カランコエの咲く所で

mahiro

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久しぶりにこの村に戻ってきたような気がするのは気のせいだろうか。
あの後、あの二人は何処かに連行されゲルハルトも村長に報告と彼らを尋問しに行くと言って去っていった。
俺はというと、もう今まで暮らしていた家には住めなくなるから荷物を積めておいてとゲルハルトに言われたので今は家にいたりする。


「………こんな風景だったっけ」


昨日の朝までは何の疑いもなくここで暮らしていたのに、事情が変わった今、今までの風景が変わって見える。
ヨーゼフが大切にしていたコップや洋服。
ヨーゼフが使っていた歯ブラシやタオル。
確かに使っていて、ここに今も存在しているのに。
そう思ってそれらに触れようとしたら、何故か触れることが出来なかった。


「………は?」


いくら触ろうとしてもすり抜け、その存在を感じることが出来なかった。


「実在しないものは触れないよ、イヴ」


何度も触ろうと繰り返していたら、俺と去るときにゲルハルトが置いていった式ーーージョゼが足元にやってきて、俺を見上げてきた。
大型犬のような格好をしたジョゼを一瞥して溜め息を吐いた。


「今まで触れられていたけど?」


「誤った認識が正しい形に戻されたからだよ」


正しい形、とは本来あるべき形ということか。
ふと机の上に置かれたヨーゼフと撮った写真を見てみれば、そこにはーーー隣同士並んで笑っていた筈の俺とヨーゼフの姿はなく、俺だけがそこで微笑んでいる姿が写っていた。


「………そのようだな」


能力の開花前に二人で撮ったこの写真は、俺が作り出した世界でのヨーゼフで、本来存在しない姿なのだから写り出されるわけがない。


「泣かないで、イヴ」


前足を俺の足に乗せて顔を見上げてくるジョゼに、俺は強がりながら答えるしか出来なかった。


「泣いてないよ、ジョゼ」
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