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新たな国と共に
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教会内を虱潰しに探し続け、地下に手要約グールスの計画の核となる研究施設を発見したアネモイたち。
グールスが予言したとされる町を脅かす疫病は、彼自身の手で作られ、そしてばらまかれたものだった。
部屋を一通り見終えたアネモイたちだが、彼がこの部屋で、何を目的に実験を行っていたのかまでは残念ながらどこにも記載されていなかった。そのため、彼が自ら発明した疫病を何に使おうとしたのかは、結局分からず終いとなった。
だが確実に言えるのは、間接的に計画に加担させられていたリアの神術が、幸いにもこの計画において相性の悪さを示し、そのおかげで現段階では最悪の事態とはまだほど遠いものだったということだ。
「この部屋、どうする?」
「無論、このままにしておくわけにもいくまい。この実験が他の者の目に触れたら、それを利用しようとする者も現れるだろう。よってこの空間ごと、世界から抹消する」
アネモイのこの発言にリアは最初は驚いた表情を見せるも、すぐにアネモイの正体を思い出し、納得の方向へと頭を切り替えた。
そしてアネモイたちは部屋を出て、地下通路を上り、地上へ帰還した。そしてアネモイは、食糧庫にある入り口から、地下へと向けて神の力を注ぎ込む。
「その力が、あの部屋をこの世界から消すというものなのですか?」
「正確には、あるべき姿に戻す力だ。この力が展開された箇所のみが時代を遡り、世界の初期の姿となって甦る。要は、始まりの頃の地面に戻るだけだ」
「この地下空間はなかったことになるのですね」
するとアネモイは、神の力を通じてあることを感じ取った。
「(これは・・・多数の生命反応?そうか、小さな疫病1つ1つにも魂が宿っている。いわば彼らも、間違いなく世界の住民。まさかこんな形で、また世界の住民に神の力を使うことになるとは。お前たちに何の罪もないことは分かっている。せめて神の力で、安全に天界へと送り、他の世界で良き来世を送れるよう願っている)」
アネモイはフィルスたちに気付かれないよう、こっそりと浄化の力を使用した。
「結局、グールスはあの疫病を使って何をしようとしていたのかな?」
「本当のことは当の本人に聞かないと分からんが、恐らく新しい兵器として利用するつもりだったのだろう」
アネモイは力を送り続けながら考察する。
「今の段階では病を患わせる疫病に過ぎないものの、最終的には感染した瞬間に死を招く疫病を作り出そうとしたのかもしれん。疫病にランクが付けられていたのは、そういう意味だろう。それが叶えば、人を使わずとも、簡単に国を堕とすことができる」
「考えただけで恐ろしいですね。それが実現しなかっただけでも、本当によかったです」
そう推測したアネモイは、少し悲しい表情を浮かべていた。
「扇動の神術もそうだが、奴がこの才能を別の方法で活用できてさえいれば、この世界の腐敗を止める“陰の立役者”として活躍できるのも案外夢ではなかった。だが奴は、己の人生を孤独で生きると決めてしまった。それが故に、得た才能を陰の方向へと導いてしまうとは」
フィルスとリアはやるせない表情でアネモイを見つめる。
「愚かなものだ。人間は孤独になりたがる者も多いが、孤独に耐えれる人間は1人として存在しない。奴がこれを成し遂げたとしても、その先に待つのは虚無のみ。これだけの才を持ちながら、それすらも分かっていないとは。あまりに残念だ」
そうこうしているうちに、地下は元の姿を取り戻したのか、アネモイは力を送るのを止めた。
こうしてグールスという人間の魂は、この世界で彼が辿ってきた足跡とともに、この世界からなくなった。
食糧庫を後にし、リアの両親が待つ部屋に戻ろうとするアネモイたち。その道中、リアが寂しそうな目をしながら、アネモイにあることを問いかける。
「アネモイ様たちは、これからどうなさるのですか?旅人として、この地を離れるのでしょうか?」
そのことについて、フィルスが何かを思い出したような仕草を見せる。
「そういえば私たち、旅人としてこの町に偶然訪れた設定だったね。リアにはこの地に訪れた私たちの本当の目的、ちゃんと話さなくっちゃ」
「本当の目的・・・ですか?」
「さて、どこから話したらいいものか・・・」
だがそうこうしているうちに、アネモイたちはリアの両親がいる、教会の祭壇のある部屋へと戻ってきた。すると到着した瞬間、リアの父親が慌てた様子でアネモイのもとに駆け寄る。
「アネモイ様!」
「どうした?そんなに慌てて」
すると入り口の方から、多くの人間の声が重なって聞こえてくる。まるで今から、暴動でも起こるかのような緊迫した声だ。
「何事だ?」
リアの妹であるテトラも、その騒ぎに目を覚まし、母親に抱かれながらビクビクと震えている。するとリアの父親が、この経緯について説明しだした。
「彼らはこの町の住民のようです。どうやらグールスとやらの、神術が解けたことで、彼らも目を覚まし、同時にその者に操られていたことも自覚したようで」
「あちゃー。その真実を確かめようと、こうして押しかけてきたってわけだ」
さすがのアネモイもこの展開は予想外だった様子。
「参ったな。私としたことが、浄化の際、奴の力がこの世界からなくなった影響まで考えることを怠っていたしまった」
「いや、浄化の時点では何も考えていなかったくせに。敢えて考えていたことを挙げるとすれば、神としてのくだらないプライド・・・」
ゴンッ!!!
何やら鈍い音が教会内に響き渡る。
「つっー・・・」
「フィルス、大丈夫?」
リアがフィルスを心配して駆け寄る一方、アネモイは何事もなかったかのように、現状の解決方法を考え始める。
「さてこれからどうするか。本当のことを話すべきだろうが、それだけで彼らの騒動が収まるとは思えんし」
「でも、逆にこれを利用すればいいんじゃない?」
リアが頭を摩りながら、発案してきた。
「利用とは、どういう意味ですか?」
「私たちがこの地に来た目的のためにだよ。直接ではないにしろ、この地を救ったわけだし、その勢いのまま彼らの心の隙間を埋める形で、住民を導くことができれば・・・」
するとアネモイは、その提案に躊躇した様子を浮かべる。
「私に英雄になれとでもいうのか?確かにやろうとしていることは一緒かもしれん。とはいえ、今の荒ぶった彼らを、この町にとって部外者と同然の私が導ける自信は正直ない」
「まぁ・・・それはそうかも」
すると、アネモイの会話の邪魔にならないよう陰でこっそりと「あのー」を繰り返していたリアが、ついに痺れを切らした。
「あの!!!」
教会に響くその声によって、2人の会話は途切れ、2人は声の主であるリアの方を同時に見る。
リアは申し訳なさそうに体をモジモジとさせていた。
「突然、すみません。あの、あなた方がこの地を訪れた本当の目的とやらをお聞かせいただけないでしょうか?場合によっては、私のこの地における聖女としての役作りが、何かの役に立つかもしれません」
2人は顔を見合わせ、無言で頷き合った。最初は仮初ながらも、確実にリアがこの地で築き上げた信頼に賭けてみたく、リアにすべてを打ち明けることにした。
かつては独立国家にいたことから始まり、フィルスとの出会いをきっかけに世界の再構築を志したこと。そしてその足掛かりとして、この地を訪れたことまで。
「私はこの世界を変えるため、まずは今の世界の理に従って国を造ることにした。この地を選んだのは、ただの偶然ではあるが。だが造ると決まったのはいいものの、どのようにして民の信頼を得られるべきか、そこが一番の悩みどころでもあった」
「不愛想だもんね」
「お前は一度、神の力を味わってみたいようだな?」
アネモイが右手に拳を作ると、フィルスは笑いで誤魔化しながら、両手でそれを制しようとする。
すると、それを聞き終えたリアの表情が途端に明るいものへと形を変える。
「でしたら、私に考えがあります!」
するとリアが、アネモイたちにある作戦を持ち掛ける。
その作戦は、この地に手グールスが行っていた企みを皆に明かすとともに、アネモイを英雄に立ち上げ、王への地位を確立させるというもの。
王となることを決めたアネモイだったが、いざその瞬間が目の前に来ると、さすがに緊張を隠しきれない様子。だがそこは、リアがこれまでに培ってきた信頼でフォローするとのことだ。
付け焼刃で考えられた作戦だが、その作戦内容に納得したアネモイたちは、リアが先頭に立って、住民を説明会と称して教会内に招き入れる。その案内役に、フィルスだけでなく、リアの両親も進んで協力してくれた。
吹き抜けとなった2階も利用しながら、今この地に住む住民全てを教会内に収めることができたアネモイたち。ここからがリアにとって勝負の瞬間だ。
「皆さま。この度は、グールスの企てた計画により、皆さまに大変なご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ありませんでした」
謝罪から始まるリアの演説。それからリアは、この地において自分たちが訪れた本当の目的や、グールスの企てた計画、そしてこの地に流行した疫病の正体など、信頼を勝ち取るよう、これまで得た情報を包み隠さず話した。
そして利用されている立場ながら、それを自分がやらかしたことのように、最後もやはり謝罪で終わる。
「私は、彼の計画がなんであるか知らされないまま、この地を訪れ、彼の計画に加担していました。ですが、知らないというのはただの言い訳に過ぎません。関わっていたこと、皆さまを利用していたことが事実である以上、私が同罪であることに変わりはありません。本当に申し訳ありませんでした」
許しを請うのではなく、自分の非を認めるという意味のある誠心誠意の謝罪に、住民の心は動かされ、さらにそれが利用されていた立場と分かった以上、誰も彼女を責める者は現れなかった。
「ですが、彼の計画はここで潰えました。世界の窮地となる彼の企みを止めるべく、この地に神が降臨なされたからです!そう、このアネモイ様の手によって!」
リアは何の前触れもなく、アネモイを祭壇に立たせ、住民に神と紹介した。
その瞬間、今までリアに向けられていた暖かい目が、少しずつ冷めた目へと変化してゆく。その場の空気も、一気に冷え切ってしまった。
「(当然だ。突然見知らぬ人物が神と名乗ったところで、信じるという方が不可能というもの)」
だがそれはリアの予想の範囲内。むしろ、リアが考えた演出の1つであり、予定通りの反応でもあった。
時は遡ること1時間前。
「いいですか、アネモイ様。これからこの地の王となるため、多少の嘘のエピソードも交えながら、あなたが神であることを住民に知らしめるための演出を行います」
「私はなるべく、神であることは隠したまま、王になりたいのだが」
「それはのちの課題にしておいた方がいいかと。まずは領民となる皆さまの信頼を勝ち得なければ、この地で王になることはまず不可能。力で示すしかなくなります。それはあなた様が望む結果ではないのではありませんか?」
「うむ・・・」
アネモイは何も反論ができずにいた。
「あなたの顔も知らない領民に対し、例えこの地を救ったことが事実だとしても、その者を王と認めるかはまた別の話。疑いの目を向けられたままでは、本当の意味で王になったとは言えません。ここはあなた様の最大の強みである神様という利点を生かし、この地を守護するという約束で、絶対的な信頼を勝ち取るべきです」
「それは・・・力で領民を抑える、これまでのやり方と同じではないか?」
するとここで、フィルスがリアのフォローに回る。
「全然違うと思うけどな。だって、今までの王様は、力を見せつけて領民を脅していただけ。けど、リアの提案は、強大な力を領民を守るために使えって言っているんだよ。まだまだ、争いの絶えないこの世界の中で、絶対的な力で守られることは、領民にとって一番嬉しいことだと思うよ」
「フィルスの言う通りです。力以外で領民を守る方法は、これから見つけていくとして、今はこの世界の理に最も有益な条件で領民の心を掴むべきです」
そしてアネモイは、領民から悪い意味で注目を浴びているこの瞬間、リアとの打ち合わせ通り、領民からの疑いの目を確信のものへと変える演出を行う。
アネモイは空に向け、右手を高く掲げた。
「神の奇跡、見るがいい!“ホワイト・ノヴァ”!!!」
アネモイは領民の前で、神の力を発動させた。
アネモイの右手から放たれた強力な白き光は、グールスの負の遺産である教会を一瞬で包み込む。
その人間が放つとは思えない、強大な光を前に領民たちは目を見開き、その目には光が宿り始め、人によって差異はあるものの少しずつ、目の前にいるのが神であると確信してゆく。
そしてしばらく光に包まれた教会は、アネモイが右手を閉じると同時に、教会諸共消えてしまう。気が付くと、辺り一面はあっという間に、野原と化した。
グールスの負の遺産を排除しつつ、同時に神の力を示すという、リアならではの演出だ。
あまりに非現実的な光景に、領民たちは開いた口が塞がらない。
そしてアネモイがここで、領民すべての耳に届くほど大きな声で、神の存在を領民に見せつける。
「我が名はアネモイ!この世界を脅かす、住民の愚かな罪を裁くため、この地へと降臨した!」
いつの間にか、領民の誰もが、アネモイの言葉を1つも聞き逃さないよう、懸命に耳を傾けている。
「神の視点からこの世界は、争いばかりが世界を支配し、ゆっくりではあるが、だが確実に腐敗の道をたどろうとしている。今回におけるグールスの企みも、そう言った腐敗した世界の理によって影響を受けた、愚かな思考によるものだ。この世界の創造神として、もはや世界がこれ以上腐敗してゆく様を見過ごすことはできん!私はそれを食い止めるため、この世界に降り立った!」
アネモイは調子が上がってきたのか、その声に思わず熱がこもり始める。
「世界の住民たちよ!私はこの地の王を足掛かりとして、世界を1つに纏め上げねばならない!そのためには、私1人の力だけでは到底不可能。そなたたちの力が必要だ。その対価として、私はこの神の力でもって、そなたたちを守護する守り神となることを約束しよう!神の治めるこの地にて、新たな世界の理を造り上げようではないか!」
するとその瞬間、その場の空気が一気に爆発し、歓声が沸き上がる。目の当たりにした神の力を疑う者はなく、アネモイに手を合わせたり、崇めたりする者が後を絶たない。
神というやや反則交じりな切り札を切ったことで、アネモイ自身は複雑な心境ではあるが、それでも領民の心を掴むことには確かに成功した。
しかし、世界に潜む陰は1つではない。
物に光が当たれば、その背後には影が浮かび上がるように、誰かが何かを成し遂げた時、その光に縋る者もいれば、その光が目障りで影へと潜む者も現れ、やがてそれは陰となる。
人の運命が複雑な糸で絡み合う世界の中で、裏に潜む陰は世界の魂の数だけ存在する。
そしてまたここに、世界を再構成するべく立ち上がった一柱の神の背後に、新たな陰が誕生する。
「さて、ここから先、どのように世界が動くのか。楽しみに見せてもらおうではないか」
グールスが予言したとされる町を脅かす疫病は、彼自身の手で作られ、そしてばらまかれたものだった。
部屋を一通り見終えたアネモイたちだが、彼がこの部屋で、何を目的に実験を行っていたのかまでは残念ながらどこにも記載されていなかった。そのため、彼が自ら発明した疫病を何に使おうとしたのかは、結局分からず終いとなった。
だが確実に言えるのは、間接的に計画に加担させられていたリアの神術が、幸いにもこの計画において相性の悪さを示し、そのおかげで現段階では最悪の事態とはまだほど遠いものだったということだ。
「この部屋、どうする?」
「無論、このままにしておくわけにもいくまい。この実験が他の者の目に触れたら、それを利用しようとする者も現れるだろう。よってこの空間ごと、世界から抹消する」
アネモイのこの発言にリアは最初は驚いた表情を見せるも、すぐにアネモイの正体を思い出し、納得の方向へと頭を切り替えた。
そしてアネモイたちは部屋を出て、地下通路を上り、地上へ帰還した。そしてアネモイは、食糧庫にある入り口から、地下へと向けて神の力を注ぎ込む。
「その力が、あの部屋をこの世界から消すというものなのですか?」
「正確には、あるべき姿に戻す力だ。この力が展開された箇所のみが時代を遡り、世界の初期の姿となって甦る。要は、始まりの頃の地面に戻るだけだ」
「この地下空間はなかったことになるのですね」
するとアネモイは、神の力を通じてあることを感じ取った。
「(これは・・・多数の生命反応?そうか、小さな疫病1つ1つにも魂が宿っている。いわば彼らも、間違いなく世界の住民。まさかこんな形で、また世界の住民に神の力を使うことになるとは。お前たちに何の罪もないことは分かっている。せめて神の力で、安全に天界へと送り、他の世界で良き来世を送れるよう願っている)」
アネモイはフィルスたちに気付かれないよう、こっそりと浄化の力を使用した。
「結局、グールスはあの疫病を使って何をしようとしていたのかな?」
「本当のことは当の本人に聞かないと分からんが、恐らく新しい兵器として利用するつもりだったのだろう」
アネモイは力を送り続けながら考察する。
「今の段階では病を患わせる疫病に過ぎないものの、最終的には感染した瞬間に死を招く疫病を作り出そうとしたのかもしれん。疫病にランクが付けられていたのは、そういう意味だろう。それが叶えば、人を使わずとも、簡単に国を堕とすことができる」
「考えただけで恐ろしいですね。それが実現しなかっただけでも、本当によかったです」
そう推測したアネモイは、少し悲しい表情を浮かべていた。
「扇動の神術もそうだが、奴がこの才能を別の方法で活用できてさえいれば、この世界の腐敗を止める“陰の立役者”として活躍できるのも案外夢ではなかった。だが奴は、己の人生を孤独で生きると決めてしまった。それが故に、得た才能を陰の方向へと導いてしまうとは」
フィルスとリアはやるせない表情でアネモイを見つめる。
「愚かなものだ。人間は孤独になりたがる者も多いが、孤独に耐えれる人間は1人として存在しない。奴がこれを成し遂げたとしても、その先に待つのは虚無のみ。これだけの才を持ちながら、それすらも分かっていないとは。あまりに残念だ」
そうこうしているうちに、地下は元の姿を取り戻したのか、アネモイは力を送るのを止めた。
こうしてグールスという人間の魂は、この世界で彼が辿ってきた足跡とともに、この世界からなくなった。
食糧庫を後にし、リアの両親が待つ部屋に戻ろうとするアネモイたち。その道中、リアが寂しそうな目をしながら、アネモイにあることを問いかける。
「アネモイ様たちは、これからどうなさるのですか?旅人として、この地を離れるのでしょうか?」
そのことについて、フィルスが何かを思い出したような仕草を見せる。
「そういえば私たち、旅人としてこの町に偶然訪れた設定だったね。リアにはこの地に訪れた私たちの本当の目的、ちゃんと話さなくっちゃ」
「本当の目的・・・ですか?」
「さて、どこから話したらいいものか・・・」
だがそうこうしているうちに、アネモイたちはリアの両親がいる、教会の祭壇のある部屋へと戻ってきた。すると到着した瞬間、リアの父親が慌てた様子でアネモイのもとに駆け寄る。
「アネモイ様!」
「どうした?そんなに慌てて」
すると入り口の方から、多くの人間の声が重なって聞こえてくる。まるで今から、暴動でも起こるかのような緊迫した声だ。
「何事だ?」
リアの妹であるテトラも、その騒ぎに目を覚まし、母親に抱かれながらビクビクと震えている。するとリアの父親が、この経緯について説明しだした。
「彼らはこの町の住民のようです。どうやらグールスとやらの、神術が解けたことで、彼らも目を覚まし、同時にその者に操られていたことも自覚したようで」
「あちゃー。その真実を確かめようと、こうして押しかけてきたってわけだ」
さすがのアネモイもこの展開は予想外だった様子。
「参ったな。私としたことが、浄化の際、奴の力がこの世界からなくなった影響まで考えることを怠っていたしまった」
「いや、浄化の時点では何も考えていなかったくせに。敢えて考えていたことを挙げるとすれば、神としてのくだらないプライド・・・」
ゴンッ!!!
何やら鈍い音が教会内に響き渡る。
「つっー・・・」
「フィルス、大丈夫?」
リアがフィルスを心配して駆け寄る一方、アネモイは何事もなかったかのように、現状の解決方法を考え始める。
「さてこれからどうするか。本当のことを話すべきだろうが、それだけで彼らの騒動が収まるとは思えんし」
「でも、逆にこれを利用すればいいんじゃない?」
リアが頭を摩りながら、発案してきた。
「利用とは、どういう意味ですか?」
「私たちがこの地に来た目的のためにだよ。直接ではないにしろ、この地を救ったわけだし、その勢いのまま彼らの心の隙間を埋める形で、住民を導くことができれば・・・」
するとアネモイは、その提案に躊躇した様子を浮かべる。
「私に英雄になれとでもいうのか?確かにやろうとしていることは一緒かもしれん。とはいえ、今の荒ぶった彼らを、この町にとって部外者と同然の私が導ける自信は正直ない」
「まぁ・・・それはそうかも」
すると、アネモイの会話の邪魔にならないよう陰でこっそりと「あのー」を繰り返していたリアが、ついに痺れを切らした。
「あの!!!」
教会に響くその声によって、2人の会話は途切れ、2人は声の主であるリアの方を同時に見る。
リアは申し訳なさそうに体をモジモジとさせていた。
「突然、すみません。あの、あなた方がこの地を訪れた本当の目的とやらをお聞かせいただけないでしょうか?場合によっては、私のこの地における聖女としての役作りが、何かの役に立つかもしれません」
2人は顔を見合わせ、無言で頷き合った。最初は仮初ながらも、確実にリアがこの地で築き上げた信頼に賭けてみたく、リアにすべてを打ち明けることにした。
かつては独立国家にいたことから始まり、フィルスとの出会いをきっかけに世界の再構築を志したこと。そしてその足掛かりとして、この地を訪れたことまで。
「私はこの世界を変えるため、まずは今の世界の理に従って国を造ることにした。この地を選んだのは、ただの偶然ではあるが。だが造ると決まったのはいいものの、どのようにして民の信頼を得られるべきか、そこが一番の悩みどころでもあった」
「不愛想だもんね」
「お前は一度、神の力を味わってみたいようだな?」
アネモイが右手に拳を作ると、フィルスは笑いで誤魔化しながら、両手でそれを制しようとする。
すると、それを聞き終えたリアの表情が途端に明るいものへと形を変える。
「でしたら、私に考えがあります!」
するとリアが、アネモイたちにある作戦を持ち掛ける。
その作戦は、この地に手グールスが行っていた企みを皆に明かすとともに、アネモイを英雄に立ち上げ、王への地位を確立させるというもの。
王となることを決めたアネモイだったが、いざその瞬間が目の前に来ると、さすがに緊張を隠しきれない様子。だがそこは、リアがこれまでに培ってきた信頼でフォローするとのことだ。
付け焼刃で考えられた作戦だが、その作戦内容に納得したアネモイたちは、リアが先頭に立って、住民を説明会と称して教会内に招き入れる。その案内役に、フィルスだけでなく、リアの両親も進んで協力してくれた。
吹き抜けとなった2階も利用しながら、今この地に住む住民全てを教会内に収めることができたアネモイたち。ここからがリアにとって勝負の瞬間だ。
「皆さま。この度は、グールスの企てた計画により、皆さまに大変なご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ありませんでした」
謝罪から始まるリアの演説。それからリアは、この地において自分たちが訪れた本当の目的や、グールスの企てた計画、そしてこの地に流行した疫病の正体など、信頼を勝ち取るよう、これまで得た情報を包み隠さず話した。
そして利用されている立場ながら、それを自分がやらかしたことのように、最後もやはり謝罪で終わる。
「私は、彼の計画がなんであるか知らされないまま、この地を訪れ、彼の計画に加担していました。ですが、知らないというのはただの言い訳に過ぎません。関わっていたこと、皆さまを利用していたことが事実である以上、私が同罪であることに変わりはありません。本当に申し訳ありませんでした」
許しを請うのではなく、自分の非を認めるという意味のある誠心誠意の謝罪に、住民の心は動かされ、さらにそれが利用されていた立場と分かった以上、誰も彼女を責める者は現れなかった。
「ですが、彼の計画はここで潰えました。世界の窮地となる彼の企みを止めるべく、この地に神が降臨なされたからです!そう、このアネモイ様の手によって!」
リアは何の前触れもなく、アネモイを祭壇に立たせ、住民に神と紹介した。
その瞬間、今までリアに向けられていた暖かい目が、少しずつ冷めた目へと変化してゆく。その場の空気も、一気に冷え切ってしまった。
「(当然だ。突然見知らぬ人物が神と名乗ったところで、信じるという方が不可能というもの)」
だがそれはリアの予想の範囲内。むしろ、リアが考えた演出の1つであり、予定通りの反応でもあった。
時は遡ること1時間前。
「いいですか、アネモイ様。これからこの地の王となるため、多少の嘘のエピソードも交えながら、あなたが神であることを住民に知らしめるための演出を行います」
「私はなるべく、神であることは隠したまま、王になりたいのだが」
「それはのちの課題にしておいた方がいいかと。まずは領民となる皆さまの信頼を勝ち得なければ、この地で王になることはまず不可能。力で示すしかなくなります。それはあなた様が望む結果ではないのではありませんか?」
「うむ・・・」
アネモイは何も反論ができずにいた。
「あなたの顔も知らない領民に対し、例えこの地を救ったことが事実だとしても、その者を王と認めるかはまた別の話。疑いの目を向けられたままでは、本当の意味で王になったとは言えません。ここはあなた様の最大の強みである神様という利点を生かし、この地を守護するという約束で、絶対的な信頼を勝ち取るべきです」
「それは・・・力で領民を抑える、これまでのやり方と同じではないか?」
するとここで、フィルスがリアのフォローに回る。
「全然違うと思うけどな。だって、今までの王様は、力を見せつけて領民を脅していただけ。けど、リアの提案は、強大な力を領民を守るために使えって言っているんだよ。まだまだ、争いの絶えないこの世界の中で、絶対的な力で守られることは、領民にとって一番嬉しいことだと思うよ」
「フィルスの言う通りです。力以外で領民を守る方法は、これから見つけていくとして、今はこの世界の理に最も有益な条件で領民の心を掴むべきです」
そしてアネモイは、領民から悪い意味で注目を浴びているこの瞬間、リアとの打ち合わせ通り、領民からの疑いの目を確信のものへと変える演出を行う。
アネモイは空に向け、右手を高く掲げた。
「神の奇跡、見るがいい!“ホワイト・ノヴァ”!!!」
アネモイは領民の前で、神の力を発動させた。
アネモイの右手から放たれた強力な白き光は、グールスの負の遺産である教会を一瞬で包み込む。
その人間が放つとは思えない、強大な光を前に領民たちは目を見開き、その目には光が宿り始め、人によって差異はあるものの少しずつ、目の前にいるのが神であると確信してゆく。
そしてしばらく光に包まれた教会は、アネモイが右手を閉じると同時に、教会諸共消えてしまう。気が付くと、辺り一面はあっという間に、野原と化した。
グールスの負の遺産を排除しつつ、同時に神の力を示すという、リアならではの演出だ。
あまりに非現実的な光景に、領民たちは開いた口が塞がらない。
そしてアネモイがここで、領民すべての耳に届くほど大きな声で、神の存在を領民に見せつける。
「我が名はアネモイ!この世界を脅かす、住民の愚かな罪を裁くため、この地へと降臨した!」
いつの間にか、領民の誰もが、アネモイの言葉を1つも聞き逃さないよう、懸命に耳を傾けている。
「神の視点からこの世界は、争いばかりが世界を支配し、ゆっくりではあるが、だが確実に腐敗の道をたどろうとしている。今回におけるグールスの企みも、そう言った腐敗した世界の理によって影響を受けた、愚かな思考によるものだ。この世界の創造神として、もはや世界がこれ以上腐敗してゆく様を見過ごすことはできん!私はそれを食い止めるため、この世界に降り立った!」
アネモイは調子が上がってきたのか、その声に思わず熱がこもり始める。
「世界の住民たちよ!私はこの地の王を足掛かりとして、世界を1つに纏め上げねばならない!そのためには、私1人の力だけでは到底不可能。そなたたちの力が必要だ。その対価として、私はこの神の力でもって、そなたたちを守護する守り神となることを約束しよう!神の治めるこの地にて、新たな世界の理を造り上げようではないか!」
するとその瞬間、その場の空気が一気に爆発し、歓声が沸き上がる。目の当たりにした神の力を疑う者はなく、アネモイに手を合わせたり、崇めたりする者が後を絶たない。
神というやや反則交じりな切り札を切ったことで、アネモイ自身は複雑な心境ではあるが、それでも領民の心を掴むことには確かに成功した。
しかし、世界に潜む陰は1つではない。
物に光が当たれば、その背後には影が浮かび上がるように、誰かが何かを成し遂げた時、その光に縋る者もいれば、その光が目障りで影へと潜む者も現れ、やがてそれは陰となる。
人の運命が複雑な糸で絡み合う世界の中で、裏に潜む陰は世界の魂の数だけ存在する。
そしてまたここに、世界を再構成するべく立ち上がった一柱の神の背後に、新たな陰が誕生する。
「さて、ここから先、どのように世界が動くのか。楽しみに見せてもらおうではないか」
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