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共鳴し合う魂
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フィルスに異変が起こり始めてから数日。リアの神術のおかげで、症状は抑えられつつあるも、改善にまでは至っていない。
もやもやした気持ちのまま日常が過ぎてゆく中、国の運営から目を背けるわけにもいかず、充実という2文字をしばらく味わっていないアネモイ。
そんな中、今日は同盟国であるスプリブルク王国の国王から呼ばれ、王宮に向かっている。
「これはこれは。遠路はるばる、お越しいただいてありがとうございます」
神を目の前に、同盟国とは思えない腰の低さを見せるスプリブルク王国の国王。
「神の力で転移してきたから、遠路も何もないのだけどな」
「いえいえ。こちらからの会合のお誘いだったのにも関わらず、こうして我が王宮に足をお運び頂いて恐縮でございます」
「前置きはいい。それより、私の耳に入れておきたいこととは?」
「そうですね。まずは場所を変えましょう」
アネモイは王宮内にある、VIP来客用の豪華な造りの部屋に通される。
「これはこれは。圧巻だな。まさにこの国の存在感を見せつけるための造りというわけか」
「恐れ入ります」
アネモイは部屋の中央に設置された、これまた豪華な素材で作られたソファーに腰を下ろす。
「それで?話とは?」
「まずは1つ確認したいことがあるのですが、あなた様はご自身の国を建設される際、神のお力はもちろん、神という肩書きさえも利用するつもりはないのですか?」
「そなたまでそれを言うか。私は、この世界をいずれ人間たちの手で発展させてもらおうと、今はその場しのぎの意で玉座に座っているだけのこと。この世界に神の力は必要ないと考えている」
「そうですか。ですが、今の我が国において、あなた様の掲げる理想とは、わずかながら離れつつありそうなのです」
「どういうことだ?」
「火のないところには煙は立たないということです」
かつてアネモイが王になると宣言したあの日、その宣言を聞いていたのは今の領民ばかりではない。グールスの術にかかり、その地の住民と思わされていた旅の者やスプリブルク王国から無理矢理商売や警備をさせられていた商人や軍人も混ざっていた。
その宣言の後、演説を聞いていた者の中で、アネモイを王とする国の領民となったのは全体の4分の3程度。
残りは、旅人として旅を再開したり、故郷であるスプリブルク王国に帰還する者もいた。
スプリブルク王国国王の話によると、その宣言を直で聞いていた現在のスプリブルク王国の領民を出所に、少しずつアネモイの正体が広まりつつあるようだ。
「大変恐縮なのですが、今は風の噂程度で、信じぬ者も多いようですが、中には当然疑いの目を向ける者もいて、少しずつあなた様が神だとこの国で話題となっているようなのです」
「なるほど。だからといって、国から“その話題を広めるな”などとかん口令を出そうものなら、それは国民に真実と確信を得るものとなってしまう。こちらを気遣う上でも、国としてはどうしようもできないというわけか」
「その通りです。ご理解いただけて感謝します」
スプリブルク王国国王は話を続けた。
「話を広めている本人たちも、恐らくは世間話や噂程度の軽い認識しかなく、同盟国を陥れようとする意図はないとは思うのです。しかし、この国も旅の者や他国からの商人が訪れつつある現実。また、この国に限らず、あの場にいたのが旅の者も含まれる以上、そこから世界に広まってゆくのも時間の問題かと思います」
そしてスプリブルク王国国王はアネモイにある提案を告げる。
「恐れながら申し上げます。この際、アネモイ様の国を、神の国だと大々的に宣伝されてはいかがでしょうか?確かに最初は、神の力を頼ってその地を訪れるものも多いでしょう。しかし、それはあなたの理想を叶えるうえで、些細な問題かと私は思います。それに卑しい言い方ですが、我が国といたしましても、神の国との同盟ということは、他国から見れば相当な抑止力になるのです」
「・・・」
「あなた様が世界を1から創り直すおつもりならば、むしろこれは好機かもしれません。人は常識外れなものを見ることで、初めて“新しい”と感じるもの。神という常識はずれな存在を機に、世界を創り直すのも1つの手かと思います」
「・・・少し考えさせてほしい」
「承知いたしました。もしあなた様が、この提案に乗っていただけるのなら、我が国は全力をもってご協力いたしましょう」
アネモイは何も返答ができないまま、部屋を出て、そのまま王宮を後にした。
王宮を出て空を見上げる。アネモイを今一番に悩ませる存在。それは神の力だ。
皆はその力を活かすべきと口を揃えて言うが、アネモイにとってはそれは危険な賭けとしか思えない。
「(私はなぜ、未だに神の力を携えている?世界を創造した時点で、この力はすでに役目を終えた。人類とはかけ離れた超越した力を所持していたところで、それは住民を脅かす力でしかない。我が産みの神である女神アストライオス様よ。私がこの力を持つ本当の意味は何なんでしょうか?)」
アネモイは結局、なにも答えを示さないまま、今日も停滞を続ける。まるで、かつてフィルスが所属していた、あの独立国家での虚しい日常が帰ってきたようだった。
そしてアネモイは自国へと帰還する。すると、リアが帰還したアネモイを見つけた瞬間、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「アネモイ様!」
「どうした?そんなに慌てて」
「フィルスが・・・どこにもいないんです!」
「なんだと!?」
アネモイの額から一気に汗が噴き出した。すぐさまアネモイは空間認識の力を使い、国全体からフィルスの気配を探す。
「駄目だ、見つからない。ここにいないとすれば、国の外に出たのか!?」
アネモイはフィルスのことが心配なあまり、神の力を今までにない規模で展開する。その範囲は、この世界の半分を覆いつくすほど広大なものだった。
「見つけた!」
世界の半分を覆いつくすほどに範囲を拡大した力も虚しく、フィルスの気配は近くにある、まだ開拓されていない森の中で見つかった。
天空にはまだ青空が広がっている。しかし、彼方に見える太陽に目を向ければ、すでに地平線にその身を隠そうとしていた。夜になれば、森に潜む夜行性の動物たちの活動も活発になり始める。最悪な事態を招かぬよう、アネモイとリアは、気配を追ってすぐさま森の方へと向かう。
森の中は木々の重なる影によって、すでに暗くなり始めていた。アネモイの空間認識を使うことで、野生動物に出会いことなく、フィルスの元にたどり着くことができた。
「フィルス!」
ついにフィルスを見つけたアネモイとリア。フィルスは森の中で最も大きな大樹の根元で何かを探していた。
するとフィルスがアネモイを見つけると、途端に喜びの表情が満ち、その勢いのままアネモイの胸に飛び込んだ。
「フィルス!?」
フィルスはアネモイを抱きしめると、力強くアネモイの服を握りしめる。もう二度と、アネモイのことを離さないかのように。
「どこに行こうとしているのです?」
「どこって・・・言ったであろう?今日はスプリブルク王国に・・・というか、今帰ってきた・・・」
「私も連れて行きなさい!」
「!?」
2人の会話が?み合っているような、ないような、そんな状況に傍で見ていたリアは何のことかわからず混乱するしかない。
一方のアネモイは、再び人格が入れ替わったようなフィルスの姿に戸惑う反面、どこか懐かしさも感じながらフィルスの言葉に黙って耳を傾けている。
「こうなった状況は、すべて私がしでかしたことなの!私の汚らしい意地と傲慢、そして躊躇いがすべてを引き起こした!あなたがすべての責任を負う必要なんてない!」
「・・・ス・・・さ・・・」
「だから、今度こそ私も連れて行って!もう迷わないから!今度こそは、私の力でもって、この世界を・・・」
フィルスが何かを言いかけようとした次の瞬間、フィルスの力が段々と抜けていき、そのまま気を失うように地面に倒れ込んだ。
「フィルス!」
リアがすぐに駆け寄り、フィルスを支えた。
「アネモイ様!すぐにフィルスを・・・」
フィルスを運ぼうと、アネモイの方に素早く顔を向けるリア。しかしアネモイは、フィルスではなく、フィルスがいた大樹の方に気を取られていた。
「どうしたんですか?」
「私は・・・以前もこのような木の下で・・・」
アネモイの意識が段々と遠くなっていくのが、リアの目から見て明らかだった。
「アネモイ様!」
「あの方と、約束・・・」
「アネモイ様!!!」
「!?」
リアの必死な呼びかけに、アネモイの意識は現実に引き戻された。
「何をしているのですか!?早くフィルスを連れて国に!」
「あ、ああ!」
アネモイは転移の力を使って、3人まとめて国へと帰還した。
「ようやく、物語のページが動いたか。はてさて、この先に待ち受ける結末は、希望か?それとも、2度目の破滅か?」
その夜、アネモイはフィルスがまた1人で夜を徘徊しないかが心配で、事務所の3階にある自室にフィルスを連れ込んだ。リアもまた、フィルスが心配だからとアネモイに懇願し、その日はアネモイの部屋に泊まることに。
フィルスは未だに眠り続けたままだ。
「アネモイ様。一体フィルスはどうしたのでしょうか?あの森での彼女は、まるでフィルスではないように見えました」
するとアネモイは、これまでにフィルスが見せてきたある傾向についてリアに語った。
「前々からその傾向はあったのだが、どうやらフィルスの中には前世の記憶が存在しているらしい。今日のこいつの行動は、恐らく前世の記憶を再現したものだろう」
「前世・・・ですか?」
「他の人間にもたまに起こることだ」
アネモイは、以前にフィルスに説明した天界における輪廻転生の仕組みについて説明した。
「私たち世界の住民の魂にそんな仕組みがあったなんて驚きです」
「魂が前世の記憶を引き継ぐ条件は大きく2つ。ごく稀に起こる不完全な輪廻転生が生じるか、魂を管理する神による悪戯か。だがフィルスに至っては、そのどちらにも当て嵌まらないような気がする」
フィルスはあの森で、前世の人格を取り戻しながら、前世と同じと思われる行動をとっていた。これは、この世界にも存在するある病の症状と似ている。
「記憶喪失。強いストレスや外的要因が原因で、記憶がすっぽりと抜け落ちる病気だ。それに罹った者はごく稀に、思わず記憶を失う直前と同じ行動を取ることがあるという。今回のフィルスがまさにそうだ」
「では、フィルスさんも記憶障害によって、あのような行動を?でも記憶と言っても、前世ですよ?そんなに鮮明に覚えているものなのですか?」
「あくまでも予想だが、恐らく前世で肉体が滅びる際、強い後悔の念が魂に刻まれるほどの無残な最期だったのだろう。その強烈な未練と後悔が、魂に癒えぬ傷として残り続けた。それも現世に記憶障害として引き継がれるほどに」
「あの森の中で見た人格がそうなのですね。前世の記憶を現世にまで持ち込むほどの強い未練。一体彼女の前世に何が・・・」
するとここで、リアがあの森での出来事の続きを思い出す。
「そういえば、フィルスほどではないにしろ、アネモイ様にもそのような現象が起きませんでしたか?」
「それな。私もそれが気にはなっていた」
アネモイは、フィルスが前世と同じとみられる行動をとった際、その世界観に引き込まれるように、覚えのない記憶がぶり返していた。
「私もあの時の感覚の正体が何なのかは分からない。だがフィルスがあの人格に戻る際、私の中でも何かが共鳴するように、懐かしさのような暖かいものが芽生え始めるのだ」
「思えば、フィルスがあのような行動を起こすのは、決まってアネモイ様の前だけですもんね」
「これが偶然とは思えん。だが、だとすれば、私の魂にも彼女の記憶の世界観が刻まれているということになる。なるのだが・・・」
それを結論付けた先には、さらなる疑問が生まれてしまう。
「するとアネモイ様たちは、前世でも交流があったということですよね?そしてその世界での神様も、やはりアネモイ様だったのですか?だとすれば凄い運命の巡り会わせですね」
「だが、フィルスが起こした人格と、私の記憶による2人の立場は、どう考えても今とは真逆。するとフィルス、お前の魂は・・・」
フィルスの奇妙な現象をきっかけに、2人の中にある何かが交差し始めようとしている。
それが何を意味しているのか、リアはもちろん、アネモイすらも知る術がない。
だが、これがのちに、この世界の理を大きく動かすきっかけになろうとは、誰も予想だにしていなかった。
もやもやした気持ちのまま日常が過ぎてゆく中、国の運営から目を背けるわけにもいかず、充実という2文字をしばらく味わっていないアネモイ。
そんな中、今日は同盟国であるスプリブルク王国の国王から呼ばれ、王宮に向かっている。
「これはこれは。遠路はるばる、お越しいただいてありがとうございます」
神を目の前に、同盟国とは思えない腰の低さを見せるスプリブルク王国の国王。
「神の力で転移してきたから、遠路も何もないのだけどな」
「いえいえ。こちらからの会合のお誘いだったのにも関わらず、こうして我が王宮に足をお運び頂いて恐縮でございます」
「前置きはいい。それより、私の耳に入れておきたいこととは?」
「そうですね。まずは場所を変えましょう」
アネモイは王宮内にある、VIP来客用の豪華な造りの部屋に通される。
「これはこれは。圧巻だな。まさにこの国の存在感を見せつけるための造りというわけか」
「恐れ入ります」
アネモイは部屋の中央に設置された、これまた豪華な素材で作られたソファーに腰を下ろす。
「それで?話とは?」
「まずは1つ確認したいことがあるのですが、あなた様はご自身の国を建設される際、神のお力はもちろん、神という肩書きさえも利用するつもりはないのですか?」
「そなたまでそれを言うか。私は、この世界をいずれ人間たちの手で発展させてもらおうと、今はその場しのぎの意で玉座に座っているだけのこと。この世界に神の力は必要ないと考えている」
「そうですか。ですが、今の我が国において、あなた様の掲げる理想とは、わずかながら離れつつありそうなのです」
「どういうことだ?」
「火のないところには煙は立たないということです」
かつてアネモイが王になると宣言したあの日、その宣言を聞いていたのは今の領民ばかりではない。グールスの術にかかり、その地の住民と思わされていた旅の者やスプリブルク王国から無理矢理商売や警備をさせられていた商人や軍人も混ざっていた。
その宣言の後、演説を聞いていた者の中で、アネモイを王とする国の領民となったのは全体の4分の3程度。
残りは、旅人として旅を再開したり、故郷であるスプリブルク王国に帰還する者もいた。
スプリブルク王国国王の話によると、その宣言を直で聞いていた現在のスプリブルク王国の領民を出所に、少しずつアネモイの正体が広まりつつあるようだ。
「大変恐縮なのですが、今は風の噂程度で、信じぬ者も多いようですが、中には当然疑いの目を向ける者もいて、少しずつあなた様が神だとこの国で話題となっているようなのです」
「なるほど。だからといって、国から“その話題を広めるな”などとかん口令を出そうものなら、それは国民に真実と確信を得るものとなってしまう。こちらを気遣う上でも、国としてはどうしようもできないというわけか」
「その通りです。ご理解いただけて感謝します」
スプリブルク王国国王は話を続けた。
「話を広めている本人たちも、恐らくは世間話や噂程度の軽い認識しかなく、同盟国を陥れようとする意図はないとは思うのです。しかし、この国も旅の者や他国からの商人が訪れつつある現実。また、この国に限らず、あの場にいたのが旅の者も含まれる以上、そこから世界に広まってゆくのも時間の問題かと思います」
そしてスプリブルク王国国王はアネモイにある提案を告げる。
「恐れながら申し上げます。この際、アネモイ様の国を、神の国だと大々的に宣伝されてはいかがでしょうか?確かに最初は、神の力を頼ってその地を訪れるものも多いでしょう。しかし、それはあなたの理想を叶えるうえで、些細な問題かと私は思います。それに卑しい言い方ですが、我が国といたしましても、神の国との同盟ということは、他国から見れば相当な抑止力になるのです」
「・・・」
「あなた様が世界を1から創り直すおつもりならば、むしろこれは好機かもしれません。人は常識外れなものを見ることで、初めて“新しい”と感じるもの。神という常識はずれな存在を機に、世界を創り直すのも1つの手かと思います」
「・・・少し考えさせてほしい」
「承知いたしました。もしあなた様が、この提案に乗っていただけるのなら、我が国は全力をもってご協力いたしましょう」
アネモイは何も返答ができないまま、部屋を出て、そのまま王宮を後にした。
王宮を出て空を見上げる。アネモイを今一番に悩ませる存在。それは神の力だ。
皆はその力を活かすべきと口を揃えて言うが、アネモイにとってはそれは危険な賭けとしか思えない。
「(私はなぜ、未だに神の力を携えている?世界を創造した時点で、この力はすでに役目を終えた。人類とはかけ離れた超越した力を所持していたところで、それは住民を脅かす力でしかない。我が産みの神である女神アストライオス様よ。私がこの力を持つ本当の意味は何なんでしょうか?)」
アネモイは結局、なにも答えを示さないまま、今日も停滞を続ける。まるで、かつてフィルスが所属していた、あの独立国家での虚しい日常が帰ってきたようだった。
そしてアネモイは自国へと帰還する。すると、リアが帰還したアネモイを見つけた瞬間、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「アネモイ様!」
「どうした?そんなに慌てて」
「フィルスが・・・どこにもいないんです!」
「なんだと!?」
アネモイの額から一気に汗が噴き出した。すぐさまアネモイは空間認識の力を使い、国全体からフィルスの気配を探す。
「駄目だ、見つからない。ここにいないとすれば、国の外に出たのか!?」
アネモイはフィルスのことが心配なあまり、神の力を今までにない規模で展開する。その範囲は、この世界の半分を覆いつくすほど広大なものだった。
「見つけた!」
世界の半分を覆いつくすほどに範囲を拡大した力も虚しく、フィルスの気配は近くにある、まだ開拓されていない森の中で見つかった。
天空にはまだ青空が広がっている。しかし、彼方に見える太陽に目を向ければ、すでに地平線にその身を隠そうとしていた。夜になれば、森に潜む夜行性の動物たちの活動も活発になり始める。最悪な事態を招かぬよう、アネモイとリアは、気配を追ってすぐさま森の方へと向かう。
森の中は木々の重なる影によって、すでに暗くなり始めていた。アネモイの空間認識を使うことで、野生動物に出会いことなく、フィルスの元にたどり着くことができた。
「フィルス!」
ついにフィルスを見つけたアネモイとリア。フィルスは森の中で最も大きな大樹の根元で何かを探していた。
するとフィルスがアネモイを見つけると、途端に喜びの表情が満ち、その勢いのままアネモイの胸に飛び込んだ。
「フィルス!?」
フィルスはアネモイを抱きしめると、力強くアネモイの服を握りしめる。もう二度と、アネモイのことを離さないかのように。
「どこに行こうとしているのです?」
「どこって・・・言ったであろう?今日はスプリブルク王国に・・・というか、今帰ってきた・・・」
「私も連れて行きなさい!」
「!?」
2人の会話が?み合っているような、ないような、そんな状況に傍で見ていたリアは何のことかわからず混乱するしかない。
一方のアネモイは、再び人格が入れ替わったようなフィルスの姿に戸惑う反面、どこか懐かしさも感じながらフィルスの言葉に黙って耳を傾けている。
「こうなった状況は、すべて私がしでかしたことなの!私の汚らしい意地と傲慢、そして躊躇いがすべてを引き起こした!あなたがすべての責任を負う必要なんてない!」
「・・・ス・・・さ・・・」
「だから、今度こそ私も連れて行って!もう迷わないから!今度こそは、私の力でもって、この世界を・・・」
フィルスが何かを言いかけようとした次の瞬間、フィルスの力が段々と抜けていき、そのまま気を失うように地面に倒れ込んだ。
「フィルス!」
リアがすぐに駆け寄り、フィルスを支えた。
「アネモイ様!すぐにフィルスを・・・」
フィルスを運ぼうと、アネモイの方に素早く顔を向けるリア。しかしアネモイは、フィルスではなく、フィルスがいた大樹の方に気を取られていた。
「どうしたんですか?」
「私は・・・以前もこのような木の下で・・・」
アネモイの意識が段々と遠くなっていくのが、リアの目から見て明らかだった。
「アネモイ様!」
「あの方と、約束・・・」
「アネモイ様!!!」
「!?」
リアの必死な呼びかけに、アネモイの意識は現実に引き戻された。
「何をしているのですか!?早くフィルスを連れて国に!」
「あ、ああ!」
アネモイは転移の力を使って、3人まとめて国へと帰還した。
「ようやく、物語のページが動いたか。はてさて、この先に待ち受ける結末は、希望か?それとも、2度目の破滅か?」
その夜、アネモイはフィルスがまた1人で夜を徘徊しないかが心配で、事務所の3階にある自室にフィルスを連れ込んだ。リアもまた、フィルスが心配だからとアネモイに懇願し、その日はアネモイの部屋に泊まることに。
フィルスは未だに眠り続けたままだ。
「アネモイ様。一体フィルスはどうしたのでしょうか?あの森での彼女は、まるでフィルスではないように見えました」
するとアネモイは、これまでにフィルスが見せてきたある傾向についてリアに語った。
「前々からその傾向はあったのだが、どうやらフィルスの中には前世の記憶が存在しているらしい。今日のこいつの行動は、恐らく前世の記憶を再現したものだろう」
「前世・・・ですか?」
「他の人間にもたまに起こることだ」
アネモイは、以前にフィルスに説明した天界における輪廻転生の仕組みについて説明した。
「私たち世界の住民の魂にそんな仕組みがあったなんて驚きです」
「魂が前世の記憶を引き継ぐ条件は大きく2つ。ごく稀に起こる不完全な輪廻転生が生じるか、魂を管理する神による悪戯か。だがフィルスに至っては、そのどちらにも当て嵌まらないような気がする」
フィルスはあの森で、前世の人格を取り戻しながら、前世と同じと思われる行動をとっていた。これは、この世界にも存在するある病の症状と似ている。
「記憶喪失。強いストレスや外的要因が原因で、記憶がすっぽりと抜け落ちる病気だ。それに罹った者はごく稀に、思わず記憶を失う直前と同じ行動を取ることがあるという。今回のフィルスがまさにそうだ」
「では、フィルスさんも記憶障害によって、あのような行動を?でも記憶と言っても、前世ですよ?そんなに鮮明に覚えているものなのですか?」
「あくまでも予想だが、恐らく前世で肉体が滅びる際、強い後悔の念が魂に刻まれるほどの無残な最期だったのだろう。その強烈な未練と後悔が、魂に癒えぬ傷として残り続けた。それも現世に記憶障害として引き継がれるほどに」
「あの森の中で見た人格がそうなのですね。前世の記憶を現世にまで持ち込むほどの強い未練。一体彼女の前世に何が・・・」
するとここで、リアがあの森での出来事の続きを思い出す。
「そういえば、フィルスほどではないにしろ、アネモイ様にもそのような現象が起きませんでしたか?」
「それな。私もそれが気にはなっていた」
アネモイは、フィルスが前世と同じとみられる行動をとった際、その世界観に引き込まれるように、覚えのない記憶がぶり返していた。
「私もあの時の感覚の正体が何なのかは分からない。だがフィルスがあの人格に戻る際、私の中でも何かが共鳴するように、懐かしさのような暖かいものが芽生え始めるのだ」
「思えば、フィルスがあのような行動を起こすのは、決まってアネモイ様の前だけですもんね」
「これが偶然とは思えん。だが、だとすれば、私の魂にも彼女の記憶の世界観が刻まれているということになる。なるのだが・・・」
それを結論付けた先には、さらなる疑問が生まれてしまう。
「するとアネモイ様たちは、前世でも交流があったということですよね?そしてその世界での神様も、やはりアネモイ様だったのですか?だとすれば凄い運命の巡り会わせですね」
「だが、フィルスが起こした人格と、私の記憶による2人の立場は、どう考えても今とは真逆。するとフィルス、お前の魂は・・・」
フィルスの奇妙な現象をきっかけに、2人の中にある何かが交差し始めようとしている。
それが何を意味しているのか、リアはもちろん、アネモイすらも知る術がない。
だが、これがのちに、この世界の理を大きく動かすきっかけになろうとは、誰も予想だにしていなかった。
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