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敵の分析
私の家。バレンシア公爵家の屋敷は、学園の喧騒が嘘のように静かです。ふかふかのじゅうたん、壁に飾られた名画。そして、部屋中に漂う最高級の紅茶ロイヤル・アールグレイの香り。
私は自室のソファに深く座り、湯気の立つティーカップを手に取りました。昨日の今日で、学校を休んでしまいました。でも、これは逃げではありません。戦略的撤退であり、これからの戦いのための準備期間なのです。
「さて、お二人とも。わざわざお越しいただいて感謝しますわ」
私の目の前には、頼もしい二人が座っています。騎士団の制服を崩して着ているキース様。そして、白衣のような研究着を羽織ったマリーです。
「気にするな。学校にいても、ガストンの声がうるさいだけだからな」
キース様がスコーンをかじりながら言いました。
「そうよ。それに今日は、とびきりの『ネタ』を持ってこれたしね」
マリーがニヤリと笑い、テーブルの上にドサッと書類の束を置きました。
その顔。いつものクールなマリーではありません。眼鏡の奥の瞳がギラギラと輝いています。これは、新しい実験動物を見つけた時のマリーの悪い顔です。
「始めましょうか。作戦名は『倍返しだなんて生温い、徹底的に社会的抹殺して差し上げますわプラン』よ」
「……相変わらず、ネーミングセンスが怖いですわマリー」
私は苦笑しましたが心の中は燃えています。私たちはまず、敵の戦力分析から始めることにしました。
「まずは敵の大将。ミナ、男爵令嬢についてよ」
マリーがホワイトボードにミナの似顔絵(ちょっと悪意があってブサイクに描かれています)を貼りました。
「ロゼリア、あなたが【記録】した昨日の映像と、私の【解析】データを突き合わせた結果……黒よ。真っ黒」
「やはり……?」
「ええ。彼女の使っている魔法は、ただの『可愛く見える魔法』じゃないわ」
マリーは指示棒でバシッとボードを叩きました。
「特定魔法禁忌指定、第4項。『思考誘導』および『強制好意』の呪いよ」
部屋の空気が冷たくなりました。
「やはり、そうでしたか」
「具体的に言うとね、相手の脳みそに直接『ミナちゃんが一番!』『ミナちゃんの言うことは絶対!』っていう命令を書き込んでいるの。これはもう、魔法っていうより『毒』ね」
「……信じられませんわ」
私は震えました。この国では、他人の心を魔法で操ることは一番重い罪とされています。なぜなら、貴族の契約や結婚、政治の話し合いが魔法一つでひっくり返されてしまうからです。
もしこれが公になれば、ミナさんは退学どころか一生牢屋から出られないかもしれません。
「アルベルト殿下は、その毒を一番濃く浴びている状態だな」
キース様が静かに補足しました。
「昨日の『嫉妬は見苦しい』という発言。あれは本来の殿下の言葉じゃない。ミナに『私をいじめるロゼリアは悪者だと思って!』と脳を書き換えられた結果、出力された言葉だ」
「……つまり、アルベルト様は被害者だと?」
「半分はな。だが、残り半分は殿下の責任だ。心の隙があるから、あんな安っぽい魔法にかかるんだ」
キース様の言葉は厳しいですが真実です。私は少しだけ、アルベルト様に同情しました。彼は今、自分の意思で動いているつもりで実は操り人形にされているのです。
「で、どうするロゼリア? 魔法が解ければ、彼は元に戻るわよ。許してあげる?」
マリーが試すような目で見ました。私はカップをソーサーに置き首を横に振りました。
私は自室のソファに深く座り、湯気の立つティーカップを手に取りました。昨日の今日で、学校を休んでしまいました。でも、これは逃げではありません。戦略的撤退であり、これからの戦いのための準備期間なのです。
「さて、お二人とも。わざわざお越しいただいて感謝しますわ」
私の目の前には、頼もしい二人が座っています。騎士団の制服を崩して着ているキース様。そして、白衣のような研究着を羽織ったマリーです。
「気にするな。学校にいても、ガストンの声がうるさいだけだからな」
キース様がスコーンをかじりながら言いました。
「そうよ。それに今日は、とびきりの『ネタ』を持ってこれたしね」
マリーがニヤリと笑い、テーブルの上にドサッと書類の束を置きました。
その顔。いつものクールなマリーではありません。眼鏡の奥の瞳がギラギラと輝いています。これは、新しい実験動物を見つけた時のマリーの悪い顔です。
「始めましょうか。作戦名は『倍返しだなんて生温い、徹底的に社会的抹殺して差し上げますわプラン』よ」
「……相変わらず、ネーミングセンスが怖いですわマリー」
私は苦笑しましたが心の中は燃えています。私たちはまず、敵の戦力分析から始めることにしました。
「まずは敵の大将。ミナ、男爵令嬢についてよ」
マリーがホワイトボードにミナの似顔絵(ちょっと悪意があってブサイクに描かれています)を貼りました。
「ロゼリア、あなたが【記録】した昨日の映像と、私の【解析】データを突き合わせた結果……黒よ。真っ黒」
「やはり……?」
「ええ。彼女の使っている魔法は、ただの『可愛く見える魔法』じゃないわ」
マリーは指示棒でバシッとボードを叩きました。
「特定魔法禁忌指定、第4項。『思考誘導』および『強制好意』の呪いよ」
部屋の空気が冷たくなりました。
「やはり、そうでしたか」
「具体的に言うとね、相手の脳みそに直接『ミナちゃんが一番!』『ミナちゃんの言うことは絶対!』っていう命令を書き込んでいるの。これはもう、魔法っていうより『毒』ね」
「……信じられませんわ」
私は震えました。この国では、他人の心を魔法で操ることは一番重い罪とされています。なぜなら、貴族の契約や結婚、政治の話し合いが魔法一つでひっくり返されてしまうからです。
もしこれが公になれば、ミナさんは退学どころか一生牢屋から出られないかもしれません。
「アルベルト殿下は、その毒を一番濃く浴びている状態だな」
キース様が静かに補足しました。
「昨日の『嫉妬は見苦しい』という発言。あれは本来の殿下の言葉じゃない。ミナに『私をいじめるロゼリアは悪者だと思って!』と脳を書き換えられた結果、出力された言葉だ」
「……つまり、アルベルト様は被害者だと?」
「半分はな。だが、残り半分は殿下の責任だ。心の隙があるから、あんな安っぽい魔法にかかるんだ」
キース様の言葉は厳しいですが真実です。私は少しだけ、アルベルト様に同情しました。彼は今、自分の意思で動いているつもりで実は操り人形にされているのです。
「で、どうするロゼリア? 魔法が解ければ、彼は元に戻るわよ。許してあげる?」
マリーが試すような目で見ました。私はカップをソーサーに置き首を横に振りました。
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