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最終話 伴侶としての役割 (後編)
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庭園を進めば、モデレオン城が誇るバラ園が広がっている。蕾がふっくらとして、開花まであと少しだ。そんな花達に囲まれてティアラは用意されたテーブルでお茶を飲んでいる。
「陛下、今日はお疲れでしょう。甘いお菓子もたくさん用意しましたよ」
彼女の隣で色とりどりの菓子を並べているのはアンナだ。相変わらず姉妹のように仲良しで、見ていると心が温まる。フェリドが軽く手を振ると、アンナは物凄い勢いでこちらにやって来た。
「どこにいらしたんですか? お二人とも、陛下が席でお待ちですよ」
やや早口でまくし立て、すぐに席に着くように諭してくる。
「アンナありがとう。だけど僕はもう行くよ、業務が山ほど残っている。それに君にも頼みたい事があるから」
隣にいたロイが茶会を断り、アンナを連れて行こうとする。その光景を目の当たりにすれば、彼の考えていることは分かる。そしてアンナもそれに気付かないほど鈍感ではない。はっと何かを思いついたように手を合わせて頷いている。
「そう、ですわね。ロイ様のお手伝いをしなければいけませんでした」
早口で頷く彼女は、フェリドに期待するような眼差しを送る。なんとも不自然な気遣いに笑いがこみ上げてくる。
「これはお心遣いに感謝する」
半笑いの状態で二人に礼をすると、彼らも含み笑いでこちらに礼を返す。
「たまにはティアラもゆっくりしたいだろうから。でも今回限りだ、勘違いはするなよ」
背を向けてロイが言葉を投げてくる。気遣っているようで牽制もしっかりとしてくる所がさすがだと感心してしまう。二人は連れだって王宮に戻っていく。先程までたくさん居た取り巻きも指示されたのか、ぞろぞろと姿を消していった。
改めてティアラの方に向き、その姿を視界に入れる。バラの蕾に囲まれて、彼女は静かに書類に目を通しているようだった。美しい薄紅のドレスを纏って、その頭にピンクダイヤの冠を輝かす。モデレオン国の君主としての威厳や品位を持ち合わせ、その風格はまさしく“王”というのに相応しかった。
「ティアラ、たまには話でもしないか?」
彼女の肩に手を置いて、優しく語り掛ける。ぴくりと彼女は身体を揺らして、手にした書類をテーブルに捨て置いた。
「フェリド、貴方から声をかけてくれるなんて珍しわね」
満面の微笑みで彼女は顔を上げて、フェリドの拳に手を重ねた。
「さっき君の姿が見えたから、つい追いかけてきたんだ」
にこやかに返事をすると、彼女は少しだけ表情を曇らせる。
「いつも逃げているのに?」
彼女を避けるのはフェリドなりの意味がある。平民出の醜い男が、女王の傍に居るなんて醜聞でしかない。それを弁えているからこそ、フェリドは自分から彼女に働きかけない。宮殿にも式典にも顔を出さず、自宮に閉じこもって、たまに庭師の仕事をしている。フェリドにとって忠誠と愛の証を育成することが彼の日課になっていた。
「俺はロイのように上手く立ち回れないからな。でもティアラとはこうして話したいといつも思っているよ」
彼女と向き合うよう席について、ティーポットに残された紅茶をカップに注いでいく。甘い香りに包まれて静かに流れていく時間。たわいない話をしながら昼のひと時を過ごしている。楽しそうに微笑む彼女だが、ときおりその表情を曇らせている。その理由は心を蝕む棘が抜けないからだ。彼女は今も苦悩している、モルワードに突き立てた刃の感触が消えないと。
「何を考えている? 良ければ話してくれないか?」
テーブルに置かれた小さな手を握りしめて彼女に問いかける。普段は感情を露わにしない女性だが、二人きりの時くらいは気を緩めてほしい。詮索しすぎないように、ただ手を強く握って彼女の答えを待っている。「そうね」とティアラは口元を窄ませて、ポツリと独り言のように言葉を吐き出していく。
「あれからね、私はずっと考えている。彼と和解の道がなかったのか、最善のやり方があったのでは、と。そう考えると居たたまれない気持ちになるわ」
彼女は時折、憂いた瞳で懺悔をする。女王となっても彼女はまだ若く、成熟していない。心を蝕む傷跡に今も悩み続けている。
彼女の瞳を見つめると、変わらず意志の強さを感じる。しかしだからといって彼女に覚悟や責任を押し付けるのは違う。女王といってもまだ17歳の少女なのだから。
「俺やロイにもその重荷を分けてくれ。君を追い詰めたのは俺達の存在があったからだろう? 俺達の命を救う為に君は戦ってくれた」
潤む瞳を閉じてティアラは頷いている。何を言っても責任感の強い彼女はきっと抱え続けるだろう。しかし傍にいる伴侶の存在を忘れないでほしいと思う。
彼女の頬に手を当てれば、涙が吸い込まれていく。女王となって人前では眉ひとつ動かさない彼女が、二人きりの時にだけ見せてくれる本来の姿だ。
「駄目ね、冷静な賢王になりたいと思っていても、貴方の前だと繕えない。フェリドが居る時にだけ、私はただのティアラになってしまう」
彼女の告白を受け止めて、フェリドは微笑む。席を立ち、彼女の手を引いてバラの花園に入り込んでいく。誰もいない二人だけの約束の場所。そこには早咲きのバラが、その桃色の花びらを開花させている。
「私だけの、バラね。貴方が世話をしてくれるから今年も綺麗に咲いてくれそう」
その一輪を指差して、彼女は微笑んだ。花のように美しくて儚い彼女はとても愛おしい。どこまでも魅了されて目が離せなくなっている。
「俺の誓約の証だから」
彼女を腕の中に収めて囁くと、小さく頷いてくれる。どちらからでもなく二人の距離が縮まり、唇が触れあった。彼女を強く抱きしめるとバラの香りが立ち込める。ゆっくりと身体を離すと、彼女の視線が左耳に注がれているのを感じる。
「どうした?」と尋ねるのと同時に、彼女はリクシオンの耳飾りに手を伸ばした。
「ねえ、もしも貴方がリクシオンの耳飾りを持っていたら、私に贈ってくれた?」
ティアラは可愛い質問を投げてくる。モデレオン王国の女王にリクシオンの耳飾りを贈るなんて出来はしない。あまりに現実とかけ離れた質問にどう答えるか思案する。
「そうだな、もし君にリクシオンの耳飾りを贈れたなら……」
バラに囲まれて二人は談笑する。繋がれた手はしっかりと結ばれて、二人はこれからも愛を囁き続けていく。
庭園を進めば、モデレオン城が誇るバラ園が広がっている。蕾がふっくらとして、開花まであと少しだ。そんな花達に囲まれてティアラは用意されたテーブルでお茶を飲んでいる。
「陛下、今日はお疲れでしょう。甘いお菓子もたくさん用意しましたよ」
彼女の隣で色とりどりの菓子を並べているのはアンナだ。相変わらず姉妹のように仲良しで、見ていると心が温まる。フェリドが軽く手を振ると、アンナは物凄い勢いでこちらにやって来た。
「どこにいらしたんですか? お二人とも、陛下が席でお待ちですよ」
やや早口でまくし立て、すぐに席に着くように諭してくる。
「アンナありがとう。だけど僕はもう行くよ、業務が山ほど残っている。それに君にも頼みたい事があるから」
隣にいたロイが茶会を断り、アンナを連れて行こうとする。その光景を目の当たりにすれば、彼の考えていることは分かる。そしてアンナもそれに気付かないほど鈍感ではない。はっと何かを思いついたように手を合わせて頷いている。
「そう、ですわね。ロイ様のお手伝いをしなければいけませんでした」
早口で頷く彼女は、フェリドに期待するような眼差しを送る。なんとも不自然な気遣いに笑いがこみ上げてくる。
「これはお心遣いに感謝する」
半笑いの状態で二人に礼をすると、彼らも含み笑いでこちらに礼を返す。
「たまにはティアラもゆっくりしたいだろうから。でも今回限りだ、勘違いはするなよ」
背を向けてロイが言葉を投げてくる。気遣っているようで牽制もしっかりとしてくる所がさすがだと感心してしまう。二人は連れだって王宮に戻っていく。先程までたくさん居た取り巻きも指示されたのか、ぞろぞろと姿を消していった。
改めてティアラの方に向き、その姿を視界に入れる。バラの蕾に囲まれて、彼女は静かに書類に目を通しているようだった。美しい薄紅のドレスを纏って、その頭にピンクダイヤの冠を輝かす。モデレオン国の君主としての威厳や品位を持ち合わせ、その風格はまさしく“王”というのに相応しかった。
「ティアラ、たまには話でもしないか?」
彼女の肩に手を置いて、優しく語り掛ける。ぴくりと彼女は身体を揺らして、手にした書類をテーブルに捨て置いた。
「フェリド、貴方から声をかけてくれるなんて珍しわね」
満面の微笑みで彼女は顔を上げて、フェリドの拳に手を重ねた。
「さっき君の姿が見えたから、つい追いかけてきたんだ」
にこやかに返事をすると、彼女は少しだけ表情を曇らせる。
「いつも逃げているのに?」
彼女を避けるのはフェリドなりの意味がある。平民出の醜い男が、女王の傍に居るなんて醜聞でしかない。それを弁えているからこそ、フェリドは自分から彼女に働きかけない。宮殿にも式典にも顔を出さず、自宮に閉じこもって、たまに庭師の仕事をしている。フェリドにとって忠誠と愛の証を育成することが彼の日課になっていた。
「俺はロイのように上手く立ち回れないからな。でもティアラとはこうして話したいといつも思っているよ」
彼女と向き合うよう席について、ティーポットに残された紅茶をカップに注いでいく。甘い香りに包まれて静かに流れていく時間。たわいない話をしながら昼のひと時を過ごしている。楽しそうに微笑む彼女だが、ときおりその表情を曇らせている。その理由は心を蝕む棘が抜けないからだ。彼女は今も苦悩している、モルワードに突き立てた刃の感触が消えないと。
「何を考えている? 良ければ話してくれないか?」
テーブルに置かれた小さな手を握りしめて彼女に問いかける。普段は感情を露わにしない女性だが、二人きりの時くらいは気を緩めてほしい。詮索しすぎないように、ただ手を強く握って彼女の答えを待っている。「そうね」とティアラは口元を窄ませて、ポツリと独り言のように言葉を吐き出していく。
「あれからね、私はずっと考えている。彼と和解の道がなかったのか、最善のやり方があったのでは、と。そう考えると居たたまれない気持ちになるわ」
彼女は時折、憂いた瞳で懺悔をする。女王となっても彼女はまだ若く、成熟していない。心を蝕む傷跡に今も悩み続けている。
彼女の瞳を見つめると、変わらず意志の強さを感じる。しかしだからといって彼女に覚悟や責任を押し付けるのは違う。女王といってもまだ17歳の少女なのだから。
「俺やロイにもその重荷を分けてくれ。君を追い詰めたのは俺達の存在があったからだろう? 俺達の命を救う為に君は戦ってくれた」
潤む瞳を閉じてティアラは頷いている。何を言っても責任感の強い彼女はきっと抱え続けるだろう。しかし傍にいる伴侶の存在を忘れないでほしいと思う。
彼女の頬に手を当てれば、涙が吸い込まれていく。女王となって人前では眉ひとつ動かさない彼女が、二人きりの時にだけ見せてくれる本来の姿だ。
「駄目ね、冷静な賢王になりたいと思っていても、貴方の前だと繕えない。フェリドが居る時にだけ、私はただのティアラになってしまう」
彼女の告白を受け止めて、フェリドは微笑む。席を立ち、彼女の手を引いてバラの花園に入り込んでいく。誰もいない二人だけの約束の場所。そこには早咲きのバラが、その桃色の花びらを開花させている。
「私だけの、バラね。貴方が世話をしてくれるから今年も綺麗に咲いてくれそう」
その一輪を指差して、彼女は微笑んだ。花のように美しくて儚い彼女はとても愛おしい。どこまでも魅了されて目が離せなくなっている。
「俺の誓約の証だから」
彼女を腕の中に収めて囁くと、小さく頷いてくれる。どちらからでもなく二人の距離が縮まり、唇が触れあった。彼女を強く抱きしめるとバラの香りが立ち込める。ゆっくりと身体を離すと、彼女の視線が左耳に注がれているのを感じる。
「どうした?」と尋ねるのと同時に、彼女はリクシオンの耳飾りに手を伸ばした。
「ねえ、もしも貴方がリクシオンの耳飾りを持っていたら、私に贈ってくれた?」
ティアラは可愛い質問を投げてくる。モデレオン王国の女王にリクシオンの耳飾りを贈るなんて出来はしない。あまりに現実とかけ離れた質問にどう答えるか思案する。
「そうだな、もし君にリクシオンの耳飾りを贈れたなら……」
バラに囲まれて二人は談笑する。繋がれた手はしっかりと結ばれて、二人はこれからも愛を囁き続けていく。
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