仮面症のノベル

ナヒジキ

文字の大きさ
上 下
3 / 7

第2話 人と人の壁

しおりを挟む
第2話 人と人の壁
いつもの同じ通学、しかし今日からはいつも通りとはいかない
俺の正体がバレた事によって鈴村さんが何か仕出かさないとは限らない
いつもより早く行って教室で待ち構える
一番危ないのは周りにいる佐々森さんと吉野くんに言ってそうだ
あの3人はいつも同じように登校して早めに教室に来ている
教室のドアから気が付かれないように覗き込む
しかしそこには誰もいない、そこで安心したのが間違いだった
『何してんだ?』
「うわっ!!」
前だけど見ていて後ろから来ていた吉野くんに気が付かなかった
俺の驚きの声によって他の2人も何かあったと思い、集まってきた
「おはようございます」
「おぉ、おはよう」
「おはようね」
2人はちゃんと返してくれたが鈴村さんだけ背中を思いっきり叩いてくる
「ちょっ!!痛いです」
「大丈夫、モールス信号だから」
「ただの言い訳でしょ、昨日の壁の話からなんで挨拶は殴ったり叩いたりするんですか?」
「だって伝わらないから、なんなら前でもいいわよ。その場合はみぞおちを狙うから」
俺等は会話の最中で気がつかなかったが明らかに2人から距離を感じた
「おいおい、いつの間に仲良くなったんだよ」
「いい感じで~もう出来ちゃってんの?」
「いや違いますよ、俺は完全なる被害者です。弱みを握られて仕方なくこうしているんです」
「弱みってそっちが一方的にバラしたんじゃないの」
「バラなくちゃ絶対納得しなかったでしょ」
そうしなければ今頃どうなっていたか・・・
「とにかくあの事は言わないでくださいね」
「ごめん、もう言っちゃった」
「なんと~!!」
「ごめん嘘だよ♪」
全身からの脱力とはこういうことを言うんだな
全く力が入れずに立ち上がれない
「本当に弱み握られているんだ、鈴もエグいことするね」
「もうそこら辺にしてやれよ、何か可哀想に思えてきたぞ」
吉野くんに肩を借りて何とか自分の席に歩いていく
はぁ、空が青いな~
「あぁ、昨日借りた本読み終わったので返します」
「読んだの?」
「一応読みましたよ」
「読む意味は?」
「普通に面白いからですよ、特に暦が天体と掛けて良い事を言うから好きですね」
「えっ?つなしってホモ?」
なぜそうなる?
「だって、他の人が暦のこと好きって言うのは分かるけど(作者の)つなしが言うとそう言う感じに取れる」
「オタクの次はホモ疑惑ですか・・・」
書いている人物を俺の好みだと思っているんだな
でも睦美があの性格の子だったら少し気になる存在かもしれないな
「藤ヶ谷ってそっち系・・・」
「いや違いますからね、鈴村さんの勝手な妄想ですから」
「っていうか藤ヶ谷ってつなしって言うんだね」
全く違うように読んでいたことはもう聞かされた
「まぁ気にすんなって」
「痛っ、いちいち叩かないでくださいよ」
「じゃあ俺達もつなしって呼ぶか」
そこからHRが始まるまでたわいもない話が続いていった
こうして話すのはもう何年振りなんだろうな・・・

昼休み、基本屋上で食べるのが日課だったから当たり前のように屋上に行ってみると
「本当に来た、一緒に食べようぜ」
吉野くんが既に屋上で待っていた
まずい、誰もいないからここ(屋上)に来たのに人がいたら意味はない
そしてなぜ毎回ここで食べていることがわかった
「まぁ警戒するな、ただ少し質問したいことがあってな」
「質問ですか」
取り合えず知っている人なので警戒心は解いておく
金網に背もたれて弁当を開けて一緒に食べる
「お前って、鈴村になにか弱み握られているって言っていたな。大丈夫なのか?」
「まぁ大丈夫かそうでないかは3ヶ月後くらいにならないと分からないよ」
出版が3ヶ月毎なので、次杉山さんに会った時がなにか仕掛けられそうだ
「まぁ大丈夫だと思うよ」
今はそう自分に言い聞かせて生きていくしかない
俺の話を聞くと何か勢い付けてお茶を飲んで飲み終わると俺に質問してきた
「お前と鈴村って付き合っているの?」
!?、いきなりの事で飲み込んだ物が喉の中で止まった
お茶をもらってなんとか難を逃れた
「い、いや、というかこの前知った、というよりも初めて存在を知って話しただけだから。それに鈴村さんの弟が俺の母の
保育園にいるからそこが初めて知った点でまだ3日も経ってないよ」
「そうなのか?でもつなしと話している時はあいついきいきしている気がしたけどな」
それはただ単にストレスの矛先が出来て解消の満足感からじゃないかな
そんな言葉を言いたいがそれがもしバレたらもっと立場がやばくなるかもしれない
ぐっと思ったことを言い止める
「そういえばいつも3人でいるけどどんな関係なんですか?」
「俺達はガキの頃からの幼馴染で小中高共に同じで進学してきた仲、腐れ縁みたいな物だ」
「いいですね、そういう関係」
「つなしには幼馴染とかいないのか?」
幼馴染か、いることはいるが・・・
そいつ等は"いつ消えるか分からない"
俺がこの性格になっているのもその性だ
過去の話、それは3年前に起こった俺達のトラウマ
大人と子供の中間の年頃に会った背負うには重く、残酷な真実の話だ

授業が終わり、クラスメイトが部活や委員会などで解散していく
俺も帰る準備を済ませて教室を後にする
すでに鈴村さん達はいない事は見ていて分かった
だからさっさと自転車に乗って早く帰ろう
髪は邪魔になるから結んでメガネも取っておこう
先生に注意されるくらいの速さで廊下と階段を進んでいき、駐輪場で自転車の乗り込む
ここからはノンストップで行かないと
人通りが多い校門を抜けて一気にスピードを出す
そして今日は保育園に寄ろうと思ったがそのまま通過しよう、あそこは危険だ
避難する為に俺は父親がやっているカフェに行き先を変えた
母は家の近くで保育園をしているが父親は半単身赴任でケーキカフェをしている
俺は時々このカフェの手伝いをしに行くことがあり、その経験が小説にも反映されている
多分あそこなら遠いし、あの3人も来ていないだろう
鈴村さんが他の2人に言っていてもいなくても今日は放課後に会うのはなるべく避けたい
そうこうしている内に目的地のカフェに到着した
ここは雑誌や口コミなどで何度も有名になり、今でも短いが行列が出来ている
「へい、いらっしゃい。おぉこれは珍しい人が来たね」
この人が俺の父親、藤ヶ谷雄介
ダンディ―な顔に似合わずパテェシエをしている
25歳で結婚したため、まだまだ若く客にも人気がある
「今日はどうしたんだよ、ケーキ欲しなら裏に回ればいいのに」
「裏に回ればそれはそれで怒るだろ、少し避難させてもらいたくて」
俺の話を聞いた途端にすぐに理解できたらしい
ほれ、という指先にはあの3人組が客に混じって座っていた
「うぇっ!?何でいるの?」
「お前を探していたがいなく迎えの時間にも早いって言うことで寄越された」
そして俺の存在に気付き、手を振ってくる
これはもう逃げるとかできなくなってきたな
「よぉなんだよお前もこっち来るのなら一緒に来ればよかったのに」
「いや、正直言えば元々会いたくなくてこっち来たんだけど」
「うわ~、意外にひどいねつなし」
「そんな性格の人なんて最悪だよね」
「みるみる内に俺の株が下がっている・・・」
怒りそうになるがなんとか思い止める
そして俺の話から路線を変えるために頑張る
「それで何で3人一緒なんですか?」
「雅人くんに会いに来た」
「本音は?」
「つなし君はギャップが凄いって鈴から聞いたから」
実際に今飛ばした為に髪が上がっていてメガネも外している
自称しなくてもそこそこはいい顔立ちはしている
「はい、鈴村さん。話がありま~す」
「つい口が緩くなって」
溜め息を漏らして脱力する、いや自転車漕いでいた時より今のが結構疲れた
そして店内にはラジオで最新作の音楽が流れ出す
『さぁ今週第一位はミヨ・ファクションの『イブニング・スター』だ』
ミヨ・ファクションとは最近ブームになっている天才的歌声を持つ女性歌手
年は俺等と同じ16歳で最近までアメリカに留学していた
「ミヨの曲か、この子の歌っていいよな」
「そうか、この曲いいんですか」
「つなしもそう思うか?」
「俺は分からないですね」
でも歌詞は良いとは思うけどな
「でもミヨ・ファクションって芸名って少しかっこいいと思いますよ」
「つなし君やけにこの子気にしているね」
「まぁ少し・・・」
持ってこられたケーキを口に運ぶ
毎週の様に食べているがこうして仲良く食べるのは悪くない
疲れた体に甘いものは格別に感じる
カランカランという音でただ無意識にドアの方を向いてしまう
そこには見覚えのある男性がいた、杉山だ!!
行動を起こす前にそっちの方向を見ていたので目線が合う
後ろからはもう一人トコトコとフードを深くかぶっている人が歩いてくる
そして当たり前のように俺等と一緒の席に座り込む
この人を知らない佐々森さんと吉野くんは戸惑ってしまう
大丈夫知り合いと言ってなんとか留まってもらう
「今日は何の御用ですか?」
「まぁ苛立つな、良い話がやっと出来たんだよ」
「結婚するんですか?じゃあ早く寿退社してください」
「そうしたいが俺男だし、相手もいねぇから」
「それで何ですか?」
「その前にここで話していい話なのか?」
「知らないですよ、いきなり来てなんですか!!」
「荒れてる」
「荒れてるつなしなんて初めて見たぞ」
はっと自我を取り戻すがもうここまで来たら素を見せる
それに反応してか父親がケーキを持ってきてなだめようとする
「はい、かっふーさんも」
かっふーとはいつも俺が杉山さんを呼ぶ時に読んでいる名前だ
杉山⇒杉⇒花粉⇒かっふーといった具合に
ネクタイを外して体制を少し崩す
「お前の事だし、昨日結局明らかになったけどそこのお二人さんはその場にいなかった訳だし」
「いやもういいですよ、でも少し時間ください」
斯々然々と自分が小説家だという事をバラす
いつかは言おうと思っていたからその時期が少し早まっただけの話だ
驚いていたがそれは自己解決してもらうことにした
「それで良い話とは?」
「短編だけど、アニメPVを作る事になった。その報告だ」
3人は驚きつつ、自分の事の様にはしゃいでいるが、俺と同じく動じていない人物が一人
関係者にしては若すぎる、そしてこの件で呼ばれそうな奴に俺は心当たりがいる
「それで?そこのフード女の説明は?」
「この子か、最近デビューしたばかりで歌唱力も申し分ない。そしてオープニング曲として宣伝効果も期待できる、さらに
君達とさほど変わりない年だ。これはすぐに決まった」
会社からの決定か、なら断ることも出来ないな
「じゃあ少し質問していいか?」
「あっ、はいどうぞ」
「君は少し前までどこにいた?」
「知っているくせに・・・」
「何か言ったか?」
「何も言っておりません、私はアメリカで生活していました」
「そうかよ、なら"3年前の事を話してみろ"」
「『運命の繰り返し』・・・ですかね」
「正解だ、じゃあ歌手さんよろしくお願いします」
お互いに同じタイミングで何事もなかったかの様に紅茶を飲み込む
「おい、今の会話はなんだ?」
「会話は会話だろ?日本語通じないのか?」
「いやよく分からない単語がゴロゴロ出てきてんだが・・・」
「まぁ"俺等にしかわからない会話方法"だ、気にしなくていい」
「知り合い?」
「『運命共同体』という名の腐れ縁の仲間です/『腐れ縁』という名の運命共同体なんです」
お互いに言った瞬間、ハイタッチを決める
閉店間際なので客数も俺等以外ほとんどいない
ジェスチャーでフードを取れと命令して歌手の顔を見せる
その姿はさっきの会話の中にも出てきた
「初めまして、歌手のミヨ・ファクションです」
「俺の幼馴染の一人だ」
「「「「えっ?」」」」
意外な反応だった、てっきりかっふーは知っていて呼んだのかと思っていた
一気に店内に4人の声が響いた
「うるさいですよ」
「えっ?し、知り合い?というか幼馴染!?」
「だから『運命共同体』という名の腐れ縁ですよ、かっふー知らなかったのか?登場人物二人実際にいるですよ」
「つまり暦もいると」
「暦、今どうしているんだ?」
「北アメリカの何処かにいるよ、転々としていて正確な場所は分からない」
「星を追っているとか聞いた気がするな」
「それより他の人達は?遼とか今何してんの?」
「あいつも海外組になった、これで日本にいるのは俺等2人と八代だけだ」
良く分からないがこの時のつなしの顔は生き生きしているように見えた
「じゃあアニメの曲お願いいたします」
深々とお辞儀をして次に見たものは睦美の手だった
「その手はなんだ?」
「曲」
「歌えばいいと思うよ・・・」
「面倒くさいから直球で言うよ、また曲書いて。というか専門の作曲家になって」
「嫌です、謹んでお断りさせていただきます」
にこやかにそして毒々しく言い放つ
「・・・問題です、『イブニング・スター』はオリコン何位でしょうか?」
「1位だろ?」
「オリコンって何の略だと思う?」
「『オリジナル・コンフィデンス』の略だろ」
「私はつなしをコンフィデンス(信頼)している!!」
はははっ、と乾いた笑いを漏らす
「才能があるのならそれを出さないと冒涜になるよ!!『先生』も言っていたでしょ」
睦美も言ってからすぐにタブーだと気がつく、俺等にとってその単語は"触れてはいけない"部分だった
「・・・まぁいいよ、だけど今回だけな」
「あぁ・・・うん、ごめん」
「じゃあ俺は先に帰らさせてもらいます」
顔は笑顔だったが何か奥で2人とも泣きそうなくらい落ち込んでいた
普通ならあえて触れない方がいいが気になる
「あの3年前、何があったんですか?」
一瞬驚いた顔をしたがすぐに表情を戻した
「つなしからどこまで聞いてる?」
「自分と相手に壁を作ってしまう原因を作った、それといきなり才能に目覚めたって言う位」
「あとは幼馴染達が全員同じ現象をしているっていうこと」
「つなしが一番言いそうにないことに気がついたね・・・・・確かにつなしと私を含めた私達『8人』は人との関わりを
極力絶っている」
「な、なんでそんな事しなくちゃいけないんですか?」
「それは・・・私から話してもいいけど出来ればつなしの口から聞いた方がいい」
自分の事を勝手に話されるのは誰でも嫌だから
それに私から言うには荷が重すぎる
「でも私から言えることは一つだけあるよ。つなしは誰よりも強い、私達は見続ける事が出来なかった世界をずっと見続け
てきたのだから・・・」
それはきっと一番やらなくちゃいけない事だったが私達には出来なかった
つなしはただ一人でそれをやり続けてもう辛さの度を超えている
「だからつなしの事をよろしくね」
「はい」
「じゃあ私ももう上がらせてもらいます、もし良かったら次のコンサート来てください」
行くかどうかはつなしに言えばそこから伝わる
杉山さんがタクシーを呼んで出発するまで見送る
他の二人もカフェで分かれて私は保育園に向かうためについででつなしの父親に送ってもらった

次の日、いつも通りつなしは学校に来ていた
カバンは少し膨らんでいたから昨日言っていた通り、曲を作ったのだろう
いざ聞いてみようと思うとなんて聞いていいか分からずに話しかけられない
そうこうしている内に昼休みになって何処かに行ってしまった
その頃つなしはというと
「はぁ~、何か今日は誰も話しかけてこなかったな」
昨日とは一変して対応の冷たさに戸惑っていた
今日は太陽の温かみがすごく良く感じる・・・
「やっぱりここにいたか、探したぞ」
「俺はいつもここにしかいませんよ、それよりも昨日俺が帰ったあと何か話しましたか?」
「・・・お前の昔話を聞いた」
「なるほどそれでか」
自己納得して買ってきたパンを口に運ぶ
「お前、3年前に何があったんだよ」
「それを昨日睦美、いやミヨ・ファクションから聞いたんじゃあ?」
「聞いてない、と言うかそういうことは本人から聞けと聞かせてくれなかった」
「あいつらしいな」
「それで何があったんだ?」
「・・・なんで聞いてくるですか?」
「当たり前だろ、『友達』なのだから。助けられるのなら助けたい」
そうか、って言ってメガネを外す
「吉野くん・・・いや創路だったね、真実はいつも優しいとは限らないからな。俺の昔は相当重いからな、覚悟しろよ」
ずっと敬語で苗字で呼んでいたのにいきなり性格が変わったように変えてきた
だが普通に呼ばれるよりもこっちの方が数倍嬉しい気がする
「その位昨日のうちに分かっているよ」
「そうか、ならいいけど俺の事は気にしなくていいからな。可哀想とかも思わなくていい」
「不謹慎だがお前が言うなら・・・」
「聞けば分かるはずさ、俺が何で人を避けて目立たなく『名無しの案山子』と名乗っているか」
「いつでも準備はいいぜ」
「じゃあ話すよ、12年前と3年前に起こった出来事。そして俺達"死神に魅入られた『10人』の子供たち"の話を」
辛そうだが話すのが嬉しそうに少し笑っていた
そして俺はその事件の真実を、変える原因となった話を聞く事となる
しおりを挟む

処理中です...