リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

文字の大きさ
13 / 53

第十三話 王宮裁判

しおりを挟む
13


「別に平民の受入れが悪いと言っている訳ではないですよ。ただ今回に限っては問題があったのです」

あきらかな敵意に息が詰まる。

「平民出の庭師が、ある宝飾を所持していたのをご存じでしたか?」

モルワードと目が合うと彼はしたたかに目を細める。袖口から姿を現した品に驚きを隠せない。

「これ以上はおやめください、皆も居るのです。推測の段階で話など意味がありません」

ロイがなんとかしようと必死で弁論するが、すでにその場にいた貴族たちはモルワードの手元に目を奪われている。
金細工に宝石がはめ込まれた指輪が妖しく輝いている。それもただのリングではない、赤いルビーがはめ込まれた一品だ。
王城にルビーが持ち込まれた意味を考えると、ロイの狼狽にも納得がいく。

「呪いの石」

誰かが呟くと伝染するように周りも声を上げ始める。真っ赤な血を思わせるルビーは呪いに使われる不浄の宝石。悪魔との婚姻ともいわれるその品は、身に着けた者を苗床に様々な呪いを生んでいく。かつて王宮で起こった惨劇を知らぬ者はいない。命を食らう宝石として、根強く我らの禁忌とされている。
すぐにモルワードの意図を理解した。呪いの石を持ち込んだ庭師は宰相家推薦の平民だ。つまり宰相家が王家に呪いをかけ、傀儡政治を行うと暗に言っているのだ。

「下らない推測をまだ続けるつもりですか?」

彼からルビーの指輪を取り上げて、床に叩きつける。モルワードが仕組んだのか、本当に庭師が持っていたのかは問題ではない。国内の貴族が集まる場で、こんなに印象深く宰相家の失態が浮き彫りになるのが問題なのだ。

「ティアラ、もう止めるべきだ。まだ彼は何かを隠している」

耳元で小さく呟くロイを後ろ目に、モルワードは口元を緩め余裕を持て余している。ロイは何かを感じとり、これ以上の深入りを拒絶している。
ひどく腹ただしい、皆の前で下らない茶番を行い、まだそれを続けるというのだ。睨みつけるとモルワードは軽く頭を傾げ、その研いだ牙をこちらに向けようとする。

「先ほどの庭師の件ですが、彼は姫様の下賜品を所持しています。呪いの石と共に贈られたと証言していますよ」

静まり返る室内で、モルワードの意味深な言葉だけが際立つ。庭師への下賜について思い当たるのは一つだけ、しかも形として残らない食品を選んでいる。モルワードが偽りを語っているのは明白だ。でも一筋の不安が拭えないでいる。どうしてそんな嘘をついて罠に嵌めようとするのか、勝算のない戦いに身を投じるような男ではない。

「呪いの石、そして姫様の下賜。もし陛下の耳に入れば、何をお思いになるでしょう」

核心をついた言葉に身体が震える。モルワードの狙いは宰相家だけではなく、私自身の失脚も含めてきている。真実かどうかはもはやどうでもいい、父王からの疑惑の目が私に向けば転機が訪れると考えているのだろう。警戒が甘かったのかもしれない、常に万全の態勢で臨むべき相手に隙を突かれている。

「何かの間違いでしょう、私が庭師にルビーを贈るなどあり得ますか? これ以上の愚弄を続けるならば叔父上もそれ相応の覚悟をお持ちでしょうね」

話を遮ろうとして、モルワードの冷たい手が私の腕を掴んだ。できるものなら、やってみろ、と言わんばかりの挑発だ。皆には印象深く映ったはずだ。宰相家と王女が揃ってよからぬ企みをしていると。王宮へルビーをもたらし、現王を呪って王位を手に入れる、そんな姿が彼らには視えているのだろう。
ロイが手を引いて私を背中に隠すように庇い立つ。いくらか睨みあい、モルワードは興味なさそうに鼻で笑った。

「選ばれないくせにナイトを気取るか? お前はただの犬だろう」

ロイの身体がかすかに揺れた。彼よりも高位だからといって許される発言ではない。思わず前に出ようとするがロイは譲らない。モルワードの前で膝を折り、ただ一言謝罪の言葉を口にする。挑発にはのらないという彼の意思だろうが、怒りと悔しさで心が押しつぶされそうだ。

「ならば、潔白を皆の前で証明すればいい」

険悪な空気を一掃する張り詰めた声。皆が一斉に頭を垂れ、声の主に跪く。

「陛下!」

ロイやモルワードに続いて私も深く腰を落として礼をする。
威厳と権力の鎧を纏い、誰よりも聡明で寛大と言わしめる賢王。美しいブロンドの髪に無色透明のダイヤをその王冠に掲げている。この国の象徴でもあり唯一の国王である。

「申し訳ございません。お父様」

災難に見舞われる私達を危惧しての登場だが、このような醜聞を父の耳に入れるのは憚られる。この程度の言いがかりを払拭できない自分が恥ずかしい。同じく横で首を垂れるロイも同じ思いなのが伝わってきた。

「陛下、この度は私共の失態によりこのような……」

ロイの言葉に被せて父王は手で発言を中断させた。深くため息を漏らして、この有様を嘆いている。

「弟よ、お前の発言から生まれた疑惑だ。偽りであればただでは済まぬぞ」

モルワードに言葉を投げかけて、父は審問官を入室させた。父はこの騒動に白黒をつける気なのだ。

「ティアラ、ロイ両名をこれから審議に参加させよ」

バラの式典を台無しにされ、同時に宰相家と王女の醜聞まで生まれた。これだけの貴族の前で顔に泥を塗られたのだ、王としてこれほどの屈辱はないだろう。静かな怒りを潜める父にかける言葉が見当たらない。

「疑惑が晴れるまでここにいる三人の位を取り上げる」

傍に仕えた近衛兵が私達三名の守護宝石を外していく。疑惑が晴れるまで地位を剥奪し、権限による不正を起こさせない取り組みだ。

「陛下、今回は我が家の管理不足が発端です。姫様は関係ありません、審問を行うなら私とモルワード卿だけにお願いします」

ロイがすぐさま進言し、私の無実を訴えようとするが父はまるで聞く耳を持たない。潔癖ならば証明されると言わんばかりだ。

「兄上、呪いの石やティアラ姫の下賜は紛れもない事実です。どうか真相を証明して下さい」

重ねるようにモルワードも発言を繰り返す。ここまで自信を持って発言するのなら、まだ秘策を持っているのだろう。近衛兵に連れられて三者それぞれが隔離という形で宮に閉じ込められる。

宮の窓から見える庭園を見て悲しさがこみ上げた。すでに火災は消し止められたが焦げ臭い匂いと灰が一面を覆っている。あんなに美しい花々が一瞬で失われてしまったのだ。
脳裏にモルワードの顔が張りついている。行われる尋問でどのような話が持ち上がるのか不安が押し寄せる。宰相家の人間を始め、たくさんの者が協議にかけられるのは想像に容易い。そして平民出の者も多数駆り出されるだろう。

――フェリド。

もし彼が尋問に駆り出されたなら不利だと確信している。真実と嘘が混ざれば状況が悪化するのは間違いない。フェリドと交友した事実を突かれたら弁解がややこしくなる。

いや、もしくはモルワードは知っていたのではないだろうか? そもそも最初から仕組まれていたとしたら?
疑念は一つの可能性を導き出す。フェリドは最初から不審な部分があった。リクシオンの耳飾りにまつわる物事を知り、宝石を見抜く眼力は平民のものではない。
心の警戒が高まる。考えればおかしな偶然だったのだ。城下町で出会い、王城で親睦を深めるなど。
己の浅はかさに指が震えている。私はとんでもない過ちを犯したかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...