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白鳥の如く

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 ダッシュ東田との勝負が行われたその日の夕方、仕事を終えた生徒会メンバー達が帰路につく。
 
 生徒会の業務中、一騎も今は我慢の時と考え雪乃にちょっかいをかける様な真似はしなかった。
 
 仕事を終えた一騎は運動着に着替え、一人グラウンドに立つ。
 
 運動部の活動も終わり本来ならライトが落とされる時間なのだが、生徒会長・深山ミチルの伝手で三十分だけ延長して貰った。
 
 そして黙々と走り込みを続けるのだった。
 
 
      ◆
 
 
 家が同じ方向ということで、無視されながらも離れて後を付いてくる一騎の姿が今日はないことを不審に思いながら、雪乃は学校を出る。
 
 学校から歩いて五分の駅に着き、改札を通ろうとスマホを――
 
 無い。制服のポケットの中には見当たらず、カバンを漁っても見つからない。
 
「あちゃ~」

 生徒会室で使った覚えがあるから、たぶんそこに忘れてきたのだろう。
 
「すみません。生徒会室にスマホを忘れてきたみたいなんで戻ります。お疲れ様でした!」

 他の生徒会メンバーにそう声をかけ、雪乃は学校へと引き返した。
 
 グラウンドの横を通ると、まだ照明が付いている。
 
 怪訝に思いながらグラウンドを見れば、一人黙々と走り続ける人影があった。
 
 首藤一騎だ。
 
 ダッシュ東田との勝負は当然同じクラスの雪乃も見ていた。が、一騎がどういうつもりでリレーのアンカーに名乗りを上げたのかはよく分からない。
 
 とは言え、こうして残って練習しているところを見ると本気でアンカーの任を全うするつもりの様だ。
 
 そのひたむきな姿をしばし見つめていた雪乃だったが、一騎の変態ぶりを思い出して顔を背ける。
 
 走る一騎の姿に背中を向け、雪乃は生徒会室へと向かうのだった。
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