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5.曲づくり?②
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風呂場を出て、タオルを巻いた状態で、私は焦りながら服を発掘していた。
藤崎さんがポイポイ放り投げたようで、ベッドの周りのいろんなところに散らばってる。
「なに慌ててるの?」
スエットを着た藤崎さんがのんびり追っかけてきた。
「帰らなきゃ!」
「なんで?」
「だって、明日も仕事なんです!」
「ここから行けばいいんじゃない?」
「同じ服なんて嫌ですし、化粧ポーチもないし、あぁっ! うそっ! カバンもない……」
「カバン?」
「譜道館に忘れてきちゃったんです……」
あの時、動揺して、手ぶらで藤崎さんの車に乗ってしまった。
幸い、カバンは鍵の掛かるロッカーに入れてあるから大丈夫なはずだけど……。
藤崎さんはガックリうなだれる私を引き寄せ、ポンポンと頭を叩いた。
「Tシャツぐらいなら貸すし、化粧品はコンビニ行けばあるでしょ? 買ってあげるよ。どうしても帰りたいなら、もう終電ないから、車で送っていくけど?」
「藤崎さんにそんなことさせられません!」
「じゃあ、泊まってく?」
「……お願いします」
藤崎さんはにっこり綺麗な顔で笑った。
「オーケー。じゃあ、コンビニに行こうか」
「場所を教えてもらえれば一人で買いに行きます!」
「こんな時間に女の子が一人は不用心だよ。それに僕も買いたいものあるし」
「そうなんですか?」
私たちは連れ立って、コンビニに向かった。
いくら深夜とはいえ、藤崎さんはサングラスをするわけでも、帽子を被るわけでもなく、いたって普通の格好だ。
「あの……大丈夫なんですか? 変装とかしなくて」
「なんで?」
「だって、藤崎さんは有名人ですよ? 写真とか撮られちゃったら……あ、私、もう少し離れますね」
気を使ったのに、藤崎さんはニヤニヤしてかえって手を繋いでくる。いわゆる恋人つなぎだ。
もう本当になにを考えてるのやら……。
「僕はいつもこのままでうろついてるし、堂々としてたら意外と気づかないよ」
「いやいや、絶対気づきますって。こんな綺麗な顔はそうそういませんから!」
「僕の顔、綺麗だって思ってるんだ」
「えぇ、だって事実ですから」
「……そこに君の感情はないの?」
「えっ?」
「…………」
急に不機嫌に黙り込んだ藤崎さんは、私の腰を引き寄せ、密着した。
「えっ、ちょ、ちょっと、藤崎さん!」
「いっそ、写真撮られちゃう? 週刊誌とかに『熱愛発覚!?』とか書かれたりして」
「とんでもない! ダメですよ!」
おもしろがる藤崎さんに私は蒼くなって、慌てて彼の腕から逃げ出した。
本気で冗談じゃない。
この人の場合、リアルにある話だ。
「大丈夫だって。うちの事務所って圧力のかけ方が半端ないから、撮られても握りつぶすし」
また抱き寄せられて、不穏なことをささやかれる。
(全然大丈夫じゃないってば! 特に私の心臓が!)
でも、抵抗すればするほど、密着度が高まるから、私はあきらめて、手を繋ぐくらいにしてもらった。スクープされないことを祈りながら。
コンビニに着いて、私は化粧品と下着と歯ブラシをカゴに入れた。
そのカゴを奪って、藤崎さんはそこにお茶のペットボトルとゴムを追加した。
(買いたいものって、それ?)
いかにも今からしますというラインナップに、私は顔が熱くなる。
藤崎さんは涼しい顔で、「ほかに欲しいものある?」なんて聞いてくる。
「じゃあ、私もお茶買ってもらっていいですか?」
「もちろん。スイーツとかいらない?」
「夜だからいいです」
「じゃあ、会計してくる」
「すみません……」
「これくらい別にいいよ」
恐縮する私に、藤崎さんは苦笑した。
深夜なのに交通量の多い街中を、コンビニの袋を提げて、手を繋いで、藤崎さんの家に帰る。
(こんなところを誰かが見たら、本当に恋人同士に見えるかも。契約の恋人って、体だけの関係じゃなくて、こういうことも含むの? 誰かに見せつけたいとか?)
藤崎さんの考えてることがまったくわからず、ちらっとその彼を見上げる。
街灯りに照らされた鼻筋の通った綺麗な横顔は機嫌がよさそうで、鼻歌でも歌いそうな笑みを浮かべていた。
悔しいことに、私はこの顔も好きなのだ。
藤崎さんの曲も歌詞も声も顔もとても好きだ。
そして、性格は……よくわからない。その考えも。
そこまで思って、首を振る。
(ううん、契約の恋人なんだから、本気になってもむなしいだけだわ。私はただのファン。それだけ。気をつけないと)
視線を正面に戻す。
十分も歩いてないのに、初夏の風がじっとり身体にまとわりつき、軽く汗ばむ。
さっきシャワー浴びたばかりなのに。
ふいに藤崎さんとシャワーを浴びたことを思い出してしまう。それどころか……。
ただでさえ暑いのに、顔がほてってしまって困った。
藤崎さんがポイポイ放り投げたようで、ベッドの周りのいろんなところに散らばってる。
「なに慌ててるの?」
スエットを着た藤崎さんがのんびり追っかけてきた。
「帰らなきゃ!」
「なんで?」
「だって、明日も仕事なんです!」
「ここから行けばいいんじゃない?」
「同じ服なんて嫌ですし、化粧ポーチもないし、あぁっ! うそっ! カバンもない……」
「カバン?」
「譜道館に忘れてきちゃったんです……」
あの時、動揺して、手ぶらで藤崎さんの車に乗ってしまった。
幸い、カバンは鍵の掛かるロッカーに入れてあるから大丈夫なはずだけど……。
藤崎さんはガックリうなだれる私を引き寄せ、ポンポンと頭を叩いた。
「Tシャツぐらいなら貸すし、化粧品はコンビニ行けばあるでしょ? 買ってあげるよ。どうしても帰りたいなら、もう終電ないから、車で送っていくけど?」
「藤崎さんにそんなことさせられません!」
「じゃあ、泊まってく?」
「……お願いします」
藤崎さんはにっこり綺麗な顔で笑った。
「オーケー。じゃあ、コンビニに行こうか」
「場所を教えてもらえれば一人で買いに行きます!」
「こんな時間に女の子が一人は不用心だよ。それに僕も買いたいものあるし」
「そうなんですか?」
私たちは連れ立って、コンビニに向かった。
いくら深夜とはいえ、藤崎さんはサングラスをするわけでも、帽子を被るわけでもなく、いたって普通の格好だ。
「あの……大丈夫なんですか? 変装とかしなくて」
「なんで?」
「だって、藤崎さんは有名人ですよ? 写真とか撮られちゃったら……あ、私、もう少し離れますね」
気を使ったのに、藤崎さんはニヤニヤしてかえって手を繋いでくる。いわゆる恋人つなぎだ。
もう本当になにを考えてるのやら……。
「僕はいつもこのままでうろついてるし、堂々としてたら意外と気づかないよ」
「いやいや、絶対気づきますって。こんな綺麗な顔はそうそういませんから!」
「僕の顔、綺麗だって思ってるんだ」
「えぇ、だって事実ですから」
「……そこに君の感情はないの?」
「えっ?」
「…………」
急に不機嫌に黙り込んだ藤崎さんは、私の腰を引き寄せ、密着した。
「えっ、ちょ、ちょっと、藤崎さん!」
「いっそ、写真撮られちゃう? 週刊誌とかに『熱愛発覚!?』とか書かれたりして」
「とんでもない! ダメですよ!」
おもしろがる藤崎さんに私は蒼くなって、慌てて彼の腕から逃げ出した。
本気で冗談じゃない。
この人の場合、リアルにある話だ。
「大丈夫だって。うちの事務所って圧力のかけ方が半端ないから、撮られても握りつぶすし」
また抱き寄せられて、不穏なことをささやかれる。
(全然大丈夫じゃないってば! 特に私の心臓が!)
でも、抵抗すればするほど、密着度が高まるから、私はあきらめて、手を繋ぐくらいにしてもらった。スクープされないことを祈りながら。
コンビニに着いて、私は化粧品と下着と歯ブラシをカゴに入れた。
そのカゴを奪って、藤崎さんはそこにお茶のペットボトルとゴムを追加した。
(買いたいものって、それ?)
いかにも今からしますというラインナップに、私は顔が熱くなる。
藤崎さんは涼しい顔で、「ほかに欲しいものある?」なんて聞いてくる。
「じゃあ、私もお茶買ってもらっていいですか?」
「もちろん。スイーツとかいらない?」
「夜だからいいです」
「じゃあ、会計してくる」
「すみません……」
「これくらい別にいいよ」
恐縮する私に、藤崎さんは苦笑した。
深夜なのに交通量の多い街中を、コンビニの袋を提げて、手を繋いで、藤崎さんの家に帰る。
(こんなところを誰かが見たら、本当に恋人同士に見えるかも。契約の恋人って、体だけの関係じゃなくて、こういうことも含むの? 誰かに見せつけたいとか?)
藤崎さんの考えてることがまったくわからず、ちらっとその彼を見上げる。
街灯りに照らされた鼻筋の通った綺麗な横顔は機嫌がよさそうで、鼻歌でも歌いそうな笑みを浮かべていた。
悔しいことに、私はこの顔も好きなのだ。
藤崎さんの曲も歌詞も声も顔もとても好きだ。
そして、性格は……よくわからない。その考えも。
そこまで思って、首を振る。
(ううん、契約の恋人なんだから、本気になってもむなしいだけだわ。私はただのファン。それだけ。気をつけないと)
視線を正面に戻す。
十分も歩いてないのに、初夏の風がじっとり身体にまとわりつき、軽く汗ばむ。
さっきシャワー浴びたばかりなのに。
ふいに藤崎さんとシャワーを浴びたことを思い出してしまう。それどころか……。
ただでさえ暑いのに、顔がほてってしまって困った。
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