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聖女ラヴィーナ
しおりを挟む私のモノを奪ったミーシェは邪魔だ!
ツィオーニ国のある大陸には、大陸の半分の国土を持つハヌマン帝国と、過去には国力が大陸一と言われていたガーネシア王国を中心に七つの国がある。
その中でツィオーニ国は七つの国の中で一番小さな国だった。
ツィオーニ国の筆頭公爵家の令嬢ラヴィーナ・グランは、王族を抜かした貴族家の令嬢たちの中で最も高貴な存在である。加えて、王太子ヴァイスの婚約者でもあるから身分は準王族の扱いになる。
ヴァイスが国王になるのは未だ先の事ではあるが、ラヴィーナは王太子妃から王妃となり、いずれ子を産み国母となる。
それは自分に相応しい未来だと思っていた。そうは思うのだが、ラヴィーナは小国の王妃という立ち位置に不満もあった。
この国で一番美しい私であれば、帝国の妃にだってなれた筈よ。
帝国は無理だったとしても、ガーネシア王国の王妃にならなれたのじゃないかしら?
まぁ、あの国は落ち目だから、話が来てもこちらからお断りだったけれど。
この国の高位貴族の中では、私が一番美しく聡明であるから、ヴァイス様の婚約者に選ばれてしまったのは仕方のない事なのよね。
ラヴィーナは十歳の時に結ばれた婚約に満足していない訳ではなかった。
この国の中だけで過ごすのならば、自尊心も満たされるし、公爵家の威光を存分に振りかざす事も出来るからだ。
しかし他国との交流会や会議に王太子と共に参加すると、途端にラヴィーナは不平不満だらけになる。
何故、私より容姿の劣る凡庸な女が帝国の第二皇子の婚約者なのだろう。
何故、伯爵令嬢風情がシーヴァ国の王太子妃をやっているのよ。
言い出したらキリが無いほど、他国の王族たちの婚約者、妃になった女たちには納得がいかない。
確かにラヴィーナは母国の王太子の婚約者であるが、その様な事を気にせずに『是非、妃に!』と、望んでくれたって構わなかったのに。
ラヴィーナは確かに美しい。十七歳という若さを抜きにしても、黄金色に輝く美しい髪のラヴィーナに、その完璧な容姿とロイヤルブルーの瞳に見つめられたなら、彼女を求めない男性はいないと言われている。
それ程の美を持つラヴィーナへの態度が全く変わらないのが、王太子ヴァイスだった。
確かに王族の彼も非常に整った顔立ちをしている。この国の王妃、つまりヴァイスの母親も絶世の美女と呼ばれていた大変美しい女性だった。故に、ヴァイスには美しいものへの耐性が出来ているのだろう。
だがそれを考慮しても、ヴァイスの態度は婚約した時より何も変わらない。
蔑ろにされている訳ではない。寧ろ婚約者として丁重に扱われている。だがそこにラヴィーナに対して恋焦がれる瞳も、彼女を賛美する言葉も無い。
私の前では例え一国の王太子でも傅き、私の愛を乞い願うのが当然でしょう?
それなのに、あの男ときたら・・・。
公明正大で、弱きを助け、悪を憎むヴァイスは正しく正義の人だ。
そして国を愛し民を愛し、国の為に生きると言い切る彼は、ラヴィーナから見ればただの頭の固いつまらない男だと思う。
ラヴィーナに会っても型通りの褒め言葉以外出てこないヴァイスは、ラヴィーナの本当の価値を理解していない。
婚約者としての義務も真面目に熟すヴァイスは、婚約者がラヴィーナなのだから当然、他の女にうつつを抜かす様な事は無い。
だが、それだけでは足りないのだ。
私という得難い婚約者を手に入れたのだから、もっと私を輝かせる努力をするべきよ。
贈られるドレスも宝飾品も、この国一番の代物ではなく大陸一の物を用意すべきだわ。
私はそれほどの価値のある存在なのだから。
それなのに、ヴァイスは何も分かってはいないのだ。
ヴァイスは聖女であるラヴィーナが大神殿に向かう際に付き添ってくれる。高貴な生まれのラヴィーナは、ツィオーニ国の聖女でもあるからだ。
箔付の為にラヴィーナを洗礼式で聖女に仕立てあげたのは、父であるグラン公爵だ。
ラヴィーナに、より価値を付けて他国の王族と婚姻させるつもりだったらしい。
しかし他の国から打診が来る前に王家から婚約の打診が来てしまった。
父としては断る理由もないし、保険のつもりで受けたのだろう。
その後、何処の国からも婚約の打診は来なかったから、ラヴィーナはまだヴァイスの婚約者ままなのだ。
それなのに・・・。
王家が、ヴァイスが私を望んだのに、彼らはちっともラヴィーナの役に立たない。
言祝ぎの聖女なんてものに価値を感じた事などない。
だが婚姻を一年後に控え、ラヴィーナの素晴らしさを更に引き立たせる肩書きとしては有効なのではないかしら?
ラヴィーナはふとそう思った。
儀式なんて面倒だけれど、私の美しさを国中に見せつけられるのなら、一度ぐらいはやってやっても良い。
そうだわ!
新年の儀には他国の王族たちも招待しましょう。
私本来の美しさに加え、神秘的な聖女姿を見た者ならば、きっと強く私を欲しがるに違いないもの。
だから私が言祝ぎの聖女役をやってあげてもいい。
それはラヴィーナにとっては、とても良い思い付きに感じた。
ラヴィーナなが言祝ぎの聖女をやるのは決定事項の筈だった。ラヴィーナの中では、だが。
それを地味な偽聖女の平民が私から奪ったのよ。
私から奪ったのなら返して貰うだけ。
お父様にそう言ったら、『当たり前だな』と笑ってそう言ってくれた。
「だが、頭の硬い愚鈍な王太子は、簡単には首を縦には振らないだろう。
そうだな。王子との次の茶会でこの茶を出すといい。王子はお前本来の魅力に漸く気がつくだろう。
いいか。飲ませた時に話しかけるのを忘れるな。
お前の美しい声に王子はお前の望みを何でも叶えたくなるだろうさ」
そうしてヴァイスはミーシェを断罪した。
ラヴィーナはあくまで事実を話しただけ。
ヴァイスはそれを信じてくれた。
だからご褒美に邪魔者の始末ぐらいは私がしてあげましょう。
やっとヴァイスは私に相応しい男になってくれた。
それも新年の儀が終わって、より相応しい男たちが私に求婚してくるまでの繋ぎでしかないけれどね。
そうして迎えた新年の言祝ぎの儀で。
完璧な聖女姿で臨んだ儀式ではー。
あぁ、どうしてこんな事になってしまったの?
私以外に言祝ぎの聖女に相応しい聖女なんて居なかったはずなのにっ!!
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
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