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イケアの街と面倒事

続・コンサルタント業?

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そこまで一気に言うと、何も言う事が無いのか、リサさんは押し黙ってしまった。

ダニーさんも黙っているけれど、この人は寡黙なだけっぽいし何か考えているような表情をしている。


この店の厨房の方を見ていると、そんなにお酒の種類は置いていないように思う。夜はお酒の飲めるお食事処という感じかな。

ならば夜にグラタンを出しても、食べたい人はいると思う。お酒を飲みながらおつまみや一品料理を食べていれば、そんなに待たされているとは感じないだろうし。

グラタンもオーブンに入れる前の状態で準備しておけば焼き時間だけで済む。



「まぁ、ポテトチップスやフライドポテトも夜向きかも知れませんが、数分で出来ますからそこまで気にしなくて良いと思います。

そして、ここからが提案というか、お店についてのアドバイスになります。」


まー、お店については関係ないから、言わなくても本当は良いんだけどね。単純なるお節介かなぁ。



「私個人の意見として聞いて下さい。

今、お昼は何人で接客していますか?その皆さんは字が読めますか?」


「はぁ~?何?字が読めない事を馬鹿にしてるの?私も含めて接客の女の子2人は字が読めませんけど。でも接客に問題もないですけど。」


おぉう、リサさんが顔を真っ赤にして怒り出しちゃった。なんていうかリサさんは前世で言うところの学歴コンプレックスみたいなのがあるのかな。

すぐに攻撃的な言葉や態度は自分を守る為とか?それとも単に私が気に入らないから?


「馬鹿になんてしていません。リサさんは最初に料理の種類が更に増えるのも、会計を計算するのも面倒だ、と言っていました。

確かにレシピを購入して頂いたので、更に料理の種類が増えますよね。

それらの事を改善しないと、今以上にお客が増えた時に大変になると思うので確認したんです。」


私が申請した料理を食べられるお店が増えるまでの間は、リサさんのお店を含めて数軒でしか取り扱っていない事になる。市場での行列を考えると、最初はお客さんが殺到する可能性もあるんだよね。

その時の対応次第では儲けがぐんと増えるか、お客さんを捌ききれずに他の店にお客さんが流れてしまう可能性もある。


「昼はリサと15と18の女の子が接客をしている。

その2人は字も読めないが、計算も苦手でよく間違えるから、会計の計算はリサがやっている。

女の子たちは料理の値段を覚えられずにいるから、計算もよく間違ってしまうらしい。」

やっぱりそうか。

この店に入って周囲を見回した時に、メニュー表は見当たらず、壁にも貼られていなかった。

だからこれ以上料理の種類が増えるのは面倒だと思ったんだろう。それにメニューを貼ってもリサさんたちは読めないから意味が無い、とメニュー表も置いていなかったのかも知れない。

お客さんの方も読めない人も居るから絶対必要か、と言われればそんな事は無い。けれど有った方がお互いに手間も省けていいと思うんだよね。メニューが無ければ新商品が増えていても分からないと思うしね。


「リサさん、今このお店で出している料理の種類はいくつありますか?その値段も全部覚えていますか?」



「っ!それぐらい覚えているわよ。もう10年以上、ここで店やっているんだから。
料理は・・・・・14、違う、、、16種類出せるようになっているわ。」


「1年中、同じ数ですか?どの料理も同じぐらい注文されますか?お客さんは16種類の料理がある事を知っていますか?」


「何よ、質問ばかりして。そりゃ夏と冬じゃ出す料理も少し違うわよ。

よく出る料理もあるし偶にしか出ないのもあるわよ、

でもそれって普通の事でしょ。お客が料理の種類を知っているかなんて客に聞かなきゃ分かるわけないじゃない!」


質問ばかりされる事に苛立ち始めたリサさんは、私の質問の意図を考える気は全く無いらしい。

ダニーさんの目は段々と真剣みを帯びた目になってきているので、何か気づく事があったのかも知れない。


「リサさんは10年以上お店をやっているから、料理の種類も値段もよく覚えています。

でも雇われた女の子たちは何年、ここで働いていますか?

字が読めないから仕方ないとはいえ、口頭と実物だけで、忙しい時間帯に仕事をしながら料理名と値段を覚えるのは大変だと思います。

ましてや偶にしか出ない料理なら覚えづらいでしょう。だから間違える。そしてリサさんに仕事の負担が多くなってしまう。

店員が覚えきれないのに、お客さんが料理の種類を全て把握出来ているとも思えません。メニュー表も無いんですから。

そうすると自分が知っているメニューの中から料理を注文するようになりませんか?

お客さんに聞かれても忙しい時間帯に、16種類の料理を一つ一つ料理と値段を説明しますか?

お客が頼む人気のある料理、お勧めの料理を2、3品、説明するだけになっていませんか?」

私の言葉に思い当たる事があったのか、リサさんが目を逸らしながら小さく呟いた。


「だって字が読めなきゃ、メニューなんてあっても仕方ないじゃない、、、。」


うん、注文する時にメニューを指差して『これ頂戴』と言われると読めないなんて言えないよね、メニューを置いているお店の人間なのに。

そういう経験があったのかも知れない。字は読めなくても記憶力はいいから問題無い、とそう思ったのかも知れない。


「壁に貼ってあったりメニュー表を見ていれば、女の子たちも料理名と値段だけは覚える事が出来たかも知れませんよ。」


リサさんが料理の種類と値段を覚えられたから、女の子たちもすぐに覚えられるとは限らない。彼女たちとはこの店で働く年数も違うのだから。


「でも計算もよく間違えるし、、、。」


「それで結局、リサさんがやる事になって1人で大変な思いをしているんですよ?

これはもうただの思いつきですけど、例えばお昼は定食のみにするんです。そしてその定食も種類を絞るんです。」


「そんなっ、種類を減らしたら、お客が減っちゃうかもっ。」

「リサさんがさっき言ったように、偶にしか注文されない料理って何種類ありますか?

その偶にしか出ない料理目当てのお客さんが減ったらどれぐらいの損になりますか?

料理の種類を絞ったり定食という形にする事で、リサさんや女の子たちの負担も減って働きやすくなり、お客さんも迷わずに注文しやすくなる可能性もあるんです。」


「で、でも会計の計算間違いは、、、。」



「例えば1品料理は辞めて、定食という形にしてメインのおかずに2、3種類他の料理を付けます。

そうですね、『シチューとパンとサラダと肉料理』『スープとパンと魚料理とサラダ』『日替わりメニュー』というようにします。そして定食1つで銅貨5枚というように値段を決めて前払いで貰うんです。

前払いで貰えば、定食代だけで済むので計算もないですよね。

お客さんも定食に数種類の料理が入っていれば、1品料理を頼む必要も無いでしょうし。」


「でもお店に来る客が多いから、前払いした人が誰だか分からなくなるかも知れないし、何を注文したかも分からなくなるかも?」


うん、きっとそういうトラブルも何度もあったんだろう。出す順番を間違えたり、何品注文されたか分からなくってお金貰い損ねたりとか。


「色か目印を付けた木札などをお金を貰ったら渡せばいいんですよ。

肉定食は赤か丸印、魚は青か三角印、日替わりは黄色で四角印、みたいに決めるんです。

壁にもメニューとして貼って、同じ色か印で分かりやすくするんです。

例えば、壁に貼ったメニューには、字と色かしるし以外に、肉定食は肉の絵を魚定食には魚の絵を入れればより分かりやすくなるかも。

あと木札に数字も記入して、注文された順番で配膳されるようにすれば出し間違いも防げると思います。


料理を運んだら木札を回収すれば座っている人で注文した人と、そうでない人の区別もつきますし、木札の種類で注文した料理も、何番目に注文した人かも分かるようになります。」


「すぐに出来るかはわからないが良い案だと思う。」


呆然として黙りこくってしまったリサさんの代わりにダニーさんが答えてくれた。

これは一例であって他にもっと単純な方法もあると思う。ただこういう方法、考え方もあります、という事を伝えたかっただけだ。

どうしたら効率良く仕事出来るかとか儲けを増やせるか、の思考は大事だと思うんだよね。それを意識して貰えるだけでも良いかな、と思っている。


「ありがとうございます。これはほんの思いつきですので、参考程度に留めておいてくれて構いません。私はレシピの販売をしただけですから。」


本当にそう。実際にお金も時間もかけて、しっかりと店の方針を決めて実行するのはダニーさんたちだから。


「いや、色々と参考になったよ。ありがとう。この料理を含めてレシピを買って良かったよ。」


「こちらこそ買って頂きありがとうございました。最後に宜しければ、レシピの料理を店で販売する様になったら、この布を店の外の壁に貼ってみて下さい。」


そう言って、ハンカチサイズの布を渡した。中央に花をイメージしたデザインが入っている。刺繍する時間が無かったから、何枚か色物の布で縫い付けてそれっぽくした。

本当は看板みたいな感じでも良かったんだけどね。とりあえず壁に貼れれば良いかな、ぐらいの手作り作品だ。


「これは?」


「私が販売した料理レシピの料理を出しているお店の目印です。

屋台にも旗にして取り付けてあるエトリナ商会のマーク入りです。

屋台で販売する際に、この旗のある店で販売されています、と宣伝する予定です。」


店名だと忘れてしまったりするけど、これなら店の前に行けば分かるものね。

いきなりのレシピ販売になってしまったので今回限りの初回特典だ。


「君は商売を始めたばかりだというのに凄いな。喜んで店の外に貼らせて貰うよ。」


ダニーさんは柔らかい笑顔になってそう言った。
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