リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

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第二十七話 ロイと2人で

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「君とずっと二人きりになりたいと思っていた」

向けられる眼差しも、触れる指先もとても熱い。こんな扱いを受けるのはとても歯痒い思いがする。

「さっきはありがとう。叔父上から守ってくれて嬉しかった」

妙な雰囲気に慣れなくて、目を伏せて笑ってみる。ロイは積極的に私との関係を進めようとしている。それが“愛”というものなら、私は幸せ者だとも思う。だけどそこに含まれる純粋さの割合はどれくらいだろう。先程から嫌というほど見せつけられた「王配」としての振舞いは、私の心に根深く疑心の種を植え付けている。

「ねえ、いつから貴方はそんな仮面を被るようになったの?」

ロイには二面性がある。私を愛していると囁きながら、地位を重んじ宰相家の人間としての期待に応えようとする。リクシオンの耳飾りを受け取った時でさえ、彼は臣下で王家の道化になるのを躊躇わなかった。彼の本音が今も暗くて見えないのだ。

「貴方を信じたい。だけど貴方は地位ばかりを重んじて、演じているように感じる時がある」

疑惑に震える心を払拭してほしい。権力も地位も関係なくロイとしての人柄を私に示してほしい。
頬に触れる彼の手に指を添えて、ただ真っ直ぐに顔を見つめる。冷たい空気が夜空を張り詰めたものにする。

「誕生日にそんな悲しい事を言わないで。僕は今も昔も変わらない、ただ君を守り傍にいる。それを成し遂げるには力が必要だと、君は分かっているはずだ」

迷いない瞳が私を映している。そして深い後悔が私の身体を苛んでいく。

「貴方を巻き込んだのは間違いだったかもしれない。私は今も苦しい。貴方が伴侶としての仮面を被るたびに、本当のロイが失われていく気がする」

言葉を遮るように唇が塞がれた。温もりと愛を語る口づけは、思っていたよりも冷たくて悲しいものだった。

「愛しているよ、ティアラ。僕には君だけだ。幼い頃からずっと君だけを見てきたんだ」

その言葉に嘘はない、とロイはただ私を抱きしめる。戸惑いながら私は彼の背中に手を回した。今更何を語ったとしても、彼はすでにリクシオンの耳飾りを受け入れている。本来の彼が何であれ、私は彼を選んだ責任を果たさなければならない。

「ええ、分かっているわ」

言い聞かせるように呟いて、夜の庭園に二人で身を寄せ合っている。どこまでも続く星空は美しく王城を照らしている。少しばかりの昔話に花を咲かせて、今はただこの時間を大切にしていたかった。

「姫様、そろそろお戻り下さい。陛下がお待ちですよ」

付かず離れずの距離で様子を見守っていたアンナが声をかける。どこか嬉しそうにしている彼女を見ると落ち着かない。思い返せばここでロイとのキスを見られているのだ。我に帰れば顔から火が噴きそうになる。

「アンナ! 分かっているとは思うけど……」

牽制する私にアンナはにこりと微笑んで頷く。

「もちろん誰にも言いませんとも!」

にこやかな彼女とは正反対に、私の顔は真っ赤になっている。居たたまれなくて俯く私の手をロイが掴んだ。

「戻ろう、陛下が君をお待ちだ」

公私混同することなくロイは澄ました顔で言いのける。そこに大人の余裕が感じられて、私はなおさら恥ずかしくなった。そうね、と頷いて三人で応接の間に戻っていく。
応接の間では今も華やかなパーティが続いていた。たくさんの食事に色とりどりのスイーツが並び、皆がお酒を片手に談笑をしている。そしてその上座に父は居た。貴族の挨拶を受けながら父王は笑っている。私達もそこに向かうと頭を深々と下げた。

「似合いのお二人だ」

どこからともなく賛辞が飛び交い、父王も満足そうに私達を祝福してくれる。父の手を取り贈り物が積まれた場所に移動すると、そこには眩いばかりの宝石やドレス、小物が並んでいた。たくさんのプレゼントに気を奪われていると、父はひときわ眩い宝石の首飾りを取り出して私に贈った。

「母親の形見の首飾りだ。大切にしなさい」

そういって首元に飾られた美しい宝石は、生前の母が身に着けていたもの。幼い頃に母を失った私にとってこの首飾りはとても感慨深いもの。

「ありがとう、お父様」

父に抱きついて礼を言うと頭を撫でられた。こんな時は子供のように扱われるのも悪くない。残りの時間は父と過ごしたくて、彼の傍を離れなかった。ロイとアンナも私の心情を察して気遣ってくれている。
楽しい時間もつかの間、夜が更けてくると父は私に退席するよう告げてきた。理由は未成人であることだが、他にもモルワードを懸念しての配慮だと思う。アンナをこっそりと呼び出して、盛り上がる宴の席を静かに退室していく。

「とても静かね」

応接の間を離れれば、とたんに静かな空気と入れ替わる。自室に戻る為にアンナと道を行けば、足音が聞こえるくらいの静寂が続いている。

「その首飾りは王妃様のものですね。まるで生き映しのようです」

アンナの視線の先に輝く首飾りは、父が一人の女性に贈ったもの。彼は王という地位のわりに伴侶の数はとても少ない。リクシオンの耳飾りを与えた女性は数人。その中で最も寵愛した母だけに首飾りを贈った。しかし母は早世し、その愛情深さゆえに父はそれ以上の子供を望まなかった。それが直系を限りなく少なくした理由である。

「お父様のように私も誰かを深く愛せると思う?」

私の問いかけにアンナは目を細めて笑っている。

「すでに出会っているではありませんか」

そう言ってアンナは私の肩をぐいぐいと押し付けてきた。その意図が分からない訳ではない。しかしずっと私の胸には疑惑が生じている。顔に出さないよう微笑むが、まだ嵐は過ぎ去っていない。

「ティアラ?」

自室に着こうかという道筋で声が掛けられる。声を潜めて闇に紛れるように男は物陰から姿を現した。月の明かりに照らされて、その姿を露わにしていく。

「フェリド? どうしたの?」

周りの目を気にした様子でフェリドが顔を出した。閉じこもっていた宮を抜けてここで何をしているのか。フェリドは隣に居るアンナに目をやって申し訳なさそうにしている。

「少しだけ、ティアラと話す時間をもらっていいか?」

アンナは怪訝な顔をして一歩後ろに下がる。その行動を肯定と捉えてフェリドは私の前に歩み寄ってきた。

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