ポイズンアップル系天使

ちゃんはな

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毒林檎拾ってみた

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それはある夏の暑い日だった。
陽炎が揺れ、僕の顔を一筋の汗が流れる。僕はきっとこの日を一生忘れないだろう。

 高校2年生、夏。僕のクラスに1人の少女が転入してきた。「少女」というより彼女には「天使」という言葉が似合うだろうか。
その日は最高気温30度を超える猛暑日のはずなのに、彼女は一人涼しい顔をして長袖の制服を身にしていた。もちろん他に長袖を着ている人は居ない。僕のクラスの先生なんか汗が止まらなくてタオルを持ち歩く程だった。
彼女が教室に足を踏み入れた瞬間から、僕も含めクラスの人全員の時が止まった。その時だけはいつもうるさい窓の外の鳥達も鳴き止んだと思う。
そりゃあ長袖に驚くってこともあったけど、それよりもなんて言ったって驚いたのはその容姿だ。彼女の姿はまさに「天使」そのものだった。美しく長い髪はさらさらと風に揺らされて白く輝き、長袖からチラリズムしている腕や足は透き通るほど白い。そして瞳はぶどう色の宝石のような、例えるならばブルーアメジスト。目は大き過ぎず小さ過ぎず。鼻は細く小さく。遠慮がちに薄く紅色に染まった頬と唇。その美しすぎる容姿は「天使」としか表現しようがなく、羽が生えていないことに逆に違和感を感じる程であった。僕は思わず息を呑んだ。
クラスメイトも驚きのあまりざわつくことさえ出来ずにいた。ガイジンさんだろうか。その割には日本風の顔立ちなんだよなぁ。ハーフか何かかな、綺麗だな。
目の前の「天使」に見惚れるあまり、気がついた時には彼女の自己紹介は終わっていて、彼女は僕の右斜め前の席に座っていた。
こんな幸せがあっていいものなんだろうか。そもそもこんな美しい「天使」と僕は同じ空気を吸っていい人間なのだろうか。これから毎日、こんな美しい彼女を視界に入れておけるんだ、有り得ない。
僕はいつも大事な行事のある時程大雨が降るし、毎年年明けに家の近くの神社で引くおみくじは現在4年連続凶だ。大凶だとなんだかまだいいって聞いたことあるけどよりにもよって凶。言っちゃえば星座占いの11位って感じ。12位だったらまだアドバイスみないなの貰えるのに中途半端に悪いからそれも無い…みたいな。まぁ何が言いたいかって言うと僕は不運の持ち主なんだ。
だけど今は断言出来る。
今までの不運は、今日の幸運のためにあったんだって。どうやら僕は今まで使わずに貯めに貯めておいた幸運を、彼女の左斜め後ろという席を手に入れるために使い果たしてしまったらしい。
視界に入る「天使」。僕は幸せを噛み締める。そんな幸せを噛み締めている僕の視界に入る「天使」の先に見える黒板。ふと黒板に目をやるとそこには遠慮がちの小さめな文字で彼女の名前らしきものが書いてあった。その容姿の通り美しい名前だった。


彼女が転入してきてから1週間が経った。あの日以来僕は彼女の姿を1度も目にしていない。彼女は謎のガイコクジン転入生として、有名になっていた、が実際はガイジンさんじゃないらしいという噂が僕のクラスでは流れている。「アルビノ」という病気のようなものらしい。彼女らは生まれつき白い髪と白い肌、そして赤めの瞳を持っているらしい。美しいだけでなく大変なこともあるんやらなんたら。クラスで聞いて気になってケータイで調べて見ると本当にアルビノというものは存在した。そして他のアルビノの人達と彼女の容姿はとても似ていた。アルビノ…か…。
あの日からどうやら僕の世界は彼女一色になってしまったらしい。あの美しい容姿だけが心に留まり続けている。
「田中くん」
優しい声で呼ばれ、振り返る。
「次体育だよ?もうみんな移動しちゃったし、田中くん1人で考え事してるみたいだったから声かけちゃった。大丈夫?体調でも悪い?」
優しい声の主は長い髪を耳にかけ、僕の顔をのぞき込む。
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。ありがとう杉咲さん。」
「いえいえ」
杉咲さんはそう言って可愛らしい笑顔を僕に向けた。杉咲さんはとても優しい。みんなに優しい。校内NO.1モテ女とも言われている。こんな僕にもよく声を掛けてくれる。
「じゃあ、体育館一緒に行こっか」
そう言ってふふっと微笑み、今日はバレーだってさ~なんて楽しそうに話す杉咲さんを見て、僕は「天使」を一瞬だけ忘れることが出来た気がした。
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