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第5話 地上をぶらぶら

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*話数は飛んでいません。雨宮かなたを地上に送り届けた際の話は後々回想や掲示板あたりで軽く触れると思います。本作は地の文は今のところ主人公メインなので、他のキャラの反応は掲示板などお待ちください。


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「服は買ったし、後は適当な酒でも買ってくか」

 地上に出た俺は、まずダンジョン入り口近くにある服屋にいって適当な服をいくつか買い込んだ。
 
(地上でも探索用の装備で歩いてるやつが多くて助かったな)

 まともな地上の服を持ってないので目立ってしまうかと思ったが、そんなことは無かった。良かった。
 
 俺が地上にいた頃にはまだなかったのだが、この十年ぐらいでダンジョン周辺の様相も様変わりしている。一番はやっぱりダンジョン周辺の建物だ。以前はただの街の中にぽんとダンジョンの入口があったが、現在は一般の企業などは立ち退き、代わりにダンジョンに挑む探索者が利用するショップなどが多く進出している。また、建物自体もモンスターのスタンピード対策のためか防護性能が強化されているようだ。
 
(にしても……やっぱり権力的なのは手を回してるよな。集団として仕方ないとはいえめんどくせえ)

 最初、地上で使える金を一切持っていなかったので、下層で適当に狩ってきたモンスターの素材を買取ショップに持ち込んだのだ。
 
 ただそこで探索者証を示せと言われたのが痛かった。そんなものは持ってないし、持っていたところで10年も更新していなければ失効しているだろう。
 
 結局、俺が持ち込んだ素材が下層の深いところでかつ量がそれなりにあったので買い取ってもらうことが出来たが、手数料ということでそれなりに持っていかれた。おそらく普段からそういう商売をしているんだろう。店の裏手を普通に示されたし。
 
 話を聞いたところによると、ダンジョン組合と探索者協会が定めたルールらしい。未成年の素材売買を禁止することで無茶をさせないためとか言っていたが、こっちからしたらいい迷惑である。
 
(そんで後は……土産買って持ってくか。酒飲むか? まあ良いか)

 その後、ダンジョン周辺の区域から出て普通の店に入る。適当に良さげな酒屋に入って、久しぶりに会う父への土産だと説明していくつか選んでもらった。嘘はついていない。
 
 割と真面目な話、とりあえず一旦10年ぶりに両親に会いに行くつもりである。
 
(10年ぶりか……長えなあ。さてまず生きてんのか?)

 10年前に自分のしたいことは告げたし、それで大喧嘩もした。それでも最後は殴られながら認めてもらって、ダンジョン生活へと挑んだ。
 
 それ以来の再会だ。家族愛とか友人愛とかそういうのとは縁遠い性格だとは思っているし、ダンジョンに潜る前に両親には育ててもらった恩は返してきた。
 
 それでも、久しぶりに会うとなると感慨深くなるものだ。
 

 
******



 新幹線と新幹線と特急と普通電車を乗り継いで7時間。実家の最寄り駅にたどりついたが、ここからさらに徒歩で1時間はかかる実家。いざ行ってみたは良いが、両親の反応は淡白なものだった。
 
 帰ってそうそう、俺の持っていった酒を開けた父は、それをグラスにうつしつつ話しかけてくる。
 
「匠、お前これからどうするんか」
「あん? ああ、これからね。またダンジョンに戻るよ。なんだかんだあっちの生活も楽しいし」

 そうか、と言いながら、酒で唇を濡らす。ダンジョンに入る前に両親が一生遊んで暮らせる程度の金は送ったのだが、贅沢はせずに農業をしつつ暮らしていたらしい。縁側で本を読んでいる父に声をかけたところ、『おう、帰ったか』と帰されて拍子抜けしてしまった。
 
「お前がそうしたいならそれでも良いけどな」
「ん、おう」
「ちったあ外に目を向けてみてもいいと、わしは思う」
「……外なあ」

 10年前も、幾度も話したことだ。
 
 当時の俺は、ダンジョンしか見ていなかった。それは、俺の趣味がラノベやアニメ、ゲームなんかのファンタジーに傾倒したものだったからという前向きな理由もあるし、それ以外のものからの逃避という後ろ向きな理由もあった。
 
「まだ、欲はわかんか?」
「……」

 欲。それは以前の俺がよく口にしていた言い訳で、実際に苦しんでいたことだ。
 
 大学生の俺は、おそらく精神をやられていたのだろうが、高校生の頃と比べて欲というものが全くもってなくなっていた。
 
『死ぬまで生きられれば良い』。名誉欲だとか、金銭欲だとか、物欲だとか、承認欲求だとか。そういうのが全く無くなっていて。食欲だけは腹はすいたのであったが、それ以外の欲が欠けていっていた。性欲が無くなっていったのは自分でもかなりやばいなと思っていた。というか一時期は生存欲まで無くなって流石に精神科にかかった。

「どう、だろうなあ」
「……今のお前なら、死ぬまで生きるぐらいの稼ぎは出来るんだろ?」
「まあ、そりゃあな」
「なら、ビビることも無いと思うがな。嫌になったときにはいくらでもやめられる」

 つまり親父は、俺になんらかの形で社会復帰をしろと言っているのだろう。
 
(まあ、そりゃそうか。いつ死ぬかわからんダンジョンで10年も。しかも俺が帰ってこなけりゃあ、死んでるのか生きてるのかわかんねえしなあ)

 親としての心配。当然のことだ。
 
 しかし。
 
「今は、ダンジョンに潜ってんのが楽しいんだよなあ」
「……そうか」
「別に前みたいに他を考えてないってわけじゃなくてさ」

 黙って聞いてくれている親父に、ソフトドリンクで唇を濡らして俺も語る。
 
「ダンジョンの一番奥の、その先にさ。なんか、異世界みたいなのがあるんだよ」
「異世界?」
「そう。ダンジョンの中って基本洞窟になってんだけど、そこは空があってな。そんで人がいた文明がある。それも明らかに地球のそれじゃなくて、魔法とかのファンタジーの世界観っぽかった」
「……ダンジョンの奥に、か」
「そう。そこがこれまた広くてな。もう何年か歩き回ってるけど、まだ全然回りきれてない」

 まさしく俺が望んでいたファンタジーの世界で。だからこそ、今の俺はそこに惹かれている。
 
「まあでも、何かしら考えてはみるよ」
「……うむ。頑張れよ」

 まあ流石にね。10年間も好きな生活をしていると、多少は頑張ってみようという元気も出てくるわけだ。メンタルケア、大事。

 その後、買い物から戻ってきた母も含めて10年分の思い出語りをした。久しぶりに人と長々と話すので俺も饒舌になって、両親も俺の残していった金のおかげで色々なことに挑戦する余裕が出来たらしい。今はダンジョン関連の投資で更に一山当てて、それを使って離れたところに自前のログハウスを作ろうとしているそうだ。
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