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俺の妹がこんなにメイドなわけがない①
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「ただいま~」
俺・竹中宗介は玄関のドアを開けて家へと入り、そう声をかけた。
ただ今は両親とも海外にいるし、妹の綾乃もいつもは自分の部屋かリビングにいる。返事など返ってこないはずだったのだが……
「お帰りなさいませ、ご主人様」
上がり框の上で正座しているメイドさんが居た。
「何やってるんだ? お前」
俺はそのメイドさんを半眼で見下ろす。
それは俺の妹の綾乃がメイド服を着た姿だった。
「お疲れ様です。ささ、鞄をお持ちしますわ」
俺の疑問には答えず、綾乃は鞄に手を伸ばす。
「いらん」
俺は素っ気なく応えて鞄を奪われないように腕を振り、綾乃の横を通り過ぎる。
「ちょっと、お兄ちゃん! じゃなくてご主人様! ねぇねぇ、メイド服可愛いでしょ?」
綾乃は隣に追いついてメイド姿を見せつけようとするが、俺はそちらに見向きもしない。
階段を上がり、自分の部屋に入ってドアを閉め、綾乃を締め出す。
「もうっ、お兄ちゃんのバカ!」
綾乃はそう言い捨てて扉の前から姿を消した。
綾乃が階段を下りていく足音を確認した後――
ガツン!!
俺はおもむろにドアに頭を叩きつけた。
「か、可愛い……」
思わず本音が口から漏れてしまう。
綾乃は小学六年生の十一歳、俺とは五つ年が離れている。
長い黒髪に整った顔立ち、兄としての贔屓目を差し引いてもかなりの美少女だ。
黙って座っていれば清楚可憐なのだが、その容姿とは裏腹に結構なお転婆。お喋り好きだし、時々思考が異次元に突入する事がある。
今回のいきなりメイドもその現れなのだろうが、俺にはその行動の原因に一つ心当たりがあった。
まあ、その事については後で語ることにしよう。
それよりも重要な問題が二つあった。
一つは俺が妹を大好きだという事だ。
そしてその感情が兄妹としての域を超えかかっている。
いやね、綾乃のやつも第二次性徴に入ってどんどん女の子らしくなっていくし……特に胸とか。
俺は綾乃を異性として意識してしまうあまり、最近はさっきのような素っ気ない態度をとるようになってしまっていた。
そしてもう一つの問題は――
俺がメイドさんを大好きだという事だ!!
どのくらい好きなのかはもう一晩かかっても語りきれない。とにかく好きなのだ。
大好きな妹が大好きなメイドさんの格好をしている。その魅力は足し算ではなく掛け算だ。妹×メイド=超好きである。
「うぉおおお!」
俺は綾乃のメイド姿を思いだし、床でしばし身悶えた。
しかしまずい。両親は今海外でこの家には俺と綾乃の二人きり。俺は理性を保つ事が出来るのだろうか?
俺は何度か深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせた。
いつまでもこうしては居られない。掃除と夕食の準備をしなければ。
両親が俺たち二人だけを残して海外に行ったのも、俺の家事能力を見込んでの事だった。
さすがに掃除の方は家全部にまで手が回らないので、学校に行っている間、週に何回かハウスキーパーさんに入ってもらっている。
毎日の掃除はリビングとキッチン、そしてバスルームだけだ。
俺は制服を脱いでスウェットに着替えると、部屋を出て一階に下りていった。
するとリビングから掃除機の音が聞こえてくる。
綾乃!?
俺は思わず駆け出し、リビングを覗き込んだ。
メイド姿の綾乃が掃除機を掛けている。
「お、お前……一体何を……?」
信じられない光景に俺は我が目を疑った。
「見て分かんないの? 掃除をしてるんじゃない」
綾乃は何を言っているんだとでも言いたげな顔で答えた。
「いや、だけど、お前……」
両親、そして俺に甘やかされて育った綾乃は、今まで家の手伝いなど全くした事がない。
「これがメイドのお仕事なのです。台所とお風呂はもう済ませてあるから」
綾乃は胸を張って得意げに言う。
何だろう? メイドの真似事とはいえ、妹が家事を手伝ってくれるというのは嬉しいのだが、いきなりの豹変ぶりがなんか怖い。
「さーて、次はご飯を作っちゃうよ!」
部屋の隅の定位置に掃除機を片付けた綾乃は、そう言いながら続きのキッチンに入った。
「待て待て待て! お前料理なんか作った事がないだろうが!」
とりあえず掃除機を掛けるくらいは綾乃にも出来るだろうが、料理は刃物や火を使うのだ。とてもじゃないが任せてはおけない。
「なによ。家庭科の授業で調理実習はやったし、キャンプでカレーも作ったんだからねっ」
メイド服の襟首を掴まれた綾乃が、頬を膨らませながら俺を見上げる。
「ん~、じゃあちょっと野菜を切ってみろ」
俺は冷蔵庫からニンジンを取り出し、軽く洗ってからピーラーで皮をむく。そしてまな板の上に置いた。
「今夜はカレーにするから乱切りでいいぞ」
「任せてよ!」
綾乃はまな板の前に立つと包丁を握った。そしてその手を大きく振り上げ――
背後に立っていた俺はその手首を掴む。
「なに? 邪魔しないでよっ」
「何故包丁を振り上げる?」
文句を言う綾乃を俺は半眼で見下ろす。
「乱切りでしょ? だから勢いをつけてバンバンバン! って」
「……分かった。お前は二度と台所に立つな」
俺は綾乃をキッチンから追い出し、夕飯の支度を始めるのだった。
俺・竹中宗介は玄関のドアを開けて家へと入り、そう声をかけた。
ただ今は両親とも海外にいるし、妹の綾乃もいつもは自分の部屋かリビングにいる。返事など返ってこないはずだったのだが……
「お帰りなさいませ、ご主人様」
上がり框の上で正座しているメイドさんが居た。
「何やってるんだ? お前」
俺はそのメイドさんを半眼で見下ろす。
それは俺の妹の綾乃がメイド服を着た姿だった。
「お疲れ様です。ささ、鞄をお持ちしますわ」
俺の疑問には答えず、綾乃は鞄に手を伸ばす。
「いらん」
俺は素っ気なく応えて鞄を奪われないように腕を振り、綾乃の横を通り過ぎる。
「ちょっと、お兄ちゃん! じゃなくてご主人様! ねぇねぇ、メイド服可愛いでしょ?」
綾乃は隣に追いついてメイド姿を見せつけようとするが、俺はそちらに見向きもしない。
階段を上がり、自分の部屋に入ってドアを閉め、綾乃を締め出す。
「もうっ、お兄ちゃんのバカ!」
綾乃はそう言い捨てて扉の前から姿を消した。
綾乃が階段を下りていく足音を確認した後――
ガツン!!
俺はおもむろにドアに頭を叩きつけた。
「か、可愛い……」
思わず本音が口から漏れてしまう。
綾乃は小学六年生の十一歳、俺とは五つ年が離れている。
長い黒髪に整った顔立ち、兄としての贔屓目を差し引いてもかなりの美少女だ。
黙って座っていれば清楚可憐なのだが、その容姿とは裏腹に結構なお転婆。お喋り好きだし、時々思考が異次元に突入する事がある。
今回のいきなりメイドもその現れなのだろうが、俺にはその行動の原因に一つ心当たりがあった。
まあ、その事については後で語ることにしよう。
それよりも重要な問題が二つあった。
一つは俺が妹を大好きだという事だ。
そしてその感情が兄妹としての域を超えかかっている。
いやね、綾乃のやつも第二次性徴に入ってどんどん女の子らしくなっていくし……特に胸とか。
俺は綾乃を異性として意識してしまうあまり、最近はさっきのような素っ気ない態度をとるようになってしまっていた。
そしてもう一つの問題は――
俺がメイドさんを大好きだという事だ!!
どのくらい好きなのかはもう一晩かかっても語りきれない。とにかく好きなのだ。
大好きな妹が大好きなメイドさんの格好をしている。その魅力は足し算ではなく掛け算だ。妹×メイド=超好きである。
「うぉおおお!」
俺は綾乃のメイド姿を思いだし、床でしばし身悶えた。
しかしまずい。両親は今海外でこの家には俺と綾乃の二人きり。俺は理性を保つ事が出来るのだろうか?
俺は何度か深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせた。
いつまでもこうしては居られない。掃除と夕食の準備をしなければ。
両親が俺たち二人だけを残して海外に行ったのも、俺の家事能力を見込んでの事だった。
さすがに掃除の方は家全部にまで手が回らないので、学校に行っている間、週に何回かハウスキーパーさんに入ってもらっている。
毎日の掃除はリビングとキッチン、そしてバスルームだけだ。
俺は制服を脱いでスウェットに着替えると、部屋を出て一階に下りていった。
するとリビングから掃除機の音が聞こえてくる。
綾乃!?
俺は思わず駆け出し、リビングを覗き込んだ。
メイド姿の綾乃が掃除機を掛けている。
「お、お前……一体何を……?」
信じられない光景に俺は我が目を疑った。
「見て分かんないの? 掃除をしてるんじゃない」
綾乃は何を言っているんだとでも言いたげな顔で答えた。
「いや、だけど、お前……」
両親、そして俺に甘やかされて育った綾乃は、今まで家の手伝いなど全くした事がない。
「これがメイドのお仕事なのです。台所とお風呂はもう済ませてあるから」
綾乃は胸を張って得意げに言う。
何だろう? メイドの真似事とはいえ、妹が家事を手伝ってくれるというのは嬉しいのだが、いきなりの豹変ぶりがなんか怖い。
「さーて、次はご飯を作っちゃうよ!」
部屋の隅の定位置に掃除機を片付けた綾乃は、そう言いながら続きのキッチンに入った。
「待て待て待て! お前料理なんか作った事がないだろうが!」
とりあえず掃除機を掛けるくらいは綾乃にも出来るだろうが、料理は刃物や火を使うのだ。とてもじゃないが任せてはおけない。
「なによ。家庭科の授業で調理実習はやったし、キャンプでカレーも作ったんだからねっ」
メイド服の襟首を掴まれた綾乃が、頬を膨らませながら俺を見上げる。
「ん~、じゃあちょっと野菜を切ってみろ」
俺は冷蔵庫からニンジンを取り出し、軽く洗ってからピーラーで皮をむく。そしてまな板の上に置いた。
「今夜はカレーにするから乱切りでいいぞ」
「任せてよ!」
綾乃はまな板の前に立つと包丁を握った。そしてその手を大きく振り上げ――
背後に立っていた俺はその手首を掴む。
「なに? 邪魔しないでよっ」
「何故包丁を振り上げる?」
文句を言う綾乃を俺は半眼で見下ろす。
「乱切りでしょ? だから勢いをつけてバンバンバン! って」
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俺は綾乃をキッチンから追い出し、夕飯の支度を始めるのだった。
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