リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

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第二十六話 愛妾クローディア

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応接間ではすでにたくさんの来賓で賑わっていた。私達が登場したことで皆が一同に礼をする。にこやかに微笑む仮面を身に着けて、その渦に飛び込んでいく。傍にはロイが居て、その存在感を示すように私の手を握り、仲睦まじい姿を観客に見せようとしていた。

「踊っていただけますか?」

ロイの申し出に頷いて、彼とステップを刻み軽やかに舞う。皆がこちらに羨望の眼差しを送り、感嘆のため息が聞こえてくる。一曲の終わりに彼は手の甲に口付けて、模範的な伴侶の姿を示している。
しかしそれが造られたものだから心が痛い。ここでも彼は“未来の王配”を意識し振舞っている。もし私が姫でなければ、彼は私に愛を囁いていたのか、それは今でも私に疑心を抱かせている。

「これはお似合いの二人だ、素晴らしい」

どこからか声が上がって振り向く。煌びやかな人混みに潜む漆黒。どこにいても一目で彼の存在は分かる。その全身を黒で塗りつぶした男は、私達の前に現れ、軽く礼をする。

「ご無沙汰してます。姫様もロイもお元気そうで安心しました」

ブラックダイヤを指に輝かせ、真っ黒のベロアの礼服を身に着けて彼は挨拶する。

「叔父上、お久しぶりですわ。 謹慎されて少しは反省できましたか?」

こみ上げる怒りを抑えて、私は彼を軽蔑の眼差しで見つめた。王城の庭園で騒ぎを起こしたモルワードがそこに居る。例の事件から数か月、すでに謹慎を解かれモデレオン領地に足を踏み入れているのが腹立たしい。

「姫様の誕生祭を欠席するなどあり得ませんよ。それに今回は二人も伴侶を得られたとか? お祝いに伺うのが礼儀でしょう」

悪ぶれた様子もなく微笑む、この男は図太く恥を恥とも思っていない。隣のロイもそれを分かっているのか、気にする風でもなく淡々と常套句を並べている。

「ははは、ロイも姫様が即位されれば王配となる。私よりも身分が上がってしまうとは恐れ入る」

どこか棘のある言葉は相変わらず。しかしそれをいちいち気にしていられない。適当にあしらって席を外そうとすれば、モルワードは遮るように私達の前に足を踏み出した。

「ひとつ宜しいか? 公妾フェリドは私の使用人でした。一度挨拶がしたい。彼はどこにいるのかな?」

周りを見渡すようにモルワードはフェリドを探している。何を企んでいるのか知らないが、この男は本当に気が許せない。

「フェリドは欠席です。まだ彼はこの場に相応しくないと判断したので」

ロイが割って入り説明をする。フェリドの話題が上がり私は気が気でなかった。モルワードとの関係を鑑みれば、何かしらの問題が浮かび上がる。まだこちらの足場も固まっていない中でかき乱されるのは勘弁願いたかった。
私はロイの手を離し、モルワードに差し出す。

「過去の話など蒸し返してどうするのです? 今日は私の誕生祭です。一曲付き合って下さいますか?」

差し出した手をモルワードは受け取り、軽く頭を下げる。人混みの中央近くで曲が鳴り、それに合わせてワルツを踊る。お互いに野心を隠して見つめあい、テンポが上がると場は最高潮になる。完璧な踊りを通して彼に侮るなと警告すると、ただ彼は不気味に微笑むばかりだ。

「もう15歳になられた。こんなダンスができるほど大人になるとは。しかし心が成熟するにはまだ時間がかかるのでは?」

甲に口付けて彼は私の手を名残惜し気に手放す。そして奥から一人の女性を呼び出した。モルワードと対になるように黒のドレスを身にまとい、耳にはブラックダイヤが輝いている。静かな水面のように凛とした佇まい。こちらが圧倒される優雅な物腰で彼女は深く礼をした。

「クローディアは私の愛妾であり、かつてフェリドが愛した女だとご存じか?」

またもや皆の前でこのような戯言を云い関心を得ようとする。咄嗟に動いたのはロイだった。私を背に収めてモルワードの前に立ち塞ぐ。

「ティアラを侮辱するなら、僕も貴方と戦わざるを得ない。フェリドはティアラの慈悲によって今の地位にいる。貴方が思うような関係ではないときっぱり申し上げる」

静まる城内に二人の対立が浮き彫りになり、皆がひそひそと噂話を始めている。もとよりフェリドの欠席を命じたのはこれが原因だった。平民である彼がリクシオンの耳飾りを手にしたとなれば、好奇の目は避けられない。どんな事情があろうともフェリドが公衆に晒されれば、皆は色んな噂を吹聴する。現にモルワードはフェリドの恋人を連れて、こちらの隙をつこうと仕掛けてきている。

「フェリドが愛した女性? それが何だと言うのです。彼女は貴方の愛妾となり、フェリドもまた私の傍にいる。問題がありますか?」

凛とした態度で平然としているが、心の中は複雑だ。フェリドは過去の恋に踏ん切りがつかない様子だった。この絶好の好機をモルワードが見逃すはずがない。

「フェリドは……元気ですか?」

今まで押し黙っていたクローディアが遠慮がちに問いかけてきた。彼女は儚い印象はあるもののとても美しい。白い肌に黒が映えて、真っ赤な唇が妖艶に言葉を発している。

「貴女が心配するなんておかしいわ。彼は私の公妾なの。貴女よりも高位のフェリドを語る権利があるとでも?」

意地悪くクローディアに言い放つ。過去に彼らがどんな問題があったのかは知らない。ただひとつ分かるのは、彼女にどんな経緯があったとしてもフェリドを捨て、モルワードの傍にいるという事実だ。どんなにフェリドを危惧していようと本質は変わらない。
ひりつく空気を見かねてロイが私の手を引っ張った。

「ティアラ、相手にするな。今日は君の誕生日なんだから」

強く握られた手に身を任せて、庭園まで逃げていく。寒い季節に花どころか木々も葉を落としている。殺風景な景色に見守られながら彼は、静かに私の肩を抱いていた。

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