3 / 9
3
しおりを挟む
婚約者なんていない。
それは記憶にないからという理由かもしれないし、その過去を消し去ってしまいたいというルイスの願望かもしれない。
過去の記憶がないのも、その願望の現れかもしれないし、性別が変わったのも生まれ変わったルイス・オルテとして一からやり直したかったからかもしれない、なんて全て私の想像に過ぎないけど。
「忘れてしまうなんて酷い……私は、再会できる日を楽しみにしていたというのに………ルイスの馬鹿!」
涙を流しながら去っていくファンを視線で追いもせず、ルイスは受付の女の子に軽く声をかけてから持ち場に戻ってしまった。
それを黙って見ていた私を含めた職員全員は、それに倣うように持ち場に戻り仕事に取りかかることになった。
「いやぁ、嵐のような出来事だったね」
私は今、この世界では数少ない魔法使いとしてこの職場で働いている。
そこには私ともうひとりの魔法使いが属していて、商品の生産や魔法を取り扱う依頼など様々な業務を担っている。
昔から剣術とか策略を立てることだとか商談だとかそういったことは、兄弟の中で一番劣っていて、唯一他の兄弟たちよりも秀でていたのが魔法だけだった。
それが今でも役立っているのはありがたいことだと思う。
「そうですね」
販売する商品に僅かな魔法を使いながら、私がそう答えれば先輩は頬杖をつきながら目の前に広がる商品を眺めていた。
「ねぇー、魔法科ってここで合ってるぅ?」
そこへ普段は滅多に現れないルイスの同僚であり、昔はルイス専属の騎士だったザッカリー・レイエが入り口に立っていた。
ルイスのいる営業部と私の勤める魔法科の部屋はすぐ隣にあるのだが、関わりがまずない。
初日に挨拶して以降、直接接することはなかった。
「合ってますけど、どうされました?」
先輩が顔を上げて答えれば、ザッカリーは面倒くさそうに長い足をこちらに動かし、小さな紙を差し出してきた。
そこには丸の中に星形が描かれ、禍々しい煙のようなものが発されていた。
それは過去に何度か見たことあるもので、あまり良い記憶がないものであった。
「これ、今朝の騒動を起こした子が落としたみたいなんだけどぉ、何だか分かるぅ?」
簡単に言えば『術具』というもので、術者がターゲットに何かを強制的にさせるものだ。
例えば、目的の人物に向けて矢を放てとターゲットに命じたいときに術者がターゲットの何処かに貼り付け実行させるものである。
ちなみにそれは目的を達成するまで剥がれない。
「『術具』ですね」
先輩はそれを手にするなりそう言った。
容易く手に触れられるのはザッカリーも先輩もターゲットではないからで、もしターゲットは触れた瞬間、自我を失い与えられた指名を遂行するまでもとには戻れない。
「『術具』って何ぃ?悪いものぉ?」
「良いものではないです。人を従わせたりするのによく用いられるものです」
「危ない奴じゃん。そんなの落としてったってことぉ?」
「そういうことになりますね」
それは記憶にないからという理由かもしれないし、その過去を消し去ってしまいたいというルイスの願望かもしれない。
過去の記憶がないのも、その願望の現れかもしれないし、性別が変わったのも生まれ変わったルイス・オルテとして一からやり直したかったからかもしれない、なんて全て私の想像に過ぎないけど。
「忘れてしまうなんて酷い……私は、再会できる日を楽しみにしていたというのに………ルイスの馬鹿!」
涙を流しながら去っていくファンを視線で追いもせず、ルイスは受付の女の子に軽く声をかけてから持ち場に戻ってしまった。
それを黙って見ていた私を含めた職員全員は、それに倣うように持ち場に戻り仕事に取りかかることになった。
「いやぁ、嵐のような出来事だったね」
私は今、この世界では数少ない魔法使いとしてこの職場で働いている。
そこには私ともうひとりの魔法使いが属していて、商品の生産や魔法を取り扱う依頼など様々な業務を担っている。
昔から剣術とか策略を立てることだとか商談だとかそういったことは、兄弟の中で一番劣っていて、唯一他の兄弟たちよりも秀でていたのが魔法だけだった。
それが今でも役立っているのはありがたいことだと思う。
「そうですね」
販売する商品に僅かな魔法を使いながら、私がそう答えれば先輩は頬杖をつきながら目の前に広がる商品を眺めていた。
「ねぇー、魔法科ってここで合ってるぅ?」
そこへ普段は滅多に現れないルイスの同僚であり、昔はルイス専属の騎士だったザッカリー・レイエが入り口に立っていた。
ルイスのいる営業部と私の勤める魔法科の部屋はすぐ隣にあるのだが、関わりがまずない。
初日に挨拶して以降、直接接することはなかった。
「合ってますけど、どうされました?」
先輩が顔を上げて答えれば、ザッカリーは面倒くさそうに長い足をこちらに動かし、小さな紙を差し出してきた。
そこには丸の中に星形が描かれ、禍々しい煙のようなものが発されていた。
それは過去に何度か見たことあるもので、あまり良い記憶がないものであった。
「これ、今朝の騒動を起こした子が落としたみたいなんだけどぉ、何だか分かるぅ?」
簡単に言えば『術具』というもので、術者がターゲットに何かを強制的にさせるものだ。
例えば、目的の人物に向けて矢を放てとターゲットに命じたいときに術者がターゲットの何処かに貼り付け実行させるものである。
ちなみにそれは目的を達成するまで剥がれない。
「『術具』ですね」
先輩はそれを手にするなりそう言った。
容易く手に触れられるのはザッカリーも先輩もターゲットではないからで、もしターゲットは触れた瞬間、自我を失い与えられた指名を遂行するまでもとには戻れない。
「『術具』って何ぃ?悪いものぉ?」
「良いものではないです。人を従わせたりするのによく用いられるものです」
「危ない奴じゃん。そんなの落としてったってことぉ?」
「そういうことになりますね」
16
あなたにおすすめの小説
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
おしどり夫婦の茶番
Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。
おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。
一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
男装の騎士に心を奪われる予定の婚約者がいる私の憂鬱
鍋
恋愛
私は10歳の時にファンタジー小説のライバル令嬢だと気付いた。
婚約者の王太子殿下は男装の騎士に心を奪われ私との婚約を解消する予定だ。
前世も辛い失恋経験のある私は自信が無いから王太子から逃げたい。
だって、二人のラブラブなんて想像するのも辛いもの。
私は今世も勉強を頑張ります。だって知識は裏切らないから。
傷付くのが怖くて臆病なヒロインが、傷付く前にヒーローを避けようと頑張る物語です。
王道ありがちストーリー。ご都合主義満載。
ハッピーエンドは確実です。
※ヒーローはヒロインを振り向かせようと一生懸命なのですが、悲しいことに避けられてしまいます。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる