きっと、あなたは知らない

mahiro

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「しーいーなー、腹減った……」


今、私の目の前には、大きな身体を伸ばし机の上を占領している男がいる。
その男は真っ白のブレザーに、チェックのズボンを身に付けてるが、同じ制服を来ている生徒はこの教室には誰もいない。


「何か食い物ない?」


そう言う男の腹はうるさいほどに鳴っている。
朝練後に早弁をし、昼御飯も食べた後だと言うのにまだ腹減るのか。


「自分の教室に戻って、他の女の子から貰いなよ。平松が何か頂戴って言えば誰でもくれるでしょ」


高校一年にして、レギュラー入りし二年の今では全国大会に出て活躍している選手で、この学校でこの男、平松 光輝ひらまつ こうきを知らない人物はこの学校にはいない。
誰にでもフレンドリーな平松なのだから、嫌がる人もいないと思うが……私を除いて。


「椎名からが良い……」


「何も持ってません。はい、選抜クラスに戻れ」


私からが良い、なんて私が平松に恋をしていたらドキッとしそうな言葉だが、残念ながら私はこの図体のデカイ子供に恋はしていない。
確かに見た目はカッコいい部類に入るのかもしれないが、中身は完全に子供である。
平松と接していると本当に大きな子供と接しているような気分にしかならない。
周りの皆は、カッコいい!とよく言っているが見た目以外どこも格好よさを感じられない。


「平松さん、昼ミーティングあるの忘れてませんか」


そんな平松より、私は断然。
高嶺の花、と呼ばれている平松の後輩、浜砂 悠真はますな ゆうまの方が格好良いし、清潔感があると思う。


「あ゛、忘れてた!」


そう思っていたら、平松のことを探してわざわざ遠く離れた普通科まで迎えにきた、浜砂の姿があった。


癖のある黒髪に、くっきりとした二重瞼。
鼻は通っていて、唇は薄い。
細いのに筋肉もあって、背も高い。
平松より一個下だというのに、落ち着いており、年齢を知らないと平松が年下なんじゃないかと思われても可笑しくない。


私はそんな彼に一目惚れし、それ以降、叶わぬ恋をしている。
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