から旅人になっている箇所がいくつもあるな」
「それがどうしたの?」
「どうやら奴の実験はある理由が原因で停滞していたようだ。その原因は恐らくリアだろう」
「私・・・ですか?」
アネモイはゆっくりと頷く。アネモイは手に持ったノートから、リアの神術の情報を得ていた。
「そなたの神術が、奴の想像を超えてかなり強力だったのだ。奴は、疫病をばらまくのとそなたの治療を繰り返すことで、何度も実験を試みようと考えていたらしい。しかしそなたの治癒は、ただ病人を治すだけでなく、治した病人にその病気に対する免疫を付けることができるようだ」
「つまりリアが治療したら、その人はもう、その病気には罹らないってこと?」
「それに気づいた奴は、実験の対象を住民から、この地に偶然訪れる旅人に変更した。奴が扇動の神術を用いて、今回のフィルスのように、旅人をこの地の住民に仕立て上げようとしたのはそれが目的だろう。旅人を神の恩恵という儀を受けさせ、扇動し、この地に留まらせる。そしてその旅人に疫病を感染させ、データを取る」
「でも実験のたびに住民を増やしていたにしては、それほど住民はいなかったような」
「当然だろう。リアから治療を受ければ、その旅人はもう疫病には罹らない。治療を終えた後、扇動を解いて、間接的に追い出していたのだろうな」
だが、旅人を対象にした実験は、あまりにも効率が悪かった。
「とはいえ、感染のデータを取るうえで、不定期にこの地に訪れる旅人だけでは圧倒的にデータ不足。実験の効率は大幅に遅延していたようだ。そなたの存在が、奴の計画を食い止めていたんだ」
「私が?」
「そなたは加担したと言っていたが、奴にとってそなたの存在は実験対象の変更を余儀なくするきっかけとなり、結果的に錘となっていた。それでも聖女という、物語における役者が必要な以上、そなたを追い出すことができない。奴にとって、そなたは痛し痒しなものだったのだろう」
アネモイは、暖かい表情でリアに向き合った。
「そなたでなければ、この町どころか、この世界は大変な危機に陥っていたであろう。神として礼を言わせてもらう。私がここに来るまで、世界の危機を未然に防いでくれていて本当にありがとう」
アネモイは深々と頭を下げた。
「そんな・・・私は・・・」
神から頭を下げられ、その悔し涙は、みるみる嬉し涙へと変わってゆく。
2年間、培ってきたリアの努力が、思わぬ形で実を結んだ瞬間だった。
当の本人であるグールスに話を聞こうにも、その場の勢いで魂を浄化してしまったアネモイの失態により、それも叶わずにいる現実。
やむを得ずアネモイたちは、グールスの抜け殻となったこの教会にて手掛かりを探すことになった。
「アネモイ様。娘のテトラが、グールスとかいう者の神術から解き放たれてたばかりで、少し疲れている様子。なので教会内にて、少し休ませていただいてもよろしいですか?」
すでに眠りに落ちていたリアの妹であるテトラを抱きかかえた母親が、アネモイにやや緊張しながら頼み込んできた。
「構わん。もとより、ここから先は私たちの仕事だ。見慣れぬ土地で戸惑いもあるだろう。ゆっくり休ませてやれ」
「あ、ありがとうございます!」
そんな中、リアはアネモイの手伝いをしようと張り切っている様子。
「私はアネモイ様とフィルスのお手伝いをさせてください。微力ながら、この教会の案内ぐらいは私にもできます。何かお役に立てるかと」
「わかった。頼りにしているぞ」
「お任せください!」
アネモイはリアの父親の方に体を向けた。
「父方は母方に着いてやっているといい。偽物の教会が故、決して安全とはいえん。何かあればすぐに呼ぶがいい」
「ご配慮感謝いたします。ではお言葉に甘えさせていただきます」
こうしてリアの両親と妹を教会内に残し、アネモイたちは探索を始めた。
だが、リアの案内で迷うことなくすべての部屋を見て回ったが、それらしい手掛かりは見つけられなかった。
「見つからないねー。この植民地に滞在していたってことは、ここで何かしらの計画を進行していたのは間違いないと思ったんだけどな」
「すみません。私が知りうる範囲でも、彼が教会に籠って何かをしていたのは確かです。ですが、考えられる可能性全てを虱潰しに探しても、まさかどこにも手掛かりを残していないとは」
「リアのせいじゃないって。でも変だよね。すべての部屋を見ても、何も見つからないなんて」
するとアネモイが、手掛かりないという事実に何かしらの手掛かりがないかと睨み始める。
「手掛かりがない・・・もしかすると、それが答えなのかもな」
アネモイが導き出した答えに、フィルスとリアは顔を見合わせて互いに首を傾げる。
「どういう意味か、ご説明願いますか?」
「あれほど用心深かった男だ。計画に利用としていたリアにさえ、計画の核となる部分は教えられていなかった。つまり・・・」
「ああ、そっか。ということは、この教会内でリアが知っていることは、あいつの計画とやらには何ら関係ないものばかり。あいつの計画部分に触れるには、逆にリアが知らされていない部分に触れるしかないのか」
「そういうことだ。しかし、あれだけの説明でよく分かったな。お前は、時々意外なところで勘の鋭さを発揮する」
「えへへ、褒められちゃった」
「褒めているかどうかは微妙なところだがな」
するとリアが、2人の会話を聞いて、感心したような表情を浮かべる。
「すごいです、アネモイ様。それにフィルスも。そこにたどり着くための、柔軟な発想力。感服いたしました」
だが、リアにとって感心ばかりもしていられない。リアは申し訳なさそうに顔を俯いた。
「ですがそうなると、これ以上私がお役に立てることはなさそうですね。私は結局かごの中の鳥。あの人の近くにあれだけの時間居ながら、結局見ていたものは表の面ばかり。本当に申し訳ありません」
「リア・・・」
落ち込むリアに、どのような言葉をかければいいのか分からず、ただ心配そうな表情を浮かべるフィルス。
しかしアネモイの目は、何も知らされていないリアだからこそ、別の視点から手掛かりを見つけられる可能性があることを見逃さなかった。
「いや、逆にそれを利用することにしよう」
「どういうこと?」
「今から私が“空間認識”の力をこの教会全体にかける」
「空間認識?何それ?」
空間認識とは、その力が展開する範囲内にどれだけの空間や障害物が存在するのか、気やオーラ、気配などを感じながら把握するというもの。
「本来ならこれは、範囲内にどれだけの人数がいるのかを把握するためのものであるが、建物にかければ、建物内にどれだけの部屋があるのかを把握することもできる。そこで、リアも知らされていない部屋、いわゆる隠し部屋がないか探してみよう」
すると、リアの表情が明るさを見せ始める。
「なるほど。アネモイ様が探し当てた部屋について、私が知っているかどうかの判断をすればいいのですね。なんだか少し複雑な心境ではありますが、それでお役に立てるのでしたら、喜んで!」
そしてアネモイは、空間認識の力を発動させた。そしてその成果はすぐに表れる。
「地下か・・・」
アネモイが教会全体に空間認識の力を発動し、これまで探索した数々の部屋の中に、未だ訪れていない空間が地中にあった。
「地下室なんて、まさかそんなものが・・・」
「リアの記憶に覚えがない様子だし、決まりだね」
「まったく、とことん表を恐れる男だ。その用心深さ、逆に感心する」
こうしてアネモイたちはリアも知らされていなかった地下へと降りていくことになった。
だが、そこは用心が海よりも深い男。最初は普通に入り口を探そうとするアネモイたちだったが、しばらく時間が経過しても、その入り口すら見つけられない。
痺れを切らしたアネモイは、再び空間認識の力を発動。地下室と地上を繋ぐ通路を何とか見つけ出す。
「まさか食糧庫に、入口があるなんてね。そりゃあ、簡単に見つからないわけだ」
「私も何度も訪れているはずなのに」
アネモイは食糧庫の奥にある、何の変哲もない壁を叩き始めた。
「この奥か・・・」
アネモイは壁の奥に空間を見つけ、さらにその奥に地下へと繋がる通路を見つけた。
しかし、地上と地下を繋ぐ通路を隔てる壁の中に、アネモイはある金属を見つける。
「奴には、ほとほと呆れる。地下へと繋がる通路を隔てるこの壁の中にだけ、特殊な金属が埋め込まれている。外側の壁に強固な強度を与えるとともに、どんな攻撃性の神術も通さない造り。いくら用心深くとも限度があるだろうが」
「人一倍の用心深さがここにも。恐らくこの壁を通るには、鍵と同類の特殊な方法があるのでしょう」
「えー・・・それを探すの面倒くさくない?もういっそ、壊しちゃおうよ。この壁がいかに堅牢とはいえ、神様には関係ないでしょ?」
フィルスは悪い顔でアネモイに微笑みかける。
「無論だ。人間にとっては不壊な物質でも、世界の創造者の前ではその強度、紙にも等しい」
アネモイもフィルスにつられてか、まるで盗賊が盗みを働くような顔をしていた。
「お2人とも、顔が怖いです・・・」
アネモイは、不壊な壁に向けて力を発動すると、壁はまるで砂のようにボロボロと崩れ落ちる。
「さっすがー!」
「よし、行くぞ」
アネモイたちは地下へと降りてゆく。地下までの距離はそれほど長くはなく、地下室の扉は通路を入ってすぐに見かけた。
「入るぞ」
アネモイは扉に手をかけた。すると何かを思いついたように、扉に手をかけたまま2人の方を振り返る。
「いいか?特にリア。中に何があっても、その現実から決して目を逸らすな。それが例え、非人道的なものであってもだ」
「わかった!」
「はい!」
アネモイは勢いよく扉を開くと、同時にこの世のものとは思えない香りが外に漏れだしてくる。
「なに、この匂いは!?」
「吸うな!!!」
するとアネモイは、中に漂う空気が外に漏れないよう、素早く扉を閉めると、フィルスとリアの周囲に球体の形をした結界を張った。
「これは・・・なんですか?」
「その結界の中は外の影響を受けない。どうやら思っていたよりも、非道なことが行われていたようだ」
するとアネモイを見たフィルスが突然慌て始めた。
「ていうか、待って!アネモイは結界の中に入ってないじゃん!この変な空気の中に居続けたら・・・いや、神様がそんなのに影響されるわけがなかったわ。そうだったね。ごめんなさい」
「一人で勝手に問題を見つけてから、勝手に自己完結した挙句、私に白い目を向けながら反省するな」
アネモイたちは奥へと進んだ。
「なんでしょう?この部屋?」
「机にいろんな道具が置かれているね。液体が入った瓶に、その液体を温めるランプ、なんか覗き穴みたいな機材もある」
「他の世界で言うフラスコや顕微鏡だな。この世界においての呼び名はあいにく把握できていないが、まさかこの世界の人間もそれらに似た道具を開発していたとは」
アネモイは、自分の知らないところで未知なるものを探求しようとするための道具を開発していた人間に対し、成長の喜びを感じるとともに、この世界はまだ腐敗に向けて進んでいるわけではないと実感した。
だがその感動はいったん置いておき、アネモイはこの部屋とこれらの道具から見て、この部屋である実験をしていたのだろうと推測する。
「何かを開発でもしていたのかな?」
「開発に間違いはないだろうが、実験から発生するこの気体。とても人の役に立つものを開発していたとは思えんな」
すると1人で奥の方に進んでいたリアが、様々な資料や紙きれが置かれた机から、1つのノートを見つけ出す。
「これは・・・」
そのノートに書かれた実験内容とその結果を熟読するリア。それを読み進める度にノートを持つ手に力が込められてゆく。
そして一通り読み終えたリアは、そのノートをアネモイのもとに持っていった。
「アネモイ様、これを!」
リアからノートを受け取ったアネモイ。そのノートの端は、フィルスの握力でしわくちゃになっていた。
フィルスとともに、ノートの中をのぞいてゆくと、ここで何が行われていたのか、その答えがそのまま書かれていた。
「なるほどな。ここで奴の予言となった疫病にたどり着くのか」
そのノートに書かれていたのは、この植民地で流行したと思われる疫病のデータであった。
疫病の名前から始まり、疫病を生成するうえで必要になるであろう化学式や、薬草などの材料。実験に用いられた日付や時間、その結果。更には、疫病の危険度を種類別にランクで示してあったりと、疫病に関するデータが事細かくに記載されていた。
「読めてきたな。ここで奴がやろうとしていたことが」
「この地に流行したっていう疫病。あいつがここで作っていたってこと!?」
「この植民地は、いわば実験の場だったのだろう。定期的に疫病をばらまき、住民の反応からデータを取っていた」
「その実験を何度も繰り返せるように、リアの神術を利用して病気を治していたんだね。ひどい・・・」
するとリアの全身の力が抜けたのか、膝から崩れ落ちた。
「私は・・・こんなことの片棒を担いでいたなんて・・・」
「リア!」
フィルスはすかさず、リアを抱きしめる。リアはフィルスの胸の中で、悔し涙を流さずにはいられない。
するとアネモイが、そのノートを見てあることに気付く。
「最初のころは、数日に1回のペースで疫病をばらまいていたようだが、途中から1ヵ月に1回のペースに変わっている。しかも実験体の対象が住民から旅人になっている箇所がいくつもあるな」
「それがどうしたの?」
「どうやら奴の実験はある理由が原因で停滞していたようだ。その原因は恐らくリアだろう」
「私・・・ですか?」
アネモイはゆっくりと頷く。アネモイは手に持ったノートから、リアの神術の情報を得ていた。
「そなたの神術が、奴の想像を超えてかなり強力だったのだ。奴は、疫病をばらまくのとそなたの治療を繰り返すことで、何度も実験を試みようと考えていたらしい。しかしそなたの治癒は、ただ病人を治すだけでなく、治した病人にその病気に対する免疫を付けることができるようだ」
「つまりリアが治療したら、その人はもう、その病気には罹らないってこと?」
「それに気づいた奴は、実験の対象を住民から、この地に偶然訪れる旅人に変更した。奴が扇動の神術を用いて、今回のフィルスのように、旅人をこの地の住民に仕立て上げようとしたのはそれが目的だろう。旅人を神の恩恵という儀を受けさせ、扇動し、この地に留まらせる。そしてその旅人に疫病を感染させ、データを取る」
「でも実験のたびに住民を増やしていたにしては、それほど住民はいなかったような」
「当然だろう。リアから治療を受ければ、その旅人はもう疫病には罹らない。治療を終えた後、扇動を解いて、間接的に追い出していたのだろうな」
だが、旅人を対象にした実験は、あまりにも効率が悪かった。
「とはいえ、感染のデータを取るうえで、不定期にこの地に訪れる旅人だけでは圧倒的にデータ不足。実験の効率は大幅に遅延していたようだ。そなたの存在が、奴の計画を食い止めていたんだ」
「私が?」
「そなたは加担したと言っていたが、奴にとってそなたの存在は実験対象の変更を余儀なくするきっかけとなり、結果的に錘となっていた。それでも聖女という、物語における役者が必要な以上、そなたを追い出すことができない。奴にとって、そなたは痛し痒しなものだったのだろう」
アネモイは、暖かい表情でリアに向き合った。
「そなたでなければ、この町どころか、この世界は大変な危機に陥っていたであろう。神として礼を言わせてもらう。私がここに来るまで、世界の危機を未然に防いでくれていて本当にありがとう」
アネモイは深々と頭を下げた。
「そんな・・・私は・・・」
神から頭を下げられ、その悔し涙は、みるみる嬉し涙へと変わってゆく。
2年間、培ってきたリアの努力が、思わぬ形で実を結んだ瞬間だった。
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平和な田舎町コレットに住む少女キスティーは、全属性の魔法を極めた規格外の魔力を持っていた。しかし彼女にとって魔法は「家事があっという間に終わってしまい、毎日の楽しみを奪うもの」でしかなく、その力を使うのはもっぱら幼馴染のアリシア(精密な無詠唱魔法の使い手)、ギルバート(規格外の強靭な肉体の持ち主)との「遊び」の中だけだった。
そんな彼女たちの前に、視察団として身分を隠した第三王子レイエスが現れる。王子は、三人が国家級の脅威である魔獣たちを、ただの「遊び」の延長で、一撃のもとに仕留める光景を目の当たりにし、驚愕する。この国の常識を遥かに超えた彼女たちの力は、本人たちにとってはあくまで「日常の遊び」に過ぎなかったのだ。
王子に同行している騎士団長は、自らの部隊が命懸けで挑む難敵を、遊び感覚で仕留める彼女たちの振る舞いに、常に顔を青ざめさせ、胃を痛め、絶叫に近いツッコミを入れ続ける。
レイエスは確信する。各地で活発化する魔獣の脅威を退け、王国の平和を守る鍵は彼女たちの力にあると。しかし、義務や名誉に興味がない自由奔放な彼女たちを、騎士団などの堅苦しい枠に閉じ込めることは不可能だ。そこでレイエスは、一石二鳥の妙案を思いつく。それは、彼女たちを「働かせる」のではなく、討伐対象がいる危険地帯へ「遊び」という名目で誘い出すことだった。
レイエスは親たちへの根回しを完璧に済ませ、再び三人の前に現れる。「褒美に海へ遊びに行こう」という誘いに、三人は、王子様が自分たちを騙して捕まえようとしてるのではないかと疑うが、結局未知なる冒険という名のピクニックへと旅立つことになる。
こうして、規格外の力を持つ三人と、彼女たちを「遊び」で導き、その力を正しく制御しようとする王子の奇妙な旅が始まる。彼女たちが無邪気に遊ぶたび、王国を脅かす難敵は露知らずのうちに駆逐されていく。自覚なき救世主たちのドタバタな日常が、世界の運命を静かに、そして豪快に変えていくのである。
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【2025カドカワBOOKS10周年記念長編コンテスト中間選考通過作品】
・規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?
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