私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり

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ファインプレー

ガストンという名の騒音スピーカーがいなくなったことで、学園には久しぶりに平和な静けさが戻ってきました。

鳥のさえずりが聞こえます。風の音が聞こえます。素晴らしい環境です。この静寂こそ、私たちが求めていたものです。

「さて、次は『幻の尻尾』を掴みましょうか」

放課後の中庭。私とマリーは、ベンチに座ってヒソヒソ話をしていました。もちろん、これは演技です。

「ねえマリー。この手帳……絶対に誰にも見せてはいけなくてよ?」 

「ええ、もちろんよロゼリア。これがバレたら、学園中が大騒ぎになるわね」



私が持っているのは分厚くて立派な革の手帳。表紙には大きく最重要機密トップシークレットと書いた紙を貼ってあります。

中身はただの白紙ですが外から見れば「とんでもない秘密が書かれている」ように見えます。

私たちは、横目でチラリと植え込みの方を見ました。葉っぱがカサカサと不自然に揺れています。

かかりました。リリィです。彼女は好奇心が旺盛で、人の秘密を暴くのが大好き。こんなあからさまな餌に食いつくなんてチョロいものです。



フワッ。突然、私の目の前に蝶々ちょうちょうが飛んできました。普通なら可愛い蝶々ですが、季節外れですし飛び方がどこか機械的です。

これはリリィの【幻影】魔法で作った偵察ドローンみたいなものです。

「あら、かわいい蝶々さん」

私はニコニコしながら、手帳をわざと開くふりをしました。蝶々が手帳の中身を見ようと、グイッと近づいてきます。



その瞬間、マリーがバシャッ! とカメラのシャッターを切りました。

「はい、確保」

マリーの【解析】カメラには蝶々の姿ではなく、植え込みの陰で必死に指を動かして魔法を操るリリィの姿がバッチリ写っていました。

さらに、その蝶々から伸びる魔力の糸が、リリィに繋がっていることも写真にはっきりと記録されています。



「えっ!?」

シャッター音に驚いたリリィが、植え込みから飛び出してきました。顔面蒼白です。

「リリィさん、こんにちは」 

私は優雅に手を振りました。 

「人の手帳を魔法でのぞき見ようなんて、感心しませんわね。今の証拠写真、先生に提出してもよろしくて?」

「ひっ、ひぃぃっ! ごめんなさいぃぃ!」

リリィは逃げ出しましたが証拠は押さえました。これで彼女も言い逃れはできません。

しかし、逃げたリリィの先には、もっと厄介な人物がいました。



「なによリリィ! 失敗したの!?」

キンキン声が響きます。ミナです。後ろには、忠犬のようにアルベルト様も控えています。ミナは逃げてきたリリィを睨みつけた後、怒りの形相で私の方へズカズカと歩いてきました。

「もうっ! ロゼリア様ってば、いっつもいっつも私たちの邪魔ばっかりして!」

ミナは、頬を膨らませて怒っていますが目は笑っていません。あせっています。ガストンが消え、リリィの魔法も見破られ、自分の手足がもがれていくのを感じているのです。



「邪魔だなんて心外ですわ。私はただ、お行儀の悪い虫を追い払っただけですのよ」 

「キーッ! アルベルト様、聞いてよぉ! ロゼリア様が私を虫扱いするの!」

ミナはアルベルト様の腕にしがみつきました。アルベルト様は、眉をひそめて私を見ました。

「ロゼリア、いい加減にしろ! ミナは君と仲良くしたいだけなんだぞ。それを虫だなんて……謝れ!」

出ました。僕のミナちゃんをいじめるな攻撃です。いつもなら、ここで私が悔しくて黙り込むところですが……今日は違います。

「仲良く? それは変ですわね。仲良くしたい相手に対して、スパイ行為を働いたり、冤罪をなすりつけたりするのですか? そんな友情、私は願い下げですわ」  

私は冷静に返しました。



「うぐっ……」  

アルベルト様が言葉に詰まりました。彼も薄々、ガストンやリリィの行動が行き過ぎていたことに気づき始めているのかもしれません。

それが、ミナには面白くなかったようです。彼女は、アルベルト様が迷う素振りを見せたことにイラついたのか、私をギロリと睨みました。

「……ムカつく」 

ミナがボソッとつぶやきました。

「なによ、公爵令嬢だからって偉そうに。勉強ができるからって見下して……私が一番可愛いのよ! みんな私を好きになるはずなのよ!」

ミナの雰囲気が変わりました。あの時、図書室で見たのと同じ。ドロドロとしたピンク色のオーラが、彼女の体から噴き出し始めました。

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