騎士団長の幼なじみ

入海月子

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舞踏会②

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(いつからだろう? 彼を男性として意識しはじめたのは)

 ふいに髪を掻き上げたラディアンの横顔にときめいたのが最初だった。
 ぼーっと見惚れていた私の視線に気づいたラディアンは凛々しい顔をにこりと崩して笑った。
 トクンと心臓が跳ねた。
 深い青色の瞳に心が絡めとられた。

 私はそんなふうに意識していたというのに、ラディアンはいつまでも私を子ども扱いした。無邪気さをよそおって抱きついたり胸を押しつけたりして、女として見てもらおうと何度も試みた。
 でも――。

「小さくてかわいい俺のマール」

 何度そう言われただろう。
 ラディアンに会いに行くたびに、彼は私を軽々と抱き上げ、くしゃくしゃと頭をなで、顔をほころばせる。
 筋肉質で体格の良いラディアンからしたら、小さな私は片手で抱き上げられ、幼い頃と同じ小さなかわいい子としか考えられないみたいだ。
 それ以上の言葉は未だに聞けていない。
 私も決定的に振られるのが怖くて、ラディアンに告白どころか、妹分以上の態度を取ることなどできなかったけれど。


 *****


 ダンスが始まって、ラディアンにエスコートされ、広間に進み出る。
 体格差のある私はともするとラディアンに振り回されてしまうので、彼は慎重に慎重にリードしてくれる。
 彼と踊っている間は、大人の女と扱われているみたいで、貴重な時間だ。
 それなのに、ラディアンとの身長差を少しでも補いたくて十センチヒールの靴を履いていた私は、ターンのときに足をくじいてしまった。
 痛みをこらえて踊っていたけど、すぐに私の異変に気づいたラディアンは私を抱き上げ、さっさと壁際に後退した。

「大丈夫か?」

 私をソファーに座らせ、その前に跪いた彼は私の足を確かめるように持ち上げる。
 自分の膝に乗せ、真剣な表情で私の腫れた足を検分するラディアンは素敵で、注目していた女性たちのうっとりした溜め息と熱い視線を感じた。

「大丈夫よ。ごめんなさい、私の不注意で」
「いいや、俺のリードが下手だったんだ」
「そんなことないわ! ラディアンのエスコートはいつも完璧よ」
「それだったらうれしいが。とにかく今日は帰ろう」

 そう言うとラディアンはまたひょいと私を抱き上げた。
 お姫様抱っこされた私は馬車に乗せられ、家に送られた。
 シェルム家に着くと、ラディアンは勝手知ったる他人の家とばかりに、執事に断って、私を抱き上げたまま部屋に運ぶ。使用人も彼のことは慣れているので誰も構わない。
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