リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

文字の大きさ
18 / 53

第十八話 父王の警告

しおりを挟む
18


どれほどの朝と夜を迎えただろう。少なくとも一か月は部屋から出られていない。しかし長い監禁生活は、意外な者の来訪で終わりを迎えようとしていた。

「ロイ・ベルガードがティアラ姫を陛下の元にお届けいたします」

静かな部屋に透き通った声が響く。彼の声を耳にし、一気に心拍が上がっていく。体全体で鼓動を刻むような苦しさ、指先がかすかに震えている。今更どんな顔で会えばいいのか分からない。
アンナに視線をやると黙ったまま頷き、手を差し出して扉前へとエスコートしてくれる。
ロイからの耳飾りを返却したが、音沙汰がなくずっと気になっていた。彼がどんな思惑でそこに立っているのか想像できない。神妙な面持ちで扉に進み、ドアに手を押し当てて声を発した。

「どうしてここに? 貴方はもう私に会いたくないと思っていた」

自嘲気味に囁くとすぐに扉が開かれる。目の前には変わらず手を差し出すロイが居た。海のような青いサファイヤを襟元に飾り、綺麗に刺繍された衣服を纏っている。いつもより顔色は冴えないが、変わらずいてくれる彼が今はとてもありがたい。

「君を守るのは僕の役割だ。何があってもそれは変わらないよ」

伸ばされた手に力が籠り、彼の意識の高さを思い知らされる。彼は宰相家としての役割を貫くべく味方で居てくれるのだ。

「ロイ、こんな事になってごめんなさい」

繋がれた手を握り返して、彼の覚悟に寄り添う。彼は首を振って私と共に歩き出した。
長い廊下を進みながらあることに気付く、いつもなら誰かしら往来のある場所に人の姿がない。不自然なほど静かで足音が響くほど空虚な空間だ。

「どうしてこんなに厳粛な雰囲気なの? 誰も居ないわ」

長い廊下にはロイと私だけ。アンナや近衛も遠ざけられ、異様としか言いようがない。城内の様子に気を取られて、間近にいるロイへの意識が途切れていた。隙をつくように、おもむろに繋がれた手を強く引かれる。

「今日、何が起きたとしても僕の忠誠は変わらない。この言葉だけは忘れないで」

ロイの大きな体に収まるように抱きしめられている。ロイらしくない言動に心がざわめき、彼の胸元に居るというのに心は凍るように寒い。

「今日、何かが起きるのね?」

躊躇いがちに問いかけると、予想通り彼は微笑むだけで答えを返さない。陛下が待っている、とだけ返し、彼は抱擁を解いて再び歩き出した。謁見の間に近付くにつれ、心の不安は大きく広がっていく。手汗を感じるほどに緊張し、足取りも重くなっていく。

「さあ、陛下の御前だ」

ロイと共に謁見の間の中央まで歩み、玉座の前で膝をつく。いつもであれば父王の傍には近衛や侍女がずらりと並んでいるのに、今日に限っては人影すらない。特別な話が行われるのだと、警戒心が増す。
王座に座ったまま父王は私達の挨拶を受けると、有無を言わさず本題に入った。

「フェリド・オーウェンの件だが、本気で彼を受け入れるつもりか?」

父王の発言にロイの身体がピクリと跳ねた。顔は伺い知れないが父王と同じく険しい表情なのは察しがつく。父王の思惑は計れないがここで引くつもりはない。

「はい。そうでなければリクシオンの耳飾りを渡したりしません」

顔を上げてはっきりと宣言する。一度決めた事柄を簡単に撤回してはいけない、己の発言に責任を持つこと、幼い頃からの教えだ。沈黙の中、父と視線を合わせて決して逸らさない。父王はこちらの意思を読むかのように鋭い視線で睨んでいたが、引かないと悟ると大きく息を吐いて視線を外した。

「入れ」

父王の声と共に、上座の垂れ幕から人影が現われる。礼服を纏い、髪を綺麗に整えた男はすぐに正体が分からなかった。まるで印象が違う。片耳にピンクダイヤの石を身に着け、美しく飾られた男は、庭師の頃の彼とは似ても似つかない。

「フェリド・オーウェンが挨拶します」

どこか意気消失ぎみにフェリドが膝を折る。先日まで荒々しく、王を非難した彼とは別人のようだ。腑に落ちない中、フェリドをただ黙って見つめる。どこか怯える表情をして、彼は顔も上げず首を垂れている。

「彼を認めてやってもいい。しかし、お前には条件を呑んでもらいたい」

そう言って父王は立ち上がり、私のすぐ前まで接近してきた。私の手を何かを握らせて、ロイを見つめている。恐る恐る、手の甲に乗せられた品物を確認すべく拳を開いた。

――リクシオンの耳飾り?

手中には私の守護宝石がはめ込まれた耳飾りが置かれている。すぐに父王の思惑を読み取り、耳飾りを床に投げ捨てた。

「ロイを巻き込むのですか?」

猛烈に非難する目で父王を睨みつける。王国にとって都合の良い彼を推す気持ちは分かる。が、彼は大切な幼馴染である。こんな形でリクシオンの耳飾りを渡すなどあってはならない。

「宰相家のロイ・ベルガードを正式な伴侶として迎え入れるなら、私も譲歩する。これは最後の警告だ」

冷たく言い放たれ、私はその場に座り込んだ。床に転がる耳飾りに手を伸ばそうとして躊躇う。もし、この耳飾りを彼に渡したら、ロイは一生苦しむことにはならないか? 世論の期待に応える貴公子が、こんなやり方でリクシオンの耳飾りを与えられるなど屈辱でしかない。
怒りで震える身体を抑え込んで、私は必死に頭を巡らせていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...