リクシオンの耳飾りを贈れたなら

ねこまんま

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第四十六話 抵抗か服従か

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「ああ、やはりお前は私を楽しませてくれる」

頬をぶたれてもモルワードは一切の動揺をしなかった。私を懐かしむ目で見つめ、玉座で足を組みながら勅命を下す。

「ロイ・ベルガードとフェリド・オーウェンの両名にリクシオンの耳飾りを与える。主従の関係を結び、死ぬまでいたぶってやる」

そう言い放ち、漆黒のダイヤの耳飾りが与えられた。もちろん二人は反抗するが、近衛兵によって有無を言わさずその耳にピアスが差し込まれていく。暴れる彼らを取り押さえながら、モルワードの反撃はまだ終わらない。その鋭い眼差しが私へと降り注ぐ。

「まずはひとつ。君のものを奪ってやった」

そう言って彼はロイとフェリドの両名を、物理でねじ伏せるように跪かせた。屈強な男に圧し掛かられて彼らもたまらず膝をつき、モルワードの家臣であるかのように首を垂れている。

「さて、これからが本題だ」

そう言って彼は立ち上がり、私の顎に指を添えた。

「不思議に思わないか? 何故ずっと君の出生が隠されてきたのか? 陛下はもちろん宰相家も知っていて箝口令を敷いていた。その理由は王権の維持のため、己の保身を守るため。実に自分勝手で無責任な理由だったんだよ」

そう言ってモルワードはロイに視線を寄越した。そうだろ? と言わんばかりにロイを見つめている。そしてロイもまたそこに言葉を詰まらせた。その光景を目の当たりにすれば、心の疑惑は大きく広がっていく。

「ロイ、違うと言って」

否定を求めてその言葉を投げかけたのに、答えはあまりにも非情だった。ロイの口元を凝視して、その場に崩れ落ちる。ロイは知っていた、私を取り巻く不穏な噂を。

「昔から私を守ると言い続けたのは、これがあったから?」

「違う!」

ひときわ大きな声で否定されたが、何も違っていない。昔から彼は口癖のように言っていた。傍にいる、君を守る、と。ずっとその言葉の真意に気付かなかった。ロイはずっと懸念していたのだ、私の出生によって名誉が汚され、モルワードによって王権が覆されることを。
そう考えれば、政権についてもおかしい点があった。賢王である父にどうして反王政派が存在したのか。モルワードを中心に大きく膨れ上がった理由は、王に正当な嫡子が居ないと知っていたからだ。
パズルのピースが埋まるように疑問が消えていく。しかしまだ一つだけ解けない謎が残っている。そもそもモルワードは母を忌み嫌い憎んでいた。そんな彼が母に協力した理由が分からない。

「どうしてお母様の策に応じたの? 私が生まれなければ、こんな混乱は起こらなかったはず」

モルワードは床に崩れ落ちる私を抱いて、懐かしむように見つめてくる。

「もちろん愛していたから。それだけの価値が彼女にあった」

その告白に言葉を呑んだ。この意固地で皮肉屋の彼が素直に愛を認めている。彼の心はまだ母を忘れられないのだろう。だからこそ私に母を重ねて慰めを求めている。

「ティアラ、君は彼女によく似ている。強情な所も情熱的な所もすべて愛おしいと思っている」

驚きで固まる私に手が差し伸べられた。頬に口付けが落とされて、その手は優しく髪を撫でている。腕に収められてその強い抱擁に眩暈すら感じる。

「ティアラに触れるな!」

危険を察してか、ロイとフェリドは声を上げた。二人は取り押さえられながらも懸命に振りほどこうとしている。しかし反抗も空しく、屈強な男達の拘束を解くことはできない。拘束が強まるごとに彼らの身体が軋む音がする。

「私の大切な人達に乱暴はしないで」

二人を強く拘束する男に声をかける。二人の耳に輝く耳飾り、モルワードは彼らを嫌っている。屈辱を与えるためにリクシオンの耳飾りを贈り、今後もいたぶるつもりでいるのは確かだ。このままにしておけば、望まぬ光景を見ることになる。

「叔父上、お願い。どうか彼らを私達の問題に巻き込まないで」

彼の抱擁を受け取りながら囁くと、身体を離して手を差し出してきた。それは主が臣下に忠誠を求める姿勢だ。

「ならば君が従順になれ。この手に誓いの口付けをしろ」

ロイとフェリドを天秤にかけて、モルワードは選択を迫ってくる。とてつもなく難しい選択に指先が震える。正しい道を理解しているが、それを選び取る勇気が持てない。

「ティアラが貴様に服従するなど、僕が決して許さない」

吐き捨てるようにロイは言い放った。彼はここで果てるのを恐れていない。交渉の材料にされるくらいなら、彼は死を選ぶ覚悟なのだ。

「俺達は大丈夫だ、ティアラは心の望むまま進めばいい」

フェリドは私を見つめて微笑む。穏やかな顔は窮地を思わせない安らぎが宿っている。痛々しい姿で、健気に想いを遂げようとする姿勢に目頭が熱くなる。

「叔父上、私は決して貴方に頭を下げたりしない。彼らの為にも」

私の答えを聞くなり、彼は声を出して笑った。口元を手で覆い、その愚かさを揶揄するように止まることはない。

「君ならそう言うと思っていた。だが私は寛大だ。早急に答えを求めない」

そう言い放つと、近衛に指示を飛ばす。私達の身体を拘束し、退室するように命令が下された。視界には玉座のモルワードが勝ち誇った顔で腰を下ろしている。これから始まる戦いに震える心を叱咤し、強く彼を睨み続けた。


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