私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子

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25.片想い①

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 翌日から仕事に戻ると、目が回るぐらい忙しかった。
 昨日休んだつけだった。
 リリースまでの最終チェックに、明日から始まるCMの確認とマスコミへの根回し、取材応対……。
 お昼をとる暇もなく働き続け、へとへとになって、藤崎さんの家に戻ってきたのは、二十三時を過ぎていた。

「ただいま~」

 玄関口で靴を脱いでいると、藤崎さんが出迎えてくれた。
 「おかえり」とハグされた。
 疲れた身体に温かい体温が気持ちいい。
 シトラス・ウッドの香りが心を癒す。
 思わず身を寄せると、くすっと藤崎さんが笑った。

「?」

 顔を上げると「よっぽど疲れてるんだね。君からこうしてくっついてくれることは滅多にないよね」と言われた。
 慌てて離れようとしたら、余計腕に力を込められた。

「逃げないで。せっかくかわいいのに」

 藤崎さんが額にキスを落とす。
 恥ずかしくなって、リビングへ逃げた。

「お腹空いたでしょ?」

 藤崎さんがキッチンに行き、夕食を用意してくれようとしているのに気づいて、慌てて声をかけた。

「眠いから、先にお風呂に入らせてもらっていいですか?」
「いいよ。もう沸いてるはずだよ」
「さすが丸野さん! 助かる!」

 丸野さんは万能な家政婦さん。
 この間、とうとう遭遇した。
 穏やかなふんわり癒やし系の上品なおばさまだった。
 挨拶をして『いつも美味しいご飯をありがとうございます』とお礼を言ったら、『お口に合って、よかったわ』とにっこり笑ってくれた。
 こんなにいたせりつくせりのところに入り浸ってたら、一人暮らしに戻るのがつらくなるな……。

 着替えを用意して、お風呂に入る。
 体を洗って、湯船に入ると、冷えた体にお湯の温かさが沁みる。
 ここの湯船は広々としていて、ゆったりと脚が伸ばせる上に、頭部分を乗せられる枕のようなものまで付いている。
 そこに頭を乗せ、目をつぶる。

 あー、気持ちいい……。
 …………。
 …………。


「希ー? 大丈夫? 希? 起きてる?」

 藤崎さんの呼びかけでハッと目覚めた。脱衣所から声をかけてくれたのだ。
 湯船で寝そうになってた……っていうか、寝てた。

「ごめんなさい。寝てました」
「やっぱり。物音がしないから、そうかなと思った。溺れないでよ?」
「はーい。もう上がります」
「うん、それがいいよ」

 パタンと藤崎さんが出ていった音がした。
 私は髪の毛を乾かして、リビングに戻った。
 お風呂に入ったら目が覚めるかと思ったら逆だった。
 眠くて眠くて、仕方がない。

「ご飯食べられる?」
「あ……ごめんなさい……食べます」

 藤崎さんが夕食を用意してくれたみたい。
 お腹はペコペコなのに、うっかりすると目が閉じていく。

「ほら、お水飲みなよ」

 私を膝に乗せて、藤崎さんはグラスを渡してくれた。
 なんだか子どものように世話を焼かれてる。
 こういう体勢だと、小柄な私は藤崎さんの胸にすっぽり納まってしまって、子どもっぽいのかもしれない。

「ありがとう……ござい、ます……」

 コクリと水を飲むけど、うとうとして目が開けられない。
 落としそうになるグラスを取り上げられて、テーブルに置かれる。
 頭をポスンと藤崎さんの胸に引き寄せられると、あったかくて動けなくなる。
 藤崎さんが優しく髪をなでてくれるから、気持ちよくて、とうとう眠りに落ちてしまった。


 朝、爽やかに目覚めた。
 いつの間にか、ベッドにいる。
 熟睡できたようで、身体もすっきりしている。

 あれ? 私、藤崎さんにもたれたまま寝ちゃった?
 今も藤崎さんの腕の中にいるのは変わらないけど。
 ここまで運んでくれたんだ。

 藤崎さんはまだぐっすり眠っている。
 彼はちょっと朝は弱めで、なかなか起きない。
 それをいいことに、温かい胸にすり寄った。
 

 ♪♪♪


 『One-Way』のCMの感触は上々だった。
 やっぱりストーリー仕立てにしたのが当たって、話題になった。
 藤崎さんに後ろから抱っこされて見たテレビCMは確かに引きがあって、彼も感心していた。
 「僕の歌がこういうふうに料理されるとはね。おもしろいね」と。

 でも最近は、テレビCMよりネットの露出を多くしてる。
 動画サイトのTAKUYAの公式チャンネルにももちろん上げていて、「楽しみ!」「ブロッサムの続きが聴けるなんて! 歌詞が気になる」「あの子の恋は進展したのかな」などと好意的なコメントが早速ついていた。

 私は毎日藤崎さんの家から会社に通い、藤崎さんの家に帰った。
 今までも言ってたはずなのに、「ただいま」「おかえり」のやり取りが面映い。
 夜は、藤崎さんの腕の中で安心して眠る。自分の家でひとりで寝ていたら、きっと怖くてなかなか寝つけなかっただろう。
 藤崎さんには感謝してもしきれない。

 そして、いよいよ『One-Way』のリリースの日。
 いつもより早く事務所に行くと、まずデジタルの売上をチェックする。
 ネットでは零時から配信されているから、朝にはすでにダウンロード数が出ているのだ。
 情報詳細を開いてみて、その桁数を数えて、びっくりした。

「社長! 『ブロッサム』の倍です!」

 興奮して声をあげると、社長も立ち上がって、ハイタッチしてきた。

「俺も今見た! やったな!」

 ショップの開店はこれからだ。CDの売上も気になるけど、今日は水曜日で平日だから、夕方が一番買われる。リアル店舗で最も売上が高くなるのは週末だから、今は重視していない。
 老舗の音楽雑誌から藤崎さんとTAKUYAの対談企画の打診まで来ていて、速攻オッケーの返事をした。
 社長と二人で初動の良さを喜び合っていたところ、先輩社員が駆け込んできた。

「ネットニュースのトップ見た? 藤崎さんの熱愛スクープ! SNSのトレンドワードにもなってるよ!」

 藤崎さんと聞いて、ドキッとする。社長と顔を見合わせる。

「まだです!」

 急いでパソコンで確認する。

「これ……」

 『熱愛発覚! 深夜の密会』というタイトルの下に、粒子の粗い写真があった。
 藤崎さんが私を抱きかかえてる瞬間。
 長谷川さんに襲われた時のバーでの写真だった。

『藤崎東吾さんとレコード会社A子さんは以前から藤崎さんの自宅周辺で目撃されていたが、当社が独自に決定的瞬間を入手した』との記事。
 聞いたことがない会社が発信元だった。 

 私の顔は角度的に見えないけど、藤崎さんが優しい顔で私を抱えていて、抱き合ってるように見える。
 あの時、私達以外に客はいなかったし、位置的にバーテンダーの仕業だと思われた。
 お小遣い稼ぎか腹いせに情報を売ったのだろう。

「社長!」

 私のパソコンを覗き込んだ社長を見上げる。
 社長はあの時の写真だと気づいたようだったけど、他の人に内緒の話だったので、黙って首を横に振った。

(どうしよう、どうしよう。恐れていたことが現実になってしまった)

『自宅付近で目撃されていた』なんて、やっぱり情報を掴まれていたんだ。
 うかつに出歩かなければよかった。
 藤崎さんに迷惑をかけてしまった……。
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