神の創造し魔法世界

アネモイ

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世界から神が消える

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 前世の魔族の王であるイブリースの魂を引き継いだガルド。同じく、前世において同じ世界の住民だったアイリクと同じ魂を持つアネモイに対し、強烈な苛つきを見せつける。
 前世の世界を司る創造神アルテミスの愚行を目の当たりにし、その後悔を魂に刻んでおきながら、同じ末路をたどろうとしているからだった。
 
 その苛つきはついに頂点に達し、遂に神の首を落とす直前にまでガルドの手は及ぶ。そして、その首をめがけて鎌が振り下ろされる。

 ガンッ!!!

 ところが、その鎌が首に到達する直前で、2つの金属がぶつかり合う音が辺りに鳴り響く。

 「!?」

 ガルドが鎌の先をよく見てみると、そこにはアネモイの剣が間一髪のところで刃の直撃を食い止めている。

 「まったく、言いたい放題言ってくれる」

 アネモイは剣を一振りし、ガルドの鎌を払いのけた。

 「だが、それでもすべて的を射ているわけだから、何も言い返せないのが悔しいのだがな」
 「・・・随分とすっきりした表情をしているではないか?自我が負の方向に振り切れでもしたか?」
 「それもかもしれんな。だが残念ながら、今の私の自我は正常だ。ようやく己がやるべきことが見えた。お前のおかげでな、イブリース」

 するとアネモイは背中からフィルスに向かって語り掛ける。

 「アルテミス様、あの時果たせなかった約束を今ここで果たさせてください」
 「え?」
 「今の私にあなたの世界を守るという、あの時誓った約束は果たせなくとも、あなたの描く世界観を私の世界に引き継ぐことはできる」
 
 フィルスは、わずかに起こった胸の高鳴りを感じた。

 「ですがそのためには、まずはあなた様の世界を本当の意味で終わらせなくてはなりません。今、ここにある様々な因縁が形作ったこの現象を、今度こそ私の手で終わらせます。私にご命令し、果たしてください。あなた様の神としての最後の務めを」

 フィルスは胸に手を当て、高鳴る鼓動を感じながら、アネモイに命令を下した。

 「神として世界の住民であるあなたに命を下します。アイリク、その剣でもって、私の創造する世界の因縁に誇りある最期を!」
 「御意!!!」

 アネモイは剣を構えた。

 「これで終わらせるぞ、イブリース!」
 「遅い。あまりにも。だがようやく貴様は向き合うことを決めたのか。己が持つ神の力と共に歩む道を」
 「神などいない!」
 「!?」

 アネモイは声を荒げた。

 「貴様のおかげでようやく思い知らされた。力とは本来、その者が持つ才能のようなもの。自らの意志で使ってこそ、初めて価値が見いだせるのだ。だが、この力の前提が“神”であることで、それが私の判断を鈍らせる元凶だとすれば、もうこの世界に神など必要ない。これは私の力だ!神という立場が住民との壁を隔てるぐらいなら、私はもう神を捨てる!!!」

 その宣言に、リアやフィルスはもちろん、ガルドでさえ驚きを隠せなかった。
 だがその直後、ガルドがニヤリと笑いの表情を見せつける。

 「いい覚悟だ。ならば今度こそイレギュラー無しだ。その剣がまた迷いを見せたのなら、今度はお前の世界諸共、すべてを消滅させてくれる!」
 「行くぞ!!!」

 2人の武器が交差する。だがそこに、武器同士が重なり合うことで生み出される金属音は響かなかった。

 この一戦にはもう駆け引きは必要ない。互いの信念と想いをそれぞれの武器に乗せ、たったの一撃をぶつけ合う。世界が導く答えは、戦場にも現れた。互いにぶつかり、交差し、そしてすれ違う。もう2度と、2人の道は交わることはない。

 駆け引き無しの一発勝負の斬り合いの後、最後まで戦場に立っていたのはアネモイだった。アネモイの後方では、体を刻まれ、傷口から流血しながら、その場に倒れ込むガルドの姿がある。
 
 神の力で創り出した剣を空中分解させ、ゆっくりとガルドに近づくアネモイ。ガルドはあおむけの状態で、清々しい表情で空を眺めていた。

 「イブリース・・・」
 「やればできるではないか」
 「お前はまさか、最初から・・・」

 悲しい表情を浮かべるアネモイに対し、ガルドは鼻で笑う。

 「馬鹿を言うな。我は本気だった。本気で、このくそったれな世界に終止符を打とうとし、結果的に敗北しただけだ」

 そこにフィルスとリアも、なんとも言えない感情を携えながら近づいてくる。そこにアルテミスの魂がイブリースの魂に語り掛けようとする。

 「イブリース、あなたの真の目的は何です?いくら神抗う力を手に入れても、現世のあなたの力ではとても意のままに操れるとは思えない。ましてや、前世のように神の力を超えるなど到底無理な話。それはあなたが一番わかっているはずです」
 
 「我は前世と現世において、まったく真逆の立場を経験してきた。片方は恵まれ王にまで成り上がり、もう片方は他人の成り上がりを、地を這いながら見届けるばかり。だが先も言ったように、2つの運命を呪うつもりはない。記憶が戻る前は、この定められた運命とともにこの世界で生き抜こうとした。しかしこの武器を手にして前世の記憶がよみがえった時、我が現世を生き抜いていくうえで、前世の記憶はあまりに眩しく、そしてもどかしく、結果的にこの世界で生きる気力を失くしてしまった」

 するとガルドは、アネモイの方に目を向ける。その目は何かを求めているようにも見えた。

 「アネモイよ。神の力で、我を浄化しろ。今度は前世の未練や因縁といった、くだらない記憶が残らないほど、跡形もなくな」
 「前世の記憶を丸ごと消して、来世は新たな魂での住民を目指す。それがお前の本当の目的か」
 「無論、貴様が神の力を最後まで渋るのであれば、この世界ごと消すつもりではあったのは間違いないがな」

 アネモイは静かに目を閉じ得て、神の力でガルドの周囲に結界を張り、光の柱でガルドを閉じ込めた。

 「これが、浄化の力か・・・思っていたより、暖かいものなのだな」
 「なあ、イブリース・・・いや、ガルド。そなたの目的が何であろうと、それによって私が神としての道を見つけられたのは事実。このまま、前世の記憶を糧に、この世界でやり直すことはできないのか?」
 「ははは・・・気色悪いことを言うな。我らの道が交わることは決してない。それは前世でも現世でも同じこと。ましてや、こんな腐りきった世界を創造した死神のいる世界なんぞ、死んでもごめんだ」

 すると今度は、ガルドはフィルの方に目を向ける。

 「あなた様は、またこやつとともに道を歩くというのか?」
 「ええ。私では叶えられなかった世界の完成を、今度は彼の世界で成し遂げたいのです。とはいえ、彼は私の世界を引き継ぐと言ってくれてはいますが、私の前世での後悔や無念を彼の世界に持ち込むつもりはありません。彼が創造する、彼だけの世界の完成。それを手伝っていくつもりです」
 
 フィルスが導き出した答えに、ガルドは思わず笑みをこぼす。

 「ならば最期に1つ、冥土の土産に伝えておこう。意思のある生き物は、成長のたびに大抵大切なものを失くしていくものだ。そなたらがこれから人の上に立つのであれば、決して失くすでないぞ。上に立つという本来の意味を。かつての王の教訓だ」
 「冥土の土産は、死に逝く人に伝えるものです。ですが、有り難く受け取っておきます。ねっ、アネモイ」

 フィルスの中にあったアルテミスの魂が、フィルスに引き継がれた。
 そして、ガルドの最期の言葉を聞き入れたアネモイは、結界の力を強める。
 
「約束しよう。今度こそ、誰もが生きる意味を見出せる世界を創り出すことを。前世の知恵と失敗した経験を胸に刻みながら。ここにいるアルテミス様の魂、そしてこの世界で新たに出会ったフィルスとリアという魂と共に」

 するとその時、フィルスが突然何かを思い出したように慌てだす。

 「ちょっと待って!私の中に突然芽生えたこの変な力、まだ消えていないんだけど!?これもあなたがやったんだよね!?どうせなら、これも天界に持ち帰ってよ!」
 「その力は、我がこの武器を手にして、声の導かれるままにそなたに術を施した結果、記憶が蘇る副作用で生まれた力だ。人間である我に取り出す力はない」
 「そんな!?これは前世で覚えのある、神の力そのものなんだけど!?現世における人間の私には扱いづらいっていうか・・・とにかく要らないんだけど!?」

 ガルドは、フィルスの慌てぶりに思わず笑みをこぼす。
 
 「ははは・・・その顔を見られただけで、そなたに対する前世の因縁は晴れたようだ。因縁というのは案外に脆く、そして単純だったのだな。我にとってはこれ以上にない復讐だ。もう悔いはない」
 「ちょっと待って、うそでしょ?」

 フィルスは動揺を抑えきれない様子。アネモイは傍らでひそかに笑いをこらえていた。

 「その力はそなたに預ける。観念して、今度こそその力ときちんと向き合っていくんだな」
 「えぇー・・・」
 「2柱の神の魂と力が共に創造する世界か。それを見届けるのも、それはそれで悪くはな・・・」

 ガルドは安らかな表情を浮かべながら、静かに目を閉じる。

 そして、ガルドの肉体と魂は、光の柱と共に跡形もなくこの世界から消滅した。アネモイとフィルスは、天界にその魂が無事に行き着くことを心から願う。

 それからしばらく、アネモイたちは大樹の根元に座り込み、そこからしばらく動く気にはなれなかった。
 その間、ちょうどいい機会だからと、フィルスが事情を全く呑み込めていないリアに前世の記憶を踏まえながら、今回の経緯を余すことなく説明している。アネモイもそれを隣で聞きながら、なんともいえない気持ちに浸っていた。

 すべての説明を聞き終えたリアは、途端にフィルスを見る目の色が変わった。

 「まさか前世では神様として降臨なさっていたとは!これからはフィルス様とお呼びすべきでしょうか?」
 「いや、ここでは人間なんだから、これまで通り呼び捨てでお願いできるかな?」
 「いや、でも、恐れ多いですよー」
 「前世の立場を引きずる方が恐れ多いわ!」

 フィルスはリアの態度の豹変っぷりに苦労しながら、アネモイの方に顔を向ける。

 「それにしてもびっくりだよね。まさか神様の魂も、住民と同じ輪廻転生の対象になっていたなんて」
 「まったくだ。案外神というのは、天界に生まれただけで、それほど特別な存在ではないのかもしれんな」

 フィルスはにっこりしながら、アネモイの隣に腰掛ける。

 「それでこれからどうするの?世界を腐らせた死神様?」
 「だまれ、世界を滅ぼした破壊神が」
 「あー!それ禁句!」

 アネモイとフィルスは顔を見合わせて笑い合う。
 そしてようやく気持ちの整理がついたのか、アネモイの顔は前より凛々しくなって、その場にまっすぐに立ち上がらせる。

 「何も変わらんさ。やるべきことなど。ただこの世界を完成へと導く。それだけだ」
 「だね!」

 フィルスもその場に立ち上がった。

 「でもこれからは、少し違うよね?もうこの世界に神様はいないんだから」
 「そうだな。これからはこの力を存分に生かして、住民を導いてみせる。まずはこの国の王として」
 「まさか私まで、再び神の力を得ることになるなんてね。でももう割り切れた。今度、神のだのを口にしたら、アルテミスの魂があなたの尻をひっぱ叩くからね!」
 「その前にアイリクの魂に説教されそうだがな」

 そこにリアも加わった。

 「私には前世の記憶はありません。アイリクという方とも、アルテミス様とも面識がない。ですがそれでも、この世界の住民として、これからも全力でお手伝いをさせてください」
 「ああ、頼りにしている」
 「はい!」

 大樹の根元に立ち上がったその先には、朝日が地上に顔を出そうとしている。

 「この居心地の良さ。もしかしたらこの樹も、お前の世界のままなのかもしれないな」
 「そっか。それなら、私がこの場所を訪れたのも説明がつく。もしそうだとしたら、ずっと見守ってくれていたんだね」
 
 アネモイたちは、新しく目覚めようとする明日に、新たに決意の意を込めるのであった。
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