上 下
13 / 15

アクシデント

しおりを挟む
 いよいよ体育祭の日も近い。
 
 準備の方も大詰めで、あちこちてんやわんやである。
 
 そんな中、生徒会雑用係の首藤一騎と書記の大西知寿は校門をアーチに改造する作業の監督をしていた。
 
 監督と言ってもほぼ作業員の様なものだ。特に男手である一騎は肉体労働に借り出される。
 
 こんな時ものすごく役に立ちそうな会計の鈴木大樹と、副会長の千明雪乃はイベントステージの設営の方に回っていた。
 
「そこ、もうちょっと上。そう、そこでストップです!」

 知寿は遠くからアーチ全体を見ながら指示を飛ばす。
 
「あれ、なんか曲がってます?」

 知寿は首を傾げた。すでに設置済みの一番大きな看板が傾いているのだ。
 
 確認する為に近づき、下からアーチを見上げる。
 
――ガタン!

 看板がさらに大きく傾いた。
 
「え……?」
 
「おい馬鹿! 離れろ!」

 近くで作業をしていた一騎が叫ぶ。しかし知寿は一瞬呆けてしまった。
 
「ちっ!」
 
 メキメキと音を立てて看板が外れる。それは知寿の頭上に――
 
 その一瞬前に素早く駆け出した一騎が、体当たりする様に知寿を地面に引き倒す。
 
 間一髪、看板は二人に当たることなく反対方向に倒れた。
 
「ふぅ……」

 一騎は軽く息を吐いて身を起こす。
 
 すると何やら手のひらに柔らかい感触が?
 
 ムニュン。
 
「どこ触ってるんですか!」

 知寿の平手が一騎の頬に飛ぶのだった。
 
 
       ◆
 
 
「軽い捻挫ね」

 一騎の足の状態を確認し、養護教諭の保科志保ほしなしほがそう告げる。

 知寿を救う為に勢いよく飛び出した際、足首をひねってしまった様だ。
 
「そうですか。先生、この事は他言無用でお願いします」

「え? それは、別にいいけど……」

「大西、お前もだ」

「あなたまさか……その足でリレーに出るつもりですか?」

 書記として体育祭のパンフレットを作成した知寿は、クラス対抗リレーに一騎の名前が載っているのを知っていた。
 
「二日もあれば治るさ。問題ない」

「で、でも……」

「お前は俺に助けて貰った借りがあるだろう。その借りを返して貰おう」

「ぐっ……」

 一騎の怪我に負い目を感じている知寿は言葉に詰まる。
 
「首藤くん、やめた方がいいわ。軽いと言っても無理をすれば余計に悪くなってしまうのよ」

 養護教諭として志保も止めにかかった。
 
「先生は先程他言無用を了承してくれましたよね。その言葉を信じています」

 一騎は有無を言わさぬ強い意志を込めた瞳で志保を見る。
 
「それはリレーに出るなんて知らな――」

「お願いします」

 志保の言葉を遮り、一騎は深く頭を下げた。
 
 その姿に志保は何も言えなくなってしまう。

「治療ありがとうございました」

 もう一度軽く頭を下げ、一騎は椅子から立ち上がった。

「いいか、誰にも言うなよ」

 去り際に振り返って知寿に念を押し、一騎は保健室を出て行く。
 
 テーピングのおかげで歩くのには支障が無い様だ。
 
 知寿は不安げな表情でその背中を見送るのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

煙草🚬に、紅茶☕とパイ🥧、そこに御飯🍚。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

黄昏と黎明の死者奴隷《スレイデッド》

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

カーテンコール

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

禁断の果実

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

わたしは妹にとっても嫌われています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:5,353

双子の姉は令嬢で、妹の私は使用人だけれど、特に問題は無い。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:762

春、陽気の良い

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

ただいま、魔法の授業中!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

処理中です...