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再びこの力と
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「はてさて、どうしたもんかね」
アネモイが国に建設した国軍の兵隊を鍛えるための訓練場。そこがよく見える高台にフィルスは腰を下ろし、自分の手を見ながら深刻な表情を浮かべていた。
「はぁ・・・」
「今日数えただけでも13度目の溜め息ですね」
「リア・・・」
フィルスに近づく足音と共に現れたリア。その目には今のフィルスが抱えているものが何なのか、すでにお見通しと言わんばかりのものが映っているようだった。
ちなみにフィルスとリアは、これまでそれぞれが配属されていた生産職ギルドと診療所の役職を降りたばかり。
というのも、アネモイが領主として本格的に統制のみに専念すると決めた瞬間、彼女たちの中でも何かが芽生えたように、本格的にアネモイを傍で支えるため、フィルスは領主補佐官及び側近、リアは秘書という役職に位置づくことになった。
彼女らは最近ようやく前役職の引継ぎを終え、アネモイの補佐に専念している。
とはいっても、フィルスの場合、ただ物を売っていただけなので、引き継ぎ作業は二言程度で済んでいたようだ。
一方のリアは、診療所の職員ではなくなったものの“治癒”という神術をただの飾りにしておくのはもったいないという想いから、非常勤という形で時々診療所に顔を出しては治療を手伝ったりしている。
「ガルドさんから無理矢理押し付けられた神の力のことで悩んでいるんですね?」
「流石リア。何でもお見通しだね。その通り。これで私も晴れて、神術を持つ“天才”の仲間入りというわけだ」
「言葉とは裏腹に浮かない表情をしていますが、それほど深刻に悩むことなのですか?確かに人類が持つには超越した力であることに間違いはないのですが、アネモイ様を支えられる力と思えば、フィルスの立ち位置とも相まって、喜ばしいことでもあるような気も」
「これが支えられる力であったなら、私だってこんなに悩むことなんてないよ・・・」
フィルスが体育座りで立てた膝の中に顔をうずめる。リアはここで初めて、フィルスの悩みの種の本質が理解できなかった。
「えっとー、それってどういう意味ですか?」
「この力は私が望んでいたものとは別の形をしているってこと。簡単に説明するけど、神の力ってね、大きく2つに分けられるんだ。ざっくりいうと“創造の力”と“破壊の力”」
「本当にざっくりしてますね」
創造は、いわゆる無から有を作り出す力。神であれば、世界を創造するうえで、自然を創造したり、世界を設定したりする際に用いられる力。世界の住民が使用する神術となれば、体内の魔力を外に放出する際に使われる、最もオーソドックスで基本的な力といえる。
破壊は、創造とは真逆に有を無に帰す力。アネモイが何度か使用した浄化の力やフィルスの前世であるアルテミスが自らの身を滅ぼすために使った力がこれに該当し、世界を創造するうえではあまり活用されない力。一方世界の住民においては、戦闘や狩りで使用する際、体内の魔力で生み出した創造の力を破壊の力に形を変えて使用することが一般的で、神術の中で最も応用される力である。
だがこの破壊の力は、住民が扱う神術においては意外な形で使われることもある。例えば、以前にアネモイが浄化したグールスが使っていた扇動の力は、もともとあった感情を打ち消すという意味では破壊の力に分類される。さらに言うと、リアの使う治癒の力も、傷や病を無に帰すという意味で、実は破壊の力の1つであるのだ。
「驚きました。私の力が破壊の力の1つだったとは」
「言葉の響きから、創造は善。破壊は悪と決めがちだけど、どっちの力も使い方次第ではどちらにも転ぶというわけだよ」
「でもそれと、フィルスの悩みと一体どんな関係が?」
「私が与えられた神の力は、破壊にしか使えない力。しかも攻撃性能しかない力なんだよ」
「あー・・・」
フィルスがガルドから受け継がれた力は、体内の魔力を創造の力で生成し、破壊の力へと形を変えて外に放出するタイプの力。世界の住民からすると、最も一般的な神術の姿ではあるが、問題は力の大きさだ。
「神の力っていう、世界の住民からしたらとてつもなく巨大な力。一応破壊の力に形を変えなければ、火を起こすや水を生成なんかの生活を支える道具として使えることもない。だけど一歩使い方を間違えれば、世界に自然災害なんかの危機的状況を与えるきっかけにもなりかねないんだよ」
「なるほど。確かにそれは使い処に悩みますね」
「しかも、その器が神であるならまだしも、フィルスっていう人間であることが問題なの。神の力を人間の器が使えば、暴走したっておかしくない」
フィルスが本日14回目の溜め息を漏らす。すると・・・。
「そうでもないと思うがな」
そう遠くから声をかけてきたのは、訓練場である者たちを訓練していたアネモイだった。
「地獄耳・・・よくそんな遠くから聞こえていたね」
「神の力でもってすれば、この程度の距離など容易に聞こえる」
「・・・さすがに神の力を躊躇なく使い過ぎじゃない?いくらタガが外れたといっても、プライバシーぐらい配慮してほしいな。他の世界なら、盗聴っていう犯罪だよ」
「安心しろ。この出来損ないの世界において、そんなちゃんとした法律など今は存在しない」
「無能の無敵やめろ」
アネモイはフィルスに向かって近づいてゆく。与えられた力と素直に向き合えないフィルスに対し、堂々とした表情で近づいてくるアネモイに、フィルスはやや不機嫌そうな表情を浮かべる。
「そうでもないってどういうこと?」
「言葉通りの意味だ。その力をもって、私の右腕として存分に振るってほしいという意味だ」
「いやいや。この力が創造の力であるなら、確かに微力ながらもアネモイの手伝いぐらいはできると思うよ。でも、破壊の力だよ?アネモイの傍で使おうにも、アネモイの劣化でしかない以上、使い処なんてない。それにこの力は・・・」
「人間である私には荷が重い・・・てか?」
「・・・うん」
するとアネモイは、フィルスの先程言ったあの言葉を口にし始めた。
「『どっちの力も使い方次第ではどちらにも転ぶというわけ』だったか?さすがは、前世は神のお方。よくわかっているじゃないか」
「・・・」
「神術は、いわば使い手の心の具現化だ。使い手が望めば望むだけ、神術は鏡のように接してくれる。お前が私の心を動かしたように、神術にも真正面から向き合えば、暴走なんてするはずがない」
「アネモイ・・・」
「それに攻撃性能ばかりの力であっても、私の気づかない場面で使ってさえくれれば、それはどんな力でも私の支えとなってくれる。かつてお前が、私を言葉の力のみで立ち上がらせてくれた時のように。だから思う存分振るうがいい。お前の力を、お前の意のままに。例え暴走するようなことがあれば、私が傍に居る限り、必ず止めて見せるさ」
フィルスは自分の手を見つめ力強く握り拳を作る。
「そうだった。これは神の力なんかじゃない。私の力なんだ。生かすも殺すも私次第」
アネモイとリアは、笑顔で顔を合わせる。
「使いこなしてみせるよ。この力は前世と同じなんだもん。使いこなせないという方がおかしいよね」
「いや、前世の記憶に頼るのはそれでこそ危ないだろ」
「・・・は?」
「お前が前世で破壊の力を使った場面と言えば、良くも悪くも最期のあの時だけだったろうが。その感覚で使われるのは流石に・・・」
プチン。
フィルスの中で何かが切れるような音がした。
「あははは、そうだったね。だったら、一度試し打ちでもしとかないとダメかな?ちょうどここには、神の力を受け止めてくれる手頃なサンドバックがいることだし」
「ほう・・・神である私をサンドバック扱いとは。まさに神をも恐れぬ挑発。涙ながらに世界を滅ぼした破壊神が言うようになったではないか」
「涙ながらにって、よく知ってるね。その時はあんた、すでにくたばってなかったっけ?」
お互い、精一杯の作り笑いで火花をぶつけ合うアネモイとフィルス。そんな2人をリアは冷めた様子で見ていた。
「面白い。今のお前の力がどれほどのものか見せてもらおうではないか。しかし、私としてもただでサンドバックになる気はない。戦う以上、無傷で済むとは思うなよ」
「望むところ」
「望まないでください!」
リアが一喝で神同士の争いを収める。
「あなた方の喧嘩は洒落にならないんですよ。あなた方がぶつかりもすれば、本当の意味で世界が終わるのでやめてください。絶対に!マジで!!!」
「「だってこいつが・・・」」
「どっちもどっちです!!!」
「「はい・・・」」
この世界において唯一、神と神の仲裁ができる地位をいつの間にか築き上げていたリア。偽物の聖女という、彼女にとって苦い過去の経験がこのような形で役に立つ日が来るとは、彼女自身も思ってもいなかった。
リアから怒られ、何とか世界規模の喧嘩に踏み込む前に思い止まったフィルス。大きく深呼吸をし、ある話題に話を切り替える。
「というか、解決してもらってこう言うのは何だけど。私なんかより解決すべき問題は他にあるんじゃない?」
するとフィルスは訓練場の方に視線を向ける。
そこには、この国の国軍所属希望として募った領民たちが、武器を扱う訓練に勤しんでいた。
しかし、彼らから聞こえる訓練の掛け声は、とても兵隊と呼ぶには程遠いほど汚いものだった。
「いいかー!この国の命運は俺らの手にかかっている!侵入者は一人残らず、血祭りに挙げろー!!!」
「ウィーラー!!!」
汚い掛け声が、訓練場に響き渡る。フィルスはその訓練の様子を冷めた目で見ていた。
「何、“ウィーラー”って?いろんな世界見て回ってきたけど、あんな掛け声聞くの初めてなんだけど」
「よかった。フィルスがそう言うのなら安心しました。てっきり私だけが知らないのかと」
訓練に勤しむ彼らは、アネモイが領民を勧誘する際に訪れた独立国家の1つに属していた者たちだ。
だが、彼らが独立国家で行っていた活動といえば、主にその地を訪れた旅人や商人から金品や食料を武力で奪い取る、いわゆる賊と呼ばれるものだった。
戦いに身を置くことを好む彼らではあるが、その標的は決まって自分たちより力の弱い者ばかり。自ら成長という概念を手放し、階級の最も低い位置で弱肉強食を楽しむことを生の喜びとしている者たちが集まってできた独立国家だったのだ。
アネモイがかつて彼らの地を訪れた時も、彼らはアネモイに対し、問答無用で刃物を押し付け、金品を要求してきた。
「でも結局、底辺で弱者を甚振ることしか知らない彼らは、アネモイが神の力を使うまでもなくボコボコにされちゃったんだよね。もう力で解決するのは止めたんじゃなかった?」
「仕方なかろう。彼らは良くも悪くも世界の理から脱却できぬ者たち。世界に数少ない、言葉は理解できても、通じない者ばかりの集団だったのだからな」
「その結果、彼らは弱肉強食に生きる者らしく、アネモイ様の力に魅了されて国に属することになったのですよね。なぜか領民ではなく、軍門に下るという形でしたけど」
「まあ、彼らも弱肉強食の世界しか知らなかったから仕方がないだろう。そこは穏便に見てやれ」
「いやむしろ、この世界が弱肉強食そのものだから。そしてこの世界はあんたが創ったんだからね?自分は関係ない体で話しているけど、彼らがああなったの、半分は創造神であるあんたのせいだからね?」
するとフィルスが懐から紙を取り出し、そこに書かれた彼らに対する領民からの不満をアネモイに打ち明ける。
「領民たちからも苦情が来ているよ。兵士である彼らに品が感じられないとか、国の最前線を担う国軍であるなら、もう少しちゃんとした人選にしてほしいとか、賊なんて普通に嫌いだから嫌だとか」
「最後は素直な本音ですね」
フィルスが領民からの声がまとめられた紙を見ながら本日15回目の溜め息を漏らす。そしてその紙を折りたたみながら心配そうな表情をアネモイに見せつける。
「私も心配なんだけど。なんで彼らを国軍の最前線に選んだの?」
「彼らの目には光るものがあったからだ」
「それは、ただ金目の物にしか目がないだけでは?」
するとここでリアがあることを思い出す。
「そういえばアネモイ様って、前世では人族を代表する勇者で、軍を預かる役どころだったって言っていませんでしたか?」
その鋭い指摘に、アネモイは思わず体を反応させてしまう。
「そういえばそうだったね。で、何?前世で鍛え抜かれた観察眼を崩壊とともに置いてきちゃったわけ?さらにその上で、腐れきった世界を見すぎて、その目も腐れちゃったんだ」
「ひどい言われようだな。というか、崩壊が原因なら、それはあなたの責任でもありますよね?」
と、冗談はここまでにしてといわんばかりに、フィルスが真剣な表情に戻った。
「で、まじめな話、なんで彼らを国軍に採用したの?」
「私とて領主として、彼らを国軍の代表にするつもりはない。だが、今のところ彼らしかいないというのが現状なんだ」
この世界は実力主義。実力あるものがすべてを手に入れ、弱者はその者にすべてを捧げてその一生を終える世界。
しかし、この世界のすべての住民が戦いに身を置くものばかりではない。現状はむしろ逆。身の安全を第一に考えるのであれば、むしろ戦いになど身を置かず、苦しくとも平穏な生涯を送るのが幸せと考える住民の方が多い。
これが、今の世界が停滞する最大の理由。大昔に世界が成長につれ、住民の中で格差が成立するたびに、半分以上の住民が戦うことを諦め、戦いから身を引こうとする。
そして世界が成長するたびにそれは繰り返され、停滞する今ではもう、戦おうと武器をもって立ち上がろうとする者はほとんどいない。これはアネモイが収める国に限らず、世界各地で起こっている現象なのだ。
つまり、フィルスの父親が国軍から身を引いた今、今の軍人として名乗りを上げた元賊の彼らぐらいしか適任はいないのだ。
「とはいえ、領民からの不満を放っておくわけにもいかん。名乗り出てくれた彼らには申し訳ないが、ちゃんとした人員の補給が必要だな」
アネモイが国に建設した国軍の兵隊を鍛えるための訓練場。そこがよく見える高台にフィルスは腰を下ろし、自分の手を見ながら深刻な表情を浮かべていた。
「はぁ・・・」
「今日数えただけでも13度目の溜め息ですね」
「リア・・・」
フィルスに近づく足音と共に現れたリア。その目には今のフィルスが抱えているものが何なのか、すでにお見通しと言わんばかりのものが映っているようだった。
ちなみにフィルスとリアは、これまでそれぞれが配属されていた生産職ギルドと診療所の役職を降りたばかり。
というのも、アネモイが領主として本格的に統制のみに専念すると決めた瞬間、彼女たちの中でも何かが芽生えたように、本格的にアネモイを傍で支えるため、フィルスは領主補佐官及び側近、リアは秘書という役職に位置づくことになった。
彼女らは最近ようやく前役職の引継ぎを終え、アネモイの補佐に専念している。
とはいっても、フィルスの場合、ただ物を売っていただけなので、引き継ぎ作業は二言程度で済んでいたようだ。
一方のリアは、診療所の職員ではなくなったものの“治癒”という神術をただの飾りにしておくのはもったいないという想いから、非常勤という形で時々診療所に顔を出しては治療を手伝ったりしている。
「ガルドさんから無理矢理押し付けられた神の力のことで悩んでいるんですね?」
「流石リア。何でもお見通しだね。その通り。これで私も晴れて、神術を持つ“天才”の仲間入りというわけだ」
「言葉とは裏腹に浮かない表情をしていますが、それほど深刻に悩むことなのですか?確かに人類が持つには超越した力であることに間違いはないのですが、アネモイ様を支えられる力と思えば、フィルスの立ち位置とも相まって、喜ばしいことでもあるような気も」
「これが支えられる力であったなら、私だってこんなに悩むことなんてないよ・・・」
フィルスが体育座りで立てた膝の中に顔をうずめる。リアはここで初めて、フィルスの悩みの種の本質が理解できなかった。
「えっとー、それってどういう意味ですか?」
「この力は私が望んでいたものとは別の形をしているってこと。簡単に説明するけど、神の力ってね、大きく2つに分けられるんだ。ざっくりいうと“創造の力”と“破壊の力”」
「本当にざっくりしてますね」
創造は、いわゆる無から有を作り出す力。神であれば、世界を創造するうえで、自然を創造したり、世界を設定したりする際に用いられる力。世界の住民が使用する神術となれば、体内の魔力を外に放出する際に使われる、最もオーソドックスで基本的な力といえる。
破壊は、創造とは真逆に有を無に帰す力。アネモイが何度か使用した浄化の力やフィルスの前世であるアルテミスが自らの身を滅ぼすために使った力がこれに該当し、世界を創造するうえではあまり活用されない力。一方世界の住民においては、戦闘や狩りで使用する際、体内の魔力で生み出した創造の力を破壊の力に形を変えて使用することが一般的で、神術の中で最も応用される力である。
だがこの破壊の力は、住民が扱う神術においては意外な形で使われることもある。例えば、以前にアネモイが浄化したグールスが使っていた扇動の力は、もともとあった感情を打ち消すという意味では破壊の力に分類される。さらに言うと、リアの使う治癒の力も、傷や病を無に帰すという意味で、実は破壊の力の1つであるのだ。
「驚きました。私の力が破壊の力の1つだったとは」
「言葉の響きから、創造は善。破壊は悪と決めがちだけど、どっちの力も使い方次第ではどちらにも転ぶというわけだよ」
「でもそれと、フィルスの悩みと一体どんな関係が?」
「私が与えられた神の力は、破壊にしか使えない力。しかも攻撃性能しかない力なんだよ」
「あー・・・」
フィルスがガルドから受け継がれた力は、体内の魔力を創造の力で生成し、破壊の力へと形を変えて外に放出するタイプの力。世界の住民からすると、最も一般的な神術の姿ではあるが、問題は力の大きさだ。
「神の力っていう、世界の住民からしたらとてつもなく巨大な力。一応破壊の力に形を変えなければ、火を起こすや水を生成なんかの生活を支える道具として使えることもない。だけど一歩使い方を間違えれば、世界に自然災害なんかの危機的状況を与えるきっかけにもなりかねないんだよ」
「なるほど。確かにそれは使い処に悩みますね」
「しかも、その器が神であるならまだしも、フィルスっていう人間であることが問題なの。神の力を人間の器が使えば、暴走したっておかしくない」
フィルスが本日14回目の溜め息を漏らす。すると・・・。
「そうでもないと思うがな」
そう遠くから声をかけてきたのは、訓練場である者たちを訓練していたアネモイだった。
「地獄耳・・・よくそんな遠くから聞こえていたね」
「神の力でもってすれば、この程度の距離など容易に聞こえる」
「・・・さすがに神の力を躊躇なく使い過ぎじゃない?いくらタガが外れたといっても、プライバシーぐらい配慮してほしいな。他の世界なら、盗聴っていう犯罪だよ」
「安心しろ。この出来損ないの世界において、そんなちゃんとした法律など今は存在しない」
「無能の無敵やめろ」
アネモイはフィルスに向かって近づいてゆく。与えられた力と素直に向き合えないフィルスに対し、堂々とした表情で近づいてくるアネモイに、フィルスはやや不機嫌そうな表情を浮かべる。
「そうでもないってどういうこと?」
「言葉通りの意味だ。その力をもって、私の右腕として存分に振るってほしいという意味だ」
「いやいや。この力が創造の力であるなら、確かに微力ながらもアネモイの手伝いぐらいはできると思うよ。でも、破壊の力だよ?アネモイの傍で使おうにも、アネモイの劣化でしかない以上、使い処なんてない。それにこの力は・・・」
「人間である私には荷が重い・・・てか?」
「・・・うん」
するとアネモイは、フィルスの先程言ったあの言葉を口にし始めた。
「『どっちの力も使い方次第ではどちらにも転ぶというわけ』だったか?さすがは、前世は神のお方。よくわかっているじゃないか」
「・・・」
「神術は、いわば使い手の心の具現化だ。使い手が望めば望むだけ、神術は鏡のように接してくれる。お前が私の心を動かしたように、神術にも真正面から向き合えば、暴走なんてするはずがない」
「アネモイ・・・」
「それに攻撃性能ばかりの力であっても、私の気づかない場面で使ってさえくれれば、それはどんな力でも私の支えとなってくれる。かつてお前が、私を言葉の力のみで立ち上がらせてくれた時のように。だから思う存分振るうがいい。お前の力を、お前の意のままに。例え暴走するようなことがあれば、私が傍に居る限り、必ず止めて見せるさ」
フィルスは自分の手を見つめ力強く握り拳を作る。
「そうだった。これは神の力なんかじゃない。私の力なんだ。生かすも殺すも私次第」
アネモイとリアは、笑顔で顔を合わせる。
「使いこなしてみせるよ。この力は前世と同じなんだもん。使いこなせないという方がおかしいよね」
「いや、前世の記憶に頼るのはそれでこそ危ないだろ」
「・・・は?」
「お前が前世で破壊の力を使った場面と言えば、良くも悪くも最期のあの時だけだったろうが。その感覚で使われるのは流石に・・・」
プチン。
フィルスの中で何かが切れるような音がした。
「あははは、そうだったね。だったら、一度試し打ちでもしとかないとダメかな?ちょうどここには、神の力を受け止めてくれる手頃なサンドバックがいることだし」
「ほう・・・神である私をサンドバック扱いとは。まさに神をも恐れぬ挑発。涙ながらに世界を滅ぼした破壊神が言うようになったではないか」
「涙ながらにって、よく知ってるね。その時はあんた、すでにくたばってなかったっけ?」
お互い、精一杯の作り笑いで火花をぶつけ合うアネモイとフィルス。そんな2人をリアは冷めた様子で見ていた。
「面白い。今のお前の力がどれほどのものか見せてもらおうではないか。しかし、私としてもただでサンドバックになる気はない。戦う以上、無傷で済むとは思うなよ」
「望むところ」
「望まないでください!」
リアが一喝で神同士の争いを収める。
「あなた方の喧嘩は洒落にならないんですよ。あなた方がぶつかりもすれば、本当の意味で世界が終わるのでやめてください。絶対に!マジで!!!」
「「だってこいつが・・・」」
「どっちもどっちです!!!」
「「はい・・・」」
この世界において唯一、神と神の仲裁ができる地位をいつの間にか築き上げていたリア。偽物の聖女という、彼女にとって苦い過去の経験がこのような形で役に立つ日が来るとは、彼女自身も思ってもいなかった。
リアから怒られ、何とか世界規模の喧嘩に踏み込む前に思い止まったフィルス。大きく深呼吸をし、ある話題に話を切り替える。
「というか、解決してもらってこう言うのは何だけど。私なんかより解決すべき問題は他にあるんじゃない?」
するとフィルスは訓練場の方に視線を向ける。
そこには、この国の国軍所属希望として募った領民たちが、武器を扱う訓練に勤しんでいた。
しかし、彼らから聞こえる訓練の掛け声は、とても兵隊と呼ぶには程遠いほど汚いものだった。
「いいかー!この国の命運は俺らの手にかかっている!侵入者は一人残らず、血祭りに挙げろー!!!」
「ウィーラー!!!」
汚い掛け声が、訓練場に響き渡る。フィルスはその訓練の様子を冷めた目で見ていた。
「何、“ウィーラー”って?いろんな世界見て回ってきたけど、あんな掛け声聞くの初めてなんだけど」
「よかった。フィルスがそう言うのなら安心しました。てっきり私だけが知らないのかと」
訓練に勤しむ彼らは、アネモイが領民を勧誘する際に訪れた独立国家の1つに属していた者たちだ。
だが、彼らが独立国家で行っていた活動といえば、主にその地を訪れた旅人や商人から金品や食料を武力で奪い取る、いわゆる賊と呼ばれるものだった。
戦いに身を置くことを好む彼らではあるが、その標的は決まって自分たちより力の弱い者ばかり。自ら成長という概念を手放し、階級の最も低い位置で弱肉強食を楽しむことを生の喜びとしている者たちが集まってできた独立国家だったのだ。
アネモイがかつて彼らの地を訪れた時も、彼らはアネモイに対し、問答無用で刃物を押し付け、金品を要求してきた。
「でも結局、底辺で弱者を甚振ることしか知らない彼らは、アネモイが神の力を使うまでもなくボコボコにされちゃったんだよね。もう力で解決するのは止めたんじゃなかった?」
「仕方なかろう。彼らは良くも悪くも世界の理から脱却できぬ者たち。世界に数少ない、言葉は理解できても、通じない者ばかりの集団だったのだからな」
「その結果、彼らは弱肉強食に生きる者らしく、アネモイ様の力に魅了されて国に属することになったのですよね。なぜか領民ではなく、軍門に下るという形でしたけど」
「まあ、彼らも弱肉強食の世界しか知らなかったから仕方がないだろう。そこは穏便に見てやれ」
「いやむしろ、この世界が弱肉強食そのものだから。そしてこの世界はあんたが創ったんだからね?自分は関係ない体で話しているけど、彼らがああなったの、半分は創造神であるあんたのせいだからね?」
するとフィルスが懐から紙を取り出し、そこに書かれた彼らに対する領民からの不満をアネモイに打ち明ける。
「領民たちからも苦情が来ているよ。兵士である彼らに品が感じられないとか、国の最前線を担う国軍であるなら、もう少しちゃんとした人選にしてほしいとか、賊なんて普通に嫌いだから嫌だとか」
「最後は素直な本音ですね」
フィルスが領民からの声がまとめられた紙を見ながら本日15回目の溜め息を漏らす。そしてその紙を折りたたみながら心配そうな表情をアネモイに見せつける。
「私も心配なんだけど。なんで彼らを国軍の最前線に選んだの?」
「彼らの目には光るものがあったからだ」
「それは、ただ金目の物にしか目がないだけでは?」
するとここでリアがあることを思い出す。
「そういえばアネモイ様って、前世では人族を代表する勇者で、軍を預かる役どころだったって言っていませんでしたか?」
その鋭い指摘に、アネモイは思わず体を反応させてしまう。
「そういえばそうだったね。で、何?前世で鍛え抜かれた観察眼を崩壊とともに置いてきちゃったわけ?さらにその上で、腐れきった世界を見すぎて、その目も腐れちゃったんだ」
「ひどい言われようだな。というか、崩壊が原因なら、それはあなたの責任でもありますよね?」
と、冗談はここまでにしてといわんばかりに、フィルスが真剣な表情に戻った。
「で、まじめな話、なんで彼らを国軍に採用したの?」
「私とて領主として、彼らを国軍の代表にするつもりはない。だが、今のところ彼らしかいないというのが現状なんだ」
この世界は実力主義。実力あるものがすべてを手に入れ、弱者はその者にすべてを捧げてその一生を終える世界。
しかし、この世界のすべての住民が戦いに身を置くものばかりではない。現状はむしろ逆。身の安全を第一に考えるのであれば、むしろ戦いになど身を置かず、苦しくとも平穏な生涯を送るのが幸せと考える住民の方が多い。
これが、今の世界が停滞する最大の理由。大昔に世界が成長につれ、住民の中で格差が成立するたびに、半分以上の住民が戦うことを諦め、戦いから身を引こうとする。
そして世界が成長するたびにそれは繰り返され、停滞する今ではもう、戦おうと武器をもって立ち上がろうとする者はほとんどいない。これはアネモイが収める国に限らず、世界各地で起こっている現象なのだ。
つまり、フィルスの父親が国軍から身を引いた今、今の軍人として名乗りを上げた元賊の彼らぐらいしか適任はいないのだ。
「とはいえ、領民からの不満を放っておくわけにもいかん。名乗り出てくれた彼らには申し訳ないが、ちゃんとした人員の補給が必要だな」
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平和な田舎町コレットに住む少女キスティーは、全属性の魔法を極めた規格外の魔力を持っていた。しかし彼女にとって魔法は「家事があっという間に終わってしまい、毎日の楽しみを奪うもの」でしかなく、その力を使うのはもっぱら幼馴染のアリシア(精密な無詠唱魔法の使い手)、ギルバート(規格外の強靭な肉体の持ち主)との「遊び」の中だけだった。
そんな彼女たちの前に、視察団として身分を隠した第三王子レイエスが現れる。王子は、三人が国家級の脅威である魔獣たちを、ただの「遊び」の延長で、一撃のもとに仕留める光景を目の当たりにし、驚愕する。この国の常識を遥かに超えた彼女たちの力は、本人たちにとってはあくまで「日常の遊び」に過ぎなかったのだ。
王子に同行している騎士団長は、自らの部隊が命懸けで挑む難敵を、遊び感覚で仕留める彼女たちの振る舞いに、常に顔を青ざめさせ、胃を痛め、絶叫に近いツッコミを入れ続ける。
レイエスは確信する。各地で活発化する魔獣の脅威を退け、王国の平和を守る鍵は彼女たちの力にあると。しかし、義務や名誉に興味がない自由奔放な彼女たちを、騎士団などの堅苦しい枠に閉じ込めることは不可能だ。そこでレイエスは、一石二鳥の妙案を思いつく。それは、彼女たちを「働かせる」のではなく、討伐対象がいる危険地帯へ「遊び」という名目で誘い出すことだった。
レイエスは親たちへの根回しを完璧に済ませ、再び三人の前に現れる。「褒美に海へ遊びに行こう」という誘いに、三人は、王子様が自分たちを騙して捕まえようとしてるのではないかと疑うが、結局未知なる冒険という名のピクニックへと旅立つことになる。
こうして、規格外の力を持つ三人と、彼女たちを「遊び」で導き、その力を正しく制御しようとする王子の奇妙な旅が始まる。彼女たちが無邪気に遊ぶたび、王国を脅かす難敵は露知らずのうちに駆逐されていく。自覚なき救世主たちのドタバタな日常が、世界の運命を静かに、そして豪快に変えていくのである。
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【2025カドカワBOOKS10周年記念長編コンテスト中間選考通過作品】
・規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?
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