リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

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第三十四話 奪われた伴侶

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フェリドの心に触れた日。私は浮かれていたのだと思う。
彼に迫る危険に、私へ向けられる警告に気付けなかったのだから。

――どうして、こんなことになってしまったのか

私の手にはリクシオンの耳飾りが握られている。ピンクダイヤの輝く耳飾りは、フェリドが身に着けていたもの。すでに持ち主は私の伴侶ではなくなっている。

「姫様、ロイ様がお待ちです。ご準備を」

ええ、と短く答えて私は冠を頭に飾る。今日は私の16歳の誕生日。
髪をひとつに結い上げて、ピンクダイヤの冠を頭に輝かす。そしてその隣に未来の王配となるロイが立つ。次期王位継承をする者として、皆の前でその宣誓が行われるのだ

「お父様は謁見の間で私をお待ちよね」

アンナが頷き、私はリクシオンの耳飾りを胸元に仕舞う。この後悔は一生抱えていかなければいけない。そしてこの絶望は教訓でもある。

「ティアラ、行こう」

ピンクダイヤを耳に輝かせたロイが手を差し出す。その清々しい笑顔も優しい眼差しもすべて私に注がれている。王配としての顔を崩さないロイは、揺るぎない地位を手に入れた。フェリドがいなくなり、名実ともに私のたった一人の伴侶になったのだ。

――フェリドが被害を被ることで得をする人物は誰か?

モルアードが吐き捨てた言葉だが、今なら理解できる。
誰よりも早い情報収集、完璧な思考、そして的確に敵を排除する。ロイは緻密なロジックを駆使して、確実な益を得た。
ロイと張り合える者はもういない。

「ついてきて」

ロイの手を無視して私は独りで歩き出す。もうこの手を純粋な気持ちで取ることはできない。ロイの姿は、私が知っている幼馴染の彼とは違っている。
私の素っ気ない態度に彼はため息を漏らした。

「また彼を思い出しているの? もう半年ほど過ぎたというのに」

やれやれと言わんばかりに彼は首を傾げる。

「まだ、たった半年よ」

ぴしゃりと吐き捨てて私は先を歩いていく。バランスを失った関係にはみごとな亀裂が入った。ロイもそれを感じているのか、前ほど積極的に接触をしてこない。

謁見の間にはたくさんの来賓が、成人となった私の祝いに駆けつけていた。軽く会釈しながらその群衆を通り抜け、父王の前で深々と頭を下げる。

「ティアラは成人となった。王位継承権を持つ正式な位を与える」

父の宣誓と共に拍手が沸き上がる。この宣誓で私は父王の隣に座ることが許される。玉座に二つの椅子が置かれ、私が席に着くとロイは左側に立った。

――そして父王の右側にはフェリドが立っている

静かに彼は銅像のように動かない。綺麗に整えられた礼服に包まれて、ただ目を伏せて黙って立ち続けている。

「フェリド、下がれ」

父王が声をかけると、フェリドは軽く礼をして、私達の前を過ぎ去っていく。
ここ半年、ずっと父王の管理の元でフェリドは生活を余儀なくされていた。それは好奇の目と迫害に悩ませられる日々だと想像する。
その原因は、彼の耳に光るダイヤモンドの耳飾りだ。
あの日、私の心情を察した父がフェリドにリクシオンの耳飾りを贈ってしまった。
与えた者からしか解消できない耳飾りだが、上位の上書きは有効である。フェリドは父の妾と身分を変えて、理不尽を強いられた。彼を宮に閉じ込め、一切の自由を奪い、ただ人形同然に生きるよう強いられている。現に彼は公の場でも決して笑わず、話さない。

「ティアラ、陛下の妾をそんな風に見つめるのは駄目だよ」

傍でロイが私の肩に手を置く。すべてを画策した男が何をと思ったが、私は黙って俯くしかできない。すでに王の妾となった彼に関心を寄せることは許されない。

「妾ですって? 貴方がお父様をそそのかしたくせに」

ロイを睨んでその手を払い落とす。

「僕が? まさか、陛下は君の言動を嘆いて決心されたんだよ」

疑うのは止めてくれ、と言う割にすべてが計算しつくされている。フェリドが父王の妾になることで益を得たのは誰か? それは言うまでもない。
ロイが屈んでその唇を耳に寄せてくる。その表情はどこか狡猾で、そのくせ切なさを感じさせる。

「陛下がフェリドを望まれた。彼は皆が羨むほどの地位を手に入れた。喜んでやるべきだろ?」

王妃はすでに亡く、父はそれから一人も妃を迎えていない。そんな中、王の妾となったフェリドは私を凌ぐ位についている。それを知ってロイは戒めているのだ。

「本当に詭弁ばかりね」

収まらない腹の虫を抱えて、私は誕生日の宴席をこなしていく。面白くもない挨拶を受けては微笑み、丁寧に相手をさせられる。傍にはロイが付き添い、息が詰まる思いだ。
最後の挨拶を終えて、夜も更けてきた頃、ロイは私の手を握りしめた。

「そろそろ部屋に戻ろうか」

そう言って頬に口づけが落とされた。思わぬ接触に抵抗できなかったが、素直に受け入れる気は毛頭ない。彼の身体を押戻して、これでもかと睨みつける。

「やめて、私に触れないで」

気丈に振舞ってもロイは無関心を貫く。気にする素振りもなく私の手を掴んでいる。

「聞こえなかった? ティアラ、君は僕と部屋に戻るんだ」

力が強まり、引きずられるように宴会場を後にする。暗黙の了解でもあるのか、誰もが私達の様子に見ぬふりをする。強い力に体がふらつけば、彼がそれを抱き上げた。彼の胸に支えられるように抱かれて、嫌な予感が脳裏をよぎっていく。

「やめてって言ってるでしょ」

手足をばたつかせて反発しても、ロイの拘束が解かれることはない。ただ黙って私を抱き上げるロイの顔は恐ろしく無表情に見えた。
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