STAYGOLD

レキ

文字の大きさ
1 / 1

プロローグ

しおりを挟む


『はぁはぁはぁ………っ』


 瞼を開くと不意に差し込む光の矢に反射的に右手が世界を暗闇へと誘う。


 心臓がまるでぶっ壊れるかと思うようなムチャクチャに速い心拍数、100メートル走をこれでもかってくらい走らされたかのように乱れた呼吸。

 しばらくしてそれがどうにか落ち着くと世界を遮る右手をゆっくりと動かす。


するとそこにはどこまでもつづく青、青、青…。



 果てしなく無限に広がるその青は、手を伸ばせば届きそうな、それこそ今にも落ちてきそうなくらい近くにある気がした。


『…なんだってんだクソっ!!』



オレはその青に向かって可能な限り叫んだ。




5月のゴールデンウイークを過ぎた日曜日の昼下がり…


車通りも少ない国道の、見通しも悪くないゆるやかなカーブ。

けして【魔のカーブ】と呼ばれたり、【死亡事故多発】の看板が立つにはまったく無縁なほどのゆるやかで見通しのよいカーブ。



でも、



そこにはガードレールに突っ込んだ一台のバイク。



そして…


大の字で仰向けに倒れている血塗れのオレ。



タイヤだけが力無くカラカラと廻っていた。




ようやくオレのしがない脳ミソが現状を理解し、身体に次の行動の指令を送る。指令通りゆっくりと身体を起こそうと、左腕を地面に着いた瞬間、激痛が走る。


『ぁがっ…』


言葉にもならないような声をだすと、またペタリと地面に倒れこむ。


『イッテ~~~っ』


左腕に走る鈍い激痛。

今まで腕をバキッ、あばらをミシッ、足をグキッ、包丁でズバッ、幾度かのケガを体験してきてはいるがケガってもんはとりあえず痛いもんである。痛いランキングをつけろと言われても今現在の痛みにオレは順位をつけられるわけがなかった。


以前テレビか雑誌かなんかで見たんだが、ヒトって生物は視覚からの情報によって下手すればショック死するようなケガもあっちゃうワケらしく、とりあえずどの程度のケガなのか見ようと思ったのだがさすがに見たくもない。


『くぅ~っ…』


痛みをこらえながらどうにか起き上がる。まずは状況の整理だ。


たしかオレはバイトへ向かう途中だった。


いつもは駅前の通りを使うのだが今日は野暮用があって少し遅刻気味だったのでいつもは使わないこの道を使ったのだ。


少しスピードをあげてメーターの針が60を指したくらで左カーブに差し掛かる。いつも使ってないとはいえ何度も走ったことのある道だ。このカーブが緩いことも知っている。


身体を左に傾げ、あえてアクセルを開ける。


それが間違いの元凶だった。


左カーブの途中いきなり後輪が滑りだしそのまま転倒。


そしてアスファルトの地面に時速60キロ近いスピードでのスライディング。


対向車線をシカトして吹っ飛んだオレは道路にシマシマがひいてあるゼブラゾーンに、バイクはもう少しいったガードレールに…


対向車がいたら死んでたかもしれないな…


脳裏を《死》というイメージがよぎったりしたがまぁそれより今は現実だ。


なぜ滑った?


中学生の頃、全力でチャリをこいでた時、雨が降ったあとのマンホールで滑って転んだことはあったがここ最近雨なんか降った記憶もない。見ての通り五月晴れだ。


キョロキョロと辺りを見回すとあるモノが目に入ってきた。


『…コイツのせい…か』


カーブの入り口にあったソレを見つけるとオレは落胆のため息をつく。


砂たまり…


ちょうどそこだけがくぼんで風で運ばれた砂がそこに溜まったんだろう。


なるほど…この砂でタイヤが滑って転倒したんだ。



『マジかよ、まだ買って一ヶ月だぞ…』


ってかよく考えたらこれはどう考えても国土交通省に責任有りだろ?いわゆる《道路管理の瑕疵》にあたるんじゃないのか?


意味もなく新しい道路を作るくらいならこういう既存の道路を新しく舗装しなおすなりしやがれってんだ。


オレたちの血税をなんだと思ってる!!


なんてこの間テレビで知った無駄な知識を展開しつつ、今の現状を整理しつつまた1つため息をついた。



オレの名前は高村 涼


名前の由来は


《常にクールにカッコよく生きていけるように!!》


ってことで《涼》と名付けたとオヤジは言ってるが、実はオカン曰わく、この《凉》って字と間違えて役所に提出してしまったらしい。

普通、息子への最初のプレゼントたる《名前》を間違えた字で提出するか?とオヤジに文句を言いたいトコロだがすでに時効は成立してしまっている。

まぁ実際、点が1つ増えようがオレはまったく気にしないし、むしろ後付けの由来通り《クールにカッコよく》生きてやろうじゃねぇかとさえ思う。


まぁ名前の由来以外はたぶん、ごくごく普通の16歳の高校2年生だ。


身長は173センチ、中学ではバスケ部に所属。ポジションはガードで3ポイントシューターだったりしたんだがワケあって高校に入ってからは部に所属していない。


オレは中学卒業と同時にすぐにバイトを始めバイクの資金を貯め始めた。

16歳の誕生日を迎えると同時にソッコーで免許取得のために教習所へ。もちろん学校にはバレないように少し遠めのトコに通ったりした。


そこにはやっぱりオレと同じようなヤツもいて、ほとんどはヤンキー入ってるヤツばっかだったけど、まぁ変なヤツが多かった。スキなバイクを語ったり、4輪の免許を取りにきてる3年生のお姉様と仲良くなってみたりってケッコー楽しかったな。




バイクは中学卒業と同時に始めたバイトでコツコツ貯めた金で親父の知り合いのバイク屋からドラッグスターを50万で購入!!

新車にはさすがに手が届かなかったが、オレが中学んときからずっと店頭に飾ってあったヤツを熱意のこもった交渉にてかなり値引かせた。そっからコツコツとハンドル変えて、マフラー換えて、シート換えたりとその他もろもろひっくるめて20万くらい。

高校生にしちゃかなりでかい買い物だろう。でも免許取って、バイク買って浮かれてたんだろうなぁ…


『はぁ~っ、これダイジョブかなぁ…つっう!?』



バイクの方に歩み寄ろうあと足を踏み出そうとすると激痛が走る。


左膝がグチャグチャだ。


デニムがクラッシュデニムになっちまってるしTシャツなんかは血塗れで所々が破れている。
    
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...