仮面P-MAN

junhon

文字の大きさ
1 / 1

第18話 驚異! スーパー野菜怪人!

しおりを挟む
 その冬、人々の食卓しよくたくからなべが消えた。
 
 原因は鍋料理のかげの主役とも言える白菜の値段高騰こうとうだ。一玉一万円以上という信じられない高値となり、庶民しよみんの手の届かない高級食材となってしまった。
 
におうな……もしや、やつらが」

 新聞の記事を読んだ本郷ほんごうひろしつぶやく。
 
 本郷は新聞をたたんでコートのポケットに仕舞しまうと、愛用の大型バイクにまたがった。
 
 城北大学農学部二年生、しかし、かれにはもう一つ秘密の肩書かたがきがある。
 
 目指すは白菜の一大産地、茨城いばらき県だ。冬は茨城、夏は長野県が白菜の生産量日本一である。この二つの県だけで全生産量の半分をめていた。
 
 常磐自動車道から茨城県に入った本郷は、県内でも白菜の生産が盛んな八千代町へと向かう。
 
 みように車の往来が少ない国道を走っていると、前方から軽トラックがもうスピードでやって来る。そしてその後ろを三台のバイクが追っていた。
 
 バイクに乗った男達は異様な出で立ちだった。全身を緑色のタイツで包み、目と口の部分にだけ丸い穴が開いた仮面をかぶっている。
 
「ゲミューゼの戦闘せんとう員!」

 本郷は己の推測が当たったことを確信した。軽トラックとバイクの間に割り込み、戦闘員の進路に立ち塞がる。
 
「ゲミューゼども! おれが相手だ!」

 本郷はバイクを降りて構えを取った。
 
「イー!」

「イー!」

「イー!」

 戦闘員達は奇声きせいを上ながら本郷におそいかかるが、あっという間にたおされてしまう。
 
「あ、ありがとうございます」

 軽トラックを運転していた女性が本郷の背に声をかける。長いかみを首の後ろで結んだ二十さいくらいの美人だ。
  
大丈夫だいじようぶでしたか? お嬢さん。なぜこいつらに追われていたのです?」

「はい。私は白菜農家のむすめ白井しらい菜々なな。茨城はかれらゲミューゼに支配されているのです。私はすきを見て逃げ出してきたのですが……」

「やはり……しかし、一体どうやって?」

「彼らは納豆の中に洗脳薬を混ぜんでいたのです。みんなそれを食べてしまって……」

「なるほど。茨城県民なら三食納豆を食べるのが普通ふつうでしょう。でも、なぜあなたは無事だったのです?」

「その……私は子供のころから納豆が苦手で……」

 菜々は茨城県民としてずかしいと、顔をせながら答えた。

「ははっ、分かります。実は俺も苦手なんですよ。関西の出なんでね」

 本郷はそんな菜々をフォローするかの様に笑顔をかべる。

「さて、奴らの本拠地ほんきよちを知っていますか?」

 表情を引き締めながら本郷はたずねた。

「え、ええ。でも、どうする気なんです?」

「もちろん、たおします。この俺がね」

 本郷は自信たっぷりに言い放つのだった。
 
       ◆
 
「ふぅ……こう毎日鍋だときてくるな」

 眼帯に口ひげの男が鍋を前にため息をらす。軍服を着た精悍せいかんそうな男だったが、その表情には嫌気いやけかんでいた。
 
「「イー! イー!」」

 ゲミューゼの戦闘員達もその意見に賛同する。軍服の男を上座に十数人の戦闘員達が集い、鍋パーティーが行われているのだ。
 
 ここは八千代町にあるJA常総ひかり、その大広間だった。
 
 と、外から何やら争う様な物音が聞こえてくる。
 
「ん? 外がさわがしい様だが?」

 軍服の男がそう口にした瞬間しゆんかんふすまと共に戦闘員が吹き飛んできた。
 
「何事だ!」

「白菜を独り占めにして鍋パーティーとはいいご身分だな、ゲミューゼ!」

 そう言いながら現れたのは本郷だ。
 
「き、貴様は本郷弘! なぜここに!?」

「もちろん、貴様らゲミューゼの野望を打ち砕くため!」

「……くっ、やれやってしまえ!」

 軍服の男の命令に、戦闘員達が本郷に襲いかかる。
 
 本郷は素手で次々と戦闘員達を倒していった。なぜか場面は屋外へ、そして採石場へと移動する。その時には軍服の男ただ一人となっていた。
 
「むぅ、さすがだ本郷弘。だが、このネバ大佐たいさに勝てると思うな!」

 ネバ大佐は両うでをクロスし、「変身!」とさけぶ。
 
 大佐の身体が光を発し、その輪郭りんかくが変わっていく。そして現れたのは――
 
「ネバネバ~」

 ワラに包まれた納豆に手足が生えた姿だった。独特のにおいが辺りに立ちこめる。
 
「ひぃ!」

 戦いを陰から見守っていた菜々が、その異形と匂いに悲鳴を上げる。
 
「くっ……」

 本郷も匂いにたじろぐが、チラリと背後の菜々を振り返った後、両腕を右へとばした。
 
「変!」

 伸ばした腕を右から左へと回し、肘を曲げてポーズを決める。本郷の腹にはいつの間にかゴテゴテとしたベルト――Pドライバーが現れていた。
 
「身!」

 本郷の身体が緑の渦巻うずまく風と光に包まれる。そして現れたのは――
 
 縦方向に段のついた緑色のいびつな円柱、ピーマンに手足が生えた姿だった。表面にはつぶらな目と口が付いており、目の部分にはV字型の赤い仮面を被っている。
 
「仮面P-MAN!」

 本郷――いや、P-MANは堂々と名乗りを上げた。
 
「ほ、本郷さん……その姿は……」

 菜々はおどろきに目を見開きながらたずねる。
 
「菜々さん、あなたにはこんな姿を見られたくなかった」

 背中を向けたまま、P-MANは続ける。
 
「俺もゲミューゼに改造された野菜怪人ベジーターの一人。しかし、正義のために奴らと戦っているのです」

「ふん、裏切り者め。今日こそ引導をわたしてくれるわ」

 そう言い放ち、ネバ大佐はP-MANに襲いかかる。
 
「ネバネバ~」

「くっ!」

 改造手術により、人間をえた超人ちようじん達の戦いが始まった。しかし、納豆の匂いにP-MANの動きは精彩せいさいを欠き、迂闊うかつに相手をなぐればネバネバとした糸にらわれそうで手が出せない。いや、それを考慮こうりよしてもネバ大佐の強さは圧倒的あつとうてきだった。
 
「くぅ。つ、強い……」

「はははっ、所詮しよせん貴様は生野菜。しかし、加工品となった納豆の我には二次産業の力が加えられているのだ。スーパー野菜怪人に勝てると思うな」

 ネバ大佐の猛攻もうこうにP-MANはひざをつく。
 
「トドメだ! 納豆マシンガン!」

 ネバ大佐の身体から粒選つぶよりの大豆が放たれる。
 
「危ない!」
 
 そこへ菜々がP-MANの前へと飛び出した。
 
「あああああ!」

 菜々の全身が納豆まみれとなり糸を引く。
 
「菜々さん!」

「めっちゃくっさー……」

 菜々はそう呟き、地面へとたおれる。
 
「くっ、俺をかばったばかりに……うぉおおお! 許さんぞネバ大佐!!」

 いかりがP-MANに秘められた力を呼び覚ます。金色のオーラを放つその身体の色が緑から黄色へと変化した。
 
 それは〈パプリカモード〉――青臭あおくささと苦みが消えてあまくなり、ビタミンCは二倍、βカロチンは三倍にパワーアップだ。
 
「とぅおう! P-MANキーーーク!!」

 空高くへとジャンプしたP-MANが急降下してキックを放つ。納豆のつぶをまき散らしながら吹き飛ばされるネバ大佐だったが、そのねばつく糸さえ黄金のオーラをまとったP-MANにはれることはなかった。
 
「ぐはぁ!」

「とどめだ!」

 P-MANは両うでで自らの胸を開く。
 
「シードスマッシャー!!」

 その体内から放たれた無数の種がネバ大佐を蜂の巣にした。
 
「げ、ゲミューゼに栄光あれ!」

 そうさけび、ネバ大佐は爆発ばくはつ四散する。
 
――こうしてゲミューゼの野望は打ち砕かれ、ネバ大佐がたおれたことで茨城県民の洗脳は解けた。白菜も豊富に市場に出回る。

 しかし、ゲミューゼはほろびていない。仮面P-MANは人類の自由のために今日も戦い続けるのだ。
 
       ◆
 
「くぅ、このにおいがたまらない!」

 白井菜々は納豆をのせたご飯を口にかき込む。
 
 全身納豆まみれになったおかげで、菜々は納豆の匂いを克服こくふくしていた。
 
「納豆最高!」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...