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簡単なお仕事です
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地面を揺らす足音を響かせながら、背後から亜竜が迫る。
真の竜にして神の竜たるアークドラゴンとはほど遠い単に巨大なトカゲだが、私のような少女にとっては大いなる脅威だ。その身体の大きさ故に木々に阻まれてなんとか逃げ延びているものの、私が力尽きるのもそう遠くない。
「誰か! 誰か助けて!」
私は力の限り叫ぶ。だが、こんな森の中では助けは期待できそうにない。
「誰か!」
それでも今は叫ぶことしか出来なかった。
「――おう!」
しかし、その私の叫びに応える声があった。
森の木立から現れた影は、目にも止まらぬ早さで私の背後へと駆け抜ける。
「オラァ!」
一瞬遅れて私が振り向いた時には、ドラコスの長い首が断ち切られていた。頭を無くした首から鮮血を吹きだし、五メルトはある胴体が力を失って倒れていく。
「大丈夫かい? お嬢さん」
そう言いながら振り返ったのは、まだ十代後半に見える若者だ。質素ながら上等な布地で作られた服を身にまとい、手には大きな剣、腰には鞘を吊している。
「あ、ありがとうございます」
私はその場にへたり込みつつ、礼を言った。
「こんな所を女の子一人で歩いていちゃあ危ないぜ。何か用でもあったのかい?」
「は、はいっ。私の村が異獣に襲われているのです。ですから、この森を抜けた先にお住まいの勇者様に助けていただこうと……」
「あー、なるほど。なら手間が省けたな」
若者はニカッと歯を見せて笑った。
「もしかして……あなたが?」
「おう! 俺が勇者アスクだ!」
若者――アスクは自分を親指でさし胸を張る。
「んじゃまあ。ちゃちゃっと片付けますかね。立てるかい?」
勇者アスクが伸ばした手を握って、私は立ち上がった。
……なるほど。理解った。
「ありがとうございます。噂通りとてもお強いのですね。それにとてもハンサムで」
「え? いや、まあね」
アスクは照れたように頭を掻く。
「――元の世界では“キモブタ”と呼ばれていたいじめられっ子だったのに。――ね?」
私はニヤリと笑ってそう言い放った。
「……え? な、なんでその事を……」
すでに〈毒〉は仕込んだ。アスクは呆然とした顔で私を見る。
私は〈異世界勇者〉殺しを生業とする魔術師だ。
この世界の国々は幾たびも破滅の危機を迎えたことがある。それを救ってきたのが異世界から転生、あるいは転移してきた勇者達だった。
多くの勇者は魔王や邪竜といった脅威を取り除いた後、名誉を得てそのままこの世界に留まる。
しかし、王や神殿からすれば、平和となった後のその名声は自身らを脅かす脅威だった。たとえ本人達にそんな野心がなかろうともだ。
だから私は依頼を受けてそんな勇者達を抹殺する。
どんなに強力な力を持っていようとも、彼らの精神は弱い。あるいは幼いと言ってもよかった。
そして私の闇魔法はそんな精神」」を蝕む。接触の必要があるのが難点だが、この十代半ばに見える容姿も彼らの油断を誘うのにはもってこい。実際は魔法で老化を止めているのだが。
「違う! 俺は田中肇なんかじゃない! 俺は勇者だ! 勇者アスクなんだ!」
自らの心が生み出した幻影に責め立てられて取り乱す勇者に近付くと、私は懐からナイフを取り出してその胸へと突き刺した。
「……あ?」
念のために首の頸動脈も切断してお仕事終了。
怯えた顔の勇者はあっけなく地に倒れて絶命した。
「さて、これで仕事料を貰えばあと百年は遊んで暮らせるわね」
その頃には、また何らかの危機が訪れて異世界勇者が召喚されるかも知れない。その時はまた稼がせてもらうとしよう。
「待っているわ、勇者様♡」
~END~
真の竜にして神の竜たるアークドラゴンとはほど遠い単に巨大なトカゲだが、私のような少女にとっては大いなる脅威だ。その身体の大きさ故に木々に阻まれてなんとか逃げ延びているものの、私が力尽きるのもそう遠くない。
「誰か! 誰か助けて!」
私は力の限り叫ぶ。だが、こんな森の中では助けは期待できそうにない。
「誰か!」
それでも今は叫ぶことしか出来なかった。
「――おう!」
しかし、その私の叫びに応える声があった。
森の木立から現れた影は、目にも止まらぬ早さで私の背後へと駆け抜ける。
「オラァ!」
一瞬遅れて私が振り向いた時には、ドラコスの長い首が断ち切られていた。頭を無くした首から鮮血を吹きだし、五メルトはある胴体が力を失って倒れていく。
「大丈夫かい? お嬢さん」
そう言いながら振り返ったのは、まだ十代後半に見える若者だ。質素ながら上等な布地で作られた服を身にまとい、手には大きな剣、腰には鞘を吊している。
「あ、ありがとうございます」
私はその場にへたり込みつつ、礼を言った。
「こんな所を女の子一人で歩いていちゃあ危ないぜ。何か用でもあったのかい?」
「は、はいっ。私の村が異獣に襲われているのです。ですから、この森を抜けた先にお住まいの勇者様に助けていただこうと……」
「あー、なるほど。なら手間が省けたな」
若者はニカッと歯を見せて笑った。
「もしかして……あなたが?」
「おう! 俺が勇者アスクだ!」
若者――アスクは自分を親指でさし胸を張る。
「んじゃまあ。ちゃちゃっと片付けますかね。立てるかい?」
勇者アスクが伸ばした手を握って、私は立ち上がった。
……なるほど。理解った。
「ありがとうございます。噂通りとてもお強いのですね。それにとてもハンサムで」
「え? いや、まあね」
アスクは照れたように頭を掻く。
「――元の世界では“キモブタ”と呼ばれていたいじめられっ子だったのに。――ね?」
私はニヤリと笑ってそう言い放った。
「……え? な、なんでその事を……」
すでに〈毒〉は仕込んだ。アスクは呆然とした顔で私を見る。
私は〈異世界勇者〉殺しを生業とする魔術師だ。
この世界の国々は幾たびも破滅の危機を迎えたことがある。それを救ってきたのが異世界から転生、あるいは転移してきた勇者達だった。
多くの勇者は魔王や邪竜といった脅威を取り除いた後、名誉を得てそのままこの世界に留まる。
しかし、王や神殿からすれば、平和となった後のその名声は自身らを脅かす脅威だった。たとえ本人達にそんな野心がなかろうともだ。
だから私は依頼を受けてそんな勇者達を抹殺する。
どんなに強力な力を持っていようとも、彼らの精神は弱い。あるいは幼いと言ってもよかった。
そして私の闇魔法はそんな精神」」を蝕む。接触の必要があるのが難点だが、この十代半ばに見える容姿も彼らの油断を誘うのにはもってこい。実際は魔法で老化を止めているのだが。
「違う! 俺は田中肇なんかじゃない! 俺は勇者だ! 勇者アスクなんだ!」
自らの心が生み出した幻影に責め立てられて取り乱す勇者に近付くと、私は懐からナイフを取り出してその胸へと突き刺した。
「……あ?」
念のために首の頸動脈も切断してお仕事終了。
怯えた顔の勇者はあっけなく地に倒れて絶命した。
「さて、これで仕事料を貰えばあと百年は遊んで暮らせるわね」
その頃には、また何らかの危機が訪れて異世界勇者が召喚されるかも知れない。その時はまた稼がせてもらうとしよう。
「待っているわ、勇者様♡」
~END~
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