理科部冒険記 〜実験結果は異世界転移〜

Taku-3

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プロローグ

第11幕・安全運転

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「成程…私がトランクに閉じ込められている間に、そんな事が…。」

あの後僕達は、トランクから救出した9万職員さんに事情を説明した。

「しかし、どうします…?運転手が居ないと、魔王城も目指せないんじゃ…」
一通り話を聞いた9万職員さんが、深刻な表情でそう言った。

「目的地まで距離がありそうですし、情報無しで動き回るのは危なそうですね…。ここは一度、民家のありそうな場所を目指して――」
僕が提案しかけた時、ボロボロのタクシーの側から手を振るリカブさんの姿が見えた。

「二人共~!このタクシー、カーナビが付いてるぞ!魔王城へのルートも登録されている!」
「なんて都合の良い…!これで魔王城に向かえますね!」
9万職員さんは目を輝かせながらタクシーに駆け寄る。

「良かった…助かりましたね、って…まさかそのボロボロのタクシーに乗って行く気ですか…?」
僕は、既に運転席に乗り込んでいるリカブさんと目を合わせてそう言った。

「ああ、エンジンや燃料タンクなどは無事そうだしな。ちゃんと免許も持っているぞ!」
リカブさんは得意気に言った。

「まあ、さっきの暴走運転と比べたら、ガラスの割れたタクシー位何とも…」
「リカブさんが運転に疲れた時は、私が交代しますね!」
9万職員さんが自信たっぷりといった様子で述べた言葉が、このドライブに対する不安感を急激に増幅させた。やっぱ徒歩で行こうかな…。


・ ・ ・


結局タクシーに乗り込んで、今に至る。
リカブさんの運転はとても丁寧で、まさに安全運転の代名詞といった感じだった。
先程のモンスター運転手の運転が"全人類酔わせる運転"なら、こっちは"全人類酔わない運転"と呼べる位だろう。

今思い返せばあの暴走運転は、乗客を酔わせて弱体化させるための運転手の策略だったのかもしれないが…それ自体はどうでもいい。

僕は車内の天井を見上げた。戦闘の痕跡である、銃弾によって開いた穴…そこに目を合わせると、あの時の恐怖が鮮明にフラッシュバックしてきた。

…あの時、僕は何も出来なかった。もし、銃弾があと数cmズレていたら……戦いに身を置く事の危険性を認識した途端に、身体が動かなくなってしまったのだ。

…まだリカブさんにお礼を言っていなかったな。
僕が無事で済んでいるのは、彼が素早く応戦してくれたお陰だ。

「リカブさん、あの…さっきはありがとうございました。」
「うん?何がだ?」
リカブさんは首を傾げつつ言った。

「ほら、さっき…運転手との戦いの時、僕はほとんど何も出来ませんでしたから…。」
「なあに、気にする事はないさ。あの程度、取るに足らない相手だったからな。」

取るに足らない相手…か。僕はその相手を前に、怯えるばかりだったというのに…。

そう項垂れている僕に、リカブさんが続けた。
「…君はあの戦闘中、音だけを頼りに敵の動きを予測出来ていた…。あの時の君が、"何も出来ていなかった"という事は無い。むしろ、君の判断力と洞察力には光る物がある。自信を持っていいぞ。」

「リカブさん…ありがとうございます。」
「ハハハ、礼なんて必要ないさ。」

僕を苛んでいた無力感を、リカブさんの日差しのように優しく、暖かい言葉が取り払っていった。

そうだよな。弱気になっても仕方が無い。

"自分の選んだ道に対して自信を持つ事"。
それが、理科部に居た時から大切にしてきた心構えなのだから。
あの・・奇妙な実験に手を出した時も、そうだった。

…勇者の道は、この世界に来てから振り回されてばかりの僕が、唯一自ら選んだ物だ。
自分の選択は、否定したくない。

僕は勇者として、自分が出来る事をやっていく…!
僕は改めて覚悟を決めて、握った拳で胸を叩いた。

「痛ぁッ!?」
「ど…どうした、ヨシヒコ君…?」

…強く叩き過ぎた。気合いの入れ方には気をつけないと…。


そうこうしている間に、並び立った木々が窓ガラスの外を流れ去っていく。
辺りに樹木の一本すら見当たらなくなったと同時に、陽光が車内へと差し込んできた。

まるで緑の絨毯のような、若草の靡く平原が、地平線の奥にまで続いている。
そんな壮大な風景が、森を抜けた僕達を迎え入れた。


「…見えてきたな。コーゴーセー平原だ!」
運転席のリカブさんが言った。

「凄い景色だ…!まるで世界遺s…」
僕がリアクションを残そうとした矢先、視界に"ある物"が映った。


「…あれ…魔王城…ですよね?」

"ある物"。それは平原のど真ん中に鎮座していた。
毒々しい青紫色の外壁に乱立する尖塔、黒光りする屋根…
それは僕が持つ"魔王城"へのステレオタイプそのものだった。

燦然と輝く太陽の光と、照らされ煌めく緑が占拠する平原において、その姿はあまりにもミスマッチで、悪目立ちしていると言わざるを得ない。
某知育絵本の紅白の服を着た男の方が目立たないとさえ思えた。

「そうだ。言った通りだろう?魔王城はこの平原にあると。」
リカブさんは平然とした様子で答えた。

「…確かに言ってましたけど…!こんな平原のど真ん中に建ってるとは思わないじゃないですか…!?拠点を隠そうという気概が1mmも感じられませんよ…!」

「ふむ…その点だが、こうも考えられるな。"人類を挑発し、誘き寄せる為、敢えて拠点を隠さずにいる"と。」
リカブさんは、フロントガラスの先を見つめたままそう言った。

(「…集落の民家の中に、犠牲者の血で綴られた犯行声明があった。」)

成程…確かにそうだ。
…無限回廊でリカブさんから得た情報によれば、魔王軍は過去にも人類への挑発と見られる行動を取っている。
ならば、こんな"見つけて下さい"と言わんばかりの場所に城を構えたのも…

そして、魔王軍《やつら》がそんな事をする理由は…

「魔王軍は…人類が攻め入ってきても、それを制圧出来るという戦力的自信がある…と推測出来る。」
僕が思考を巡らせる中で、リカブさんが一足早く結論を出した。

…初めは馬鹿げた策を採ったものだと内心思っていたけれど…相手は人類の脅威、魔王軍。
決して油断ならない相手である事を再認識した。

…そんな相手と戦う事になろうとは、異世界転移するきのうまでは考えもしなかったけど…。


「推測から、魔王軍との正面衝突はなるべく避ける事がベストだ。
魔王城にはこっそり潜入し、我々の存在を下っ端に悟られないよう慎重に行動、そして魔王の首を取る…以上を作戦としたい。構わないか?」
リカブさんがスマートな画策を見せる一方、僕の胸の中では緊張が湧き上がっていた。

魔王との戦いが間近に迫っている事を、改めて認識したからだ。

「…はっ…はい!オーケーですっ!」
僕は冷たくなった指先を握りしめ、震え声で答えた。

「ハハハ、そう緊張するな!ピクニックに行くようなものだと考えればいいさ!」
「それはそれで…どうなんですかね…?」

…他人の緊張を易々と見抜くリカブさんに内心脱帽する一方で、"こんな物騒なピクニックがあるか"とツッコみたくもなった。
だけど少しだけ、緊張が引いた気がする。

車窓の先で佇む魔王城は、さっきより少し大きく見えた。
…決戦の時は、もうすぐだ。


思えばこれまで、色んな事があった…。


・ ・ ・


『この世界にやってきた異世界人は皆、"I'am異世界人"と書かれたTシャツを着ているんだ!』
『うっわ何コレ恥ずかしい!』


『ここはハローワークでありながら、この村屈指の観光地…"無限回廊"だ!』
『無限回廊…?ハローワークですよね…?』


『カップ麺が爆発してしまって…』


・ ・ ・


…ロクな思い出が…無い!

回想に耽っていても得る物は何一つ無さそうだ…。
折角リカブさんが完璧な作戦を出してくれたのだし、2人と相談して潜入後の戦術を練った方が有意義な……

ん?2人……?


「…そういえば9万職員さん、やけに静かですね…?」
…僕の記憶が正しければ、タクシーが再発進してから彼女は一言も発していない。
それをふと疑問に思った僕は、助手席に向けて呟いた。

「大丈夫か9万?車酔いか?」
リカブさんも心配そうに話しかけた。

「あ…いえ、ダッシュボードに変な機械が置いてあって、何だろうなと思いまして…」
9万職員さんから返答があった。
どうやら寝ていた訳ではなさそうだ。

「変な機械…?」
僕が呟くと、9万職員さんは腕を後方へと伸ばしてきた。

「コレです。勇者様は何か分かりますか?」

…彼女の片手には、小さな黒い直方体が乗っていた。それには電源ランプらしき光が灯っている。

「…いや、さっぱり分からないです…。」

「そうですか…リカブさんは?」
続いて9万職員さんは、リカブさんの目の前に片腕を突き出した。

「おい9万、私は今運転中――」
そう語気を強めて呟きかけたリカブさんだったが、突如として黙り込んでしまった。

次の瞬間、彼の足元のブレーキが踏み込まれ、タクシーは急停止した。
前方へと引っ張られるような感覚が僕達を襲う。


「うわっ!?」
僕が驚いて小さく悲鳴を上げると共に、頭からフロントガラスに衝突する9万職員さんが視界に映った。

9万職員さんはそのままフロントガラスを貫通し、車外に投げ出されていった。

「9万職員さん!?大丈夫ですか!?」

「いや~、うっかりうっかり…シートベルトを忘れてました…。」
…9万職員さんは何事も無かったかのように、ドアを開けて車内へと戻ってきた。

どうやら、彼女のタフさも常軌を逸しているようだ…。

「って…リカブさん、急に停車しちゃって…どうしたんですか…?」
驚きも冷めやらぬまま、僕はリカブさんに問いかける。

するとリカブさんは、深刻な面持ちで9万職員さんの方を向いた。
「…9万、さっきの機械を見せてくれ。」
「は、はい…?」

9万職員さんがリカブさんに機械を手渡す。
リカブさんは受け取った機械をまじまじと見つめ、こう言った。

「――コレは…盗聴器だぁぁぁッ!!!」

「「……………えぇーーーッ!?」」


To Be Continued
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