知らないけど、知ってる【顔も知らない旦那様改定版】

ゆうゆう

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私はパティと一緒にパン屋に行くことにしました。
パティはお母様が送ってくれたクッキーをかごに入れて持っています。

お母様はクッキーの他にもくるみのケーキも送ってくれていたので、それも一緒にかごに入れています。


「こんにちは、おばさん。
遅くなってごめんなさいね。
頼まれていた新しいレシピの事なんだけど」

「あれ? リディアーヌお嬢さん。
私の言った事覚えていてくれたのかい?
北の方じゃ大変な災害で領主様の所は大忙しだったんだろう?
パン屋の頼まれ事なんて忘れちまってよかったのに~」

パン屋のアンおばさんは申し訳ないと何度も言う。

「北の方は落ち着いてきたから、大丈夫よ。
それにおばさんにはいつもお世話になっているし、この店に新しい名物が出来るのはこの町に取ってもいい事でしょう?」


「そうかい?
そう言ってもらえると私も気が楽になるよ」

パティがかごを差し出す。

「アンさん、お嬢様からです」

「おばさん、王都でナッツを使ったお菓子が流行りだしたのですって。
今、貴族のお茶会ではどれだけたっぷりのナッツを使った物をだすか、何種類のナッツを使っているかとか自慢大会らしいわ」

「へー、ナッツねぇ」

アンおばさんはかごからクッキーを出して口に運びます。

「香ばしね! それにとてもサックりしている。
この辺で売っているクッキーはもっと固くて日持ちする事を重視しているからこれは全然違うよ」

「これは伯爵家の料理人が作ったレシピだから町で売るとしたら、もう少し固めのしっかりした方が良いとは思うけど、ナッツをいっぱい入れる事は出来るでしょ?」

貴族はクッキーを持ち歩く事はないし、お茶会で食べる前提で作る。
このままだと庶民がお店から買って帰ったり、携帯食として持ち歩くと割れやすいしボロボロになってしまうだろう。

「そうだね、美味しいし、こんなクッキーを作って売りたいけど、私ら庶民向けではないだろうね。
でも、アイデアはいろいろ浮かんできたから、作ってみますよ」

「そう… 良かった。
これは置いて行くから頑張ってね」

「リディアーヌお嬢さん、ありがとうございました。
この辺は気候もいいし、木の実の種類も多いから、いろいろ試してみますよ」

「マルクスって木の実が豊富なの?」

「そうですね、私もくるみパンやアーモンドやピーカンナッツのクリームを使ったパイを作りますよ」

「なるほどね。
ありがとうおばさん。
私もヒントをもらったわ」


私は急いで商会に戻ります。



       :




商会に戻るとドミニクとテッドを呼んで相談を始めます。

「ドミニク、テッド これを食べてみて」

私は2人の前にアーモンドクッキーとくるみケーキを置きます。

「クッキーですか?それとパウンドケーキ」
ドミニクは甘いもの好きだから、嬉しそう。

「さっきパン屋に出掛けてましたよね?
あれ?パン屋にこんなクッキーありましたっけ?」
とテッドが疑問を口にします。



クッキーを摘まむ彼らに王都の貴族達の間で木の実のお菓子が流行りだした事を説明する。

「木の実ですか… でも今までもこう言ったお菓子はあったでしょう?
独断珍しくもないのに、またなんで?」

テッドが不思議そうに言います。

「お母様が言うには、近隣の国から幾つか新しい木の実が入って来るようになったそうよ。
輸入先の国で長寿の実、知恵の実と呼ばれている物があって、この木の実を食べていると健康で長生きすると言われたり、頭が良くなると言われたりするんですって」

「長寿の実ですか…」
ドミニクが胡散臭いげに言います。

「まぁ真相は分からないけれど、元々どんな木の実も栄養価が高くて体にはいいでしょう?
だから、特に栄養の高い物をそう呼んだのかなって思うの」

「なるほど」
テッドが頷く。

「でも、それと流行りとどう関係があるんですか?」
ドミニクはだからどうした?と言う顔をします。

「貴族は少なからずお金も地位ももっているわ
そんな人間がお金を出してもままならない事って何だと思う?」

「うーん、やっぱり生きてる長さでしょうね」


「そう、金持ちである程度の生活に満足している人達はそんな生活を1日でも長くしたいのよ。
不老長寿って魅力的な筈よ」

「ははあ、なるほどなるほど」
ドミニクが頷く。

「最初は木の実の別名を聞いて健康長寿とか不老不死とかそんな木の実があると噂が出た。
で皆が片っ端から木の実を取り寄せたり、買い占めたりして、お茶会の度に長寿の木の実の菓子を振る舞い自慢を始めたのね」


「滑稽だね」
テッドが呆れて言う。

「良くあることよ。
皆暇なの。
だから面白そうだと我先に直ぐに飛び付く」

暇な貴族にとっては流行り、噂話は大好物だもの。

「まぁ最初はそんな感じで始まったようだけど、貴族が皆して木の実のお菓子や料理ばかり作らせるから、あれよあれよと言ううちにナッツブームになったのね」

「面白い話ですな」
とドミニク。


「で、お嬢さんはこれを商いにつなげたいんだな?」
とテッドがニヤッと笑って私の意図を汲んでくれます。

「ええ、そうなの。
今は王都の貴族の間で騒いでる段階だけど、これから数ヶ月掛けて庶民にも浸透していくでしょう。
もうその兆しはあるみたいだし。
その後はこの国全体にナッツは流行って行くはずだもの。
今のうちにこのマルクス産の質のいい木の実を扱おうと思うの。
パン屋のおばさんが言うにはここはナッツ類が豊富に取れるって言っていたから。
どうかしら?」

「いいと思いますよ。
ただ、この辺では庭にくるみの木を植えて自宅用に使ったり、森に自生しているものを取りに行ったりする方が多いと思います。
ギルドを通じて集めてもらいましょう。
今後の為に畑を作って生産にも力を入れてはどうですか?
出来ればマルクスで育て易くて、まだこの国では珍しい物があるともっといいんですけどね」

さすがテッドだわ。
私がちょっとアイデアを出すと、どんどん形にしてくれる。

「うーん珍しい木の実か…
それこそ隣国から苗でも持ってくる?」

「苗…そうだ!
お嬢様、苗ですよ」
いきなりドミニクが言い出す

「今朝方、届いた荷物、木箱が幾つかあったと言ったでしょう?」

「ええ、まだ確認していないのよ。ごめんなさい」

「そうじゃなくて、あの木箱の中身がどうやら苗みたいなんですよ。
運ぶ時に、中から土が出てきてしまって…
一体何が入っているんだろうと、ひとつだけ上の板を剥がして、見たら中に沢山の苗が入っていまして…」

ドミニクの説明によると、この木箱はお母様からではなく、もう一つの手紙と一緒に届いたと言うのです。

もう一通と言うとテオバルト様からだわ。

私は急いで手紙を確認しに部屋へ戻ります。



      


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