夢魔はじめました。

入海月子

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かわいいって!

夢魔はじめました。

 ライアンは瞠目した後、微笑んで、彼からもキスをくれた。
 目が合う度に唇を重ねる。
 キスをする度に、好きという気持ちが元の形を取り戻していく。

 うん、大丈夫。
 この気持ちは私のものだ。

 私はライアンにぴとっとくっついた。
 彼も抱き返してくれる。

 あったかい……。
 なんでここはこんなに安心できて、居心地がいいんだろう。

「ライアン、あのね……」 
「うん?」

 彼の胸に頬をつけたまま、話し始める。

「私、両親が4年前に亡くなった後、頼れる人もいなくて、学校に行きながら働いて、ひとりで生きてきたんです。なのに、この世界に来て、こうやって、あなたに甘やかされて、どんどん怖くなってきちゃって……」
「怖く?」
「はい。あなたに頼るのが怖い。面倒だと思われるのが怖い。重荷になるのが怖い……」

 そう言うと、ライアンは私をより引き寄せて、私の頭の上にキスを落とした。

「俺はよっぽど信用ないんだな。もっと頼ってもいいと思ってるし、置いてかないし、面倒だなんて思ってないって何度も言ってるのに」

 ちょっと不服そうなライアンに、私は顔を上げて、慌てて否定する。

「違います!ライアンは優しいから、こんな面倒くさい私でも見捨てないって、わかってはいるんです」
「だから、面倒じゃないって、どう言えばわかってもらえるかな……」

 困ったようにライアンはつぶやいて、私の目をじっと見た。
 ほら、こんなことでも困らせてるのに、面倒に決まってる。
 そう思ったら、ライアンはその綺麗な顔でニヤリと笑った。

「わかった。面倒なのは認めるよ。でも、エマのその面倒なところも、すぐ泣くところも、恥ずかしがるところも、なにもかも全部かわいくて仕方ないんだ。自分でもどうかしてると思うくらいに」

 そんな殺し文句を言われて、私は真っ赤になった。
 ライアンは私の赤くなった頬をなでて続けた。

「それこそ、夢魔の魅了かと思ったよ」
「魅了……」
「されてないぞ?」
「どうしてわかるんですか?」
「ごめん、試してみた。魅了だったら、破邪の魔法で打ち破れるから。でも、俺は未だにエマがかわいいと思ってる」

 ライアンがそんなこと考えてたなんて……。
 私にはいろんな問題があるのに、全部かわいいって言い切るなんて、ライアンってばどれだけ心が広いの?

「だから、安心して好きにすればいいんだ。どうせ俺はかわいいとしか思わないんだから」

 もう、ライアン……!
 私に甘すぎだわ!
 私はさらに赤くなる以外になにも反応できなかった。

 そんな私に「かわいい」と、ライアンはまたチュッと口づけた。
 私は恥ずかしすぎて、ライアンの胸で顔を隠した。

 前から思ってたけど、かわいいとか気軽に言いすぎじゃない?
 イケメンはキザな台詞が似合いすぎて、困るわ。
 でも、なんだかいろいろ悩んでたのが、考えなくてもいいのかなと思えてきた。
 とりあえず、今はまだ。

 私が落ち着いた頃、ライアンは聞いてきた。

「ところで『この世界に来て』っていうのも説明してくれるんだよな?」
「はい」

 私は顔を上げて、話し出した。
 信じられるかどうかは別にして、ライアンに話すことには抵抗はない。

「私はこことは違う世界から来たんです。魔法はなくて、魔物も夢魔もおとぎ話の中に出てくるだけの存在でした。ある時、車……馬車のようなものに轢かれて、死ぬ寸前に、神さまが話しかけてきたんです。他の世界でもう一度やり直せって。それで気がついたら、この世界で夢魔になってたんです」

 ライアンは驚いた顔をしていたけど、割と冷静に頷いた。

「思ったほど驚いてないんですね」
「あぁ、エマが持っているものは見たことも聞いたこともないものだったし、ここの地理にも疎いようだったから、少なくとも他の大陸から来たのかと思っていた。それにしたって、そんな国のことも聞いたことがないし、他の世界から来たっていう方がしっくり来た」
「そうだったんですね。もしかして、他にもそういう人がいるんですか?」
「いや?俺は初めて聞いたが?」
「それでも、信じてくれるんですね」
「そんな嘘をついて、エマに得することもないだろ?」
「そうですけど」

 あっさり受け入れられて、拍子抜けした。
 ライアンは私の出身のことをいろいろ想像してたんだな。
 でも、私が話すまで待っていてくれた。
 本当に器が大きい。

「それにしても、見知らぬ世界に来て、夢魔に変えられてて、エマは大変だったな……」
「いいえ、すぐライアンに会えて、びっくりするくらい苦労は少なかったと思います」

 ライアンに出会えなかったら、今頃餓死してるか、森の中で獣に襲われて食べられてるか、もしかしたら、飢えて、人を襲ってたかもしれない。

「俺はエマに出会えなかったら、あそこで死んでた。お互い様だ。って、最初に会った時の会話みたいだな」
「ふふっ、そうですね」

 あの時は、こんなにライアンが好きになるとは思ってなかった。
 っていうか、まだあれから10日も経ってないのよね。
 毎日が濃厚すぎて、とてもそんな気がしないわ。

 私達はそれから、私の世界の話をしたり、ライアンの国の話を聞いたり、お互いのことを語り合った。

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