泣くなといい聞かせて

mahiro

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チャンス到来!

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部屋に辿り着くなり俺にチャンスが訪れた。
丁度部屋に入ったタイミングで奴の携帯が鳴り、ディスプレイを見た途端に何故か部屋の外に出て行ったのだ。
何故中でなく外に出て話す必要があるのか気になる所だし、俺に聞かせたくない内容なのかとか、女性からかかってきたんじゃないかと疑いたい気持ちもある。
だがそれよりも今の俺は、目の前に置かれた奴の鞄から目が離せなくなっていた。
しかも、その鞄に財布とこの部屋の鍵を鞄に仕舞っておくように、奴に頼まれたのだ。
そのおかげで正々堂々と鞄を開けられる権利を得た訳である。
このタイミングで奴の家の鍵をそっと入れてしまえば良いではないか。
よし、ではまず奴の鞄を開けよう。
それでもってどこに忍ばせるか、とファスナーを開けてみると何と中に何も入ってませんでした。
どこのファスナーを開けても全て空。


いや、え?
何だあいつ。
スマホと財布しか持ってないってことか?
ちなみに奴本人の家の鍵は財布にぶら下がっているから、こんな中がスカスカだとプラスアルファで入れた家の鍵なんてあったらすぐに気が付くな。
よって、入れるにしても今じゃない。
まだまだ時間はあるし、ここは大人しく言われた通り財布とこの部屋の鍵だけ入れておこう。


「お待たせ」


それから数分後、何食わぬ顔でやってきた奴は真っ直ぐに俺の横に置いてあった鞄を掴み、中をごそごそと漁りだした。
それには表情に出さなかったが内心驚いた。
あのまま入れていようものなら一瞬でバレていたということじゃないか。
危ない、入れなくて良かった。


「あった、ほらよ」


「何だ?」



財布を取り出したかと思えば、クーポン券のような紙を手渡され、そこには『入浴券』と書かれている。
裏面に説明書きで『入浴する際に必ずスタッフに提出ください』と書かれているじゃないか。
つまり、この券がないと入浴できないとそういう意味か。


「それお前の分ね」


「おぉ、ありがたく頂戴する」


「はいはい」
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