私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり

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魔法封じ

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「そ、そんなの言いがかりだ! 俺の声で割れたなんて証拠は!」

「あるわよ」

次にマリーが一歩前に出ました。彼女の手には、針が振れる奇妙な機械が握られています。

「これは私が発明した『魔力音響の測定器』。音の大きさと、そこに含まれる魔力の波長を記録する機械よ」

マリーは機械のスイッチを入れてガストンに向けました。針は赤いゾーン(危険地帯)を振り切っています。



「見て、この数値。普通の人の話し声がレベル60だとしたら、あなたの今の声はレベル140。これはね、ドラゴンの咆哮や、雷鳴のような音と同じレベルなの」

「ひぇっ……!?」 

近くにいた生徒たちが慌ててさらに離れました。

「しかも、あなたの声には【増幅】の魔力が乗っている。これは音波兵器よ。人に向けて放てば、鼓膜が破れたり、三半規管がおかしくなって吐き気がしたりするわ」

マリーは冷たい目でガストンを見下ろしました。



「実際、保健室の記録を見たわ。ここ数日、『頭痛』や『めまい』で早退する生徒が急増している。全員、あなたの近くの席に座っていた子たちよ。これはもう『応援』じゃなくて『傷害罪』ね!」

「しょ、傷害……罪!?」

ガストンの顔から血の気が引いていきました。彼はただ、騒いで目立ちたかっただけなのです。それがだと言われて急に怖くなったのでしょう。



「う、うるさいっ! 俺はアルベルト様のために!」

ガストンは恐怖を振り払うように杖を構えました。逆ギレです。

「黙れえぇぇーっ! 俺の声を止めることなんてできないぞ! 【増幅ブースト】マキシマム……!!」

彼が最大級の大声を出そうと、大きく息を吸い込んだ瞬間。

「……させるかよ」

キース様が素早く動きました。ガストンの杖をパシッ! と叩き落とし、その腕を後ろ手に捻じり上げます。さすが騎士団長の息子、鮮やかな制圧術です。



「ぐわぁっ!?」 

「マリー、例のモノを!」 

「はいはい、お待ちどうさま!」

マリーがポケットから取り出したのは、黒い革でできた少し不気味なマスクでした。口の部分に、赤いバッテンのマークが描かれています。



「これは『強制沈黙サイレントマスク・試作型』です。着けると、一定以上の大きさの声が出せなくなる優れものよ」

「な、なにをするっ、やめろ……むぐっ!?」

マリーは容赦なくガストンの顔にマスクを装着しました。カチャリ、とベルトが締まる音がします。

「んぐーっ!! んぐぐぐーーっ!!」

ガストンが顔を真っ赤にして叫ぼうとしましたが、マスクからは「……スゥ……」という、蚊の鳴くような音しか漏れてきません。魔法の力で音が完全に吸い取られているのです。

「あら、素敵な静けさ」

私はニコリと微笑みました。



「ガストンさん、そのマスクは、あなたが『静かに話すマナー』を身につけるまでのプレゼントですわ。無理に外そうとすると……ビリッと電気が流れる仕組みですので、お気をつけあそばせ」

「んぐっ!?(電撃!?)」

ガストンは涙目になって、助けを求めるようにアルベルト様の方を見ました。

しかし、アルベルト様はポカンと口を開けて固まっています。彼の『応援団長』がいなくなり、どう反応していいかわからないのです。



「さあ、みなさん。お騒がせいたしました。騒音の元は断たれましたわ。どうぞ、静かで楽しいランチタイムをお過ごしくださいませ」

私は食堂全体に響くように、でも決して大声ではなく凛とした声で言いました。

一瞬の沈黙の後。ワァァァ……! と拍手が起こりました。平和を取り戻した私たちへの感謝の拍手でした。



「ありがとう、ロゼリア様!」 

「やっとご飯が美味しく食べられるよ」 

「頭痛が治ったわ!」

生徒たちの笑顔を見て、私は誇らしく胸を張りました。振り返るとガストンは床にへたり込み、マスクをしたまま小さくなっています。



「なによあれ……ガストン様、ダサい」

「ガ、ガストン……!?」

ミナは、あからさまに嫌な顔をしていました。アルベルト様はオロオロするばかり。

勝負ありです。

「行きましょう、ロゼリア。私たちも食事にしましょう」

「ええ。マリー、キース。今日はスープが冷めずに済みそうですわ」

私たちは悠々と席に戻りました。静かになった食堂で飲むスープは、今までで一番美味しい味がしました。

(まず一人。騒音男の無力化に成功です。次は……あの嘘つき幻影女の番ですわね)
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