6 / 11
聖女ミーシェ 4
しおりを挟む
ミーシェとウィルは言祝ぎ草に導かれるままに、歩き、疲れたら休憩し、日が暮れる前に寝床を確保して眠る。空が白み始める前に目覚めてまた歩き出す。
不思議なことに、日が暮れ始めれば、丁度良い場所に洞窟や大きな木の下へと辿り着く。
お腹が空けば、二人の前に鳥やウサギが飛び出してきて、それをウィルが仕留めて食べる。渇いた喉を潤す小川も、甘い果実をつけた木も、まるで誰かに差し出されたかのように二人の前に現れる。
道などない森の中を一日中歩き続けているのに、靴擦れ一つ出来なければ足が疲れる事もない。
そうして歩き続け三日目の朝のこと。空が白み始めた頃に二人は小さな小屋を見つけた。
いよいよ人のいる場所に近づいてきた事に、ミーシェはホッとすると同時に不安な気持ちがジワリジワリと胸の内に広がっていくのを感じた。
「ミーシェ、大丈夫だよ。小屋の中にガーネシアの文字で書かれた本があった。
僕たちは迷う事なくガーネシアに辿り着いたんだ。
たぶん此処はガーネシア王国の西側の森だと思う。もう少し歩いて湖が見えてくれば間違いない」
ウィルにそう言われれば、ミーシェは安心して息を吐き出した。それと同時にもう少しでウィルと別れる事になるのだと寂しさも覚える。
本当にミーシェ一人で逃げ切ることは出来るのだろうか。
ウィルとはもう二度と会えないのだろうか。
自分で決めた事なのに、いざ別れの時間が近づけば途端に心細くなる。
そうして気付かぬ内にミーシェの足は止まっていた。
「ミーシェ?」
「ガーネシアで私の居場所は見つかるかしら?」
離れ難い気持ちがむくむくと湧き上がってきて、ついそんな言葉が口から出てしまう。
「大丈夫だよ。君は何処に行っても君らしく生きられるだろう。
あの大神殿の中で、君は腐ることなく聖女のお務めを果たしてきた。
それをマハークベ神様はずっと君を見てきた筈だ。これからも君を見ていて下さるだろう。
湖に着いたら、一度休憩をしようか」
ミーシェは差し出されたウィルの手を取り、二人並んで歩き出す。
ウィルに励まされ、心が温かくなるを感じながらミーシェは、ウィルと離れても彼の幸せを願い続けようと心に誓う。
そうして手を繋いだまま、歩いた先にはー。
「わぁっ!綺麗、、、」
ウィルの言葉通りに現れた湖の周りには、辺り一面に言祝ぎ草の花が咲いていた。黄色い花弁の言祝ぎ草の花が。
その光景をミーシェはただただジッと眺めていた。
聖女が一年祈りを捧げ育てた言祝ぎ草の中で、黄色い花弁の言祝ぎ草の花が咲くのはたった一鉢だけ、、、。
それなのに、目の前には黄色い言祝ぎ草の花が咲き乱れている。
「フフッ。フフフ、、、、」
「ミーシェ?」
クスクスと突然笑い出したミーシェにウィルが戸惑いの表情を向ける。
「ツィオーニでは、黄色い花が咲いた言祝ぎ草を育てた聖女が言祝ぎの聖女に選ばれます。聖女たちの中で選ばれるのはたった一人だけ。
それなのにこの場所には黄色の花の言祝ぎ草しか咲いていません。
私は言祝ぎの聖女に選ばれたばかりに、聖女の資格を剥奪されて、馬車ごと崖がら落とされたのに」
「ミーシェ、それは、、、」
ウィルはミーシェの言葉を恨み言ととったようだ。だがミーシェの本心は違う。
「ウィル、違いますよ?
なぁ~んだ、です。
大神殿では、聖女たちも神官たちもあんなに黄色い花の言祝ぎ草に拘っていたのに。
此処にはこんなに当たり前のように咲いている。
ツィオーニは、私たちは、なんて世間知らずだったのだろう、って思ったらとても可笑しくて」
マハークベ神様は、たった一人の聖女だけに祝福の言葉を伝える訳がないのだ。
国の、世界の至る所で、言葉として届かなくても、マハークベ神様は、他の神々はこうしてこの世界を祝福して下さっている。
もしかしたら祝福を表す術は、黄色い言祝ぎ草だけでは無いのかも知れない。
ツィオーニでは言祝ぎ草でも、他国では他の草花かも知れない。
植物ではなく、動物が祝福の象徴になっているのかも知れない。
今までの私たちは、なんて狭い世界の中だけで生きていたのだろう。
「そういえばもう新しい年に変わっていたね。
今頃、ツィオーニでは新年の儀が行われているかも知れないね。
それとももう終わった頃だろうか。
ミーシェ。折角だからこの場所で、この湖に、祈りを捧げてくれないか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」や「エール」での応援もありがとうございます。
不思議なことに、日が暮れ始めれば、丁度良い場所に洞窟や大きな木の下へと辿り着く。
お腹が空けば、二人の前に鳥やウサギが飛び出してきて、それをウィルが仕留めて食べる。渇いた喉を潤す小川も、甘い果実をつけた木も、まるで誰かに差し出されたかのように二人の前に現れる。
道などない森の中を一日中歩き続けているのに、靴擦れ一つ出来なければ足が疲れる事もない。
そうして歩き続け三日目の朝のこと。空が白み始めた頃に二人は小さな小屋を見つけた。
いよいよ人のいる場所に近づいてきた事に、ミーシェはホッとすると同時に不安な気持ちがジワリジワリと胸の内に広がっていくのを感じた。
「ミーシェ、大丈夫だよ。小屋の中にガーネシアの文字で書かれた本があった。
僕たちは迷う事なくガーネシアに辿り着いたんだ。
たぶん此処はガーネシア王国の西側の森だと思う。もう少し歩いて湖が見えてくれば間違いない」
ウィルにそう言われれば、ミーシェは安心して息を吐き出した。それと同時にもう少しでウィルと別れる事になるのだと寂しさも覚える。
本当にミーシェ一人で逃げ切ることは出来るのだろうか。
ウィルとはもう二度と会えないのだろうか。
自分で決めた事なのに、いざ別れの時間が近づけば途端に心細くなる。
そうして気付かぬ内にミーシェの足は止まっていた。
「ミーシェ?」
「ガーネシアで私の居場所は見つかるかしら?」
離れ難い気持ちがむくむくと湧き上がってきて、ついそんな言葉が口から出てしまう。
「大丈夫だよ。君は何処に行っても君らしく生きられるだろう。
あの大神殿の中で、君は腐ることなく聖女のお務めを果たしてきた。
それをマハークベ神様はずっと君を見てきた筈だ。これからも君を見ていて下さるだろう。
湖に着いたら、一度休憩をしようか」
ミーシェは差し出されたウィルの手を取り、二人並んで歩き出す。
ウィルに励まされ、心が温かくなるを感じながらミーシェは、ウィルと離れても彼の幸せを願い続けようと心に誓う。
そうして手を繋いだまま、歩いた先にはー。
「わぁっ!綺麗、、、」
ウィルの言葉通りに現れた湖の周りには、辺り一面に言祝ぎ草の花が咲いていた。黄色い花弁の言祝ぎ草の花が。
その光景をミーシェはただただジッと眺めていた。
聖女が一年祈りを捧げ育てた言祝ぎ草の中で、黄色い花弁の言祝ぎ草の花が咲くのはたった一鉢だけ、、、。
それなのに、目の前には黄色い言祝ぎ草の花が咲き乱れている。
「フフッ。フフフ、、、、」
「ミーシェ?」
クスクスと突然笑い出したミーシェにウィルが戸惑いの表情を向ける。
「ツィオーニでは、黄色い花が咲いた言祝ぎ草を育てた聖女が言祝ぎの聖女に選ばれます。聖女たちの中で選ばれるのはたった一人だけ。
それなのにこの場所には黄色の花の言祝ぎ草しか咲いていません。
私は言祝ぎの聖女に選ばれたばかりに、聖女の資格を剥奪されて、馬車ごと崖がら落とされたのに」
「ミーシェ、それは、、、」
ウィルはミーシェの言葉を恨み言ととったようだ。だがミーシェの本心は違う。
「ウィル、違いますよ?
なぁ~んだ、です。
大神殿では、聖女たちも神官たちもあんなに黄色い花の言祝ぎ草に拘っていたのに。
此処にはこんなに当たり前のように咲いている。
ツィオーニは、私たちは、なんて世間知らずだったのだろう、って思ったらとても可笑しくて」
マハークベ神様は、たった一人の聖女だけに祝福の言葉を伝える訳がないのだ。
国の、世界の至る所で、言葉として届かなくても、マハークベ神様は、他の神々はこうしてこの世界を祝福して下さっている。
もしかしたら祝福を表す術は、黄色い言祝ぎ草だけでは無いのかも知れない。
ツィオーニでは言祝ぎ草でも、他国では他の草花かも知れない。
植物ではなく、動物が祝福の象徴になっているのかも知れない。
今までの私たちは、なんて狭い世界の中だけで生きていたのだろう。
「そういえばもう新しい年に変わっていたね。
今頃、ツィオーニでは新年の儀が行われているかも知れないね。
それとももう終わった頃だろうか。
ミーシェ。折角だからこの場所で、この湖に、祈りを捧げてくれないか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」や「エール」での応援もありがとうございます。
170
あなたにおすすめの小説
旅の道連れ、さようなら【短編】
キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。
いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。
聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。
常識的に考えて
章槻雅希
ファンタジー
アッヘンヴァル王国に聖女が現れた。王国の第一王子とその側近は彼女の世話係に選ばれた。女神教正教会の依頼を国王が了承したためだ。
しかし、これに第一王女が異を唱えた。なぜ未婚の少女の世話係を同年代の異性が行うのかと。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。
ラウリーは夢を見ない
ひづき
ファンタジー
公爵家に生まれたラウリーは失敗作だと両親に評価された。
ラウリーの婚約者は男爵家の跡取り息子で、不良物件を押し付けられたとご立腹。お前に使わせる金は一切ないと言う。
父である公爵は、ラウリーの婚約者の言い分を汲んで清貧を覚えさせるためにラウリーへの予算を半分に削れと言い出した。
「───お嬢様を餓死でもさせるおつもりですか?」
ないものを削れだなんて無理難題、大変ね。と、ラウリーは他人事である。
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる