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8. お返し
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私をベッドに横たえて、聡太は頬をなでたり、キスをしたりして、私の身体が落ち着くのを待ってくれた。
水を持ってきてくれて、飲ませてくれる。
「さっき、激しくしちゃったけど、大丈夫?」
心配そうにしてる聡太に頷いてみせる。
大丈夫だけど、思ったより疲れて、グッタリしているから、口を開くのも億劫だった。
ほっとした顔で聡太は私の髪をなでて、口づけた。
「それじゃあ、もう寝ようか」
まだするんだと思っていたから、そう言われて、私は驚いた。
「そんな意外そうな顔しないでよ。ヤりたいだけの男だと思ってるの? 実際、盛ってばっかりだから、そう思われても仕方ないけど。今日はいっぱい歩いたし、あやさん、疲れてるでしょ? ただ抱き合って眠りたかっただけなんだ」
「……ただヤりたいだけでいいのに」
「そんなこと言わないでよ」
困ったような顔をしてる聡太に手を伸ばして、その頬をなでる。
ごめんね……。
聡太はそれ以上何も言わずに、寄り添うように横になると、私を抱きしめた。
優しく髪をなでられると、うとうとしてくる。
「おやすみ、あやさん」
心地よい聡太の声を聞きながら、私は眠りに落ちた。
翌朝、目覚めると、聡太はもう起きていて、コーヒーを淹れていた。
「あ、起きた? おはよう」
「おはよ」
いつの間にか、聡太のTシャツを着ていて、ベッドサイドには、私の服と下着が畳んで置いてあった。
どうやら洗濯してくれたらしい。
マメな男!聡太。
「洗面所借りるね」
「うん」
服を持って、洗面所に行き、顔を洗い、着替える。
戻ってくると、聡太が朝食を並べているところだった。
トーストに、ベーコンを添えたスクランブルエッグ、サラダ、コーヒー。
うん、やっぱりマメだ。
「食べようか」
「ありがとう。いただきます」
食事の後片付けが終わって、私が暇を告げると、聡太は今日は引き止めなかった。
「じゃあ、来週のホタル鑑賞会で」
「うん、またね」
玄関口でキスをされて、聡太の部屋を出た。
次の週は出張が入ってて、その準備と後片付けで、あっという間に過ぎた。
出不精の私は、実は出張は嫌いだ。アポを取るのも嫌いだし、数回顔を合わせたことがあるかないかの取引先と打ち合わせるのも億劫で仕方がない。
そもそも私は人がそんなに好きじゃないのよね……。
でも、仕事だから、そうも言っていられない。
いつものように仕事をこなして、なんとか無事に終わった。
そして、疲れ気味だった私は、珍しく土曜日の昼頃まで寝ていた。
時計を確認するのに、スマホを見たら、聡太からラインが入ってた。
『今日のホタル鑑賞会は18:00だから、その前後にご飯食べようよ。どっちがいい?』
時刻を見ると、ほぼ2時間前。
あらら、待たしちゃったかな?
『今、起きた。ごめん。鑑賞会の後がいいな』と返事する。
着替えてると、ピコンとラインが入って、『りょうかい。疲れてるの?』と聡太。
『ちょっとね。出張だったから』
『それはお疲れ様。だったら、待ち合わせは17:45に1階にしよう』
『りょーかい』
私は掃除、洗濯だけ済まして、待ち合わせ時間までテレビを見ながら、ダラダラと過ごした。
時間になり、1階に降りると、聡太が待っていた。
ベージュのコットンパンツに白のTシャツというシンプルな服装なのに、モデルのように決まっている。
私を見つけると、また蕩けるような笑みを向けてきた。
「お待たせ」
「ううん、ジャストタイムだよ。僕が待ちきれなくて早く来ただけ」
返しもスマートだ。
手を取られて、歩き出す。
「ワンピース姿もかわいいね」
聡太が私を見て、目を細める。
今日は『鑑賞会』って言葉につられて、なんとなくワンピースにしてみた。
空色のさわやかなお気に入り。
それを褒められるとうれしいけど、照れくさい。
「だから、かわいいってタイプじゃないから!」
「うん。見た目は綺麗なんだけど、僕にはかわいく感じるんだよね」
『綺麗』は割と言われ慣れてるけど、『かわいい』は言われたことがないから戸惑う。
顔に熱が集まるのを隠すように、そっぽを向いた。
「陽が長くなったね」
こないだまでこの時間は、暗くなっていたのに、まだ夕焼けになる一歩手前だった。
「これから本格的に夏だね」
「暑いのイヤだなぁ」
「あやさんは夏は好きじゃないの?」
「暑いと脱ぐのも限界があるし、溶けちゃいそうになるし」
「うわぁ、エロい」
「なに想像してるのよ!」
「んー、裸で蕩けてるあやさん」
「変態!」
「あははっ」
そんなことを言ってるうちに動植物園に着いた。
チケットを買って、中に入る。
「ホタル鑑賞会はあっちだね」
こないだ蝶を放した大温室でやるみたいだ。
そちらに向かうと、すでに大勢のお客さんが待っていた。
「人気なのねー」
「ホタルなんて、滅多に見れないしね」
そこに並んで、始まりを待つ。
ほどなくして、係の人が現れて、注意事項を告げる。
「ただいまからホタル鑑賞会を始めます。蛍の光を堪能していただくために、館内の灯りは落としてあります。足元には十分お気をつけください。広場まで係の者が誘導した後、すべての灯りを消します。真っ暗になって危険ですので、その場を動かないでご鑑賞ください。それでは、前の方からゆっくりご移動ください」
ワクワクしながら、大温室に入っていく。
確かに中は真っ暗で、誘導員の懐中電灯の明かりだけが頼りだ。
聡太の手を握りしめて、付いていく。
広場に着くと、お互いの顔がかろうじて認識できるほどの光量しかない。
「本当に暗いね」
「うん、これで灯りが消えたら、本当に真っ暗ね」
聡太が私を後ろから抱きしめた。
「ちょっと……!」
「あやさんが溶けてなくならないように……」
「それは違う話でしょ?」
耳許で笑う気配がする。
「それでは、灯りを消します」
係員が言って、灯りが消えると、一瞬で何も見えなくなった。
こんな暗闇はそうそうない。
「わぁ……」
暗闇のあちらこちらに黄色い儚げな光点が現れる。
「ホタルだ!」
「あっちにも」
「こっちにもいるよ!」
辺りがざわめいた。
「きれい……」
繊細な光が点滅したり、すーっと移動したりしている。
見たことのない優しい光。
確かに、これは少しの灯りにも負けちゃいそうで、真っ暗にする理由がわかった。
「神秘的だね……」
「うん……」
後ろから聡太の興奮を抑えるような声が聞こえた。
私を抱きしめる手に力が入った。
私も感動を伝えたくて、聡太の手に自分の手を重ねる。
しばらくその状態で、声もなくホタルに見入っていた。
「はい。それでは、ホタル鑑賞会を終了したいと思います。今から灯りを点けます。足元にお気をつけて、ご退場ください」
はっと現実に引き戻される。
灯りが点くと、聡太は私を放して、横に並んだ。
また、手を繋ぎ、温室を出た。
「ホタル綺麗だったね……」
「うん、感動した……。ホタル見れて、よかった」
私はこの動植物園の大ファンになってしまった。
「また、来年も来ようよ」
「うん、来れたらね」
明確な約束は避けて、でも、頷く。
また見れたらいいな。
「食事はどこに行く? どこか行きたいところある?」
「うん、駅の私達のマンション側にあるイタリアン行ったことある? 結構おいしいんだけど」
「ないなぁ。そこにする?」
「聡太がよければ」
「もちろん、いいよ」
私達は、ホタルの興奮が冷めやらないまま、口々に感想を話しつつ、そこへ向かった。
イタリアンでは、ピザとパスタをシェアする。
「おいしいね。こんな近くに美味しいイタリアンがあるなんて、知らなかった」
「たまに仕事帰りに寄るの。でも、聡太のパスタもここに負けてなかったよ」
「それはさすがに言い過ぎだよ」
謙遜しつつも聡太はうれしそうに笑った。
デザートもシェアして、満腹になって帰途につく。
マンションのエレベーターに乗り、私が5階を押すと、聡太は顔を曇らせたけど、何も言わずに8階を押した。
5階に着き、聡太が「じゃあ……」と言いかけたところを、手を引っ張ってエレベーターから降ろす。
「え、あやさん?」
ビックリした顔の聡太に、してやったりとにやにやする。
「いつも聡太の部屋に連れ込まれるから、たまには私の部屋に連れ込むのもありかなと思って」
聡太は目をぱちくりさせていたけど、それを聞くと「ありだよ、あり!」と笑った。
ぶんぶん振ってるシッポが見えるような聡太を連れて、部屋に帰った。
水を持ってきてくれて、飲ませてくれる。
「さっき、激しくしちゃったけど、大丈夫?」
心配そうにしてる聡太に頷いてみせる。
大丈夫だけど、思ったより疲れて、グッタリしているから、口を開くのも億劫だった。
ほっとした顔で聡太は私の髪をなでて、口づけた。
「それじゃあ、もう寝ようか」
まだするんだと思っていたから、そう言われて、私は驚いた。
「そんな意外そうな顔しないでよ。ヤりたいだけの男だと思ってるの? 実際、盛ってばっかりだから、そう思われても仕方ないけど。今日はいっぱい歩いたし、あやさん、疲れてるでしょ? ただ抱き合って眠りたかっただけなんだ」
「……ただヤりたいだけでいいのに」
「そんなこと言わないでよ」
困ったような顔をしてる聡太に手を伸ばして、その頬をなでる。
ごめんね……。
聡太はそれ以上何も言わずに、寄り添うように横になると、私を抱きしめた。
優しく髪をなでられると、うとうとしてくる。
「おやすみ、あやさん」
心地よい聡太の声を聞きながら、私は眠りに落ちた。
翌朝、目覚めると、聡太はもう起きていて、コーヒーを淹れていた。
「あ、起きた? おはよう」
「おはよ」
いつの間にか、聡太のTシャツを着ていて、ベッドサイドには、私の服と下着が畳んで置いてあった。
どうやら洗濯してくれたらしい。
マメな男!聡太。
「洗面所借りるね」
「うん」
服を持って、洗面所に行き、顔を洗い、着替える。
戻ってくると、聡太が朝食を並べているところだった。
トーストに、ベーコンを添えたスクランブルエッグ、サラダ、コーヒー。
うん、やっぱりマメだ。
「食べようか」
「ありがとう。いただきます」
食事の後片付けが終わって、私が暇を告げると、聡太は今日は引き止めなかった。
「じゃあ、来週のホタル鑑賞会で」
「うん、またね」
玄関口でキスをされて、聡太の部屋を出た。
次の週は出張が入ってて、その準備と後片付けで、あっという間に過ぎた。
出不精の私は、実は出張は嫌いだ。アポを取るのも嫌いだし、数回顔を合わせたことがあるかないかの取引先と打ち合わせるのも億劫で仕方がない。
そもそも私は人がそんなに好きじゃないのよね……。
でも、仕事だから、そうも言っていられない。
いつものように仕事をこなして、なんとか無事に終わった。
そして、疲れ気味だった私は、珍しく土曜日の昼頃まで寝ていた。
時計を確認するのに、スマホを見たら、聡太からラインが入ってた。
『今日のホタル鑑賞会は18:00だから、その前後にご飯食べようよ。どっちがいい?』
時刻を見ると、ほぼ2時間前。
あらら、待たしちゃったかな?
『今、起きた。ごめん。鑑賞会の後がいいな』と返事する。
着替えてると、ピコンとラインが入って、『りょうかい。疲れてるの?』と聡太。
『ちょっとね。出張だったから』
『それはお疲れ様。だったら、待ち合わせは17:45に1階にしよう』
『りょーかい』
私は掃除、洗濯だけ済まして、待ち合わせ時間までテレビを見ながら、ダラダラと過ごした。
時間になり、1階に降りると、聡太が待っていた。
ベージュのコットンパンツに白のTシャツというシンプルな服装なのに、モデルのように決まっている。
私を見つけると、また蕩けるような笑みを向けてきた。
「お待たせ」
「ううん、ジャストタイムだよ。僕が待ちきれなくて早く来ただけ」
返しもスマートだ。
手を取られて、歩き出す。
「ワンピース姿もかわいいね」
聡太が私を見て、目を細める。
今日は『鑑賞会』って言葉につられて、なんとなくワンピースにしてみた。
空色のさわやかなお気に入り。
それを褒められるとうれしいけど、照れくさい。
「だから、かわいいってタイプじゃないから!」
「うん。見た目は綺麗なんだけど、僕にはかわいく感じるんだよね」
『綺麗』は割と言われ慣れてるけど、『かわいい』は言われたことがないから戸惑う。
顔に熱が集まるのを隠すように、そっぽを向いた。
「陽が長くなったね」
こないだまでこの時間は、暗くなっていたのに、まだ夕焼けになる一歩手前だった。
「これから本格的に夏だね」
「暑いのイヤだなぁ」
「あやさんは夏は好きじゃないの?」
「暑いと脱ぐのも限界があるし、溶けちゃいそうになるし」
「うわぁ、エロい」
「なに想像してるのよ!」
「んー、裸で蕩けてるあやさん」
「変態!」
「あははっ」
そんなことを言ってるうちに動植物園に着いた。
チケットを買って、中に入る。
「ホタル鑑賞会はあっちだね」
こないだ蝶を放した大温室でやるみたいだ。
そちらに向かうと、すでに大勢のお客さんが待っていた。
「人気なのねー」
「ホタルなんて、滅多に見れないしね」
そこに並んで、始まりを待つ。
ほどなくして、係の人が現れて、注意事項を告げる。
「ただいまからホタル鑑賞会を始めます。蛍の光を堪能していただくために、館内の灯りは落としてあります。足元には十分お気をつけください。広場まで係の者が誘導した後、すべての灯りを消します。真っ暗になって危険ですので、その場を動かないでご鑑賞ください。それでは、前の方からゆっくりご移動ください」
ワクワクしながら、大温室に入っていく。
確かに中は真っ暗で、誘導員の懐中電灯の明かりだけが頼りだ。
聡太の手を握りしめて、付いていく。
広場に着くと、お互いの顔がかろうじて認識できるほどの光量しかない。
「本当に暗いね」
「うん、これで灯りが消えたら、本当に真っ暗ね」
聡太が私を後ろから抱きしめた。
「ちょっと……!」
「あやさんが溶けてなくならないように……」
「それは違う話でしょ?」
耳許で笑う気配がする。
「それでは、灯りを消します」
係員が言って、灯りが消えると、一瞬で何も見えなくなった。
こんな暗闇はそうそうない。
「わぁ……」
暗闇のあちらこちらに黄色い儚げな光点が現れる。
「ホタルだ!」
「あっちにも」
「こっちにもいるよ!」
辺りがざわめいた。
「きれい……」
繊細な光が点滅したり、すーっと移動したりしている。
見たことのない優しい光。
確かに、これは少しの灯りにも負けちゃいそうで、真っ暗にする理由がわかった。
「神秘的だね……」
「うん……」
後ろから聡太の興奮を抑えるような声が聞こえた。
私を抱きしめる手に力が入った。
私も感動を伝えたくて、聡太の手に自分の手を重ねる。
しばらくその状態で、声もなくホタルに見入っていた。
「はい。それでは、ホタル鑑賞会を終了したいと思います。今から灯りを点けます。足元にお気をつけて、ご退場ください」
はっと現実に引き戻される。
灯りが点くと、聡太は私を放して、横に並んだ。
また、手を繋ぎ、温室を出た。
「ホタル綺麗だったね……」
「うん、感動した……。ホタル見れて、よかった」
私はこの動植物園の大ファンになってしまった。
「また、来年も来ようよ」
「うん、来れたらね」
明確な約束は避けて、でも、頷く。
また見れたらいいな。
「食事はどこに行く? どこか行きたいところある?」
「うん、駅の私達のマンション側にあるイタリアン行ったことある? 結構おいしいんだけど」
「ないなぁ。そこにする?」
「聡太がよければ」
「もちろん、いいよ」
私達は、ホタルの興奮が冷めやらないまま、口々に感想を話しつつ、そこへ向かった。
イタリアンでは、ピザとパスタをシェアする。
「おいしいね。こんな近くに美味しいイタリアンがあるなんて、知らなかった」
「たまに仕事帰りに寄るの。でも、聡太のパスタもここに負けてなかったよ」
「それはさすがに言い過ぎだよ」
謙遜しつつも聡太はうれしそうに笑った。
デザートもシェアして、満腹になって帰途につく。
マンションのエレベーターに乗り、私が5階を押すと、聡太は顔を曇らせたけど、何も言わずに8階を押した。
5階に着き、聡太が「じゃあ……」と言いかけたところを、手を引っ張ってエレベーターから降ろす。
「え、あやさん?」
ビックリした顔の聡太に、してやったりとにやにやする。
「いつも聡太の部屋に連れ込まれるから、たまには私の部屋に連れ込むのもありかなと思って」
聡太は目をぱちくりさせていたけど、それを聞くと「ありだよ、あり!」と笑った。
ぶんぶん振ってるシッポが見えるような聡太を連れて、部屋に帰った。
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