転生者を探せ

おちゃば

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記憶喪失?

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「心因性の記憶障害?」
「うん、正直言って分からないけどね。」

差し出されたマグカップを受け取りながらドクターは言った。

「特に外傷もないしね。でも彼、自分が男か女かも分からないような口ぶりだった。心因性で片付けていいのか…。」

そう言いながら、湯気の立ち上がるマグカップを口へ運ぶ。

「綺麗さっぱり記憶がないわけですね。…もしかしたら、転せ」
「転生者の仕業だと言ってくれるなよ。」

女性を睨みながら、言葉を遮るようにドクターは言った。
女性はふぅ、とため息をつく。

「毛嫌いしすぎなんですよ、ドクターは。」
「な、何?」
「転生者がいるのは紛れも無い事実で、転生者が記憶を操れるのも事実なんです。」
「ふん…おとぎ話さ。」

2人はしばらく沈黙した。
女性は先程から洋服を畳んでおり、最後の一つを畳たみ終えた。

「さ。彼のところへ行きます?」
「いや、もう歩けるようだったし、こちらへ呼ぼう。あそこはあまりに殺風景だ。」
「そうですね。」

そう言って女性は畳んだ服を持って、彼の元へ行った。


***


ーコンコン
ーガチャ

「気分はどうですか?」

覗き込むようにして部屋へ入ると、最初と同じように、彼はベッドの上に仰向けでいた。
ベッドへ近づくとムクッと上半身を起こす。

「動けるようで良かったです。」

にっこり笑いかけ、畳んだ服をベッドに置いた。

「これ、あなたが着ていた服です。どこも破れたりしていませんし、洗っておいたので着てくださいね。」
「…ありがとう、ございます。」

彼は、自分の服にも見覚えがないのか、服を広げてじっくり見ていた。
その姿をじっと見つめていたが、はっと気付いて急いで言葉を付け足した。

「あ、あの。着替えたら外へ出てきてくださいね。靴は後でお渡しするので、スリッパで大丈夫です。失礼します。」

そういうと部屋を後にした。

残された青年はまた鏡の前へ行き、見覚えのない服を体に当ててみた。
やはりピンとこない。しかし、悪くないなと思った。
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