神の創造し魔法世界

アネモイ

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現世と前世

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 前世の人格が乗り移ったフィルスを追って、アネモイとリアがたどり着いたのは、森の中にシンボルとして聳え立つ、あの大樹のある場所だった。

 その大樹の根元では、フィルスとアネモイですら見たことがない禍々しい生物が対峙している。
 これまでアネモイにも現れていた前世の記憶と思われる兆候。フィルスと同じタイミングで発動したことから、2人の前世での繋がりは、もう疑いようもないものとなり始めた。

 そして今もフィルスは目の前で、前世の記憶を追いかけようとしている。アネモイはそんな彼女を守ることを前提に、同時に自身の記憶を追いかけようと、戦場に降り立った。

 「フィルス、そこをどけ。前世がいかなる人物であるか、私はまだ思い出せてはいないが、今のお前ではその生物に勝つ手腕はない」
 「邪魔をしないで、アイリク。こうなったのはもう私の責任。そんな私の罪をあなたが背負うことはない」
 「(アイリク・・・やはりそれが、私の前世での名前)」

 するとアネモイは、フィルスの首根っこをつまみ上げ、後方にフィルスを投げ飛ばした。

 「何をするのです!?」
 「今のそなたに何を言っても無駄かもしれんが、ここは私の世界。突如世界の住民を脅かす生物が現れたのであれば、それに対処するのは神である私の仕事だ」

 そして無理矢理戦場から降ろされ、尻もちをついていたフィルスを、リアが背後からぎゅっと抱きしめる。

 「何者か!?」

 リアの拘束から逃れようと藻掻くフィルス。しかし、そんなフィルスの意図を無視するかのように、リアもその力を緩めようとしない。

 「お許しください、フィルス・・・じゃなくて、名も知らないお方。ここは目の前の方にお任せくださいませ」
 「放しなさい!私を誰と心得ているのか!?」
 「(それが分からないから、扱い方に困惑しているんですよ・・・それにしてもフィルスの前世はよほど位の高い方だったのでしょうか?現世とのギャップがありすぎる上に、顔はフィルスのままだから、なおのこと扱いずらい・・・)」

 一方、フィルスと生物の間に割り込むように、位置を取ったアネモイ。ここに立てば、自我が前世に乗っ取られるのではないかと危惧していたが、どうやら今のところは現世の記憶が己を支配しているようだ。

 「どうやら、私は私のままを保つことができているようだ。これで存分に、この獣と対峙できる」

 アネモイは、禍々しい気配を放つ生物を前に、神の力で威圧してみるも全く怯む様子がない。

 「やはりこいつは普通ではないか」

 普通の獣ならば、神であるアネモイを目の前にするだけで野生の勘とやらが働き、威嚇することを止める。しかし、この生物は威嚇を止めないどころか、さらに前かがみになり、いまにもアネモイを喰らおうとしてくる。

 アネモイは、戦闘は逃れられないと諦め、神の力である“神威”を全身に纏った。

 「しかし、この獣が内に秘める力・・・やはり奴か・・・」

 そしてアネモイは、右手を前に伸ばし、掌を上に向け、指先をクイクイと動かす。

 「こい!!!」

 アネモイが攻撃を誘うと、それが開戦の合図となって、獣が大きく爪を振りかざし、アネモイをめがけて振り下ろした。

 「避けてください、アイリク!!!」

 
 フィルスの中の人格が必死にアネモイを呼び止めるも、アネモイはその言葉を無視し、神の力で透明な壁を作り出すことで獣の攻撃を防いで見せた。すると、実際に獣の攻撃を受けて改めて、目の前にいる獣が普通でないことを再確認する。

 「なんだ、この力は?獣ごときの力で、神の力が創りだした壁が悲鳴を上げているとは。やはりこの獣、私が設計したものではない」

 だが所詮は、獣と神の戦い。どちらに分があるかと問われれば、多くの第三者はある方に目を向けるだろう。
 その証拠に、強力な獣の攻撃を受け止めながらも、他のことを考える余裕があるアネモイ。アネモイは後方で尻もちをついているフィルスの方をちらりと見る。
 
 フィルスの中にある人格は相変わらず、アネモイの中に眠るアイリクという人物のことが、心配でたまらない表情をしている。
 
 「(やはり見えているのは私ではないか。しかし、誰かを守るように目の前の巨大な敵に立ち向かうこの構図。やはりどこか懐かしく・・・)」
 
 するとそれがトリガーとなって、アネモイの中に眠る人格が目を覚ます。
 
 「!?」
 「アネモイ様!?」
 「アイリク!!!」
 
 突然ふらつくアネモイ。リアは、考えるうえで最悪の状況がついに来たかと、焦りを抑えられずにはいられない。
 
 「くそっ・・・こんな時に・・・!」
 
 アネモイは僅かに自我を残しながら、獣が繰り出す攻撃を何とか凌いでいる。そして頭を押さながら、脳内に浮かび上がる映像と必死ににらめっこしている。
 
 「(これは・・・この映像は・・・!)」
 
 アネモイの脳内に浮かび上がるある映像。目の前に立ち塞がる禍々しい姿をした巨大な敵と、それに立ち向かおうと剣を構える人間。そしてその背後には、地を這いながら涙を流す美しき女性の姿。
 しかし途切れ途切れの映像で、うまく会話が聞き取れない。
 
 その間にも獣の激流のごとく攻撃を受け止め続けるアネモイ。いったんその場をやり過ごすために、アネモイは獣に向かって神の力を解き放つ。
 
 「ええい!いい加減鬱陶しい!大人しく、吹き飛べ!!!」
 
 アネモイの力を前に獣は成すすべなく、力の流れのまま吹き飛んだ。そして気を失う獣。
 アネモイは襲い掛かる様々な現象との葛藤で、肉体よりも精神に疲労を感じ、切れないはずの息が乱れ始める。そしていよいよ我慢の限界となったのか、なかなか記憶の中から目覚めようとしない前世の自分の魂に喝を入れ始める。
 
 「いい加減にしろ、アイリク!何度も寝ても覚めてもを繰り返しおって!そんなに過去の自分が成しえなかった後悔を現世で果たしたいのなら、出てくるがいい!身体ならいくらでも貸してやる!」
 
 そしてようやく、アネモイの中に眠るもう1人の人格の記憶が目を覚ます。
 
 時は約5千年前にも遡る。
 
 アネモイが世界を創造するずっと前。天界にて、大七天神の1柱であるアストライオスの元に、アネモイと同様、世界の創造を命じられた女神“アルテミス”が誕生した。
 
 アルテミスが創造した世界は、世界に大きな3つの大陸があり、それぞれの大陸に人族、魔族、天使族といった3つの人種が配置されている。
 
 アルテミスが思い浮かべる世界の完成形は、初期は3つの種族がそれぞれの国に相応した独立した文化を築いていき、いずれはそれぞれの異なる文化がうまく混ざり合い、やがて1つの世界になるというものだった。
 
 アルテミスは、世界の初期設定を終え、世界が回り始めた最初期の頃、自身は世界を見守る立場として世界に降り立ち、住民に紛れて暮らしていた。
 アルテミスは世界の住民たちに神であることを悟られぬよう、3つの種族の姿を使い分けながら、それぞれの国を行き来し、長年世界の動向を見守り続ける。
 
 そして、ある時代を境に、世界の流れは変化し始める。しかし、その流れは神の目指す世界観とは、少しずつかけ離れていくものだった。
 神といえども全てが万能ではない。世界を創造することはできても、住民の心を支配することまでは叶わない。そんな当たり前のことにも気づかない神の創造する世界の行く先は、神の想像をも超えた世界だ。
 
 「どういうことだ!?世界を自国の色に染め上げるとは!?」
 「言葉通りの意味だよ。我が魔族の国は、他の世界との交流はしない。秘かに長年培ってきた力を解き放ち、お前たちが支配する国を、我らの国の一部とする」

 世界の最初期から自国の文化の発展のため、試行錯誤を続けてきた人族と天使族の2つの種族。しかしその一方で、魔族だけは文化ではなく、戦闘力の向上を優先するようになっていった。

 「我らを力で支配するつもりなのか!?」
 「我ら魔族は、世界の最初期から2種族との差別化を図るためか、神より魔と共に高い戦闘力を授かった。これを活かさずにして、そなたたちとどう交流すべきだというのだ?」
 「であるならば、そなたたちの戦闘力を、我らを守る楯として使えばいい」
 「守る?何から?」
 「そ、それは・・・」

 アルテミスは世界を創造する際において、魔族にだけ唯一与えた魔という力の有力な使い処を設定し忘れていた。
 
 アルテミスは世界の創造の際、3種族それぞれに差別化を図るため、異なる技術を与えた。人類には道具を作る技術。天使族には傷や病を癒す技術。そして魔族には、魔という戦闘力に特化した技術を与えた。
 だがこの世界において、その力を活かせる場所は狩りぐらいしかなく、それを人族と天使族の大陸で生かそうにも、食の品質をわずかに向上させる程度でしかない。
 魔族は長年、与えられた技術を存分に振るえる機会のないまま、戦闘力だけが向上する種族となっていった。
 
 その間、世界の創造者であるアルテミスは、もちろん魔族が生まれながらに抱える闇の部分を知ってはいたものの、観測者として触れるまでには至らなかった。
 いずれ彼らは、自分たちで与えた力を有効に活用できる方法を見つけてくれるだろう。そんな楽観的な女神の考え方が、彼らに不満を募らせる原因となってしまう。
 
 何の目的も得られないまま、戦闘力ばかりが向上する魔族。創成期から数千年の年月が経ち、ついに魔族は自分たちが積み上げてきた努力を解放しようと動き出す。
 
 「我々は、この世界を力によって1つに纏め上げようと考えた。お前たちは我らが魔族に従う国家となり、未来永劫、培ってきた技術を我らに提供し続けるのだ」
 「それではまるで奴隷ではないか!力で支配するお前たちに脅されながら、技術を提供しろと言っているのだろう?そんな制度、天使族の者たちも黙って従うはずがない!」
 「残念ながら、お前たちの納得は必要ない。お前たちの意志も含めて、我らが力で支配する。お前たちが逃れられる手があるとすれば、我らを力で上回ることだ」
 
 この宣言を受けて間もなく、人族と天使族の2種族は、代表者を募って話し合いが行われ、対抗策を練り始める。魔族との交流を経て、親睦を深めようとする案もあったが、その時はとうに過ぎていた。
 
 最初期の頃から人族と天使族の2種族の間では、それぞれの技術を向上させる交流が行われていた。天使族は人族が患った様々な怪我や病気の治療を繰り返すことで医療知識の向上を。人族は治療の発展のために医療道具の提供を行って、それが同時に人族の道具の技術を向上させることに繋がった。
 それぞれがそれぞれに足りない部分を補い合いつつ、それが更に自国の技術を向上させる相乗効果を繰り返すことで、2種族の親睦は深いものとなっていく。
 
 一方、魔族との交流はどうかというと、最初期からうまくいかなかったというのが現実。戦闘ばかりに身を置く魔族が、人族に剣や鎧といった武具の提供を要求すると、例え武具を提供できたとして、それらが活躍できる用途がないと要求を拒否。
 天使族には戦闘訓練によって発生した怪我などの治療を要求しても、例え狩りにおいてもその戦闘訓練は生かせないという助言とともに、無意味な流血に治癒を関わらせたくないという思いから、その要求も拒否。
 
 いつしか魔族は世界から孤立していくようになり、人族と天使族の2種族は魔族の存在ですら見て見ぬふりをしてしまっていた。世界の創造者の傍観者っぷりも相変わらずだった。
 
 結局話し合いで解決することは叶わないと判断した2種族は、魔族と対抗し、戦う道を選ぶ。だがこれは、世界を脅かす存在への制裁。犠牲は承知のうえで、生き残った魔族を自国へと受け入れて、新たに3種族合同の大陸を造ろうという考えだった。
 
 創造神アルテミスは、この戦いの末に3つの大陸が1つになることで、自身が思い描く世界の完成形に大きく近づくことができると考え、2種族の側に就くことにする。しかし、傍観者である立場は変わらぬままだ。
 
 それから2種族は同盟大陸となり、武器の提供と実際に戦うのは人族、戦いにおいての治療や食料などのサポート面は天使族と、それぞれが培ってきた文化を元に役割を設定。 
 それから魔族に対抗できる人材を募って、1つの組織を立ち上げ、来るべく決戦の日に備えた。
 
 それから数年の月日が経ち、鍛え上げた戦力と技術をもとに魔族との決戦に向かう2種族。しかし、魔族が蓄えた力は、2種族どころか、神でさえ予想できる範囲をはるかに超えていた。
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