リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

文字の大きさ
16 / 53

第十六話 リクシオンの耳飾りを贈れたなら

しおりを挟む
16


応接の間で父王を前に膝をついて叱責を受けている。監獄で起こした騒ぎは、瞬く間に城内に知れ渡り父王の耳に入った。すぐに父から呼び出しを受け、今の状況に至っている。

「お前が騒ぎを起こし、今この城内で大きな噂になっているのは知っているだろう」

煌めきやかな王座に腰かけながら、父は呆れた様子で頭を抱えている。つまらない騒動に首を突っ込んだ挙句、アンナの制止を振り切って、王族の名で勅命を下した。その行動は新たな火種として、モルワード率いる反王政派のいい材料になっている。現にあれからというもの私を非難する噂は後を絶たない。

「私は何を言われても気にしません。あんな非人道的な行いの方が非難されるべきでは?」

こればかりは間違っていないと自信をもって言える。父王の手前、しおらしく膝をついてはいるが、謝るつもりも命令の撤回も考えていない。父はそんな私の強情さに慣れているようで、大きなため息を漏らした。

「ティアラ、物事にはそれなりの理由がある。何故、彼らが罰せられるのかは分かっているだろう? モルワードを罪に問えないならば、その代わりが必要だ。罰さえ受ければ彼らは許され日常に戻れる。犯人不在のままでは、庭園をはじめ多くの人間が巻き込まれてしまうではないか」

だから仕方ない、と父は言う。今の状況に、正義や公正さを求めるのは間違いだと暗に諭しているのだ。

「では、フェリドについては如何です? 彼への行いは悪意が感じられます」

ロウアや他の使用人に比べ、彼は独房に繋がれ一人厳しい処罰を受けた。彼だけが酷い戒めを受ける理由が見当たらない。
あくまで譲らない姿勢に呆れたのか、父王は外に待機している侍女に声をかける。何事かと身をひるがえして後ろへ視線をやると、扉が開かれて数人の近衛や侍女が室内に入って来た。

「どういう事ですか?」

一目彼らの姿を見て、怒りに声が震える。後ろ手を鎖で拘束され、今もまだ生傷が癒えないフェリドが引きずられていた。服装もそのまま、あの後に解放されることなく収容され続けた様子だ。フェリドはただ黙って静かに視線だけで物事を語ってくる。誰も許さず、信じないといった瞳で、こちらをただ冷たく見つめている。

「この男がモルワードと関わりがあったのは知っているな? 私がお前の命令を撤回し、彼を投獄した。理由はこの男に語らせよう」

父王は手で合図をし、近衛はフェリドを王の御前にひざまずかせた。力任せに押し付けられフェリドが苦悩の声を上げる。ひどく血生臭い匂いが鼻をかすめ、フェリドを取巻く劣悪な環境を思い知らされる。身体を折り曲げられ、無理に膝を折る彼は、それでも反抗的な目を改めない。ただ相手を非難するようにじっと顔を上げている。

「今更、何を語れと言うのです。私は過去にモルワード卿の花園を潰した。その事実があれば十分でしょう? 貴方達にとって今回の火事が誰の仕業かなんてどうでもいいはず」

どこか開き直った様子でぞんざいな態度を取る彼に、近衛の鋭い拳が降り注いだ。勢いあまって上体ごと床になぎ倒されたフェリドは鼻から血を流している。しかし誰一人として救いの手を差し出さない。父王も厳しい視線を送るだけである。

「フェリドよ、その反抗的な態度がモルワードとの確執を生んだと分かっているはず。過去の反省をせずに招いた結果がこれだ。かつて貴族の庭園を故意に枯らし、今回も管理不足で同じ過ちを起こした。平民階級ながらここまで我らを翻弄した罪は重い。お前には極刑が相応しい」

冷徹な言葉にフェリドは声を出して笑いだす。床に投げ出された上体を起こして、彼はこちらに怯む姿勢を見せない。咆哮のように彼の声が部屋に響き渡った。

「過去の反省だと? 笑わせるな、お前達はいつも都合が悪くなると俺達のような弱者に牙を剥く。今回も誰が放火したなんてどうでもいい、ただ己の権力を誇示して見せつけたいだけだろ」

国王に浴びせる暴言。未だかつて目にしたことのない修羅場に足がすくんでいる。父王に噛みつかんとするフェリドに近衛が鞘を抜く。刃を向けられてフェリドは観念したのか、初めて私に視線を送った。前にも感じた冷たい視線、深海の奥を覗くような暗闇が広がっている。

「ティアラ、お前も俺を騙していたのか?」

たった一言を呟いてすぐに目をそらす。

――違う!

恐れで震える身体が、解き放たれたように動き出した。何かを考える余裕はない、ただ彼を救いたいという気持ちに体が反応した。

「お父様! どうか彼を許して下さい。私は彼をこんなことで失いたくないのです」

フェリドを庇う様に立ちふさがれば、近衛の剣先が私の腕をかすめて一筋の傷ができた。痛みを感じるよりも熱く私の心は燃えている。彼と交流がさほどあるわけでもない、素性も知れない人間をこれほど庇うのはなぜなのか。それはフェリドにとっても同じようで、後ろで困惑している。

「やめろ、こんな真似をしてどうする? アンタに助けられる義理はない」

その通りでフェリドを助ける義理なんてない。この最悪な状況を招いたのは彼の反抗的な態度が原因だ。しかしもう止められる気がしない。

「フェリド、私は貴方を騙してなんかいない。私は本気で貴方と友人になりたかった」

呟いて彼のほうへ向き合う。間近で見れば彼の悲惨な状況が嫌でもわかる。この理不尽を終わらせるには覚悟が必要だ。彼の頬に手を伸ばして、私は高らかに誓約を告げる。

「私、ティアラ・モデレオンはここに誓う。フェリド・オーウェンに誓約の証を与え、ここに主従の関係を結ばん」

父王の命令が絶対なのであれば、撤回せざるを得ない理由を彼に与えるしかない。
つねに服に忍ばせてある誓約の証。「リクシオンの耳飾り」を取り出して、両手を拘束されたフェリドの耳へ一方的に突き刺す。ピンクダイヤの宝石に飾られた耳飾りは、静かに彼の耳に穴を開けていく。一筋の血の跡を残しながら、その耳飾りは存在を誇示するよう光輝いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...