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アクシデント
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いよいよ体育祭の日も近い。
準備の方も大詰めで、あちこちてんやわんやである。
そんな中、生徒会雑用係の首藤一騎と書記の大西知寿は校門をアーチに改造する作業の監督をしていた。
監督と言ってもほぼ作業員の様なものだ。特に男手である一騎は肉体労働に借り出される。
こんな時ものすごく役に立ちそうな会計の鈴木大樹と、副会長の千明雪乃はイベントステージの設営の方に回っていた。
「そこ、もうちょっと上。そう、そこでストップです!」
知寿は遠くからアーチ全体を見ながら指示を飛ばす。
「あれ、なんか曲がってます?」
知寿は首を傾げた。すでに設置済みの一番大きな看板が傾いているのだ。
確認する為に近づき、下からアーチを見上げる。
――ガタン!
看板がさらに大きく傾いた。
「え……?」
「おい馬鹿! 離れろ!」
近くで作業をしていた一騎が叫ぶ。しかし知寿は一瞬呆けてしまった。
「ちっ!」
メキメキと音を立てて看板が外れる。それは知寿の頭上に――
その一瞬前に素早く駆け出した一騎が、体当たりする様に知寿を地面に引き倒す。
間一髪、看板は二人に当たることなく反対方向に倒れた。
「ふぅ……」
一騎は軽く息を吐いて身を起こす。
すると何やら手のひらに柔らかい感触が?
ムニュン。
「どこ触ってるんですか!」
知寿の平手が一騎の頬に飛ぶのだった。
◆
「軽い捻挫ね」
一騎の足の状態を確認し、養護教諭の保科志保がそう告げる。
知寿を救う為に勢いよく飛び出した際、足首をひねってしまった様だ。
「そうですか。先生、この事は他言無用でお願いします」
「え? それは、別にいいけど……」
「大西、お前もだ」
「あなたまさか……その足でリレーに出るつもりですか?」
書記として体育祭のパンフレットを作成した知寿は、クラス対抗リレーに一騎の名前が載っているのを知っていた。
「二日もあれば治るさ。問題ない」
「で、でも……」
「お前は俺に助けて貰った借りがあるだろう。その借りを返して貰おう」
「ぐっ……」
一騎の怪我に負い目を感じている知寿は言葉に詰まる。
「首藤くん、やめた方がいいわ。軽いと言っても無理をすれば余計に悪くなってしまうのよ」
養護教諭として志保も止めにかかった。
「先生は先程他言無用を了承してくれましたよね。その言葉を信じています」
一騎は有無を言わさぬ強い意志を込めた瞳で志保を見る。
「それはリレーに出るなんて知らな――」
「お願いします」
志保の言葉を遮り、一騎は深く頭を下げた。
その姿に志保は何も言えなくなってしまう。
「治療ありがとうございました」
もう一度軽く頭を下げ、一騎は椅子から立ち上がった。
「いいか、誰にも言うなよ」
去り際に振り返って知寿に念を押し、一騎は保健室を出て行く。
テーピングのおかげで歩くのには支障が無い様だ。
知寿は不安げな表情でその背中を見送るのだった。
準備の方も大詰めで、あちこちてんやわんやである。
そんな中、生徒会雑用係の首藤一騎と書記の大西知寿は校門をアーチに改造する作業の監督をしていた。
監督と言ってもほぼ作業員の様なものだ。特に男手である一騎は肉体労働に借り出される。
こんな時ものすごく役に立ちそうな会計の鈴木大樹と、副会長の千明雪乃はイベントステージの設営の方に回っていた。
「そこ、もうちょっと上。そう、そこでストップです!」
知寿は遠くからアーチ全体を見ながら指示を飛ばす。
「あれ、なんか曲がってます?」
知寿は首を傾げた。すでに設置済みの一番大きな看板が傾いているのだ。
確認する為に近づき、下からアーチを見上げる。
――ガタン!
看板がさらに大きく傾いた。
「え……?」
「おい馬鹿! 離れろ!」
近くで作業をしていた一騎が叫ぶ。しかし知寿は一瞬呆けてしまった。
「ちっ!」
メキメキと音を立てて看板が外れる。それは知寿の頭上に――
その一瞬前に素早く駆け出した一騎が、体当たりする様に知寿を地面に引き倒す。
間一髪、看板は二人に当たることなく反対方向に倒れた。
「ふぅ……」
一騎は軽く息を吐いて身を起こす。
すると何やら手のひらに柔らかい感触が?
ムニュン。
「どこ触ってるんですか!」
知寿の平手が一騎の頬に飛ぶのだった。
◆
「軽い捻挫ね」
一騎の足の状態を確認し、養護教諭の保科志保がそう告げる。
知寿を救う為に勢いよく飛び出した際、足首をひねってしまった様だ。
「そうですか。先生、この事は他言無用でお願いします」
「え? それは、別にいいけど……」
「大西、お前もだ」
「あなたまさか……その足でリレーに出るつもりですか?」
書記として体育祭のパンフレットを作成した知寿は、クラス対抗リレーに一騎の名前が載っているのを知っていた。
「二日もあれば治るさ。問題ない」
「で、でも……」
「お前は俺に助けて貰った借りがあるだろう。その借りを返して貰おう」
「ぐっ……」
一騎の怪我に負い目を感じている知寿は言葉に詰まる。
「首藤くん、やめた方がいいわ。軽いと言っても無理をすれば余計に悪くなってしまうのよ」
養護教諭として志保も止めにかかった。
「先生は先程他言無用を了承してくれましたよね。その言葉を信じています」
一騎は有無を言わさぬ強い意志を込めた瞳で志保を見る。
「それはリレーに出るなんて知らな――」
「お願いします」
志保の言葉を遮り、一騎は深く頭を下げた。
その姿に志保は何も言えなくなってしまう。
「治療ありがとうございました」
もう一度軽く頭を下げ、一騎は椅子から立ち上がった。
「いいか、誰にも言うなよ」
去り際に振り返って知寿に念を押し、一騎は保健室を出て行く。
テーピングのおかげで歩くのには支障が無い様だ。
知寿は不安げな表情でその背中を見送るのだった。
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