捨てられ令嬢は屋台を使って町おこしをする。

しずもり

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ハドソン領 領都

家具工房にて

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商業ギルドの建物から出て次の目的地まで徒歩で向かった先はケインさんの家具工房だ。
追加で頼んでいた物の受け取りとたぶん少し話し合いをする事になると思う。


昨日、積み木と縄跳びを受け取った時のケインさんは何か言いたそうな顔をしていた。積み木や縄跳びについて幾つか質問をされたけど、結局は『これらの玩具をどこで知ったのか?』を知りたかったようだ。

まぁ、つまりは商業ギルドに登録してあるかどうかが知りたかったんじゃないかなぁ。


工房前で私が縄跳びの実演をした事で周囲にいた人たちが興味を示していたからね。
二重跳びを披露してからは特に。

積み木も子どもたちの反応で『売れる!』と思ったんだろう。


「こんにちは~。エトリナ商会のティアナです。」


ケインさんの工房は表に椅子やテーブルなどの家具が幾つか置かれていているけど、基本的には平民向け商品だ。
領都にある工房といっても貴族御用達でなければ貴族がふらりと買い物や注文にくる事は稀だと思う。
貴族向けの家具は使われている木材から違うからねぇ。


家具はそんなに頻繁に買い替えるものでもないから、『こんなのが欲しい!』みたいな依頼を街の人から受けて作る家具工房は多いらしい。
だから私も依頼出来た訳なんだけどね。


「あ、ティアナさん。注文の品は出来てるよ。

前の日の積み木に似ている物もあるけれど、何に使うか聞いてもいいかい?」


遠慮がちに聞いてくるケインさんにちょっと笑ってしまう。


「勿論、いいですよ。それ以外にもケインさんは私に聞きたい事があるんじゃないんですか?」


商業ギルドに申請しているかどうか、って意外と聞きにくい事なのかな。

著作権的なレシピ登録って、実は無断使用に関して取り締まりが厳しかったり訴えられる危険性が高いとか?


「いやぁ~、実は昨日はあれから『縄跳びが欲しい !』って客が結構いたんだよ。

それにウチの小僧どもが近所に積み木を自慢したみたいでそっちもその、、、。

物は簡単で直ぐに作れるけど、勝手に作って売ってもいいもんか、と。」


確かにどちらも簡単に作れるし適当に代用品で遊べるような物なんだよね。


でも折角売り出すなら商業ギルドに登録した方がいいと思う。
誰でも作れる物だけれど、この場合は" 商品名の使用  "の対価として使用料を受け取ると考えればいいんじゃないかなぁ。
使用料はめちゃめちゃ安く設定する事になりそうだけれど、考案者として名は残るし何も無いよりはいいよね。


「あ、二つともまだギルドに登録していませんよ。ケインさんに依頼する前にギルドでも確認しています。」


「そっか、そうなんだな。

・・・・それでティアナさんは商業ギルドで商品の登録はする、んだよな?」


「あ~。それなんですけれど。

申請用紙は書いてありますが、登録名義ははケインさんでお願いしても良いですか?」


「そりゃ、登録するよな。そうだよ、、、な?

ん?俺で登録を?えっ、えっ?」


ケインさんはてっきり私が商品の著作権を主張してギルドに登録すると思っていたんだろう。
確かに依頼したのは私で、ケインさんは注文通りに製作しただけだからね。

でも屋台の時もそうだったけれど、私としては実際に作った人にも多少の権利はあると思うんだよね。
今回の場合は簡単な玩具だから試行錯誤して作るって事は無かったとは思う。
でも言ってしまえば、私はアイデアだけで作るのは人任せになっている。

『こんな感じで作って。後はいい感じにヨロシク!』

って感じじゃない?

簡単な物ならば言われた通りに作れるんだろうけれど、それでも私にはその知識が無かったり自分では作れない商品は沢山あるしこれからはそういう物が増えて行くと思う。


その時になって『じゃあ、これからは共同で登録しようね。』とするよりは受け取る使用料の取り分の比率を変えるにしても、最初から共同で登録申請する方が良いんじゃないかな。
トラブル回避の為にも。


「はい。私はアイデアを出しただけですし、正直なところ積み木も縄跳びも割と簡単に作れてしまうじゃないですか。

材料費も製作時間もそんなに掛からないでしょう。商品を売る場合にそんなに高額での販売も出来ないだろう事を考えたら、使用料も少額になると思います。

勿論、それでも沢山の人が購入してくれたらそれなりの金額にはなると思いますが。」


「だったらティアナさんが登録した方が、、、。」


「本来ならそうでしょうが、共同登録としない代わりにケインさんに頼みたい事があるんです。」


「頼み事?共同登録じゃなくて俺が登録名義人になるってんなら、ティアナさんの頼み事は何でも聞く、、、あ、いや俺の出来る範囲で、になるが。」


私の言葉に何も考えずに返事をしようとしてから、流石に頼み事の内容を聞いてもいないのに返事をするのは不味いとケインさんは気付いたらしい。

ケインさんは積み木や縄跳びの反応を見て直ぐに『売れる!』と思ったようだし、自分が登録出来るなら、と安請け合いをしそうになりながらも、『出来る範囲で~。』と返事をしている。


当たり前ではあるけれど、それでも『もし、目先の儲け話に飛びついた後に無理難題を押し付けられたら~。』という危機意識が持てるのは店主として正しい判断だと思う。


「そんな身構えなくても大丈夫ですよ。

頼み事はクレア孤児院の事です。今、孤児院でお世話になっているのですが、ケインさんに少しだけ孤児院の力になっていただけたら、と思っています。

ロナリー院長にこれから話をするつもりですが、これは私の個人的な意見で、まだ孤児院は何も関係していません。
ですから孤児院側に断られたら頼み事も無しで構いません。」

「孤児院の力になるのは内容によっては問題ないが、ティアナさんが何故、孤児院の事を頼むんだ?」


私の口振りからには問題は無さそうだと思ったようだけれど、クレア孤児院の客人扱いの私が商品の登録を放棄してまで頼み事を優先させる事がケインさんには理解出来なかったらしい。

確かに私はクレア孤児院とは縁もゆかりもない部外者だからね。


「聞いたところによると、資金難で閉鎖されるところをロナリー院長が善意で買い取って運営されているんですよね?

私、それを聞いて感動しちゃって。でも今の私では寄付金を納められる程の稼ぎはなくて、だけど何か力になりたいなぁ~、て思ったんですよ。

自分で登録申請すれば使用料は丸っと私のところに入りますが、孤児院に寄付が出来るほどの額かも分かりません。

この街に在住するなら私自身が孤児院のお手伝いも出来ますがそれも出来ません。

ですので、私の代わりにケインさんの空いた時間を少しだけクレア孤児院に使って頂けないか、というのが私の頼み事です。」


クレア孤児院の事情を私が勝手にする事は出来ない。だから『孤児院のスポンサーになりたかった作戦 』にしたんだけど、納得してもらえたかなぁ?

寄付金だって善意なんだから少額でも良いだろう。
でも少額の寄付よりも週に一回、月に一回、でも孤児院の助けになる事をして貰った方が今の孤児院には良いと思う。


の件はロナリー院長に話をしてからお願いします。決して無理なお願いもしませんので。
ロナリー院長次第ですので、この件は一先ず終わりにしましょう。

積み木と縄跳びの登録申請については私がある程度は書いてきました。後は製作部分についてケインさんが必要と思う事があれば言ってくれれば書き足します。

それと積み木には売り方について提案したい事がありますので、少し話をするお時間を下さい。それと積み木の追加注文もお願いしたいと思っています。」


頼み事の内容もロナリー院長の許可を得てから話した方がいいのは、昨夜の件で分かっている。

ケインさん名義で登録するのを了承して貰う為にと言葉にした部分もあるんだよね。

ケインさんに都合の良い話にみえるだろうけれど、私からするとケインさんへの頼み事の方が時間を取られるし大変だと思う。
それを言わないで交渉しているのは、使用料をケインさんに全て譲る事で許して欲しい。


一時間程、積み木についての打ち合わせをした後、孤児院で使う予定の注文品を受け取って孤児院に戻る頃にはお昼になっていた。



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