私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子

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21.どうして、ここに?①

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 ポロポロ涙をこぼしながら椅子にしがみつき、抵抗していたら、急に長谷川さんの手が離れ、グイッと身体を引き寄せられた。
 そして、馴染みのあるさわやかな香りが私を包む。

「この子は僕のものなんだ。勝手に触らないでくれるかな?」

 聞いたことないくらい冷たい藤崎さんの声が頭上から聞こえた。

「藤崎さん……?」
「なんであんたが!?」

 ここにいるはずのない人の声と体温に驚いて、仰ぎ見る。
 優しい手が私を抱きしめ、耳もとに口づけられた。
 気持ち悪かった感触を上書きしてもらえたようで、ほっと息を吐く。

「それにこれは明らかに犯罪だよ、長谷川さん」
「い、いや、これは誤解で、希ちゃんが酔っぱらっちゃったから、休ませようと……」
「嫌がる相手を?」
「ちがっ……」

 藤崎さんと長谷川さんが冷たいやり取りをしているのに、私は涙でぐしょぐしょになりながら、藤崎さんにしがみついた。

(藤崎さん! 藤崎さん! どうしてここに?)

 藤崎さんは安心させるようにギュッと私を抱きしめ、ポンポンと背中を叩いてくれた。
 助かったと頭が認識したからか、膝がかくんと崩れた。
 手足の力が入らず、ズルズルと崩れ落ちそうになる。
 藤崎さんが腰を抱いて支えてくれる。しっかり抱きかかえられ、安堵の息を吐く。

「もう大丈夫だよ」

 藤崎さんが髪の毛を優しくなでてくれた。その優しい手つきに新たな涙がこみあげる。
 なぐさめるように藤崎さんが目もとに頬にキスをくれた。
 その間に、長谷川さんはそろそろと出口に向かって、逃げようとしていた。 

「こっちです!」

 戸口から新たな声がした。
 その声は佐々木さん?

 驚いて見ると、彼女に誘導されてきたのはお巡りさんだった。
 長谷川さんの顔が強ばる。

「なんだと!?」
「この人がお酒に薬を盛って、この子に乱暴を働こうとしたんです」
「店の奥に連れていこうとしてるのをスルーしてたから、バーテンダーもグルだね」

 佐々木さんがお巡りさんに説明して、藤崎さんが補足する。
 大事な場面だというのに、そこで私の記憶が途絶えた。


 後で聞いたところによると、なんだか嫌な予感がした藤崎さんが佐々木さんに話してみると、佐々木さんの知り合いが長谷川さんの被害にあったばかりだった。なにかの薬を飲まされて暴行されたのだ。
 血相を変えた藤崎さんは何度も私に電話してくれていたらしい。でも、接待に入っていた私は全然気がつかなかった。

 私に連絡がつかなくて焦った藤崎さんが、ツテをたどってバーを見つけようとしてたところに、被害にあった知り合いから店の名前を聞き出した佐々木さんと合流した。ようやく店に着いたところ、奥に引っ張り込まれようとしていた私を発見して、藤崎さんが助け出してくれ、佐々木さんがお巡りさんを呼びに行ってくれたらしい。

 警察は、社長と私の飲んでたカクテルから強力な睡眠薬を検出して、私たちの血液からも同じ成分が検出された。
 バーテンダーが長谷川さんの指示で薬を入れたことを自白して、何度か同じことをしたのを認めた。
 後のことだけど、佐々木さんの知り合いの被害者も訴えることになり、長谷川さんは逮捕された。
 そして、彼はテレビ局を即日懲戒解雇されたらしい。


 そうした経緯を私は藤崎さんの腕の中で聞いた。
 目を覚まして、ガタガタ震える私を、藤崎さんはずっと抱きしめてくれていた。

「間に合って、本当によかった……」

 藤崎さんの声も震えていて、本当に心配してくれていたんだと涙がこぼれた。
 温かい胸に頬を寄せ、しがみついていると、だんだん落ち着いてきた。

「藤崎さん、本当にありがとうございます。私、もうダメかと……」

 またあの時のことを思い出して、ホロリと涙が溢れる。
 無力感、絶望感、嫌悪感に苛まれ、また震えた。

「もう大丈夫だから、思い出さなくていい」

 藤崎さんが優しく背中をなでてくれる。唇が目もとを這い、涙を拭ってくれる。
 その優しさに甘え、私は彼に訴えた。

「藤崎さん……すごく嫌だったの。気持ち悪かったの」
「うん」

 藤崎さんは髪をなでて、優しく聞いてくれる。

「もう大丈夫だよ」
「うん……でも……」

 あの時の感触がまだ身体に残っている。
 気持ち悪い、あの感触がこびりついている。

(やだやだやだ……)

 私は駄々っ子のように目を閉じて首を振った。

「希?」

 私は藤崎さんにすがった。

「藤崎さん、上書きして?」
「うん」

 彼は優しく私を抱きしめ、腕や背中をさすってくれた。あの場面を見ていたのか、耳もとにもキスを落としてくれる。
 でも、まだ足りない。

「藤崎さん、抱いて? 忘れたいの」

 訴えた私を藤崎さんは困った顔で見下ろした。
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