乱心者

少女

　公園の前で立ち止まる。家の近くにある公園。幼い頃よく遊んだ場所。ブランコ、滑り台、砂場があり毎日夢中になって遊んだ記憶がある。高校生になり、今となってはこの場所も小さく感じる。
　そんな懐かしさに浸っていると、足元に何か違和感を感じた。

　「おにいちゃんあそぼ？」

　見ると幼稚園児くらいの女の子が僕のズボンの裾を引っ張っている。

　「ごめんね。　これからお兄ちゃん用事があるんだ」

　僕は意外と小さい子の面倒見がいい。昔は三つ離れた妹の世話をしていたからだ。

　「おにいちゃんあそぼ？　おにいちゃんあそぼ？」

　女の子はそれでも僕におねだりをしてくる。仕方なく、少しだけだよと言って公園に入った。

　「じゃあ、何して遊ぶ？」

　「かくれんぼがいい！　おにいちゃんがおにねー」

　「いいよ。　じゃあ目を瞑るからその間に公園の中で隠れてね」

　「はーい」

　僕は目を閉じて十秒間数えた。

　「もーいーかい？」

　「まーだだよー」

　「もーいーかい？」

　「……」

　女の子の声が聞こえてこない。これは隠れたって事だな。僕は目を開いた。
すると、また足元に違和感を感じた。


　「あれ？　隠れてなかったの？」


　「うん！　そうだよー。　だってあそぶのはわたしじゃないもん」

　僕の足元の違和感はさっきとは違う事に気付く。急速に痛みが脳に走った。

　「イタッ！」

　左足の脹脛に木の枝が突き刺さている。それも、突き刺しているのはすぐ側にいた女の子だった。女の子は木の枝を右手でぎゅっと握りしめていた。多少血が出たものの、傷口は浅かった。


　「どうしてこんなことを⁈」

　「だってこうしないとみんなにげちゃうんだもん。　それに、ママがこうやりなさいっていってたんだもん」

　「え？」

　「かくれんぼしたいっていったのもママだよ」

　公園の入口前でゆっくりと歩いてくる人が見える。

　「あっ！　ママだ！」