ストップ!! ひばりちゃん!

junhon

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ひばりちゃんの自由研究

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「みなさん、おひさしぶりです。元気でしたか?」

「はーーーい!!」

 女教師きようし桜井さくらい桃子ももこの問いかけに生徒達は元気よく答えた。
 
 桃子はくせっ毛のセミロングに眼鏡めがねをかけた二十六さい。今年初めて担任たんにんまかされた事もあり、夏休み明けでも張り切っている。
 
 ここはとある小学校、四年三組の教室。新学期の初日、始業式が終わった後だ。
 
「夏休みの宿題はちゃんとやってきましたか?」

「はーーーい!!」

 桃子の質問しつもんにこれまた元気よく答える子供こども達。ただ、数名は声を上げる事なく視線しせんらしたり、顔をせたりしていたのだが。
 
 朝のホームルームのしよ連絡れんらくを終えた後、一時限じげん目は自由研究の発表会となる。大きな模造もぞう紙一まいにまとめた夏の研究成果を黒板にり、子供達は自分の研究を発表していった。
 
 定番の朝顔の観察、夏らしい氷を使った実験、工場見学のレポートなどなど――
 
「では次に、青空あおぞらひばりさん」

 席順で桃子に指名された女の子が、丸めた模造紙を手に立ち上がった。長い黒髪くろかみと整った顔立ちの少女なのだが、無表情むひようじようねむたそうなまなこが愛らしさを打ち消してしまっている。
 
わたしの夏休みの自由研究は『兄の毎晩まいばんのオカズの研究』です」

 踏み台を使って黒板に模造紙を貼り付けたひばりは、眠たそうな目で一同を見回した。
 
「お兄さんの食生活の研究ですか。食事は身体の基礎きそですからね。お兄さんの健康に気をつかうなんて、青空さんはお兄さん思いなんですね」

「……いえ、むしろ自分のためですね。健康状態じようたいはかる事は出来ていますが」

 桃子の言葉にひばりは淡々たんたんこたえ、アンテナじようの指しぼうで模造紙にられた人物写真を指し示した。
 
「これが私の兄、青空爽一あおぞらそういち。十七歳の高校二年生、野球部に所属しよぞくしています」

 そこにはがっしりとした体つきに日に焼けたはだ坊主ぼうず頭の少年が写っている。
 
「そして研究当時兄が所有していたオカズ・・・は、アイドルの水着写真集が三さつ雑誌ざつしが八冊です。雑誌のうち五冊がマンガとなっています」

 ん? と桃子は首をかしげた。
 
「写真集のアイドルはみな巨乳を売りにしている女性じよせいです。これは『巨乳』のカテゴリに分類しましょう。雑誌はその特集から『女教師』、『人妻ひとづま』、『看護かんご』、『女子高生』に分類できます」

 困惑こんわくする桃子と子供達にかまわず、ひばりは先を続ける。
 
「これらのカテゴリ別に使用頻度ひんど比較ひかくしたのがこのグラフになります」

 ひばりは模造紙の円グラフをしめした。
 
「女教師が46%、ついで巨乳が39%となっています」

 ひばりはカッと目を見開く。
 
「つまり、私の兄は巨乳の女教師好き!」

 シーンと静まりかえっていた教室だったが、次第にザワザワと声が上がり始める。
 
「本がオカズ?」

「本を食べるの?」

「使用ってどう使うの?」

「あ、青空さん! それは一体どうやって調べたんですか!?」

 一人だけ意味を理解りかいしている桃子が顔を赤くしながら問いかけた。
 
「兄が部活に出かけているすきに。私は隠し場所を知っていますし、使った本は一番上になっていますからね。ちゃんとゴミ箱の中身も確認かくにんして――」

「ストップ! ストップ! ストップ!」

 桃子はあわててひばりの言葉をさえぎる。
 
「兄がロリコンの妹えでなくてホッとしました。もしそうだったら兄妹のえんを切るところです」

「……」

 何と言って良いか分からずに、引きつった表情ひようじようかべる桃子にひばりはたずねた。
 
「先生が年下好きなら私の兄を紹介しようかいしますが?」

「大きなお世話です!」

 桃子は自分の大きなむねかくすようにきかかえてさけぶのだった。
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