神の創造し魔法世界

アネモイ

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前世の再現

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 フィルス森の中に手前世の記憶をたどろうとする行動を起こした翌日。フィルスは未だに眠り続けたままだった。

 アネモイとリアは、フィルスがいつ異変を起こしても対処できるよう、2階の事務室に籠り、事務仕事をこなしながら気にかけている。だが当然、そんな心境で、仕事がはかどるわけもない。

 「アネモイ様、しばらく国の運営のことから離れてはどうですか?というより、そうしてもらった方がこちらとしても助かります」

 いい意味でも、悪い意味でも、他人のことには気に掛けず、淡々と平常運転で事務仕事をこなしていくガルド。
 そんな中での彼のこの発言は、アネモイのことを気遣ってというより、仕事に集中できない人がこの場に居ても迷惑という意味に聞こえてしまう。

 だがそれは、まじめに仕事に取り込んでくれている人物にとっては、むしろ当たり前の心情だ。アネモイもそれに関しては、重々承知の上ではある。

 「すまんな、ガルド。お前たちには迷惑をかける」
 「心情はお察ししますがね。僕はちょっとお手洗いに行ってきます」
 「ああ」
 
 ガルドは不機嫌なまま、部屋を出て行った。
 そして、ガルドが席を外して間もなくのこと、突然に異変は訪れた。

 ガタッ!!!
 アネモイがその異変に素早く反応し、椅子から勢いよく立ち上がる。

 「どうかされましたか?」

 リアが心配そうにアネモイ問いかける。
 一方のアネモイは、突然感じ取った異変の出所を探し当てようと、空間認識の力を展開。そこはやはりあの場所だった。

 「フィルスの体内にある力が動いた!」
 「本当ですか!?」

 そして、物語の時の針を進めようとする1つの陰。

 「さて、そろそろこの物語を終局へと導くとしよう。その先に待ち受けるのは果たして・・・ともに見届けようではありませんか。・・・ス様」

 アネモイとリアが急いでフィルスが眠る3階へと駆け上がる。勢いよくその部屋の扉を開いたその先には、目覚めて体を起こした状態のフィルスがぼーっと外の景色を眺めているだけだった。

 「フィルス!」
 「あ、あれ?どうしたの?そんなに慌てて。っていうか、ここどこ?」

 いつもと変わらないフィルスの姿に、とりあえずはほっと胸を撫で下ろすアネモイとリア。すぐさまフィルスの元へと駆け寄り、リアが神術を用いてフィルスの状態を確かめる。

 「なになに?どうしたの?」
 「少し黙っていろ」
 「は、はい!」

 リアがフィルスの体内に神経を集中する間、フィルスは何が何だか分からない様子。
 そしてしばらく時間が経過したのち、リアが神術を解いた。よほど神経を集中させていたのか、表情には若干の疲労の色が見える。

 「どうだ?」
 「アネモイ様のおっしゃる通り、力がこれまでに比較にならないぐらい大きくなっています。今彼女が自我を保てているのが不思議なほど」

 アネモイとリアがフィルスになんともいえない表情を見せ、フィルスはさらに困惑する。どうやらフィルスには、昨夜、別の人格が入れ替わった自覚がないらしい。

 するとそこに、ガルドが下の事務所で事情を聴いたのか、慌てた様子で部屋に駆け付ける。
 
 「大丈夫ですか!?お手洗いから戻ったら、下の事務所で突然アネモイ様たちが慌てた様子で部屋を飛び出したと聞いて!」
 「ああ、度々すまんな。今のところは・・・」

 するとアネモイがフィルスの体内にある力と同じ力を別の位置から感じ取る。

 「どうしました?」
 「いや・・・何でもない」

 途端にアネモイのガルドを見る目が変わった。そしてアネモイは、意味深な表情を浮かべたままフィルスに大人しくするよう声をかけると、部屋を後にした。リアもアネモイの後に続く。

 「どうしたのかな?急に怖い顔をして」
 「さあ?何か、気に障ることでも感じたのかもしれませんね。時々あの人を見てると、神であることを忘れてしまいそうになってしまう。さすがは腐っても神、侮れない」
 「ガルド?」

 事務所に戻ってきたアネモイとリア。リアは突然態度が豹変したアネモイのことが気になってしょうがない様子。
 
 「どうかされたんですか?何か気づいたことでも?」
 「なんでも・・・いや、お前には話しておいた方がいいだろうな。実はな・・・」

 するとまた、新たに発生した異変がアネモイの神の力を刺激する。

 「こんどは何だ!?」
 「アネモイ様・・・まさか、また!?」

 アネモイは強く頷く。だが今度はフィルスに起こったものではない。どこか遠からずも近い位置で、大きな力が突然発生した。
 立て続けに起こる原因不明の異変に、さすがのアネモイも苛立ちを抑えきれない。

 「アネモイ様!」

 そこに慌てた様子で事務所にやってきたのは、国の警備を任せているフィルスの父だった。

 「何事だ!?」
 「近くの森を警備中、突然巨大な生物が出現いたしました!あのような巨大な生物、今まで見たことがありません!」

 森の中に突如現れたという巨大な生物。アネモイが異変を感じた方角とも一致する。
 
 森に起きたという異変が、フィルスの起こす不思議な現象と何ら無関係とは思えないアネモイ。フィルスのことが気がかりだが、その巨大な生物が国を襲わないとも限らない以上、王として放っておくわけにもいかない。

 アネモイはフィルスの父にあることを命じようとするが、その前にあることが気になってフィルスの父に問いかける。

 「他の兵隊はどうした?まさか、その巨大な生物と戦っているわけではあるまい!?」
 「い、いえ!我々ではその生物に太刀打ちできないのは目に見えておりました。我々はすぐに撤退し、兵たちは国の外に待機。負傷者は1人もいません。ですがこの緊急事態に私はこうして、ご報告に戻った次第です」
 「そうか。いい判断だ」

 今のところ犠牲者はいない現実にアネモイは安堵の表情を浮かべる。そしてすぐさま、警備部署全体にある命令を下す。

 「すべての兵力を用いて、領民を一箇所に集めよ。その生物の脅威がなくなり次第、新たな命令を下す。それまで全力で領民を守れ!」
 「しかし、あの巨大な生物は?」
 「盟約通り、私が神の力でもって対処する。護衛は必要ない。私が留守の間、国のことはそなたに任せる!」
 「了解いたしました!では直ちに任務に移らせていただきます。どうぞご武運を!」

 フィルスの父親は急いで、領民に避難を促し、厳重な警備態勢を敷いた。
 そしてアネモイは、事務所にいた者たちにも避難するよう呼び掛ける。そして最後にリアに特別な命令を下す。

 「リア。すまないが、フィルスを連れて私と共に来てくれ。今回の巨大な生物の出現と、フィルスの異変が無関係とはとても思えん。また突然行動を起こされるぐらいなら、私の傍においてお行きたい。危険とは思うが、どうか頼む」
 「そんなに畏まらないでください。むしろ光栄です。このように領主様が、私を信じ、頼ってくださるという事実に。フィルスのことは、私にお任せください!」

 アネモイはリアの返答に強く頷き、フィルスの眠る部屋の方へと向かう。
 しかし、アネモイとリアが部屋に到着した時、フィルスの姿はどこにもいなかった。

 「フィルス!?どこに行った!?」
 「アネモイ様!」

 窓から外を見ていたリアが何かを発見したようだった。すぐさまアネモイも窓の外に目を向けると、森の方に1人で走ってゆくフィルスの姿あった。

 「あの馬鹿が!」
 「アネモイ様、私たちもすぐに!」
 「わかっている!」

 アネモイは部屋を飛び出した。転移の力を使えば、すぐに追いつけるものの、あまりの焦りからかそこまで頭が回らず、行動が先走ってしまった。

 リアも、アネモイを追いかけようと部屋を飛び出そうとしたが、ここにもう1人いたはずのある人物のことを思い出す。

 「ガルドさん?」

 フィルスは迷うことなく森に向かって一直線に進んでいる。国に居ても伝わる巨大な生物とやらの気配に、アネモイは険しい表情を抑えきれない。

 しかし、アネモイは国に迫りそうな危機的状況の中でも、目の前にあるフィルスの背中を追いかける一方、あることが気になっていた。

 「あそこにいるのは、フィルスの前世の記憶か?だとすればやはり、フィルスの異変と森に現れた巨大な生物は無関係ではないのか?」

 だがこの光景もまた、アネモイにとっては懐かしく感じてしまう。

 「この緊張感を感じながら、誰かの背中を懸命に追いかけるシチュエーション・・・以前にもどこかで・・・」

 するとまたアネモイの脳内に、あの女性の映像が流れ始める。

 「お待ちください、・・・ス様!あなた様が手を下さずとも、今度こそ私が奴を!」
 「いいえ。もう手遅れなのです。ですがその原因はあなたたちではありません。何もかも私の・・・。ごめんなさい、アイリク」

 映像が途切れると、アネモイの意識はすぐに現実に引き戻された。

 「またこの記憶・・・そしてアイリクという人物」

 アネモイは記憶と意識がぐちゃぐちゃに入り混じる感覚に悩まされながら、懸命にフィルスの後を追った。

 フィルスの目指す先は、やはり昨夜と同じ、あの大樹の根元。
 そこにようやくリアも合流した。

 「はあ、はあ・・・ようやく追いつきました。やはりここに向かっていたのですね」
 「ああ。やはりこの異変は繋がっていたのだな。突然フィルスの中に現れた謎の力と人格。前世の記憶をたどるように訪れる大樹。そして・・・」

 大樹の傍には、フィルスの父親から報告を受けた巨大な生物が待ち構えていた。まるでフィルスがここに来るのを予め知っていたかのように。
 
 とてもこの世の生物とは思えない、禍々しい見た目の生物。フィルスは、そんな生物に立ち向かおうとしていた。

 「私の怠惰が、傲慢が、思い上がりが、このような結末を引き起こした。さあ、決着を付けましょう!ベリアル!!!」

 無力でありながら、禍々しい生物に正面から立ち向かおうとするフィルス。だがそこにいるのは、彼女であって、彼女ではない。

 「もう言い訳はできそうにはありませんね」
 「今私たちの目の前にいるのは、フィルスではない。フィルスと同じ魂を持つ、前世の人格。その再現」

 だがこの異変とも思える現象、アネモイにとっても他人ごとではない。それは本人が一番わかっており、もうすでに見過ごせないものへとなっていた。

 「そして私も例外ではないようだ。彼女の前世の記憶を通じて、私の中に眠る前世の人格が目覚めつつある。間違いなく、前世で私たちは何らかのかかわりがあった。今とは違う立場で」

 アネモイの中で何かが固まった。

 「リア」
 「はい」

 アネモイはリアに静かに語り掛ける。

 「私はフィルス・・・いや、前世の彼女の元へと向かう。そこで答えを導き出す。だがそうなれば、彼女同様、自分で自分を止められなるかもしれない。お前は無理矢理でもいい。現世から介入してもいい。彼女を止めてくれ。前世の彼女がどうであろうと、今の彼女が無力であることに変わりはないのだから」
 「お任せください。必ず、彼女を守って見せます。ですから、絶対に帰ってきてください!」
 「・・・行ってくる」

 アネモイは、こうして戦場に降り立った。
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