私の願いは貴方の幸せです

mahiro

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物心つく前までは親といたはずだが、顔も声も覚えていない。
思い出も特にない。
ただ父親がクリスタというファミリーネームだったことは何故か覚えていて名前は覚えていない。

気付いたときにはとある部屋の一室に置き去りにされ、そこへナマンがやってきた。
私が5歳、ナマンが13歳を迎えたばかりの出来事だった。
まだ時期当主候補として公になったばかりだというのに、その時から実力が当時の当主以上にあり、容姿、頭脳も優れ、彼は一体、何を持っていないのかと皆が当時疑問に思っていたそうだ。


「やぁ、君がロマーヌかな?僕はナマン・キュリー。名前は聞いたことあるでしょ?」


声変わりしたばかりの声は警戒心剥き出しで、表情は柔らかいのに目の奥は鋭かった。
立場的に敵も多いことから、私のことも警戒していたのだと思う。


「………知らない」


最後に言葉を発したのはいつだったか忘れるくらい声を出しておらず、そのときに出したそれはカスカスで聞こえていたかどうかさえ怪しい。
それでもナマンには聞き取れたようで、鋭かった瞳が大きく広げられたのが見えた。

当時の私は部屋の端っこで座り込み、ただ時間が経つのを黙って待っていた。
だから、外で何が起ころうと誰が時期当主候補になろうと知ることもなかったのだ。


「そう。じゃあ、クリスタって名前は聞いたことある?」


「お父さんのファミリーネーム」


「それは知ってるんだね。なら、話は早い。そのクリスタから君のことを頼まれたから今日ここに来たんだ」


話を聞いても何一つピンとこず、首を横へ傾ければナマンは私の前に片膝をつき、手を差し伸べてきた。


「今から僕と教会へ行こう。そこが今日から君の家だよ」


何のことかさっぱり分からなかったが、輝く青色の綺麗な瞳に導かれるようにその手を掴んだ。
今思えば、一目惚れだったのだと思う。
まるで王子さまのような出立ちで、この狭い空間から私を救い出してくれる救世主だったのだ。
そんな彼に連れられて辿り着いた教会で、私は文字の読み書き、一般教養、体術や聖力コントロール、テーブルマナーなど様々なことを教えてもらった。
それは私の財産となり、こうして今日を迎えられているわけだが、目の前で繰り広げられている親子の感動的なシーンを私は1度も経験したことがない。


「聖女様、本当に、本当にありがとうございました!」


女性は嬉し涙を流しながら無傷となった娘さんと抱きしめ、無言で見守っていた私にお礼を言った。


「お姉さんありがとう!」


さっきまで息も絶え絶えだった娘さんも今では完治し、大好きなお母さんを抱き締め返していた。


「君が助かって良かった」


娘さんの小さな頭を撫で魔物が残した邪気を払い、目線を正面から家の外へと向けた。
もしかしたらまだこの辺りを魔物が出歩いている可能性があるため、町に戻る前に見て回った方が良さそうだ。
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