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力の使い道
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時は約5千年前。世界創造の女神アストライオスから世界の創造を命じられた女神アルテミスは、人族、魔族、天使族の3種族が暮らす世界を創造した。
しかし、アルテミスの設計ミスにより、魔族だけが世界から孤立してしまう展開となり、それにより魔族は世界を魔族の色に染め上げる計画を練りだす。
そんな魔族に対抗すべく、人族と天使族の2種族は互いに足りない部分を補い、同盟大陸を結びながら、魔族に対抗する力を身に付けてゆく。
2種族の間で念入りな話し合いが行われ、実際に魔族との交戦に挑むことになった人族。武器を扱える選りすぐりのメンバーが集められる中、人族の中でも頭1つとびぬけた実力者がいた。
「毎日精が出ますね。さすがは人族の頂点に君臨しながら、同時に彼らを率いる軍師に選ばれるだけはあります」
「いやいや、デルメス様。私なんて日課の鍛錬ぐらいしかやることがないだけです。魔族との戦いに向けて、人族の文明が総力をもって創り上げたこの大剣とともに、私は強くならなければならないのですから。与えられた期待と任務を確実にこなせるように」
「頼もしいですね。私どもも期待させていただきますよ、アイリク様」
アイリクは人族の頂点に立ちながらも、努力を怠らない、正真正銘の努力と実力者。そんな彼の前向きな性格は、人族の誰からも信頼を得ており、名実ともに彼を頂点まで押し上げた。
ちなみにアイリクと話す、デルメスと呼ばれるこの女性は、天使族に属しており、アイリク同様、治癒の実力と民からの信頼の高さから、魔族との戦いにおいて天使族を率いる隊長に任命された人物だ。
「お2人ともお揃いのようで。探す手間が省けてよかったです」
そこに現れる神々しいオーラを纏った美しき女性。アイリクとデルメスは、彼女を目の前に、すぐに膝を地に着いた。
「これはこれは、創造神アルテミス様。本日はどのようなご用件で?」
「顔を挙げなさい、アイリク。私の存在は神であっても、今は世界の住民として世界に降り立った身。そこに神と住民の隔たりなどありません。今は平等な関係として接してもらえると、私としても嬉しいです」
「畏まりました。では僭越ながら、神を御前にしばし力を抜かせていただきます」
アネモイとデルメスは、全身の力を抜いて、その場に立ち上がる。
この世界を創造したアルテミスは、かつては3種族それぞれの姿に化けて、それぞれの大陸を行き来しながら、観測者という立場で世界の動向を見守ってきた。
しかし、世界が2つに分裂するようになってからは、姿形はもちろん、神という存在ですら隠すことなく、主に人族と天使族の同盟大陸における住民たちと交流を行っていた。しかし、決して世界に干渉はしないという独自のルールを設けたうえでだ。
アルテミスの交流は、特にそれぞれの大陸を治める長や、民を導く役割を与えられたアイリクとデルメスとは、他の民から見てもかなり特別なものとなっていた。
「いい目です。そしていよいよですね。この戦いで数多の血が流れてしまうことは、私にとっても不本意ではありますが、世界の流れがそれを望むのであれば、神として認めないわけにはいかない。しかし、これらの犠牲の行く末に世界が1つとなり、やがては完成への足掛かりへと繋がるよう、心より願っております」
「神の御期待に応えられるよう、全力で頑張ります」
「神の世界は、私たちの世界でもあります。住民として流れを変えてしまった責任は、しっかりと取らせていただきます」
「期待していますよ」
「「はっ!!!」」
それからしばらくして、アイリクとデルメスは、それぞれの大陸から軍を率いて魔族の待つ大陸へと乗り込む。民への絶対的な勝利を約束して。
その進軍には、創造神であるアルテミスも同行した。だが彼らの争いには一切かかわる気はなく、あくまで世界の行く末を見守るための同行だ。
そしていよいよ、戦いの火蓋が切って落とされる。しかし、戦況は拮抗というには程遠い内容だった。
「なんだ、奴らのこの力は!?まさかこれほどまでに力を溜め込んでいたとは・・・」
「まずいです!回復が追い付きません!それにサポート役である私たちにも飛び火してしまい、被害が出ています!このままでは耐えられるのも時間の問題です!」
人族は最初期から培ってきた道具の技術により、剣や弓、鎧といった武具を、そこいらの金属にも負けない強度で作り上げ、それを装備したうえでこの戦いに挑んでいた。
しかし、いくら鎧に身を包んだとはいえ、所詮戦うのは平和ボケした生身の人間。痛みなど知らない平和な日常を過ごしてきた彼らにとって、魔族の魔という強力な飛び道具の前では、武具の強度などあってないようなものだった。
一方の魔族は、最初期から常に戦場に身を置く訓練をしてきただけあって、強力な武器で体を傷つけられようとも、その傷を誇りに変えて、その命が尽きるまで決して戦場から身を引こうとしない。
魔族が戦場にて人族に見せる、好戦的な笑顔が、人族に恐怖を植え付け、戦意を剥ぎ取ろうとする。
そして開戦から間もなく、2種族の同盟大陸の壊滅は、魔族の圧倒的実力を前にそれほど時間がかからなかった。
「くっ・・・我らの技術が結集された武具たちでもってしても、まさかこれほどの戦力差があるとは・・・」
「アイリク、このままでは人族の全滅とともに、天使族も戦いに巻き込まれかねません。そうなる前に、降伏という形で話し合いに持ち込んでみては?」
「くそ・・・」
こうして世界全土を巻き込んだ戦争は、圧倒的実力差と2種族の降伏という形で幕を閉じた。
戦後、魔族は開戦前の宣言通り、2種族を配下として向かい入れた。
2種族がこれまで培ってきた技術を利用して、労働を強制。得た利益のほとんどは魔族に収められるという、奴隷同然の生活を虐げられてしまう。
一方の創造神アルテミスは、これが世界の望む姿ならばと、不本意ながらもこの結果を受け止め、自分が理想としない世界を見守り続けた。
それから数年の歳月が経ち、魔族からの2種族に対する要求はますますエスカレートしていく始末。過酷な労働で死人が出ようとも、魔族にとってはお構いなし。それでも契約上、魔族には逆らえない2種族にとって、その世界はまさに地獄と呼ぶべき世界となっていた。
そんな腐りゆく世界を目の前に、何もできずにいる創造神アルテミス。やがてそのもどかしさは、不満となって積み重なる。それが限界値を超えようとした瞬間、アルテミスの足は自然にアイリクの方に向かっていた。
「アイリク、私はどうすればいいんでしょうか?こんな世界の姿は私が望むものではありません。しかし、神である以上、世界に干渉することは許されない。これが自身の世界だと割り切り、黙って見守り続けるしかないのでしょうか?」
するとアイリクは、アルテミスに向かって純粋な疑問を口にする。
「アルテミス様は、神の力をお使いにならないのですか?」
「え?」
アルテミスにとっては意外な質問だった。神の力は使用するだけでも世界に多大な影響を及ぼすほどの力だと認識しているアルテミス。そんな彼女にとって、この世界で神の力を使うという選択肢は、存在すらしていなかった。
「ですから、何度も言っているように・・・」
「神のルールってやつですよね?でもそれは、あなた様がお生まれになった天界とやらが定めたルールなのですか?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
「でしたら、あなた様ご自身が自分を律するために定めたルールなのですね」
アイリクは、曇り切った空を見上げた。
「私はですね、力というものは授かった人が自由に使えるものだと思うのですよ」
「え?」
「確かに神の力を使えば、この世界に何かしらの影響が及ぶかもしれない。しかし、それは神の力だからではなく、あなたの力量次第でどうにでもなるものだと思います。力は、その人を守る楯となり、不満な立ち位置を覆す鉾ともなりえる。あなたが望むのであれば、その力は文字通り、あなたの力となると私は思います」
「私の力・・・」
「だから容赦なく使ってもいいと思いますよ。そもそもそんなルールがあるのなら、あなたが今、神の力を持つ説明がつかない。あなたは世界に降り立ってなお、神の力を携えている意味を考えるべきです。その答えの先にあなたのやるべきことが見つかりましょう」
そういうと、アイリクはやや気難そうに立ち上がった。
「ですが、私も偉そうなことばかり言ってられませんね」
「アイリク?」
「あなたと同じということです。このような言葉が出るのなら、私はすでに答えを知っていた。でも知らないふりをしてしまった。これでは何のために、ここまで力をつけてきたのか分からない」
それを言い残し、アイリクはその場を去る。
アルテミスが見るその背中は、何かを覚悟したような、そんな感じがしてならなかった。
その日の夜、アイリクは魔族との戦争以来、部屋の片隅に置かれた特別製の鎧と剣を引っ張り出し、それらを身に纏った。そして、誰にも見つからない時刻に、それらを携えて人族の大陸のシンボルである巨大な大樹の根元を訪れた。
「お待ちなさい!」
人目につかない時間を見計らって行動を起こしたはずなのに、聞き慣れた美しい声が、アイリクの足を止める。
「やはり神様ですね。住民である私の行動はお見通しというわけですか」
アイリクは寂しそうな表情で笑っていた。
「神をからかうのは止めなさい。それより、そのようなものを身に纏って、どこに行こうとしているのです?」
「発言の責任を取ろうと思いまして」
アイリクは正面からアルテミスに向き合った。
「あなたへの発言はすべて、私にも跳ね返ってくるものでありました。私は自分の置かれている現状が苦であると知りながらも、契約を言い訳に、戦うことから逃げてしまっていた。戦前に同胞から託されたこれらの武具が、奇麗な形のまま残っているというのに」
「戦うつもりなのですか?今度こそ命を落とすかもしれないのですよ?」
「結局、今の状況でも死と変わらない苦痛を味わい続けるでしょう。ならば私は、この力を使い果たしてでも、戦うことにしました。それに、奴らにされるがままでは、先に逝った同胞たちに顔向けなどできませんから」
そしてアイリクはアルテミスに背を向け、戦地へと向かおうとする。
するとアルテミスは、去り行くアイリクの元に駆け寄り、アイリクの鎧を力強く引き寄せる。
「止めないでください!私は・・・」
「違う!!!」
アルテミスは精一杯の声量で、アイリクを生まれて初めて否定した。
「私も連れて行きなさい!」
アルテミスの目に初めて宿る戦闘の意が込められた炎。それは戦場に身を置いていたアイリクにとって、最も見慣れたものだった。
「こうなった状況は、すべて私がしでかしたことなの!私の汚らしい意地と傲慢、そして躊躇いがすべてを引き起こした!あなたがすべての責任を負う必要なんてない!」
「アルテミス様・・・」
「だから、今度こそ私も連れて行って!もう迷わないから!今度こそは、私の力でもって、この世界を・・・私の理想に変えてみせる!」
アイリクは、一度は迷う様子を見せるものの、神以前に目の前にある強い意志を前に断るという選択肢は消えてしまっている。
「わかりました。いずれにせよ、私1人では力不足もいいところ。どうぞ、あなた様の力をお貸しください」
「ええ。今度こそ私が、私の力をこの世界に示してみせます」
その覚悟の証として、アルテミスは、神のみが持つことを許される“神器”という神の力が秘められた道具の1つである弓矢をアイリクに見せつける。
アイリクはその覚悟が本物だと確信し、同行することに同意。こうして住民と神の垣根を超えたアイリクとアルテミスは、魔族の大陸へと向けて旅立ったのだった。
しかし、アルテミスの設計ミスにより、魔族だけが世界から孤立してしまう展開となり、それにより魔族は世界を魔族の色に染め上げる計画を練りだす。
そんな魔族に対抗すべく、人族と天使族の2種族は互いに足りない部分を補い、同盟大陸を結びながら、魔族に対抗する力を身に付けてゆく。
2種族の間で念入りな話し合いが行われ、実際に魔族との交戦に挑むことになった人族。武器を扱える選りすぐりのメンバーが集められる中、人族の中でも頭1つとびぬけた実力者がいた。
「毎日精が出ますね。さすがは人族の頂点に君臨しながら、同時に彼らを率いる軍師に選ばれるだけはあります」
「いやいや、デルメス様。私なんて日課の鍛錬ぐらいしかやることがないだけです。魔族との戦いに向けて、人族の文明が総力をもって創り上げたこの大剣とともに、私は強くならなければならないのですから。与えられた期待と任務を確実にこなせるように」
「頼もしいですね。私どもも期待させていただきますよ、アイリク様」
アイリクは人族の頂点に立ちながらも、努力を怠らない、正真正銘の努力と実力者。そんな彼の前向きな性格は、人族の誰からも信頼を得ており、名実ともに彼を頂点まで押し上げた。
ちなみにアイリクと話す、デルメスと呼ばれるこの女性は、天使族に属しており、アイリク同様、治癒の実力と民からの信頼の高さから、魔族との戦いにおいて天使族を率いる隊長に任命された人物だ。
「お2人ともお揃いのようで。探す手間が省けてよかったです」
そこに現れる神々しいオーラを纏った美しき女性。アイリクとデルメスは、彼女を目の前に、すぐに膝を地に着いた。
「これはこれは、創造神アルテミス様。本日はどのようなご用件で?」
「顔を挙げなさい、アイリク。私の存在は神であっても、今は世界の住民として世界に降り立った身。そこに神と住民の隔たりなどありません。今は平等な関係として接してもらえると、私としても嬉しいです」
「畏まりました。では僭越ながら、神を御前にしばし力を抜かせていただきます」
アネモイとデルメスは、全身の力を抜いて、その場に立ち上がる。
この世界を創造したアルテミスは、かつては3種族それぞれの姿に化けて、それぞれの大陸を行き来しながら、観測者という立場で世界の動向を見守ってきた。
しかし、世界が2つに分裂するようになってからは、姿形はもちろん、神という存在ですら隠すことなく、主に人族と天使族の同盟大陸における住民たちと交流を行っていた。しかし、決して世界に干渉はしないという独自のルールを設けたうえでだ。
アルテミスの交流は、特にそれぞれの大陸を治める長や、民を導く役割を与えられたアイリクとデルメスとは、他の民から見てもかなり特別なものとなっていた。
「いい目です。そしていよいよですね。この戦いで数多の血が流れてしまうことは、私にとっても不本意ではありますが、世界の流れがそれを望むのであれば、神として認めないわけにはいかない。しかし、これらの犠牲の行く末に世界が1つとなり、やがては完成への足掛かりへと繋がるよう、心より願っております」
「神の御期待に応えられるよう、全力で頑張ります」
「神の世界は、私たちの世界でもあります。住民として流れを変えてしまった責任は、しっかりと取らせていただきます」
「期待していますよ」
「「はっ!!!」」
それからしばらくして、アイリクとデルメスは、それぞれの大陸から軍を率いて魔族の待つ大陸へと乗り込む。民への絶対的な勝利を約束して。
その進軍には、創造神であるアルテミスも同行した。だが彼らの争いには一切かかわる気はなく、あくまで世界の行く末を見守るための同行だ。
そしていよいよ、戦いの火蓋が切って落とされる。しかし、戦況は拮抗というには程遠い内容だった。
「なんだ、奴らのこの力は!?まさかこれほどまでに力を溜め込んでいたとは・・・」
「まずいです!回復が追い付きません!それにサポート役である私たちにも飛び火してしまい、被害が出ています!このままでは耐えられるのも時間の問題です!」
人族は最初期から培ってきた道具の技術により、剣や弓、鎧といった武具を、そこいらの金属にも負けない強度で作り上げ、それを装備したうえでこの戦いに挑んでいた。
しかし、いくら鎧に身を包んだとはいえ、所詮戦うのは平和ボケした生身の人間。痛みなど知らない平和な日常を過ごしてきた彼らにとって、魔族の魔という強力な飛び道具の前では、武具の強度などあってないようなものだった。
一方の魔族は、最初期から常に戦場に身を置く訓練をしてきただけあって、強力な武器で体を傷つけられようとも、その傷を誇りに変えて、その命が尽きるまで決して戦場から身を引こうとしない。
魔族が戦場にて人族に見せる、好戦的な笑顔が、人族に恐怖を植え付け、戦意を剥ぎ取ろうとする。
そして開戦から間もなく、2種族の同盟大陸の壊滅は、魔族の圧倒的実力を前にそれほど時間がかからなかった。
「くっ・・・我らの技術が結集された武具たちでもってしても、まさかこれほどの戦力差があるとは・・・」
「アイリク、このままでは人族の全滅とともに、天使族も戦いに巻き込まれかねません。そうなる前に、降伏という形で話し合いに持ち込んでみては?」
「くそ・・・」
こうして世界全土を巻き込んだ戦争は、圧倒的実力差と2種族の降伏という形で幕を閉じた。
戦後、魔族は開戦前の宣言通り、2種族を配下として向かい入れた。
2種族がこれまで培ってきた技術を利用して、労働を強制。得た利益のほとんどは魔族に収められるという、奴隷同然の生活を虐げられてしまう。
一方の創造神アルテミスは、これが世界の望む姿ならばと、不本意ながらもこの結果を受け止め、自分が理想としない世界を見守り続けた。
それから数年の歳月が経ち、魔族からの2種族に対する要求はますますエスカレートしていく始末。過酷な労働で死人が出ようとも、魔族にとってはお構いなし。それでも契約上、魔族には逆らえない2種族にとって、その世界はまさに地獄と呼ぶべき世界となっていた。
そんな腐りゆく世界を目の前に、何もできずにいる創造神アルテミス。やがてそのもどかしさは、不満となって積み重なる。それが限界値を超えようとした瞬間、アルテミスの足は自然にアイリクの方に向かっていた。
「アイリク、私はどうすればいいんでしょうか?こんな世界の姿は私が望むものではありません。しかし、神である以上、世界に干渉することは許されない。これが自身の世界だと割り切り、黙って見守り続けるしかないのでしょうか?」
するとアイリクは、アルテミスに向かって純粋な疑問を口にする。
「アルテミス様は、神の力をお使いにならないのですか?」
「え?」
アルテミスにとっては意外な質問だった。神の力は使用するだけでも世界に多大な影響を及ぼすほどの力だと認識しているアルテミス。そんな彼女にとって、この世界で神の力を使うという選択肢は、存在すらしていなかった。
「ですから、何度も言っているように・・・」
「神のルールってやつですよね?でもそれは、あなた様がお生まれになった天界とやらが定めたルールなのですか?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
「でしたら、あなた様ご自身が自分を律するために定めたルールなのですね」
アイリクは、曇り切った空を見上げた。
「私はですね、力というものは授かった人が自由に使えるものだと思うのですよ」
「え?」
「確かに神の力を使えば、この世界に何かしらの影響が及ぶかもしれない。しかし、それは神の力だからではなく、あなたの力量次第でどうにでもなるものだと思います。力は、その人を守る楯となり、不満な立ち位置を覆す鉾ともなりえる。あなたが望むのであれば、その力は文字通り、あなたの力となると私は思います」
「私の力・・・」
「だから容赦なく使ってもいいと思いますよ。そもそもそんなルールがあるのなら、あなたが今、神の力を持つ説明がつかない。あなたは世界に降り立ってなお、神の力を携えている意味を考えるべきです。その答えの先にあなたのやるべきことが見つかりましょう」
そういうと、アイリクはやや気難そうに立ち上がった。
「ですが、私も偉そうなことばかり言ってられませんね」
「アイリク?」
「あなたと同じということです。このような言葉が出るのなら、私はすでに答えを知っていた。でも知らないふりをしてしまった。これでは何のために、ここまで力をつけてきたのか分からない」
それを言い残し、アイリクはその場を去る。
アルテミスが見るその背中は、何かを覚悟したような、そんな感じがしてならなかった。
その日の夜、アイリクは魔族との戦争以来、部屋の片隅に置かれた特別製の鎧と剣を引っ張り出し、それらを身に纏った。そして、誰にも見つからない時刻に、それらを携えて人族の大陸のシンボルである巨大な大樹の根元を訪れた。
「お待ちなさい!」
人目につかない時間を見計らって行動を起こしたはずなのに、聞き慣れた美しい声が、アイリクの足を止める。
「やはり神様ですね。住民である私の行動はお見通しというわけですか」
アイリクは寂しそうな表情で笑っていた。
「神をからかうのは止めなさい。それより、そのようなものを身に纏って、どこに行こうとしているのです?」
「発言の責任を取ろうと思いまして」
アイリクは正面からアルテミスに向き合った。
「あなたへの発言はすべて、私にも跳ね返ってくるものでありました。私は自分の置かれている現状が苦であると知りながらも、契約を言い訳に、戦うことから逃げてしまっていた。戦前に同胞から託されたこれらの武具が、奇麗な形のまま残っているというのに」
「戦うつもりなのですか?今度こそ命を落とすかもしれないのですよ?」
「結局、今の状況でも死と変わらない苦痛を味わい続けるでしょう。ならば私は、この力を使い果たしてでも、戦うことにしました。それに、奴らにされるがままでは、先に逝った同胞たちに顔向けなどできませんから」
そしてアイリクはアルテミスに背を向け、戦地へと向かおうとする。
するとアルテミスは、去り行くアイリクの元に駆け寄り、アイリクの鎧を力強く引き寄せる。
「止めないでください!私は・・・」
「違う!!!」
アルテミスは精一杯の声量で、アイリクを生まれて初めて否定した。
「私も連れて行きなさい!」
アルテミスの目に初めて宿る戦闘の意が込められた炎。それは戦場に身を置いていたアイリクにとって、最も見慣れたものだった。
「こうなった状況は、すべて私がしでかしたことなの!私の汚らしい意地と傲慢、そして躊躇いがすべてを引き起こした!あなたがすべての責任を負う必要なんてない!」
「アルテミス様・・・」
「だから、今度こそ私も連れて行って!もう迷わないから!今度こそは、私の力でもって、この世界を・・・私の理想に変えてみせる!」
アイリクは、一度は迷う様子を見せるものの、神以前に目の前にある強い意志を前に断るという選択肢は消えてしまっている。
「わかりました。いずれにせよ、私1人では力不足もいいところ。どうぞ、あなた様の力をお貸しください」
「ええ。今度こそ私が、私の力をこの世界に示してみせます」
その覚悟の証として、アルテミスは、神のみが持つことを許される“神器”という神の力が秘められた道具の1つである弓矢をアイリクに見せつける。
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